10.21DDT両国ピーターパン2018 大人にはなれない人達

両国ピーターパンという副題はDDTが両国初進出した時から変わらない。最初から手作りで、全員で盛り上げる年間最大のビッグマッチだ。今年はサイバーエージェントの子会社化もし、より世間に訴えかけるプロレスという立ち位置を求められた。

当然、大きな会社の参加に入るということはコンプライアンスや経営透明性など、今までのどんぶり勘定や面白ければいいという風潮は通用しない、少しそれまでのDDTとは違う肩苦しさのようなものを感じていたのは否めない。

しかし、蓋を開けてみれば、そんなものは杞憂に過ぎなかった。

メインにラインナップされたのは、男色ディーノvs佐々木大輔。言わずとしれたゲイレスラーは今期のほとんどを団体プロデューサーとして活動、しかし両国が近づくにつれ、メインでKO-D無差別級のベルトをかけて戦うという私欲のままに動いて見せた。まるでそれは執着と言わんばかり。団体のアイコンと呼ばれる男が何故そこまで、誰にも明かされなかった。

対する佐々木大輔は最も人気のあるヒールチームDAMNATIONを率いるならず者。私生活も金が入れば酒に消えるという無法ぷりだが、師匠はディック東郷。敬愛するのは、ブレッドハートとカートコバーン。インサイドワークには定評のあるカリスマがディーノの目の前に立ち、その存在を全て否定。激しくイデオロギーをぶつけ合った。

男色ディーノには2つの顔があるのをご存知だろうか。男色殺法と呼ばれる学生プロレスの文脈を受け継いだ股間攻撃を中心としたレスリング。これはあの棚橋弘至もターナー・ザ・インサートとして学プロに勤しんでいた頃、通ってきた道だ。

もう一つの顔はキラーディーノ。男色殺法とは打って変わって、正確無比なレスリングで圧倒的に相手を追い込むその姿は鬼の所業。普段はおふざけの要素もあるだけに、厳しい攻めを見せた時のディーノは怖いのだ。

果たして佐々木を前にどちらで来るのかと思われたファーストコンタクトからディーノは男色殺法の引き出しを開けた。執拗に狙う唇。これもまた珍しい。男色殺法はグラウンドの攻防の中で突如繰り出し、ペースを引き寄せるのに使われることが多い。初手からこれを出したということは、ディーノは今日これでいくというメッセージに他ならなかった。

テイクダウンの状態から後ろを奪ったディーノがケツに腰を打ち付ければ、体を入れ替えた佐々木はディーノのケツをスパンキングで叩いた。男色ナイトメアで追い込めば、絶妙なタイミングで切り替えして、ペースを握らせない。時折笑いは起きるのに、試合の熱は進むごとに上がっていく。中盤、佐々木は場外で机越しに椅子に座らせたディーノへ、机を飛び越えてのフライングエルボーを投下。エクストリーム級王者として激しい試合を見せてきた佐々木の意地が見えた。

誰しもがその一つ一つが、棚橋弘至とケニーオメガの一戦を意識してると思ったのではないか。イデオロギー闘争、机などのハードコアファイト……あの二人の試合は他の誰も到達出来ないと言われている昨今、DDTが出した答えは意外なものだった。

試合終盤、立ち膝でダウンした相手に走り込んで股間を打ち付けるホモイェを繰り出すごとに履いているパンツを脱いで、より生に近づくディーノ。いわゆるアンダーパンツ一枚になれば、それはもうアルティメットと呼ばれ、相手は生の感触を味わうことになる。

今までにもアルティメット状態での男色ドライバー、つまりアンダーパンツの中に相手の顔面が入った状態での垂直落下式ドライバーは繰り出したこともある。しかし、ディーノの選択はそれを上回った。

所属レフェリーがディーノのリップロックで全員絞め落とされる中、アンダーパンツさえも脱ぎ、完全に生まれた姿になったディーノは佐々木に男色三角締め。そう、佐々木の顔面だけがディーノの股間を配信カメラから守る唯一の防具に変わったのである。この状況に会場は大爆発!ダウンから目を覚ました正レフェリーの松井は事の事態に気付いたものの、パニック!立ち上がるディーノにパンツを渡すも、なんと股間に挟み込んでポージング!松井の「穿けよ!」という怒声もむなしく佐々木と絡み合う!

さらにディーノはそのままコーナートップに登り、あろうことかリバースえび反りジャンプを敢行!もはや股間に充てがうこともしない堂々たるムーンサルトも、佐々木が避けて股間を痛打。何かがぶるんとしたのが見えた会場のボルテージがマックスになる中、佐々木がクロスフェイスに捉えるもギブアップを取るよりも、ディーノのパンツを履かせることを優先する松井に会場からこの日一番大きな松井コール!!無事に履かせると大きな拍手で迎えられたのだった。

大真面目に書いたが、つまりディーノは脱いだ。メジャープロレスには出来ないアンチテーゼ。サイバーエージェントの子会社になっても大人にはなれないピーターパン。文化系プロレスを標榜したDDTはどうあるべきか、アイコンとして自分は何をすべきか、全てを考え抜いたディーノは脱いだのだ。

プロレスにおいて滑稽さというのは、突き抜ければ清々しく見える。例えるならリックフレアーが毎度コーナーに上がっては半分ケツを出し、デッドリードライブで投げられるのも清々しい。ディーノはケツは出している。地獄門という技で生ケツを出す。だから、全部脱いだのだ。

ディーノというレスラーの生き様もまたすっぽんぽんだ。悔しさも嬉しさも私欲も全てリングに曝け出してきた。大体、入場から好みの男をハントする姿からして、曝け出す行為に他ならない。つまり、これはもはや脱ぎ捨てるもののない究極のディーノの姿だった。

試合は雪崩式ペディグリーからのダブルアームバー、カルガノエスケープで佐々木が勝利。試合後、ディーノは自ら持ち込んだ棺桶に閉じ込められるなど、新たな時代の幕開けを感じさせるエンディングとなった。

これはプロレスか。そんなものは聞き飽きた。なにせDDTの旗揚げから形を変えて投げかけられる言葉だ。これはプロレスだ。DDTは形を変えながらそう答え続ける。メジャーじゃないどインディーのプロレス、屋台や鮮魚市場から始まったプロレスだって、日本のプロレスだ。DDTから飯伏やケニーが飛び立った。今や新日本プロレスで世界を相手にする二人だ。じゃあ、あれがDDTのプロレスか。そうじゃない。DDTのプロレス、答えの一つはアイコン男色ディーノその人だ。ディーノはそれに応えた。応えた結果、試合の映像は当日の夜には公開されず、編集の必要があるため後日完全版として放送されることになったし、多分めっちゃ大人に怒られているであろう、今頃。

彼らもいい大人なのに。
仕方ない、未だピーターパンなのだから。

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