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2020年1月の記事一覧
コンテンツガイド 1月号(テーマ:原風景) 「社会は上演しなければならないーー山崎正和『文明としての教育』から考える」 寺門信
現代人には、無知である自由、無知である権利はない。 山崎正和『文明としての教育』の帯には、この挑発的な一文が掲げられている。2007年刊行の同書で山崎は、満州での終戦体験を起点に、自身の教育論を展開している。そこで強調されるのが、近代以降の世界を生きるうえで身に付けるべき「型」の重要性だ。 山崎は「柔らかい個人主義」や「人生10年先送り論」で知られる評論家・劇作家だ。彼は小学6年生の時に奉天(現瀋陽)で敗戦を迎え、本土への引き揚げまで約2年間をその地で過ごした。敗戦直後
コンテンツガイド1月号(テーマ:原風景) 「東野圭吾原作『秘密』ーーSomeday in the snow」 高橋 秀明
ぼくの原風景について語ろうと思う。ぼくが中学校二年生だったとき。ぼくは男友達に誘われて、東野圭吾原作の『秘密』を神戸にある映画館へ観に行った。聞くところによると『秘密』は当時人気だった広末涼子主演の恋愛ものらしく、海沿いにあるその映画館は休日らしく男女のカップルで溢れていた。ぼくは後悔しはじめていた。誘われて、ふたつ返事で「いいよ」と言ったものの、その当時は恋愛映画を映画館で見たことなどなかったし(あるのは、ゴジラや宮崎駿作品、それにドラゴンボールぐらいだ)、男友達同士で、
コンテンツガイド1月号(テーマ:原風景)「『BTTF』から『ザ・ウォーク』まででたどるロバートゼメキス小論:ゼロの風景」 イトウモ
初めて見た『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ(以下、BTTFシリーズ)はPART3だった。確か金曜ロードーショーでの放映だったと思うが、まだ子どもだった私は意図せず偶然シリーズを最後の作品から鑑賞した。 あらためて紹介するまでもないだろう。本作は科学者ドクが発明したデロリアン型タイムマシンが、1985(当時の現代)年、1955年、2015年、1885年と四つの時代を行き来するSFスペクタクルだ。3作目は1作目のラストで1955年にマクフライを1985年へと送り返
絵本から経済を考える 第1回 「これは私のものだ」という絶望感について——中庭の共同体とビーズのネックレス、あるいはTHOSE SHOES 谷美里
私が幼少の頃住んでいたマンションには大きな中庭があった。長方形の中庭の二辺は住居棟、一辺は駐輪場と高木で囲われ、残りの一辺は大きな門で閉ざされていた。車も部外者も入って来られないその安全地帯で、マンションに住む子どもたちは来る日も来る日も遊んでいた。誰かが幼稚園や小学校の友達を連れて来れば、その子らも一緒に遊んだ。中庭には、常時十人以上の子どもたちが走りまわっていたように記憶している。 その中庭では、遊び道具は基本的に共有されていた。三輪車もローラースケートも縄跳びもカ