スペインの労働法制改革で有期労働契約の入り口規制

ユーロ圏で4番目の経済規模を有するスペインでは、失業率が14.1%、若年労働者では29.5%である(2021年11月現在)。2012年の大規模な労働法制改革以降、有期契約労働者の雇用の不安定(労働契約の約4分の1が有期であり、その割合は特に教育・ヘルスケア部門で高い)という構造的な問題が課題になってきた(https://socialeurope.eu/spains-labour-reform-less-temporary-work-more-balance)。
そんなスペインで2022年2月3日、労働法制改革法案が可決された。
改正により、有期労働契約締結の入り口規制が設けられた。臨時的な雇用が必要な場合(繁忙期の生産強化が必要である場合や、一時的に就労のできない労働者に代わり雇い入れを行う場合など)、及び研修を目的とする就労の場合、有期労働契約による労働者の雇用は認められる。
そして、これらの有期労働契約が反復継続して締結され濫用されることを防ぐため、直近24か月のうち、18か月以上同一使用者またはグループにおいて就労してきた労働者については、当該契約が無期労働契約であるとみなされる。
使用者が有期契約労働者を雇用後30日未満で雇い止めとした場合には、当該使用者の社会保険料負担が加算される。偽装的な有期労働契約の締結に対する罰金も増額された。
他方で、一時帰休支援制度等の整備により、使用者は経営難に陥った場面でより柔軟に労働力の調整をすることが可能とされた。
また今回の労働法制改革では、労働協約の効力にも及んだ。2012年改革により、労働協約が期間満了を迎えた場合、新たな労働協約が締結されない場合に、その効力を終期から1年をもって失われるとされた。これにより、労働協約締結交渉を長引かせて労働協約の効力をあえて失わせようとする使用者がいた。今回の改革では、労働協約はその終期にかかわらず、新たな労働協約が締結されるか従前のものが更新されるまで、従前の労働協約が効力を有し続けることとした。
今回の改正は、2012年の労働法制改革が労働市場の規制緩和を過度に進め、団体交渉や労働協約の効力を弱めたとの批判に現在の連立政権が応えたものであり、公労使の三者が全て賛同した大規模な労働法制改革としては30年以上ぶりであるという。
日本労働弁護団では、2016年に、非正規雇用の入り口規制などに関する立法提言を行った。そこでは、①休業又は欠勤する労働者に代替する労働者を雇い入れる場合、②業務の性質上、臨時的又は一時的な業務に対応するために、労働者を雇い入れる場合、③一定の期間内に完了することが予定されている事業に使用するために労働者を雇い入れる場合を除いて有期労働契約は認められるべきではないと提言している(https://roudou-bengodan.org/proposal/post_93/)。
労働法制が全く異なる日本とスペインではあるが、有期労働契約が雇用の不安定を招くという点では共通する。日本においても入り口規制導入の議論が盛り上がってもらいたいものである。

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