ある夏休みの体験

昭和57年の夏
キーンコーンカーンコーン〜♬
『はーい、それでは皆さん、いっぱい遊んで、また元気に会いましょうね〜!』
と、担任の冨田先生がクラスメートに挨拶を。

『はーい!先生!まったねぇ〜ん!!』
と僕は挨拶を返し、荒井くん、向田くん、庄司くんと仲良しメンバーで寄り道しながら家に帰った。

さぁ!夏休みダァ〜っ!!

夏休みの宿題を早いうちに片付けちゃって、あとは自由に過ごそう。うん、いい計画だ!

さっそく、夏休み前から取り組んでいた秘密基地作りを本格的にできる。
それぞれが色んな場所から秘密基地作りに使えそうなモノを探しに出かけた。

荒井くんは古タイヤとか壊れた何かの機械。
向田くんは、なんだか良く分からない、押しボタンの付いた機械と川から拾ってきた台所でお母さんが使ってそうな、何かを入れる用の箱。
庄司くんは家のもの物置からプラスチックで出来たソリ。(どうもまだ新しいぞ…)

僕は自転車に乗り、少しだけ遠くへ行き、オロナミンCの看板とリンゴ農家さんの畑に捨ててあった壊れた折りたたみの椅子、ビニールで出来てる三つ折りの横になれるやつを持ってきた。

秘密基地の建物はだいぶ出来ていて、といっても横穴式住居擬きなのだが、僕たちには立派なものだった。

ウルトラ警備隊の基地みたいにしたいね!

全員そう思っていたので、金属製のモノを探していたのだ。
外見はおもいっきり竪穴式だけど…。

秘密基地が完成し、仲良し四人組の他にも遊びに参加する友達が増えた。

田中くん、宍戸くん、金田くん、山岸くん、
阿部さん、加藤さんと、女の子まで来るようになった。

『基地に入るときの合言葉をつくろう!』
と、向田くんが言い出した。
みんなでいろいろ考えてみたが、なかなか良い合言葉が決まらない。
アレコレと提案していく過程で、
《ナンジャラ モンジャラ はぁ〜チン!》
と決まったのだ。
合言葉を決めるはずだったのに、基地に入るときの呪文になってしまった。


ある特に暑かった日、

基地メンバーである、庄司くんと金田くんと僕3人で川遊びをしていて、
『なんか喉かわいたよね〜』となり、
金田くんの家へ遊びに行くことになった。

金田くんは一学期の途中に転校してきたニューフェイスだった。

『おじゃましまーす』

金田くんのお母さんが僕らに麦茶を出してくれた。

『金田くんのお母さん、優しい顔してるね。』
そう僕が言うと、
金田くんはとても照れ臭そうな顔をしていた。
(金田くんも優しいんだなぁ〜)

麦茶をゴクゴク

ん?あ!美味い!!!

あれ?うちの麦茶とは違うゾ?

ほんのり甘い麦茶だ。

金田くんのお母さんに聞いてみると、砂糖を少し入れているとのこと。

砂糖入れると、麦茶もこんなに美味しくなるんだぁ。

『どうもおじゃましました〜』

金田くんちの麦茶は美味しいという噂はすぐに広まり、何人も金田くんちを訪れるようになった。

そんなある時、

荒井くんの家へ遊びに行った時のことである。
荒井くんのお母さんと、知らないオバさんが話してた。
別に聞くつもりはなかったけど、
聞こえてきちゃう大きさの声だったので、会話が耳に入ってしまった。

(金田さんのとこ、どうも在日さんらしいのよ…)

ザイニチ??

ザイニチにってなんだ?
聞いたことがない。

その日を境に、荒井くんは金田くんと一緒に遊ばなくなった。
いくら誘っても、お母さんに一緒に遊んじゃダメって言われてるから、ごめんね。
こんな風に…

僕にはさっぱり意味が分からなかった。
(あんなに仲良くしてたのに…)

そのうち女の子も金田くんが一緒だと遊びに参加しなくなった。

僕はそれが不思議だったし、なんか嫌だったから、前に聞いた話をお母さんにきいてみた。

お母さんは台所で食器を洗いながら、
前に聞いた話を僕がすると、
水道を出しながら、
『ふーん、そうだったの』
『ザイニチって在日よ。』
『日本に住んでる在日朝鮮の人のことなの』

え?在日?在日朝鮮人??
なんだそれ?
詳しく話を聞いた。

『へぇ〜そうなんだぁ…』
僕は応えた。

お母さんさんは話を続け、
『それ知って、お前はどうすんだい?』と僕に問う。

『よくわかんねーなぁ〜、金田くんは金田くんだし』

そしてお母さんはこう言った。
母『お前は、なに人だい?』

僕『え?日本人だよ』

母『その日本人ってのはどこに住んでるの?』

僕『え?そりゃ日本でしょ』

母『その日本ってどこにあるの?』

僕『ん?え?どこにあるのって…』

お母さんは、考えてる僕の顔をみて、指を差し、
『アレみてごらん』と。

その指先の方向にあったのは、お婆ちゃんに買ってもらった地球儀だった。

『地球儀、地球儀、地球儀…、あ!地球だ!地球にあるよ日本!』

お母さんは少しニコリとし、
『スーパーマンは、なに人なのかな?』と僕に問う

『え?スーパーマン?』
『スーパーマン、スーパーマン、えーと、えーと、あ!宇宙人だ!』

お母さんさんは水道の水をとめ、
母『スーパーマンからお前をみたら、なに人なのかな?』

僕『そりゃ地球人でしょ!』
あ!!!!!

お母さんは洗った食器を拭き始めた。

金田くんと遊ぶ基地メンバーは減ったが、
僕は金田くんと探検したり、自転車遊ぶしたり、虫取りしたり、たくさん遊んで、金田くんちの美味しい麦茶をガブガブ飲んだ。

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