爆音でかかり続けてるよヒット曲#10『フジロックは劣化したのか』(ハシノイチロウ)

古参のフェスおじさんことLL教室のハシノです。
フジロックはもちろんサマソニ、ロッキン、朝霧JAM、TAICO CLUB、
夏の魔物、森・道・市場などなど、全国各地の大小さまざまなフェスに行ってきました。今年はナンバーガール目当てにライジングサンにも行く予定。
 
今でこそ毎週末のように全国どこかでフェスが開催されている状況ですが、
現在のフェス文化が花開いたきっかけといえば、ご存じの通り1997年の第1回フジロック。
 
わたくしハシノも実はあの場にいて、電気グルーヴからレッチリまで全力でライブを満喫し、また雨に打たれながらシャトルバスを何時間も待ち続けて
意識朦朧のヤバい感じになった友人を救護室に送り届けたり、のちに「伝説」とよばれる所以を身を以て体験したのだった。
 
それ以来、どんなに仕事や家庭が大変でも、フジロックには毎年かならず1日は参加するようにしてきた。今年も最終日に参加し、昼から深夜まで遊び倒してきたばかり。
 
なのでフジロックに関してはそこそこわかってる方だと自負してるんだけど、最近話題になったこの記事にはちょっと言いたいことがあります。
 
僕がフジロックに絶望した理由…「夏フェス」を劣化させたのは誰か
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66351
 
書いたのは、今までフジロックにすごく思い入れをもって参加してきて、
数々の思い出があるという立場の方。で、ここ最近のフジロックにはもうかつてのような特別感がなくなってしまったのではないかと語ってる。
 
具体的には、参加者のゴミや場所とりのマナーが悪くなってきているとのこと。かつてのフジロックは、自他ともに認める「世界一クリーンなフェス」で、参加者は自分たちが出したゴミだけじゃなく目に入った他人のゴミも分別して捨てるとか、そういう意識の高さがあったはずだし、細かいルールに縛られずとも性善説っぽく自律できていたよね、って。でもそういうフジロックの美徳は失われてしまったと。そういう嘆き。
 
たしかに、2000年代前半ぐらいのフジロックは特別な場所だった。
その感覚は自分も持ってたし、それがいつの間にか失われたっていうのもわかる。そこまでは同意なんだけど、それはなぜかという考察の部分に、異議ありなんだよな。

かつてのフジロックにあった、自分たちは特別な場所にいるんだっていうあの感覚は、そもそもフェスというものが他になかったので、フェスでの振る舞い方のお手本も経験もなく、運営が啓発するままに意識高く過ごしていたからだと思う。つまり、われわれは、意識高い過ごし方以外の過ごし方を知らなかった。
 
やがて全国各地にいろんなフェスが立ち上がり、フェスは1年に一度の特別な場所ではなく、年に何回かある非日常になった。チケットに大金を払って、アウトドア装備を揃えて、有給をとって、わざわざ山奥まで行って、悪天候にさらされながらじゃないと参加できないものではなく、土日にさくっと電車で1時間ぐらいのところで体験できるものになった。
 
そういうフェスで、われわれは意識高くないフェスでの過ごし方を覚えてしまうことになる。
 
また、フジロックも同じ場所で毎年開催されることで、参加者の側もどんどん賢くなっていく。高速を降りて会場までのコンビニやガソリンスタンドの位置、どこのトイレが比較的すいてるか、グリーンステージで座りながら見るベストポジションはどこか、レッドマーキーはステージ下手側が見やすいとか、宿泊客以外にも温泉を使わせてくるホテルはどこか、など。
そういった知恵の一環として、記事で言及された椅子での場所とりもあるんだと思う。
 
われわれはもう、無垢で意識高かったあの頃のフジロッカーには戻れない。
より快適に過ごす方法、それは同時にラクをする方法であり、意識低く過ごす方法でもある。それを知ってしまった。
 
フジロックから特別感を奪っているのは、意識の低い新参者じゃなくて、
かつて意識が高かった、そして良くも悪くも賢くなってしまったわれわれ古参であろう。そこはちゃんと認めないといけない。
 
あと、あの頃との変化ということでいうと、参加者の意識だけでなく、それを感じとる自分の感覚のほうもだいぶ変わったはずで。同じ景色を見ても、キラキラしたものと感じるか、くたびれたものと感じるかはかなり見る側の主観に左右される。
 
苗場の最初の頃の、目に映るものすべてが新しくキラキラしていた10年前の自分と、すべてのことに既視感がある現在の自分。
フジロック慣れもあるし、あと当然ながら10歳ぶん年をとってもいる。
 
たとえば、新卒で入社した会社で、最初は大人の世界のルールや先輩や上司の手慣れた仕事っぷりなどをまとめて目の当たりにして圧倒され、うちの会社スゲー!ってなってた新人時代があったとして。
そこから3年もすると逆に自分の会社のイケてないところや上司のズルさがわかるようになってくるんだけど、その間、会社の方は変わっておらず、変わったのは自分っていう。
それと同じ現象が起こってるんじゃないかとも思いますね。
 
結論として、ハシノはフジロックに絶望してないし、来年も絶対行こうと思ってます。(初出・2019.9.13)

【ハシノイチロウ】
1976年、大阪生まれ。会社員であり、DJ・レコードコレクター。
2015年、批評家の矢野利裕、構成作家の森野誠一と音楽批評ユニット『LL教室』を結成。
・ハシノイチロウblog 森の掟
http://guatarro.hatenablog.com

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