2024年までは立浪監督を信じよう!-2024年の中日ドラゴンズに注目せよ②/④-

なぜ中日打線はここまで弱いの?

中日打線の得点力が12球団で最低な理由はドラフトが失敗していたからである。中日ドラゴンズの野手育成能力は上手ではなく下手な部類に入るかもしれないが、致命的な問題を抱えているわけではない。今季は岡林が成長したように問題は育成ではなくドラフトにある

ドラゴンズの野手が最下位レベルな理由は下の2点によるものだった
①野手の上位指名が不足していた
②スカウトの見る目がない

①野手の上位指名が不足していた

07年のドラフトは高校生ドラフトと大卒・社会人ドラフトが分離されており1位2位3位指名を分類できなかったので08年~20年までのドラフト指名をまとめると下記の通りだ

2008年から2020年のドラフト13年間で指名した野手と投手の比率。大谷を指名したファイターズだけ合計が40となっている

ドラゴンズはこの間の野手上位指名が僅かに6人である。これは強打者が揃っていたライオンズの5人に次ぐ少なさで投手が常に足りないヤクルトと同じ指名数である

黄金期を迎えていた04年から11年のドラゴンズだったが、落合監督の解任時には主力野手が高齢化していた。捕手の谷繁は41、二塁手の荒木は34、三塁手の森野は33、遊撃手の井端は36、左翼手の和田は39だった。中堅手の大島は26、右翼手の平田は23と世代交代が始まっていたが、内野手は絶望的な状況にあり、打てる二遊間と強打者の指名は必須だった

投手陣も川上憲伸とチェンのメジャー移籍、山本昌が46歳と流石に限界が近い事もあり不足していたのは間違いない。だが2007年から2020年の14年間のドラフト1位2位で28人中22人も投手を指名していたのに投手陣を整備できなかったのが失敗だった

その中で主力に育ったのは大野と又吉と小笠原と柳と高橋宏の僅か5人。脇役として貢献してくれたのも福谷と岡田くらい。あとは1シーズンだけ10勝する活躍を見せたが、通算17勝15敗で終わった山内、西武放出後に少し活躍した小川くらいである

故障がなければ期待できた梅津、空振りを取れる球を手に入れたら化けそうな鈴木博や良い中継ぎになりそうな森と最近になって改善傾向にあるが、2007~2019年のドラフトは酷すぎた。彼らを除外してもA・Bランクが5人、Cランクの選手が4人。残りの10人は大外れだった

赤坂はドラフト1位に選ばれた長所すら分からないまま打者転向し、野村と浜田智と佐藤の即戦力ドラフト()は大失敗だった。故障で良かった頃の面影もなかった浜田達郎、橋本の様にノーコン左腕の上位指名も伝統芸だが、伝統芸の中でも最悪なのが長身で伸びのある速球を投げ込む高校生右腕の上位指名である。このドラフト方針がドラゴンズの凋落を決めたと私は思っている

2008年~2017年の10年間で伊藤準規と西川と鈴木翔と石川翔を指名して全員が失敗した。彼らはみな素晴らしい伸びのあるストレートを投げた。高めのストレートで空振りを取れる綺麗な真っすぐは金を払って見たいと思わせるものはあった。だがプロの世界は真っすぐで空振りが取れても意味がない

勝てる投手になるためにはストレートと変化球でカウントを整える力を持ち空振りの取れる球の3つが必要になる。彼らには空振りの取れる真っすぐはあったが、カウントを整えるための真っすぐも相手のタイミングを外してカウントを稼ぐ変化球も存在しなかった。だから彼らは空振りの取れるストレートを見送られると何もできず高い四球率を改善していく中で武器のストレートも失っていった

彼らは華がある選手たちだったが勝てる選手ではなくプロの高い壁に跳ね返され続けても構わず指名を続けていた。ギャンブル中毒者みたいなものである。中里が故障して叶えられなかった夢を追い続けていた人間が居たようだ。外から見ていては分からないがその人間こそがドラゴンズを弱くした張本人である

100勝する投手や1000本安打以上を打つ選手の大半はドラフト上位指名なのである。直近30人のドラフト指名で入った100勝投手のうち、1位と2位(自由枠や逆指名時代は2位でも1位相当の力があったり、杉内のようにホークス以外拒否という手段で2位指名された選手もいるので同等扱いとした)の選手が23人、3位が3人、4位以下は山本昌、下柳、岩隈、三浦の4人しか居ない

守備専門の選手でも長くやれば到達可能な1000本安打では少し話が変わる。それでもドラフト指名で入った1000本安打野手の直近100人でドラフト1位2位が48人、3位が19人、4位が13人、5位が9人、6位以下は11人だった。このように日本のプロ野球はドラフトゲーであり、上位指名で当たり選手を引く事が重要なゲームである

活躍する投手は大卒や社会人なら1年目から活躍するし、高卒でも2~4年目には頭角を現す。打者の場合も同様で大卒なら2年目、高卒なら3年目くらいから頭角を現してくる。上位指名で一芸選手を指名してギャンブルを行うのは非常に愚かな判断である。上位指名は高卒、大卒、社会人卒に囚われる事なく3年以内に1軍の戦力となりうる本物の選手を狙わなければならない

2007~2020年の13年間でドラゴンズが1位で指名した野手は野本、高橋周平、根尾、石川の4人で2位は京田と吉川だけである。その中でも根尾は大きく成長を遂げた4年目の今季も1軍に定着できず投手転向した。実質的な野手の上位指名は5人で山賊打線と恐れられた西武と同じほどに指名が少なかったのである。3位で指名した選手は9人と多かったが、これもまた次の問題をハッキリさせるだけである…

②スカウトの見る目がない

指名が少なかっただけでなく、上位指名の選球眼も酷いといってよいだろう。上位指名の野手からチームを代表する主力に育った野手は誰もいない。5位指名から大島と岡林が主力に育ち、阿部が脇役に育った。だが、3位までの上位指名を受けた野手成績のまとめが次表である
(2軍OPSデータは下記サイトより1軍成績はNPB公式より作成)

京田は1軍成績。高松1年目は故障で2打席で0だったので2年目を掲載。黄色網掛けは高卒

ちなみに下記のサイトによれば高卒1年目のOPSが.600未満だった高卒野手から大きく育った選手は最近だと浅村ぐらいと成功例が少なく、OPSが.800を超える野手の場合は故障した選手を除いて活躍しているとのことだ。またOPS.700を超える選手も活躍する可能性が高いという調査結果を出している。つまり活躍する選手は大体1年目から2軍では結果を出す

2008年から3位より上の順位で指名した高卒野手は7人。もう少しさかのぼって平田と福田と堂上を含めてもOPS.700を超えた高卒は石川と平田だけ。.650を超えたのも高橋周平と土田だけ。残りの6割は活躍が難しいとされているOPS.600未満の野手だった

OPS.700を超えていた平田は故障や病気で成績が安定しなかったものの、最高OPS.800を超えて通算OPS.764とそこそこの打者に育った。0.650を超えた高橋周平もキャリアハイのOPSは.794。彼は故障によって素晴らしい素質を開花できなかったし、育成も失敗だったといえる

石川はまだ若く将来は分からないが、若くして故障に悩まされている。このままでは高橋同様にレギュラーとして主力選手にならない可能性もあるが2022年にシーズン完走すれば20本塁打ペースと才能の片鱗も見せている

土田は高卒2年目で二遊間の選手としては坂本には及ばないが素晴らしい成績を残している。身体が細いので何処までここから飛距離を伸ばせるか次第だが、OPS.700を超える名ショートになる可能性を秘めている

1年目は故障によって僅か9打席で1本もヒットを打てず2年目もOPSが.563だった福田も1軍で18HRを放つまでに成長した。彼と同期でプロで活躍するのは不可能だと思われた堂上も単年だがシーズン完走してOPS.660も打った

大卒・社会人でも1年目から2軍で数字を残した木下は正捕手になり12球団でも上位の打てる捕手である。1年目から2軍で及第点の成績を残したのに1軍で活躍できなかったのは中田と野本だけだ。野本は守備がゴールデングラブレベルにあれば使われただろうし、中田は失投を打つ2軍の帝王で1軍では全く通用しなかったので仕方がない

その他は大卒なのに高卒選手と大差ない成績しか残せていない。こういった選手を育成で何とかできると思うのは勝手だが、活躍する殆どの選手は1年目から2軍で結果を残し、2~4年目には1軍のレベルに慣れて結果を残すのだ

例えば村上は1年目から2軍ではOPS.879を記録して2年目に36HRも打った。山田はOPS.662だったがストレートにはめっぽう強く変化球に慣れた2年目から打ち始めている。大卒でいえば青木は1年目から2軍で打率や出塁率などのタイトルを独占して2年目には1軍で活躍した。塩見も2軍OPSは1年目から1.011で3年目に開花した

当たれば飛ぶ選手が愚直に取り組み打てるパターンを増やしたラオウ杉本、堂林などのケースも存在する。だが彼らも1軍で打てないものの2軍では良い打撃成績を残していた

浅村のように2軍でも打てなかった選手が突然変異的に育成に成功するパターンを期待するのは再現性がなくあまり賢い判断とは思えない。野手育成能力はライオンズが突出しているが、他の球団は同じようなものである。どのチームも1年目から2軍では活躍できる良い選手が入ってきて、ケガなく成長すれば活躍する

2021年の野手中心ドラフトも1年目の成績は今ひとつ。鵜飼と中村コーチの指導でシーズン終盤から劇的に数字が改善した福元には期待がかかる

中日ドラゴンズの育成能力は平均的に悪い

1年目の1軍OPSが.638だった大島、2軍で.679と好成績を残した岡林のように最初からいい素材はタイトルを取るレベルに成長した。上の事例を見てもらえば分かると思うが、ドラゴンズの育成能力は決して高くないが低くもない。問題は1年目から結果を残せる有望株を取るために上位で野手を指名する努力を怠っていた事、ノーコンな伸びのある高卒ロマン派の右腕育成に失敗し続けた事である

この打撃フォームでこのコースどうやって打つのか、どう成長させても通算OPS.630の荒木(内野安打を削るとOPS.600行くか怪しい)レベルが精一杯、という選手の指名が多すぎたのがいけないのだ。堂上、溝脇、伊藤、数え上げればきりがない。私が見る限り彼らは真面目に努力して入団後に見た実力通りに成長したが、ドラフト下位での指名に相応しいOPS.600レベルにしかなっていない

高橋や平田など期待通りの数字を複数年に渡って残すことができなかった点も問題ではある。この原因は残念ながら外部の人間である私には判別できない。名古屋のタニマチが問題説、ドラフトで指名される選手のレベルが低くて主力野手が休めず故障に繋がった説、主力野手の慢心に繋がった説…こうした結論が出ない悪者探しには興味がない

しかしドラゴンズは上位指名で莫大な数の投手を指名し、彼らを戦力化できなかった為に野手の上位指名が不足していた事は紛れもない事実だ。そして上位で指名する選手より5位で指名する選手の方が良い結果を出しており、戦力を3人も輩出している。スカウトが全て無能な訳ではなく、上位指名を決めるお偉いさんに選手を見る目がなかったのだ。(アマのスカウト部長だった人の権限が減った最近から指名は良化傾向)上位指名の投手も野手も外す事が多いからドラゴンズの打線は弱いのだ

これまで見てきた通り、打力を決めるのは①プロで活躍する可能性を持った選手の才能を引き出す名コーチが居るか。②ドラフトで指名する選手がプロで活躍できる可能性を持っているかの2点で決まる。そのため立浪監督は①,②ともに大改革を行った

打つ方はなんとかします(現状の戦力で何とかするとは言っていない)

殆どのトップ野手はプロ入り後2〜4年で結果を出している。にも関わらず野手を育成できるという信仰を信じていたり、打撃コーチ指導するコーチが選手の能力を奪っていると過度に叩く人の思想が私には理解できない

結果を出せる1流選手は身の丈を超えた成績を望まない限りコーチの指導の餌食になる事は少ない。一流選手を壊すのは体の限界を超えて起用する監督だ。殆どの場合において結果を出せないからコーチが指導という介入を行うのである。この介入によって選手が伸びる事も成績を下げる事もあるのは事実だ。だがコーチが選手の良さを壊すパターンは大体下のパターンである

①2軍でも通用しない→②コーチにあれこれ口を出される→③様々な指導法に手を出す→④長所すらも失う→①に戻る

もちろん京田を潰したのは立浪監督の責任も大きいと書いたように一流半の選手を監督やコーチが勝手に期待して一時的に成績を引き下げる事はある。だが、一流半の選手がレギュラーでは勝てないのである。故に一流半の選手が一流を目指さないなら容赦なく選手を切り替えていこうという方針を立浪監督は打ち出した

立浪監督を信じるべき理由①超豪華な打撃コーチ陣を編成

プロで活躍できるだけの基礎がしっかりした選手をドラフトで指名する事が出来ても、打撃コーチにいじられて成績を落とされては台無しである。だが中西太や土井正博といったレジェンド級に打撃コーチの才能ありそうな中村紀洋と和田一浩の名球会コンビコーチを就任させた。こんな豪華なコーチ陣を揃えられる監督は立浪監督を含めてごくごく僅かだろう

そのスーパー打撃コーチ達が指導しても才能がない選手の数字を引き上げる事は出来ない。投手が投げる変化球を見極める動体視力がなければ、どれだけ筋肉を鍛えて完璧なスイングをしてもバットにボールを当てる事すら出来ない。また努力して食事を摂っても胃が負けて身体を大きく出来ない選手もいる。トップコーチに出来るのは才能がある選手の力を引き出す事だけだ

合わない指導を押し付けられて一時的に成績を下げる事はあるが打撃コーチによって成績が大きくプラスに働く事は少ない。立浪監督は指導癖を揶揄されたり糾弾される事も多いが、私が聞く限りでは誰にでも当てはまる基本を押し付けているだけにしか見えない

割れと間は全ての選手に有効な理論で基礎の大事さをクドイくらいに繰り返しているだけだ。また中村紀洋のコーチの指導を合わないと切り捨てた石川に教えるな、と押し付けるだけでなく選手の感覚も守っている。監督または有能コーチの指導を自分に合う形で取り入れる事が出来れば年間の数字を落とす事があってもキャリアを通じた数字は上がるはずだ

加えて短期的な成績を左右するのは運の要素の方が大きい。ラッキーな安打が50打席に3本あれば実力が打率2割2分の選手も打率は2割8分になり、逆に2割5分の実力でも同じくらい運がなければ2割2分になるのだから単年の成績で過度に思い悩むのは時間の無駄である。選手には成績が多少落ちても動じずに監督を信じて基礎を身に着ける事を目指して欲しい

立浪監督を信じるべき理由②ドラフト方針の変更

プロで活躍できる選手の大半が1年目から2軍では結果を出し、徐々に出来ることを増やして5年以内に活躍している。これはプロで活躍するための素地を持っている一部の選手しかプロで活躍する可能性は低いという事だ

したがってドラフトで指名した選手が悪い素材ならば、本格化する可能性は殆どないという事である。立浪監督には岡林のように優れた選手は見逃さず抜擢したように選手の力を見抜く力があるので、ドラフトで指名する選手も自分で査定する事にした

立浪監督が介入したお陰か不明だが、2軍でも通用しない高校生を上位で指名していた例年に比べて、どう見てもプロで通用しないと思う選手の指名が今年は少なかったように私は感じている。癖が少ないスイングでタイミングの取り方が上手いBランク即戦力を上手く揃えたように思える。村松は1年目からOPS.640前後を打ち、生涯OPS.750を目標にできる選手だろう。福永は1年目からOPS.680を目指せる選手だと思うし、濱も1年目にはOPS.620ぐらい打ち、将来に化ける可能性を持った選手に思えた

OPS.800を超えるAランクとなり得る長距離砲を指名しない事を非難する人も居たが、長距離砲も内藤の獲得を目指したように獲得は目指していた。ただ4年後に主砲となる可能性をもった高校生より2年後にチームを支える可能性が高い村松を優先しただけである

もっと育成指名を活用して大砲候補を獲得するべきだという声もあるが、プロ1年目から2軍で通用しないレベルの選手が化ける事を期待して育成で乱獲する事に私は反対だ。高いレベルを見せる事で逆算して野球に取り組み活躍する選手が出る確率よりも、基本が出来ていないのにプロのレベルの高さに焦って基礎に取り組む余裕をなくしたり、プロのレベルの高さに心を折られてしまう可能性の方が高いと私は考えるためである

ちなみに大卒の場合でも新人から活躍する選手は少なく2年目から結果を出す選手が多い。よって今年に指名した選手が2年目を終える2024年までは立浪監督の仰った「打つ方は何とかします」という言葉を信じて欲しい。2年後も好転する兆しすら見えないならば幾らでも叩けば良い。今は立浪監督の打撃改善を判断するには早すぎるのだ

立浪さんになってドラフトの指名方針を大きく変えてコーチ陣もレジェンドを揃えたため、ドラゴンズには強くなる期待が私の中では芽生え始めた。どうか2024年の中日ドラゴンズに注目してほしい

P.S.完全に余談だが投手は育成できる、というよりも運が良いとプロ入り後にメチャクチャ化ける。身体が大きくなって球が速くなってフォークを覚えて日本代表に選ばれた育成出身の投手も居れば、クビ寸前から遊びで身に着けたスクリューを武器に50歳まで投げた投手も居る

カウント球と空振りを奪うプロで稼げる球を見つけられれば勝てる投手になる。盗塁王以外にタイトルを取れていない育成出身の野手に対して、投手は千賀や山口などが育成から日本代表に選ばれるレベルにまで成長している。100勝するエースを育てるのは非常に困難だが、2〜5年活躍する選手は下位指名でも獲得できる。そのため1位か2位でエース候補を獲得し、エース候補以外は野手を上位で指名した方が私は良いと考える

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