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天下りにサイバーテロは防げない【経済安全保障推進法改正案】

■はじめに

本noteではこの度国会で審議されることになった「経済施策を⼀体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律の一部を改正する法律案」(経済安全保障推進法改正案:以下「本法案」)について考えてみたいと思います。対象とするものは2024年第213通常国会で法案が提出される『経済安全保障推進法(令和四年法第四十三号)改正法案』です。

本法案は以前より左翼陣営から「現代の国家総動員法」などと不安をあおられてきた法律です。日中戦争の2年目に成立した『国家総動員法』は天下の悪法と言われました。総力戦の遂行のため国家の全ての人的・物的資源を政府が統制運用できる(総動員)旨を規定。しかも議会によらず政府の「勅令」で経済統制を可能にしたものです。戦靴の足音の忍び寄る時代、全体主義、社会主義的な色濃い法律であったことは想像できます。

国家総動員法の母体はそれ以前に平時対策として別の法律が存在しました。ところが日中戦争が始まってしまい、戦時体制として形を変えました。そして次のような人的、物的資源を政府が議会によらず勅令を発して民間企業などが自由に使えないようにする内容が盛り込まれています。それらは軍事物資、食料、船舶、車両、燃料等です。総力戦体制のために国家が民間資本を完全に統制できる法律であったことは間違いありません。

では、現在の「経済安全保障推進法」は経済統制法かと言うと、現時点ではそうではありません。本法律は昨年成立したもので、まだ歩みを始めたばかりです。国際関係、政治情勢、政局などにより様々な紆余曲折が想定されます。この法律をどのように仕上げていくかは私たち国民が監視していかねばならないことなのかなと思います。

ところで、今国会は本法案に関連する法律が各省庁から提出されているのが特徴と言えます。本法律には含まれないが、経済安全保障会議などにおいて取り上げられている問題に関する法律が多数見られ、本法案以外の成立にも着目してみてはいかがでしょうか?

なお、経済安全保障関連については下記の会議で議論されています。

なお、本noteでは今回の改正案に対しては賛成の立場で記述しています。でも、今後の経済安全保障推進法を取り巻く環境によってわが国の企業はさまざまな意味での形骸化が進むと思われます。政府の過剰な規制や法整備が、企業行動の失敗や不正を生む「正当なルートを外れる行為」をさせる基になるからです。したがって経済安全保障推進法そのものに対しては反対です。

どのようなことかと言いますと、経済安全保障推進法は「特定社会基盤事業者」を指定しその企業などは要件を満たす必要があります。これは言ってみればISOのようなもので、書類さえ揃っていればOKとなりがちな仕組みです。今後特定社会基盤事業者などの体制維持については大きな負担になり、最近明らかになったトヨタ、ダイハツの認証不正などのように制度の経過とともにほつれが明らかになってくる未来しか見えません。

■経済安全保障推進法とは

本法律は昨年成立したもので、半導体などの重要物資の安定確保や基幹インフラの安全確保がメインとなります。その他、先端技術の研究や特許に関する内容など、これまでの55年体制の国会では取り組んでこれなかった「自国による安全保障」についての法律です。

特に政府としての本法律に対する基本方針が次のように定められています(筆者による抜粋)。
(1)特定重要物資の安定的な供給、確保
 物資の指定は施行令によります。抗菌物質製剤、肥料、永久磁石、工作機械及び産業用ロボット、航空機の部品、半導体素子及び集積回路、蓄電池、インターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて電子計算機を他人の情報処理の用に供するプログラム、可燃性天然ガス、金属鉱産物(一部)、船舶の部品
(2)特定社会基盤役務の安定的な提供の確保に対する特定妨害行為への
 特定妨害行為は基本方針によります。特定重要設備の機能を停止させ、または低下させること自体をもって特定社会基盤役務の安定的な提供を妨害する行為、特定重要設備の機能を維持したまま、当該特定重要設備を用いて特定社会基盤役務の安定的な提供を妨害する行為など、サイバー攻撃などの電磁的な方法によるものだけでなく、物理的な方法によるものも想定されています。
(3)特定重要技術の開発支援
 特定重要技術は単に先端的技術というだけではなく、3つの類型に該当するものとして定義されています(基本方針による)。例えば技術情報の窃取、研究開発情報などの窃取、外部に依存することで利用に支障が生じるモノやサービスなどが国家及び国民の安全を損なう事態が起こるおそれがあるものとされています。
(4)特許法の出願公開の特例(非公開措置)
 保全対象発明とされ、国家及び国民の安全を損なう事態を生ずる恐れが大きい発明を、産業の発達に及ぼす影響を考慮して非公開とする措置を行うこととされています。

■経済安全保障推進法の改正経緯(法第三章・特定社会基盤役務の安定的な提供の確保)について

本法案の改正部分は、先に挙げた特定社会基盤役務に関するものの追加のみです。昨年夏に起こった名古屋港システムのウィルス感染事件に端を発するものです。

名古屋港は我が国の貿易を考えるうえで最も重要な港。自動車輸出台数は117万台にのぼり、総取扱貨物量のうち外国貿易の輸出額は約13兆円。まさに日本経済をけん引すると言っても言い過ぎではないでしょう。この港がウィルス攻撃を受けたということは特定社会基盤役務の提供がまったく出来ないことになってしまいますね。

施設使用許可のシステムについては、港湾施設使用の許可申請の約60%が書面の持参、郵送、ファクスなど紙ベースで処理されていることなどから、仮に当該システムに支障が生じた場合であっても申請処理の大幅な遅延は見込まれないと認識しているとしている。そのため、港湾は、規制対象とすべき設備が具体的に想定されないので、特定社会基盤役務の対象事業に含めなかった

『インフラ分野に関する安全保障上の課題-国土交通分野を中心とした一考察-』(立法と調査2023.11 p105:参議院常任委員会調査室・特別調査室)

事の経緯は次の二つの経過記事によって確認することが出来ますので、参考までにお読みください。

〇CBCニュース 物流に影響 名古屋港のコンテナの物流管理システムで障害 コンテナの搬入・搬出ができない事態に サイバー攻撃の可能性も 名古屋港コンテナターミナル(2023.7.5)

〇読売新聞 英語で「ランサムウェアに感染」、プリンターから100枚印刷…名古屋港システム障害(2023.7.6)

付記:ちなみに、今後は医療、看護分野についても基幹インフラとしての整備を検討しているとのことです。(第6回経済安全保障推進会議資料(『基幹インフラ制度における今後の対応について』(2024.1.30)))

■経済安全保障推進法改正に関する提言

今後の経済安全保障推進法を取り巻く環境について最も懸念したいことが過剰な規制や法整備です。

例えば、国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明に対し「特許出願の非公開化」の基本方針が策定されました。特許以外にも今後「政府が保有する経済安全保障上重要な情報として指定された情報」についても「セキュリティ・クリアランス」という制度を整え、管理する方針が出されています。
(今国会において内閣官房が提出する「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」か?)

国家における情報保全措置の一環として、①政府が保有する安全保障上重要な情報を指定することを前提に、②当該情報にアクセスする必要がある者(政府職員及び必要に応じ民間の者)に対して政府による調査を実施し、当該者の信頼性を確認した上でアクセス権を付与する制度。③特別の情報管理ルールを定め、当該情報を漏洩した場合には厳罰を科す

経済安全保障推進会議(第4回)資料『 セキュリティ・クリアランス制度等の整備に向けて』(2023.2.14)

「情報公開法」や「外為法」などに盛り込まれる内容を別建てで規制する方針と考えられます。企業の行動はいくつもの法規制により縛られています。外為法などで言えば、最近検察がフライングをしていた事件が発覚しています。「大河原化工機」事件です。この事件では関係者の死亡など、痛ましい結果になってしまいました。

そもそも犯罪が成立しない事案について、会社の代表者らが逮捕・勾留され、検察官による公訴提起が行われ、約11か月もの間身体拘束された後、公訴提起から約1年4か月経過し第1回公判の直前であった2021年7月30日に検察官が公訴取消しをしたえん罪事件。

〇日本弁護士連合会 大川原化工機事件

輸出規制(輸出管理令及び外為令:貨物等省令)により軍事に転用されるおそれのある技術などは、これまでも企業側が自社の英知を結集して取り組んできました。ですからまともな企業であれば、法を犯してまで外国企業などと取引をするわけがないのです。しかも大河原化工機の技術は特許上でみれば「広知技術」と言われるもので、業界の人間であれば全く特殊性のないものでした。まるで戦前の特高のような独善的な公訴が行われ、関係者が死亡するなど痛ましい事件となりました。

このような運用を見ていると「経済安全保障」という言葉が独り歩きし、今後も更なる悲劇が起きないとは言えません。企業も疲弊し、国への協力体制もその場しのぎのおざなりなものになっていくでしょう。このように役人のすることの多くはおせっかいで一人よがりなことが多いのです。その反面、国民のできることは小さく、弱いのです。

経済安全保障については誰もが必要なことと考えると思います。しかし複数の法律で四方八方から拘束し、国民や企業を縛り付けることは、却って国が弱体化するのではないでしょうか? それでは本末転倒です。特に既存の法律の中で運用できる部分があるのに新たな枠組みを作れば、あっちもこっちもみなくてはならず混乱を引き起こします。まさにダブルバインドです。縁故資本主義的ムラ社会である日本ではよくある光景ですね。しかし、責任があいまいになり無責任体質を生じてしまいます。

私たちは常に❞税金下げろ、規制をなくせ❞をスローガンにしています。
ダブルバインドで利を得るのはその調整役となる官僚たちです。そしてそれを取り巻く既得権益の人たちです。経済安全保障という錦の御旗はそれぞれの立場により十人十色の解釈を生みます。政治家が交替すれば変わり、政権が代わっても良いように変化させられます。このような不安定な法は余分な方だと思いますので、徐々に縮小し、廃棄すべきです。

浜田参議院議員に質問してほしい!


減税と規制緩和に賛成で、国会でいつも政府に鋭い質問をしてXやYouTubeでも話題のNHK党参議院議員の浜田議員に、ぜひとも国会で質問して欲しいな〜と思うことを番外編として掲載しています。(^_^)

【質問1】
わが国は1970年代ごろから「電子立国」とも称されるほど、先進技術の発達は目覚ましいものがありました。それ以前の自動車産業の隆盛なども鑑みるにわが国の技術、産業基盤は世界的にみても高いポテンシャルを有していたと考えられます。それらの主要因は日本人の勤勉さ、知識の高さがあったように思います。また個人の倫理意識も高く正直、誠実を旨とする哲学をもつ経営者も多かったように思います。その土台がある上で自由な経済、産業活動が行われてきたことがわが国の発展を支えてきたと考えます。
一方、現在政府が推進する経済安全保障につきましては安全保障という言葉が独り歩きし、規制、統制が進んでその自由な経済活動、研究開発を阻害するのではないかと危惧する点もございます。政府には経済安全保障推進法が企業の自由な経済活動、産業推進を阻害することのないよう希望いたします。
経済安全保障推進法では、具体的な規制などについて、政令、省令などに委ねられる部分が多く、国会の議論を欠いたまま企業への規制が増えていくことが考えられます。ややもすれば経済安全保障推進法によって、企業が機会損失や損害を被るといった恐れも考えられます。その際、その被害の認定や損害補償が企業を守るものでなければ民間の同意は得られない事でしょう。政府として企業への補償などについてどのようにお考えでいるかお聞かせください。

【質問2】
昨年夏に名古屋港が被害にあったランサムウェアによるシステムへの攻撃に関してお伺いいたします。もとより規模の大小を問わず港湾は国内、国外をつなぐ重要な拠点であると考えます。その重要な拠点がランサムウェアによる攻撃を受け、実際に港湾機能が停止するといった被害を受けました。港湾は国内外の接点となる大変重要な拠点です。今回のような被害を受けることは想定されていなかったのか、システムに関するセキュリティについて政府が認知している当時の状況をご説明ください。

【質問3】
続けて港湾の運営に関してご質問いたします。主に港湾はその地域で半官半民の形で運営されております。その多くは地方議会の出身者や地権者、港湾を利用する有力者などが経営者となって管理運営を行っていることが多いと思われます。そのため民間資本による企業経営よりも管理がずさんで責任の所在があいまいになりがちなのではないかと危惧いたします。今回の攻撃を受けた対応の甘さというのはこのような無責任体質の経営管理にも起因するのではないかと思っておりますが、政府のご意見をお聞かせください。


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