ウクライナ政府 戦時中の労働者の権利を解体
Ukraine’s government dismantles labour rights during the war
(https://www.opendemocracy.net/en/odr/ukraine-suspends-labour-law-war-russia/)
ロシアの侵略行為は、許されない行為である。このような侵略行為に対してどう抵抗するかについてはいろいろな考え方があるが、ウクライナは武力による抵抗を選択した。このような対応の中、ウクライナ国内の戦時下の労働者・労働組合に関して問題が生じている。国際メディアプラットフォームであるopenDemocracyの記事より紹介する。
■労働者の権利を保護する規制を緩和する新法
上記記事によれば、ウクライナでは、ロシアの進行を阻止するための努力の一環として、労働者の権利を保護するための規制を緩和する新法が提案されており、政権は、ウクライナ国内の労働組合と対立しているとのことです。また、提案された法案は、大統領の署名はまだされていないものの、議会では承認されており、この新しい法律が戦争終結後も続き、さらに搾取的な労働条件になるのではないかということが懸念されています。
■新法の具体的な内容
新法では、民間企業の経営者と国営のサービスおよび機関の権利を大幅に拡大する一方で、従業員の権利を縮小しているとのことです。
具体的には、戦火に見舞われた結果、企業が破壊されたり、機能しなくなったりした場合、10日前の通知(従来は2カ月)と1カ月分の給与の支払いで従業員を解雇することができることになっています。また、病欠や休暇中の従業員を解雇することも可能になっています(ただし、妊娠中や育児休暇中の従業員は解雇できません)。雇用主は、労働時間を週40時間から60時間に増やし、休日を短縮し、休暇を追加でキャンセルすることができます。
また、この法律において問題となっている条項には、現在ウクライナの労働法では禁止されている、肉体的に激しい労働や地下(鉱山など)での労働に女性を従事させることができるようにするものがあります。これは、すべての女性の地下労働を禁止している1935年の国際労働機関条約に違反することになりかねないものです。
さらに、ウクライナに対する軍事侵攻に関連して、雇用契約を一時停止し、雇用主及び労働者の双方が相互の義務から一時的に解放することもできるようにもなっています。一時停止を行っている間の賃金やその他の補償の支払は、雇用主ではなく、軍事的侵略を行った国(ロシア)にゆだねられており、また、労働者が侵略国から補償を受けるためのプロセスが明確に示されているわけでもなく、労働者が不安定な状態に置かれる可能性が極めて高いものといえます。
加えて、この法律においては、雇用主に組合との労働協約を取り消す権利を与え、労働組合の権利を大幅に制限しています。
■組合の反応
この法案は、委員会での審議や国会議員による議論を経ずにウクライナ議会で採択されたものの、大統領による拒否権が発動される可能性は残っているとのことです。ある労働組合の広報担当者は、報復を恐れて公の場で法案を批判することは避けたものの、「労働組合の連合代表機関は、この法案に反対した」と回答しています。
■戦後への影響の懸念
また、ロシアのウクライナ侵攻の数カ月前にも、ウクライナ議会の社会政策委員会と経済省は、労働法を使用者に有利なように変更し、労働組合の権利を大幅に制限する、同様に過激な提案を行っています。そのため、この法案が一時的なものにとどまらず、労働法・労働組合法をより根本的に変革する基礎となることが懸念されています。
■まとめ
このようにウクライナにおいて、戦争に乗じて、労働者の権利を保護する規制が緩和されている状況は、労働者の権利保障の大前提として、平和があり、平和でなければ労働者の権利も切り崩されていく可能性があることを示すものであると考えられます。侵略行為に対抗し国を防衛する必要があることは、明らかですが、その手段として、労働者の権利を縮小させることが適切なのか、議論を行う必要があると考えます。
また、緊急事態に乗じて、本来不必要な労働者の権利の縮小が行われていないのか、労働者が団結して監視していくことも重要であると考えられます。
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