マガジンのカバー画像

雜記

50
思考以上言明未満のものたち
運営しているクリエイター

2023年5月の記事一覧

河畔、午前0時、蕁麻疹、TOKYO

 自分の部屋にいて、ここは河のほとりだと、思うようになった。通りにバルコニーが面していて、車の通りを見下ろしている。かれらはシューッと音を立てて流れ、多くの場合帰ってくることはない。鉄塊の流れる、さもしい河。その河からは清冽な響きと水のすずしさの代わりに、選挙カーの爆音ノイズと排気ガスの香気漂う。ただ、問題はその雑駁かつ混沌の様相を、私という人間が佇みながらに見下ろすことができるようになっているというその変容だ。  文の装飾をできるだけ削ぎ落して、近況を報告しよう。ここは東

刻む、傷つく、愛する―ルーヴル美術館展の感想

 長蛇の列を抜けた先では、展覧会のロゴが壁に大写しだ。《ルーヴル美術館展 愛を描く》ゴシックとセリフ体を交えた日本語文が、いかにもそれらしい。このスローガンの横には「ルーヴルは、愛だ。」(あんまり記憶にないが、きっとそんな感じだった)という台詞が、ハートマークの中に込められている壁画があり、若人がカメラを構え様々な角度から自撮りを行っている。美術館に来たはずが、と思いげんなりしつつ、人を搔き分けながら展示を見て回った。  窮屈な展示体験だったが、いちおう展示のおおまかな流れは