旧バトルレポート

夕陽になお、血濡れ光る真紅の大地を、ガイオーンは見渡す。灼熱の煮えたぎるアキュシーの大地は、そのはらわたに焔を孕んで朱から橙、そして真紅へと、夕陽を受けて燃えていた。
そこには、部族の者達の死骸と、それに倍する骸が転がっている。ガイオーン…猛き竜の角に抗いし愚か者どもの兵達だった。
またひとつ、勝利という階を上った渾沌の勇将が、闘いの余韻から醒めるべく息をついた時…“それ”はガイオーンの前に陽炎の如き揺らめく影たる姿を立ち顕した…。
揺らめく、けれど明らかに禍々しい影は告げる…。
『汝、ガイオーンよ…。更なる力を求めるがよい。禍つ神々は今、忌まわしきナガッシュ、愚かしきシグマーの手先共に煩わされておる…。神々は、新たなる八芒星の担い手を求めておるのだ…』
「…言われるまでもない。力こそ我が求めるもの」
侮蔑の響きすら込めて、ガイオーンは言い放つ。姿も見せぬ臆病者など、恐れも憚りも必要ないと。そのまま、血濡れた剣を握り直したガイオーンに、ぐつぐつと泥が煮えるような嗤いを響かせ、影は告げた。
『よかろう、竜の角よ。ならば、今すぐにでも汝を試練の場へと招かん。まずは、血と虐殺、骸の神の試練の階梯…その一段目を登るがよい…』
影のその言葉と共に。ガイオーンの面前の時空が、歪んだ。
“ここ”ではない“いずこか”へと繋がるポータルの、その奥からはありありと血の臭いが届いてくる。
『この試練には、汝ただ一人にて挑まねばならぬ。汝の手下どもはここへとおいてゆかねばならぬ。それでも…試練を受けるかな?』
猛き竜の角の下より、ガイオーンは鋭い一瞥を影へとくれてやった後。止めんとする女妖術師の声振り払い、ただ一騎歪みのポータルを潜ってゆく…。
その扉…ポータルを抜けた時、ガイオーンの嗅覚を襲ったのは濃厚なまでにも濃く漂い淀む、血臭であった。
虐殺の場だ、ここは。
間違いなく、その場に足を踏み入れた者はそう悟らざるを得まい。
そして、その直感が間違っていないことを、いくつもの軍靴の響きが証立てる…。ブラッドリーヴァー、血に酔った人喰いどもが現れたのだ…。
衆を頼み、数で押し寄せるリーヴァーども。しかし、所詮は渾沌の“統べる者”の敵ではなかった。
ディーモン・ポゼッスド・リーパー・ブレイド。
悪魔の力すらその刀身に宿した刃が一閃されるごとに、リーヴァーどもの首が舞ってゆく。
ガイオーンの身に向けて振るわれた刃は無数であったが、届いた刃は、ほんの数太刀。敵と自らの血を拭い、ガイオーンはさらに血臭の奥へと一瞥をくれた。
そこに、新たな扉が現れたのだ…。
“竜の角”によって倒されたリーヴァーどもの、新たな血が流れゆく先。そこもまた、血と虐殺が支配する場であった。あれだけ血に慣れきったはずのガイオーンの嗅覚を、更なる腥気が襲い来る。ガイオーンの足許で、血溜まりが音を立てた時、新たなるリーヴァー共が現れた。
骸の神の軍旗を押し立て、角笛を鳴らす。
先刻に倍する群れであった。
しかし、ガイオーンは嗤ってみせた。
渾沌の“統べる者”を、衆を押して倒せると思うのならばかかってこい。角笛を圧する咆哮が轟く。それは、“統べる者”の喉から迸ったものに他ならぬ。
殺戮の…始まりだった。
悲鳴を上げて、リーヴァーの何人かが逃げ出した。ブラッドリーヴァーは、虐殺し、倒した敵部族の生き残りを手下に加えることがある。死したかつての同胞の肉を喰い、同じ人喰いとなるのならば、と。そうしてリーヴァーへとなった者のうち、まだ骸の神に帰依しきれぬ者がいたのだろう。
ガイオーン眼には、弱者の姿は入らなかった。
しかし、弱者達が逃げ散って行ったその先にて、いつもの断末魔の悲鳴が轟いた時。“竜の角”はゆるりと自らの征路の行く手へ瞳を馳せた。
そこには、言うまでもなく新たなポータルが口を開け、逃亡者を飲み込み、そして殺戮の勝者を待ち構えていた…。
最後の扉が開け放たれた。
そこにいたのは、逃げ出したリーヴァー共の死体を踏みにじる真紅の巨躯の戦士達。
その手にあるのは、コーン神の祝福に血塗られた刃。
床といい壁といい天井といい、全てが血に濡れたその広間にて、第一の血の試練、最後の戦いが始まる…。
ブラッドウォリアーが振るう両手持ちのゴアグレイヴが、ガイオーンの鎧をいとも容易く斬り裂いてゆく。斧が打ち鳴らされ、そしてガイオーンの太刀筋を巧みに逸らすや、ゴアアックスが振り下ろされる。
殺戮者共が嗤い、吼え猛る。そしてその哄笑を“竜の角”の咆哮が圧し、潰す。
悪魔憑きの刃が妖気を滾らせ燃え上がり、片腕を落とされてなお嗤いながら斧を振るうブラッドウォリアーを薙ぎ払う。
血が、血を覆い洗い流す。
殺戮に継ぐ殺戮その果てに…ただ一騎、立っていたのは…“竜の角”ガイオーンであった。
『見事なり、“竜の角”よ。汝は血の試練を果たしおおせた。
 だが、これで終わりではないぞ?汝には更なる血と殺戮の神の試練が待っておる。そしてまた、尊父や変化の御手の試練もな…?』
ガイオーンの眼前に、再びあの陽炎のような姿が立ち現れた。そして、どこかに嘲るような響きを秘めて、その勝利を言祝いだのだ。
血と殺戮の果てに立つガイオーンに、影は告げる。
『どうだ、ガイオーンよ。その試練…少しは楽にしたくはないか?汝が望むのであれば、我が力を貸すのはやぶさかではないというものだ。この、“先触れ”とも、“始原の魔皇子”とも呼ばれた我のな…?』
その言葉に、悪魔憑きの剣へと血振りをくれたガイオーンは、むしろつまらぬげにこう、吐き捨てたのだ。
「…気に喰わぬ。今すぐ姿を現し我と死合うか。さもなくば…去れ」
影に、明らかに憤怒の気配が宿された。が、しばし続いた沈黙の後、影は笑みの響きを込めてこう、告げたのだ。
『よかろう。ゆくがよい、“竜の角”よ。次な闘いが待っていよう。
汝に勝利のあらんことを。禍つ神々の御眼は今、汝に注がれ始めている…。油断はするな?次なるは、このような者共とは比すべくもない者共ぞ…。
 嵐の担い手、雷の刃に…後れを取ることなきようにな…?』
ゆっくりと、ポータルが口を開ける。そこには、大地に膝を衝き、長の帰りを待つ部族の者共の姿が、ガイオーンを迎えていた…。
ガイオーン
第一話 『寵児の誕生…血の試練』 完

ガイオーンの前に現れたのは、“かのお方”です。
はじまりの皇子と言えば誰かはもう、ウォーハンマーファンならおわかりかと♪
自分を出し抜いて渾沌の寵児となったアーケィオンを出し抜く駒として、なんとかガイオーンを篭絡したいとこを描いてました
このキャンペーンは、後のブロークン・レルム記されることになる設定を偶然にも先取りしてたりしてて、ほんとアツかったんすよ~

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