オハイオ日記

東京から戻ってきた冬のオハイオは入り組んだ道も階段も複雑な地形もなく空間に乏しいが、マテリアルが無限にあることに気づく。夏と秋の多雨はそのまま降り積もる雪に変わる。都市であれば往来であっという間に踏み荒らされるところが、無駄に広い土地は手つかずの雪原となる。パンデミックだからか、雪で遊ぶ大学生も少ない。可塑性のある物質がいくらでも使い放題だ。ヨーグルトの空き容器に水を入れて一晩外に置いておいたら、翌日透きとおったガラス状の物体になっていた。あまりにも簡単に物体ができることに驚く。これは無限にできるのではないか。思わず物体をレンガのように積み上げた建築を夢想する。台所の洗剤でシャボン玉を吹いてみたら空中で消えずに薄張りの球体となって雪の上に転がる。軒先からはちょうど手の届くところに大小のつららが発生している。寒さやべぇ。マテリアル無限にあるし、無限にできる。ならば無尽の資材を使い「何もない」場所に空間を作ろうとまずはその辺の雪をシャベルでかき出し小山状に盛ってみる。ところが盛った先から雪が降り出し翌朝には何事もなかったかのように一面の雪原に戻してまった。雪おそるべし。形態が溶けて無くなるのとは異なる無力感を感じる。その間も雪は絶え間なく降り続く。 

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