見えてくるスロットサッカー。充実した強いGK,DF,FWと足りないMF


課題と強みを再認識するプレシーズンマッチ

アメリカでのプレシーズンマッチ2戦はベティスに1‐0、アーセナルに2-1と最小点差をきっちりとものにする勝利が続いた。最後のユナイテッド戦では相手選手の質が低すぎたこともあって3-0。ベティス戦はボールを支配して内容的にも圧勝、アーセナル戦は若手をより多く使ったため支配される内容だったがジョタやサラーなど一部の質の差で勝ち切った。ユナイテッド戦はリヴァプールなら全員が控えメンバー確定で売却対象になるほど相手選手の質が低すぎたため、中身のない試合で圧勝。全てカオスだった前政権の稚拙なサッカーに比べれば格段に進歩してるが連携は未だ成熟しておらず攻撃面も守備面も課題は多い。また守備系MFの戦力が不足していることは一目瞭然である

若手陣の成長で層が厚くなる攻撃系ポジション、DF、GK

2003年生まれの黄金世代エリオットとクオンサーとブラッドリーの3選手は選手としての格がPL中位下位クラブを倒せる控え筆頭クラスにまで上がって計算できるレベルに成長した。エリオットは脳死突撃プレスが減り、視野が広がっている。元から攻撃時のポジショニングと左足のキックは優れており課題だった分野の成長は大きい。技術面で大きな進歩はないブラッドリーも上下動でのスタミナが付いてきた。クオンサーの先読み守備も一段ランクが上がり、この3選手はリヴァプールの未来を担っていくだろう。更に本職は守備的MFで昨季は4部で34試合に出場したらしいスティーブンソンが最低限の技術と走力を備えるRBとしてカップ戦で使えるレベルに成長。ただしRBが余っている今季も彼は2部か3部で試合に出られる環境を選ぶべき

主力レベルには達しないPL下位の格下級には2002年世代のカルヴァーリョとファンデンバーグとモートンとグラーフェンベルフの4選手と2001年世代のジョーンズとヤロシュと2004年世代のバイチェティッチで7名抱えている。昨季比で大きく成長したのはローンに出ていたカルヴァーリョとモートンとヤロシュ。バイチェティッチは主力レベルまであと1歩と迫ったが故障で2歩後退した印象だ

カルヴァーリョは守備面で常に1歩遅く何度か左サイドを突破される起点になった。クロップ時代から担当エリアのRBと距離を取りすぎた所から走ってプレスをかけ2歩3歩遅れて突破され続けていた。集中力の問題なのか、単に守備が下手なのか、チーム方針が失敗してるのか不明。ユナイテッド戦では守備をサボらず相手の質が低かったことで穴にはならなかった。ハマった時のボールタッチ、裏への抜け出しは抜群ながら、完成度は低いディバラ系の素材だ。レギュラーを取れるPL10-15位クラブにローンへ出したいと考えていたが、現地紙でクラブは今季のローンを封印し、完全移籍かチームに帯同の方針と報じている。スロットは自分の質を理解していて守備を最初に要求している、というインタビュー通りにユナイテッド戦で守備を修正したのはクロップ時代と比べて大きな進歩。エコーでは売却候補の1人と報じるが、今後に注目だ

ファンデンバーグはナットレベルだった昨季のプレシーズンの印象で今季も戦力化は厳しいと予想していたが、大きく成長してPL16位レベルなら十分に起用できるCBに成長していた。問題が起きてから足が動く致命的だった頭は標準的なレベルに改善している。加速と減速にも課題があり、足元の技術も低く左足のショートパスなど課題は多い。ただトップスピードは36㎞/h台と高く、身長の高さで空中戦も戦える。頭が改善されてきたのでハイラインでプレーできる最低のスペックはある。RBが最適なゴメスは彼より格上の選手だが、CBに限れば大差なくコナテやクオンサーと比較すれば明確に落ちる。コナテの稼働率を考えると4番手CBでも年2000分近くプレー出来るはずだが毎週試合に出たいというので退団の可能性もある。下手な選手を買うくらいなら彼を4番手に起用した方が良いと言えるレベルには到達した。攻撃的な選手とDFは期待値の高い選手が揃う一方MFは明らかに戦力が不足している

明らかに足りない2MF

ジョーンズは技術と決定力と走るスタミナはあるが、スピードと頭の回転と考え続ける頭の体力がない。大外をやるにはスピード不足、中央で戦うには頭脳面の問題があって強いチームでのプレーに向いてない。得点能力は高くPL下位クラブならエースアタッカーになれる素材だが、目標がリヴァプールに便利屋でも残留しチームの役に立つことらしい。便利屋を目指すには能力が偏りすぎて適正はない。選手の意向を無視し退団を迫るのはリヴァプールウェイではないが、早く追い出される日が来ることを筆者は期待している。3列目の適性はないに等しく、ゴール前に飛び込んで点を取る仕事が最適なFW系の選手。その仕事ではカルヴァーリョやエリオットの方が格上であり、走力と得点力を活かして弱いチームで活躍して欲しい。年7G5Aくらい出来る2列目の走れる選手は弱いチームならレギュラーを取れる(実際ガルナチョがその程度のレベルである)

グラーフェンベルフはジョーンズにトップスピードを加えて走力を落としたタイプで、彼もまた強いチームのMFには適して居ない。MFに必要な能力は頭脳、パス精度、ボール制御技術の3点セットである。ボールを扱う技術は遠藤よりも高いグラーフェンベルフだが、頭脳とパス精度が明らかに劣る。試合に90分集中してポジションを修正しながら味方のサポートに回り続けて最終ラインから前線にパスやボールを運ぶ環境を作るのがMFの仕事である。華麗なドリブルなど攻撃担当やFBに任せて周囲を使えれば必要ない。技術を過信し寄せられてボールロストやミスの多いパス精度、周りに気が遣えないオフザボール時の動きの質、どれをとってもプレミアレベルのMFに進化する未来が見えない。レナト・サンチェスのようにフランスなどの中堅クラブで活躍し、強豪クラブに行けば控え落ちするタイプにしか見えず早く売却して欲しい選手の筆頭候補だ。ポグバのように2列目で点に絡める訳でもなく、ボールに絡む回数が少ないくせに大量のロストを生み、パスで前にボールが運べない。MFとして何を評価すれば良いのか全く分からず、莫大なピンチの創出に貢献した彼すら褒めたスロットはクロップの後任に適している

モートンはMFに最も必要な頭脳、パス精度、ボール制御技術の3点セットを揃える一方で身体能力やドリブルは劣って対人守備能力も低く物足りない。現状の能力ではIHでもアンカーでも不安を抱える2センター専用機に近い。年3000分以上2年続けて稼働してる点は計算できるが、チームのシステムやペアを組む相手を選びそうだ。現地の報道を見ると適切なオファー(£20m超)があれば売却も検討するらしいが、グラーフェンベルフやジョーンズよりは既にMFしてる選手なので私は残留に期待している

バイチェティッチもベティス戦は良かったが中4日となったアーセナル戦やユナイテッド戦はミスも目立った。今季の前半戦は戦力として計算するには厳しそうだ。1年をかけてリハビリを完了させ来季からの本格稼働を目指すべきだろう。技術的には高い次元にあるが長期の離脱によって足元の感覚が日によって安定しない。加えて周囲と連動する守備は高いが、対人守備力が低い。そのためマクアリスターが攻撃参加した際の守備に不安が残り、彼のパートナーとして見ると遠藤やモートンに劣る。経験が必要なMFとして若い20歳、計算するのは再来年でも十分で今季は過度な期待をかけるべきでない

加入当初の遠藤は相手の仕掛けへの対人勝率が20%台と攻守で戦力外レベルだったが、最後の方はチームが機能不全に陥る日や酷い日を除いて50%近くまで改善した。中長距離のパス精度も高く裏抜けFWに正確なパスを通せる。彼はMFに必要なパス能力と頭脳を持つが、トラップ能力がPLのアンカーでもギリギリ、ダブルボランチはかなり厳しい。トラップの下手さをダイレクトパスで周りに責任転嫁できたヘンダーソンの技術が遠藤に備われば、十分に今季も戦力になる。勿論CL優勝を目指すレギュラーには相応しくないが期待通り控えMFに相応しい実力を発揮している。スタッツで見ても遠藤の優位は明らかでグラーフェンベルフとジョーンズを先に売却すべきと私は主張する

このようにFWとDFの選手は主力の次の層まで充実する一方、MFは厳しい。チアゴが出場できず遠藤と前のポジションで価値が上がるマクアリスターの2人しか戦力が居なかった昨季と比べればモートンとバイチェティッチだけ戦力は増えた。しかしアメリカでのプレシーズンを見る限り、ソボスライやジョーンズやグラーフェンベルフにMFの適性はない。補強は必須だ

また現MFの中で足元の技術が最も低い遠藤はプレスの狙い目になるため遠藤の立場はシステム次第では厳しい。3センターならば遠藤に1人がマンマークに付くとIHへのパスコースが開き、遠藤はマクアリスターの囮で機能すれば良かった。マクアリスターはパス精度も高いので遠藤は扱いやすいボールを捌けたため、彼と一緒に出れば遠藤の弱点は上手く隠せていた

だがダブルボランチの場合、中間ポジションから遠藤にパスが入ると分かる瞬間に相手が強いプレスをかけてくる。ここで狩られる場合など、ロストが多かった。パートナーがMFとしての頭が足りないジョーンズやソボスライがボールを貰う準備が出来ておらず慌てた時もミスが多かった。プレシーズンで遠藤が最も輝いたのはモートンやバイチェティッチと組んだ試合である。技術が不足気味の遠藤がダブルボランチでプレーする場合、知能と技術面が優れた選手が求められると如実に出ている。つまりマクアリスターが戻れば序列を上げる可能性を秘めるが、マクアリスターの起用位置が変わると現状の序列を受け入れざるを得ない

ダブルボランチのクオリティがプレミアリーグとチャンピオンズリーグ優勝が目標のチームとしては明らかに厳しい。ベティス戦は支配した試合で繋ぎのミスが何度も出て、アーセナル戦とマンチェスターユナイテッド戦は試合を支配できなかった。3試合を通じてピンチ数こそ少なかったが、支配率は低い方が強いリヴァプールから脱却したとは言い難い。押し込んで支配する試合で安定して勝ち続けるためには明らかにMFの質が劣っている。補強して現メンバーから入れ替える必要がある。野暮な話だがスロットのサッカーでチアゴとファビーニョが中央に陣取るサッカーを見たかったものだ…若手を除き全員を入れ替えるくらいのつもりでスカウトチームの仕事に期待したい

不動の4‐3‐3終了。可変システムの始まり

コロコロ変わる守備陣形

ベティスの4-1-3-2、アーセナルの可変システムに対して前半は2センターで戦った。10番を2枚配置し前4枚のプレス、中央に2枚のMFを固めるシステムは守備に安定をもたらした。昨季まで選手の質で守ってただけの守備は適切な距離を保った配置に代わって格段に安定感を増した。前プレスから中央にMFを寄せる設計では2MFの脇、両サイドにスペースが生まれる。ベティスのMFもサイドに開きスペースにボールを呼んだがブラッドリーとツィミカスは冷静に適切なタイミングで距離を詰めていた

サラーとカルヴァーリョの守備が下手でサイドのはめ込み方が不十分だったため、FBが数的不利を作られて潰しきれないシーンが何度も見られたように守備面での完成度も完成には程遠い。ただ昨季に比べ選手の距離感は明らかに改善されている点はポジティブと言えるだろう。また選手によっては進歩が見られている点もポジティブと言えるだろう。昨季までは前に突撃以外の選択肢がなく、選手の体と心のコンディションに依存していたのだから

例えばカルヴァーリョは4-3-3プレスの場面で出遅れて4-4-2っぽい状況から前に出ては突破されるのをベティスとアーセナルを相手に繰り返していた。ところがユナイテッド戦はサラーとジョタのラインを合わせての4-3-3守備、4-2-3-1で真ん中のエリオットと連動して前に進ませないことを優先した守備で最初の2戦に比べれば安定したように見えた。単にワンビサカとカゼミロがアーセナルやベティスの選手に比べて下手すぎた部分もあるとは思うが、選手側の進歩もありそうだ。アーセナル戦後のインタビューでもスロットはまず守備の要求をするとカルヴァーリョが明らかにしている。具体的に要求を伝えて選手が改善するというプロセスはクロップ時代にはなかった事だ。どんな相手に対しても同じサッカーで戦った前任の脳死した硬直的で退屈なサッカーは終わりを告げそうだ

アーセナル戦の後半では相手が大きくシステムを変えた訳ではない中で4-3-3へとシステムを変更して戦った。これは遠藤のダブルボランチが厳しかったベティス戦の反省を受け起用する選手を起因としてシステムを変えたのか、前半の問題に対処するためにシステムを変更したのか、現時点では不明だ

マンチェスターユナイテッド戦も4-3-3と4-2-4と4-2-3-1と微妙な変化があり様々な守備の方法を導入していきそうだ。プレシーズン中は手の内を隠している可能性もあるため、シーズン開幕後に改めて考察したい

明快な攻撃スタイル

守備のアルゴリズムは複雑そうだが攻撃のアルゴリズムはシンプルだった。攻撃時の設計も昨季と変わりMF2枚を中央に配置して組み立てるサッカーを目指していることは明白だ。ベティス戦後に「純粋なCFが居なかったため、10番を2人置いた。CFが戻ればCFを置く」とスロットが言っていたように、ベティス戦は参考外とする

ジョタが復帰するとCFに入ってソボスライがMFに降りてエリオットを10番で起用した。ビルドアップ時に片側のFBがポジションを上げDF3枚、中央2枚で繋ぐ構造はフェイエノールトの時から変わっていない。フェイエノールト時代にはヘールトロイダが偽FBで3列目に加わったり前線へ駆け上がったりキーマンとなったが、純粋なFBのブラッドリーとツィミカスには偽FBを導入しなかった。この柔軟性は前任になかった動きであり、リヴァプールファンの期待値を上げるには十分である。無能な指揮官は自分の形に固執するが、有能な指揮官は選手の個性に合わせて戦術を組む

練習でも中央組は2-2-2で2トップが縦と横を自由に動きMFと三角形を作って突破する設計で練習を繰り返していた事から推測するに組立時はMFに2枚を置いて設計する志向は強そうだ。またFBがインナーラップとオーバーラップを繰り返してサイドに張るFWを追い越し、クロスを上げて逆サイドのFWにシュートを打たせる設計も練習とプレシーズンマッチで繰り返し見られる。中央のタレントと連携不足は感じるものの、チームとしての狙いはハッキリしている。サイド攻撃は既にある程度は形になっており、選手任せでなにもルールがなかった悪夢のリンダース時代が終わったことを感じさせてくれた

アーノルドをいかに使うのか

スロットのサッカーは今の戦力で評価すれば期待値が上がっている。ただし最大の問題はアーノルドを何処で使うのか、だ。アーノルドの使い方次第でチーム全体のバランスが大きく壊れてクロップ時代より悪化する可能性すら秘めている

ここでも書いたがアーノルドは守備的MFではない。彼の才能は守備的MFに適性がなく、ベッカム型の選手でデブライネになれる可能性を秘めた素材。イングランド代表のMF起用が失敗したのは彼の能力を考えれば当然の事だ。私はRBのレギュラーには1000分2アシスト程のペースで裏に速く中に絞れるゴメス、控えにブラッドリーを推すが、アーノルドの偽FBを導入するのか。はたまた3列目での起用になるのか、はたまた私が推す右サイドの2列目起用になるのか、それともエリオット役の10番の位置になるのか。注目である

選手の獲得は?

8月5日まで誰も獲得していないチームに懸念を感じるファンも居るだろう。私もプレシーズンツアーが始まるまではその1人だった。今夏の課題はまず守備的MFの質と量、次に監督、3番目にマティプの穴、4番目にFW陣の質がフロント3時代から下がっている事にあった。監督は期待できるスロットに代わったが、他の部分は手つかずで選手を獲得するための売却もなかった。特に明らかな戦力外選手の売却が進まない点に苛立ちが大きかった

だがプレシーズンを見れば主力CBの穴はクオンサーの成長、4番手CBの穴はファンデンバーグの成長で埋まりそうだ。監督のスロットはクロップよりも遥かに完成度の高いサッカーを僅か1か月で達成した。FWは圧倒的な強みを失っただけで普通の強豪チームレベルと大きな問題を抱えていない。つまり本当に問題と言えるのは守備的MFの質だけとなった

アメリカ遠征が終わり、遠征メンバーの序列はついた。アリソン、ダイク、ゴメス、アーノルド、ディアス、ヌニェス、ガクポが合流して選手と最後の面談がスタートする。ピッチ上での役割、チーム内の序列と予想される出場機会が選手に伝えられ、納得できない選手が移籍先を探す。戦力として計算してる選手が移籍を希望すれば補強は進むだろう

現時点で必須なのは守備的MFだけである。もちろん主力が退団すれば代役の補強が必要だが、退団が噂されたケレハー、ツィミカスも残留する可能性が出始めた。リヴァプールは昨季カイセドに£111mを提示したように必要なら巨額の金を提示して動くが、昨季のカイセドのようにリヴァプールの狙った選手が移籍を希望するかが鍵となる。スロットのサッカーに合いそうもないウガルテや他の微妙な選手のために動く必要がないので動かない。守備的MFの補強は最悪でも冬には行われることになるだろう。狙っているのは恐らくウォートンだと私は予想する

オーンスタインは守備的MFをプレミアリーグ外から探していると書いてるがスカウトチームはPL実績がない選手に£50m払うくらいならPLで実績のあるウォートンに£80m払うと私は予想する。ただどの媒体でも守備的MFの補強を優先してると報じられるのはエドワーズの帰還を改めて認識させられた。リヴァプールはクロップ後も問題なく運用していけそうである

※今季に狙ってると噂のFWはゴールとアシストを稼ぐサラー系のゴードン。去年のヌニェスやガクポよりは良い選手だが、特別な選手の次元ではない。右サイドの選手はサラー以外にもアーノルドやソボスライを抱えているため彼等を右サイド起用すればサラーの後釜は左サイドの選手でも問題はない。ゴードンはまだ若く足が速いため去年から更に少しの進歩があればサラーの後釜候補になるのは理解できるが、今年の出来を見て来年に取りたい選手と評しておこう

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