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ディアナSareeeがWWE挑戦表明。しかし、その前に立ちはだかる問題

6月のWWE日本公演のタイミングで、最高執行責任者であるトリプルHとディアナのSareeeが会談した話はお伝えしていたが、東京スポーツが取材によりWWEへの挑戦が明らかになった旨を今回報じた。

これまでにも日本人の女子選手がトライアルを極秘に受けてきた話はあったが、まだ所属団体があるうちでの表立った接触というのは、英国マットでの動きや日本での新たなNXTという話もあり、これまでとは違う温度感だったわけだが、Sareeeは決心したというわけだ。

先に先行するASUKA、現在、タッグを組むカイリ・セイン、NXTでヒールターンした紫雷イオに続き、4人目となるわけだが、今年以降の渡米となればNXTはAEWのウィークリー番組との戦争真っ直中となる。

AEWのウィークリー番組は現時点で初回放送で、里歩が初代女子王者決定戦に挑む他、志田光が専属契約でアメリカに渡ることが決まっている。また東京女子、スターダムとのコネクションは明確なことから、WWEの戦略として対抗策の1つと見える。

しかし、これが発表になった15日を前後して、Sareeeの身の回りは慌ただしかったのだ。

 

【藤本つかさ強烈なダメだし】

14日に開催されたアイスリボン最大の興行、横浜文化体育館大会。今年度の東京スポーツ新聞社制定「プロレス大賞」女子プロレス大賞受賞を狙うSareeeが前年度の受賞者である藤本つかさとの対戦を要求したため、マッチメイクされた一戦だった。

しかし、Sareeeは試合終盤に失速。藤本に勝ちを許してしまう。さらにその後のやり取りでも翌日のディアナの大会に来いと連呼するばかりで、藤本からは「思ったより差があったと思います。チャンピオンの器として少し厳しいなって感じですね。彼女は、言葉に愛がないし、ボキャブラリーもないし」と突き返される結果となった。

この強烈なダメだしはファンの間でも話題となる。Sareeeはディアナが管理するWWWD世界シングル王者であり、仙女が管理するセンダイガールズワールドシングル王者、つまり二冠王である。他団体を股にかけて活躍する新世代のエースの一角だということは、皆が分かっていることだが、藤本は苦言を呈した。

しかし、プロレス大賞を狙うのであれば、これは必然である。東スポ的にはやはり紙面を彩る活字のプロレスはインパクトがあるし、話題性というのは重要だ。Sareeeは試合前に今年の藤本つかさは何も話題になることをしていないと言っていたが、アイスリボンという枠組みで見るとこの日メインを張ったアジュレボの台頭など団体の厚みを増した年だった。Sareeeの指摘も、試合内容も、試合中のコメントもどこか空回りし続けているのだ。

翌15日、ディアナの板橋グリーンホールでの一戦、Sareee、梅咲遥 vs 鈴季すず、Xの一戦、藤本つかさが入ることが決まり、Sareeeがジャーマンスープレックスですずから取り、星を1勝1敗とし、ディアナの10.6 後楽園大会でWWWD世界シングル王座をかけたシングル戦を藤本に要求した。

しかし、藤本はTwitterでこう返したのである。

 

【全女という病】

以前、アクトレスガールズに関する記事を書いた際にも触れたが、全女の系譜のレスラーは試合のタフさはずば抜けているが、こういうマイクや幕間のスキットがとにかく弱い。

ディアナは井上京子を中心とした団体で、正直、このタイトル戦までの流れもかつての女子プロレスなら何の問題もなかっただろう。その雑さまでを含めて、不完全で不安定なエンターテイメントというのが、ある種の見せ物としての女子プロレス文化だったと個人的にも思う。

しかし、藤本つかさの女子プロレス、アイスリボンの女子プロレスというのは、見る人が何を感じるかということに非常に丁寧に照準を当て続けている。

試合後にリング上で選手が互いの意見を言い合う場が設けられ、様々な感情をそこで観客と共有する構造が出来ている。同時に自分は何故、相手と戦いたいか、その理由やその対戦を観客が見たいかも観客の反応として得ることが出来る。藤本がSareeeに問い続けているのはここだ。

「プロレス大賞女子部門を受賞したい」という目標を立てたとして、既に二冠王であるSareeeが藤本と対戦する理由が「前年に受賞しているから」はあまりにも雑だ。その上、Sareee自身が藤本は今年活躍していないと言っている。今年の大賞を狙うというなら、スターダムの5☆グランプリの優勝者やビー・プレストリーを狙う方がよほどインパクトがある。さらに試合後の翌日のディアナ参戦を要求するのも、そこに行く理由が勝った藤本にはないし、そこで負けても直接取られたわけでもないから、試合をする理由がない。

これに対して、藤本はバックステージでコメント出しているだけ、というようなことを言うファンもいるようだが、14日の試合内容からして、Sareeeは少なくとも自分の言葉で、藤本つかさと対戦する意義を観客に見せる必要があるのではないだろうか。

 

【WWEで求められる言葉の力】

正直な話、SareeeがWWEに渡って大成するかは別として、成功する上での秘訣がある。

現在のNXTやパフォーマンスセンターの状況を考えると、運動神経はその民族多様性を考えると日本人に優位性がない。レスリングそのものもコーチ陣の素晴らしさもあり、あとはどれだけプロレスが好きかの方が重要だと言われている。

とすると、次の問題は言葉の存在だ。試合と試合の間に行われるカメラ前でのしゃべりやリング上でのマイクパフォーマンスもそうだし、日常生活でも英語を喋れるかはもはや当たり前の話で、何を喋るか、どう喋るかということの方が問題となる。

例えば、ASUKAはこれを逆手に取った。日常的な会話を英語でコミュニケーションが取れるように努力しながらも、リング上で激怒した時に大阪の地元の汚い言葉で罵りまくり、日本語が分からない外国人でもとにかく怒り狂ってるのが分かる演出をしてみせた。

WWEでは、多くの場合、何を言うかという内容に関してはライターが決めているということはご存知かと思うが、それをどう言葉にするかの大まかな部分はレスラーに委ねられている部分もある。今のSareeeに足りないのはこの力だ。

このインタビューの中でカイリ・セインがトリプルHから教えられたものとして"TELL A STORY"という言葉を上げている。一見豪華な演出が際立つWWEだが、トリプルHは実際、非常にオールドスクールなレスリングを好む。自身は戦車で敵対するWCWの会場に乗り込むようなアティテュード時代の申し子のようなことを繰り返しつつ、試合の内容としては観客が感情移入してしまうような物語性のある情緒的な試合をする。リック・フレアーと行動を共にして以降、その傾向はより深まった。

今のSareeeの試合、またそこに至るまでの行動は"TELL A STORY"に及んでいるだろうか。これは彼女だけではなくて、多くの女子プロレスにとっての問題である。

試合数であったり、会場規模、集客であったり、様々な要素があるが、今の若手エースのポテンシャルを考えれば、今の3倍規模でもおかしくはないのだが、結局1つ1つの規模が小さい結果、全体規模が膨らんでいかないという状況が見え隠れする。

Sareee自身のレスラーとしての成果、強さというのは紛れも無くそのベルトが証明しているわけだが、国内の女子プロレスNo.1を口にした時に所属団体の状況なども照らし合わせると、リトマス試験紙を口にくわえるも同然である。本来もっと大事にストーリーを描いて、伝えることが出来ていれば、こんな石につまづくことも無かっただろう。

 

プロレスというものはリアルなスポーツ・エンターテイメントである。そこで見せる生き様の1つをどう見せるかこそがレスラーの神髄だと思う。果たしてこの一戦、Sareeeは藤本を振り向かせることが出来るのか。

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