【成り立ちと精神性:KhalidとIra】

※下記必読

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※長文が続きます。改行もほぼしません。読みたいときや確認したいときだけ読むことを推奨します。
 イラがまだイスラであった頃に書いていた文章なので、そのままイスラ表記にしています。

バングラデシュの農村の中における一般家庭の、6〜二桁人兄弟の上から三番目くらいの兄としてハーリド誕生。親ではなく私の名付け理由は、名前そのまんま訳に概ね従い「決断力のあるもの」のイメージとして。裕福なわけでもなし、どちらかというと貧しい家庭で、ハーリドは息子であると同時に、まだ結婚の心配もなく学業に才能があるわけでもない、家の仕事を手伝ってくれる労働力でもあった。
 新しい服や文房具はもちろん、親から何かを、自分のために買い与えてもらった記憶はほぼない。ハーリドの親は、子どもたちが学校や近所の人からもらった物や食べ物やお金、子どもたちの持ち物のほぼすべてを、彼らからさもそれが自分の持ち物かのように奪ってしまっていた。自分たちの子どものものなら、それはすなわち親である自分の持ち物にも等しい、というような。貧しさと、子どもが多すぎるがゆえの余裕のなさと、本人たちの心根が形成した残酷な習性。
 かろうじて習得したムスリムとしての教えにも、両親の行動を肯定するようなものは何もないのに、親の支配から逃れることが自分にはできない、生きていくために他人を傷つけたり、近所の人に盗みを働こうとしないといけない時すらあった。自分の信仰すら両親から穢されてきた。そして周囲の大人は皆、まるでそれが正統なことであるかのように、親と子達の関係に介入することはなかった。
 兄弟たちの面倒を見たり、彼らの遊び相手や遊んでる間の監視をしながら、自分が今後どう生きていくかなんて考えたこともほとんどなかった。人一人には自由な人生があるなんて、言われたってよくわからなかった。自分の人生が自由なものなのか、そうでなかったら何なのか、想像しようとしてもできなかった。

バングラデシュの農村の中で、比較的裕福な家の三姉妹の末っ子としてイスラ誕生。
 娘達は顔立ちも美しくて、イスラも幼い頃から美人だ美人だと言われて育ってきた。当時、息子が生まれないこともあり娘達にとっての「より幸せな人生」は、よりお金持ちの家の嫁になることだった。娘三人を嫁がせるだけのお金はきっと無い。けどそれができるように両親は必死に働いたし、娘達をしつけたし、綺麗になるように、余計なことをしないように、育てた。
 姉二人はもちろん先に成長していくし、結婚相手になりそうな相手もぼちぼち見つかり始める。自分が嫁ぐ時に相手の家に渡すお金も工面できるかわからないし、イスラはいつも置いてけぼり。かわいいかわいい、綺麗綺麗だともてはやされはするけど、もはや親にとっても周囲にとっても、イスラが期待できる最良の嫁ぎ先は、お金なんていいからイスラの美しい顔と体が欲しいと言ってくれる結婚相手だった。もはやほぼ商品と化していくイスラの立場。姉二人も自分を憐れむことしかできない。どうにかしてあげることは、誰にもできなかった。
 と、いう環境の中でイスラは、それでも天真爛漫に育つ。家族の前では、農村のバングラデシュ人女性らしく、お外でも変な声をあげたりせず大人しくしてるけど、家族がいない時———それは殊更友だちのハーリドや近所の子供たちと一緒にいる時、イスラはまだ10になるかも分からない年頃の女の子そのままに、きゃあきゃあ言ってかけっこをして、地べたに座って遊んで、とても明るい子だった。家族もそれを知らないなんてこともなかったと思う。こんな環境にあっては、イスラ個人が幸せでいるためには家族以外のコミュニティが必要だって。いつか、嫁いだ先の人生で、それを否応なしに手放さなくてはならないのだとしても。全てが残酷。何かを変えたい、と思う考えも、イスラ一人の心の中以外には芽生えていなかった。

ハーリドとイスラの人生は、お互い、「自分だけの人生を愛したい」「自分にしかそれができない」という感覚によって共鳴し交わっていく。

(生い立ちから村を出るまでにある物語は、三浦島悟システムで言う「各腑分先ごと」、分岐の数だけ色があるということで、不確定扱いとしてここでは厚く語りはしません。)

村を出た動機について。ハーリド。
 まずイスラ誘拐に関わるもの。ハーリドにとって、イスラはもはや「自分の持ち物であることに抵抗しない人間」ではあった。彼女を他の誰の持ち物にもしてやるもんかと思ったし、自分の持ち物であるからには、おれがしっかり守らなければと思った。イスラをあの環境下から助け出したい、なんて気持ちも否定しないけど、そんな頼りない感情で動いてもこの先挫折することをハーリドは察してる。だから、自分のせいにする。おれがわがままだから、イスラを連れ去るのだと。ハーリドはもう、イスラにも本心を話せない。強がるしかなくなる。強がるしかないくらい弱かったから。
 計画して、幼いイスラにだけ村を出る理由と方法を言い聞かせて、それを打ち明けた自分たちの関係で彼女を脅迫して、外遊びから帰る夕方の時間頃に、イスラと共に村を出る。
 一見イスラを誘拐したかっただけ、子供心に逃げ出したい気持ちが抑えられなかっただけ、きっと周囲の人も、彼らの親でさえそう思ってるかもしれない。でもハーリドにとっては理由はそれだけじゃなかった。この村を出てみたい、違う生き方がしてみたい、自分の持ち物や信仰を自分で大事にできる人生を歩んでみたい、自分の努力で金を積んで自分を縛る全てから解放された場所に逃げる以外に安らぐ方法がない、ハーリド=ファイサルという人物の人生に、ほかの可能性を与えてあげたい。……意外にも彼の動機には自己愛があるんですよね。でも本人はその動機のことを「俺は兄弟たちの兄であるにも関わらず、ただの少年であるにも関わらず、無謀にも外の世界が見てみたいなんていう子どもみたいな浅はかな考えで村を捨てた愚かな決断」と思ってると思いますけど。ハーリドも、しっかりしてそうな顔しといて心はぜーんぜんこどもなんです。そういうハーリドを私は描きたいのよね。少年少女が未熟なまま傷ついたまま、過酷な世界に飛び込んで揉まれながら、いつか答えをつかむ。そういうストレートな話を、実は私はハーイスを通して描きたい。

村を出た動機について。イスラ。
 イスラにとって、ハーリドは唯一自分を「彼だけの物にしてくれる人間」であった。安心感と頼もしさ、そして聡い少女には分かっていた、ハーリドの弱さや自分に縋ろうとする心細さ。それすら含めて、イスラにとってハーリドは初めて男を好きになる経験そのものであって、全てを愛せるものだった。
 それ以外には、特筆すべきものがないほど、当時のイスラは幼くて、あまりにも未熟で純朴で……。

そこから先の道行きの、可能性の数、ハーリドとイスラが村を出て獲得した人生の可能性を、その数だけ記録する事がハーリドとイスラというキャラクターのシステムになります。

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