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2019年12月の記事一覧

モンゴル食紀行/食思考 第5回 食行動の環世界 太田充胤

「モンゴルにはつい最近まで、『美味しい』という概念がなかったんです」 ムギさんがさらりと垣間見せたこの未知の世界観に、天地がひっくり返るような思いがした。美味しい、という概念なしに成り立っている食の世界とは、いったいどのようなものなのか、にわかには想像ができなかった。 「モンゴル人は、お腹いっぱいになることが大事。羊の肉を寸胴に放り込んで、煮込んでスープにして、塩で味付けする、それだけ。スパイスとかも使わない。日本に留学して、はじめのころはご飯が少なくて本当に辛かったです

モンゴル食紀行/食思考 第4回 「概念」がない! 太田充胤

モンゴル3日目の朝。 我々はまたしてもホテルの朝食で「足りない」生野菜のブッフェを食べたあと、迎えの車に乗ってムギさんの乗馬キャンプ"Nomad horse camp"に向かった。 ウランバートル市街を抜けると、車窓の風景からはものの5分くらいでコンクリートが消え、見渡す限り草原という感じになる。時々牛が草をはんでいたり、車にはねられたと思しき馬が路肩で死んでいたりする。 1時間くらい走っただろうか。突然、何もないところでドライバーがウィンカーを点け、続けざまに左折する

モンゴル食紀行/食思考 第3回 充たされざる日本人 太田充胤

連載ももう第3回になるが、我々はいまだに初日の夜に到着したホテルを出発して いない。こんな遅々としたペースで進むことになるとは思っていなかった。余計な話ばかりしているせいかもしれないが、今回も余計な話から始めなければならない。 9月1日。ホテルに着いた翌日の朝、率直に言ってあまり満足のいかない朝食ブッフェを経験した我々は、部屋に戻ってモンゴルの飲食店事情について、とりわけごく最近になってモンゴルを訪れた日本人がいったい何を食べていたのか、もう一度リサーチした。わかったこと

モンゴル食紀行/食思考 第2回 砂漠で「足りない」生野菜  太田充胤

ご存知の方はご存知かと思うが、今日、モンゴル語ではロシア語と同じキリル文字を使う。1940年、ソ連の影響下にあった共産主義時代に政令によって始まり、今も続いている慣習である。 キリル文字教育は、モンゴル国民の文盲をあっというまに撲滅したと言われている。半面、モンゴル人が歴史上使っていたいくつかの文字は、これを境に忘れられていくことになった。 ソ連が解体したころ、独立したモンゴルでは従来のモンゴル文字を復活させようと、学校教育にこれを取り入れた時期があったらしい。しかし当然な

モンゴル食紀行/食思考 第1回 異文化でも餓死しない 太田充胤

9月上旬、9日間の夏休みをとって、妻と二人でモンゴルを訪れた。 妻もぼくもそれなりには旅慣れているほうなのだが、モンゴルでの旅行がどんなものになるのか、出発前にはさっぱり想像がつかなかった。 なにしろ国土の大半、草原と砂漠が広がるだけの国である。人口密度が世界一低いらしい。Google mapを見ると、首都ウランバートルの周辺だけがいわゆる都市のようになっていて、あとはなにもない。ウランバートルの街についたあと、どこでどう過ごせば面白いのか、そこへはどうやって行き来するのか