監督解任報道の度に思うこと

私も監督の決定に対して文句が多い人間なので人のことを言えた立場ではないのですが、サッカーの世界では上手くいかないことがほぼ監督に向けられることになります。日本では多くの場合でそういった場合に議論となるのは戦術と選手起用に関しての話になります

しかしながら不確実性が高すぎるサッカーでは戦術なんてそんなに機能しないと思ってる人間からすると日本のサッカーファンの戦術信仰がとても気になります

例えばリヴァプールが5-0で破った試合で前線からの積極的なプレスを破られて数的不利に陥り、なす術もなくユナイテッドは失点しました。しかしながらプレスが失敗して数的不利の中で最終ラインが守備をするのはリヴァプールだと当たり前の光景です。相手の技術レベルが高かったり、中盤の選手の守備能力が低いメンバーで戦う時にはプレスでミスを誘発できず最終ラインとアリソンの個で誤魔化しているだけの試合は相当数あります

しかしながらクロップブランドがあるリヴァプールでそれを問題にする声よりも無視する声の方がなぜか圧倒的に多いです。もしくは上手くいってる時のメリットの方が上手くいかなかった時のデメリットを上回るので戦術が悪いというよりも、どんな戦術にもある穴の話だから仕方がないと捉える声が問題提起をする声を圧倒します

私もフォアチェック重視のギャンブルプレッシングが気にはなる場面もあるものの、上手くいかなくて数的不利に陥ってもロボやダイクやマティプが数的不利を止めるしディレイしてる間にヘンダーソンが戻ってくるし、最悪それすら機能しなくてもアリソンが止めてくれるので主力選手が揃っている試合ならば、シティやチェルシーやバイエルンやレアルクラスのチームが相手じゃなければ問題ないと諦めたタイプの人間です。理想をいえば自軍のコンディションと相手のレベルに合わせてプレスではなくリトリートで撤退する守備も身につけてほしいと思っています。しかしながら上手くいかない場面が多々あったとしても上手くいく場面もあるしクロップに柔軟性を求めるのは無理だし戦術とは何かを得るために何かを失うものだから仕方ないと受け入れてしまった人間に分類されるでしょう

クロップ監督が落とし込んだリヴァプールのプレスは多くの時間で機能的ではありますが、ユナイテッド戦でも2−0となった後は全く機能せずにシュートを浴びまくった時間帯もありました。この試合に限った話ではありませんが90分戦術がずっと上手くいくことなんて殆どないのです

したがって私は「戦術」なんてものよりもトラップとパスとシュートとタックルの技術だったりスプリント回数や走行距離や最高速度といったフィジカルなど選手の能力の方が大事だと考えます。監督は相手の戦い方に応じた完璧な戦術を授ける人間じゃなくても、選手の能力に合った役割を与えて全体として役割の調整をする事ができれば問題ないと考えています。むしろ監督の仕事で戦術などは最後の決め手でしかなく、戦術よりも圧倒的に大事で優先されるべきことがあると私は考えます。それは下記の3点です

①素材が悪い選手、能力の低い選手をファンの声を無視して取り除ける

②①で放出したポジションの良い選手を連れて来れる

③良い素材はきちんと残して育て上げられる

クロップが監督になってからブレンダン・ロジャーズ時代から戦術的に進歩したわけではありません。むしろ前任の監督の方が相手の戦い方に合わせたフォーメーションで対策をしっかり練って戦っていました。しかしどんな相手が来ようとも同じ4−3−3という戦い方で殴りかかる今のクロップ監督の方が、戦術的に優れていたと思われる過去のロジャーズ時代のリヴァプールよりも圧倒的に強いのです

なぜ戦術が以前と比べてレベルアップしていないのにリヴァプールは強くなったのでしょう。リヴァプールが強くなった原因は99.99%選手の質がクロップの就任以降で圧倒的な改善をしたからです。クロップの戦術には不満も多いですが、選手の見極めについてはブレンダン・ロジャーズと比べて天と地ほどの差があり100%私は満足しています。またファンダイクやマネといった主力選手をCL出場が約束されているクラブやCL優勝を目指すクラブとの争奪戦でCL権を争うレベルだったリヴァプールに呼び寄せる事に成功したのはクロップの人柄と実績であり、この点に感謝していないリヴァプールファンは存在しないといえるでしょう

アーノルドやゴメスなど才能を感じる選手は若手でも積極的に起用し、彼らがミスをして勝点を落としても判定が悪いだの日程が悪いだの運がなかっただの苦しすぎる言い訳をします。1シーズン目には選手を批判する事もありましたが、いつからかクロップは外側から見ると酷く的外れな弁明で選手を守り始めました。その傾向は今も続いており、選手は彼の擁護に応えようと奮起したのかはわかりませんが、一部の若手選手は驚異的な成長を遂げ始めました

一方で基準に達していない選手に対しては非常に冷酷な対応をしました。バロテッリやサコーのように能力が足りない上に素行が悪い選手は徹底して無料で給与を負担してでも放出したり、ベンチ外にするなどあっさり干すことを厭いません。ロバートソンが試合中に問題行動を何度か起こそうとも、高いプロ意識をもって練習に取り組む能力が高い選手は一切問題にならないのとは対照的に、能力が低く普段の行いが悪い選手はあっさり切られます

またCBが崩壊した昨季後半のリヴァプールで出場し続けCBで昨季1番試合に出たフィリップスはレベルの高いCBが復帰した今季は殆どの試合に使わなかったり、カバクの買取を見送ったように素行が素晴らしくても能力が基準に達していない選手にも一切の容赦がありません。能力があったとしてもベンテケやシャキリのような自分のサッカーに合わず出番が見込めない選手はあっさりと売り捌いてコストを削減していきます。殆ど故障しなかったのでMFの中ではもっとも多い試合に出続けたワイナルドゥムも、能力に見合わない待遇を要求したらチャンと同様にあっさりと放出です。それでも退団した選手は前任者が酷い扱いをして関係が拗れて退団以外の選択肢が残されていなかったルイス・アルベルト以外は放出先でも移籍金とほぼ相応の活躍しかしていません。驚異的な目利きの精度といえます

そしてリヴァプールのレベルに相応しくない実力の選手を放出した代役には予算を限界まで使ってマティプやマネやサラーやロバートソンやファビーニョやダイクやアリソンといった素晴らしい選手を獲得してきました。彼らはリヴァプールで育った部分もありますが、加入1年目の早い段階から彼らは十分に優れた選手でした。入団してきた時点で今のユナイテッドのブルーノ・フェルナンデスやデヘア、良い時のポグバと同じかそれに準ずるレベルを備えた選手だったのです

私がリヴァプールが強くなると確信したのはクロップを招聘した瞬間ではなく、1年目でヨーロッパリーグの決勝に行った時でもありませんでした。強くなる確信を抱いたのは起用を続けても全く成長が見られなかったアイヴをあっさりと放出してクラヴァンを買ってきた瞬間でした。アイヴはスターリングの後継者になれると一部のファンからは評価をされていた選手で、若手の無限の可能性という虚構が大好きなファンも多いため売却当時には色々と批判も出ました。しかし私の目にはどう見てもプレミア下位レベルでプレーするのが精一杯のタレントで、£15mという当時の売却金額は詐欺に近い素晴らしい取引だと思えました

一方でクラヴァンは高さとスピードがない選手ですが、守備はプレミアリーグでプレーするには十分なレベルを兼ね備えたトラップとドリブルとパスが上手い選手でした。30過ぎのエストニア代表というファンを喜ばせるという視点を完全に無視してチームに必要だったCBの控え選手を£4~5m程度で買ったのは大革命でした。今までは年齢が若くて将来の「伸びしろ」という何の役にも立たないものをありがたがって高いお金を払ってマルコヴィッチなどの大失敗を繰り返していたのに、目の前の能力と素行の2点だけが重視される方針に急転換されることになったのです。この瞬間に私はリヴァプールが強くなることを確信して試合を全試合見る生活に戻りました

クラヴァンの獲得はトップレベルの相手には引いて守ってカウンターをするという弱者のサッカーではなく、後ろからしっかり繋いでボールを保持しつつプレスでショートカウンターを狙うというビジョンを示しました。チャンを3バックの右で使うなど選手のベストなポジションを上手く掛け合わせて誤魔化すばかりで、選手をどう成長させて1年後2年後にどの場所で力を発揮してもらうのか長期的なビジョンが曖昧だった前任者から180度方針を変わったのです。クロップは当時の主力選手が力を発揮できる前プレッシングの4-3-3に固定し、この戦い方に合った選手を獲得する方針に変えたのです。この瞬間からリヴァプールは毎年夏の移籍市場が開くたびに劇的に強くなり始めました

私はロジャーズ擁護派というより「スアレスとスタリッジという2枚看板以外のレベルが低い当時の戦力ではトップ4すら夢のまた夢でどうしようもない」と思ってた諦めていた人間ですが、ベンテケの獲得で完全に懐疑派へ転じクロップ就任の可能性があるという報道を聞いた瞬間に100%解任派と転じました。ベンテケは弱者のサッカーをするには適任の選手ですが、それでは当時強かったレアルマドリーどころかマンチェスター・シティやチェルシーのレベルにも永遠に到達できません

最近解任されたスールシャールはどうでしょうか。私は彼を名将だとは全く思いません。しかしながらブルースと同様にそこまで無能な監督とは思いません。上位3%や下位3%のどちらにも属さない平均的な70%弱のやや下側に分類される普通のありふれた監督だと思っています

もちろんリヴァプールやマンチェスターシティやチェルシーやバイエルンやPSGやレアルマドリーといった世界6強に近づいて戦っていく上でスールシャールでは能力不足なのは疑いもない事実でしょう。またラッシュフォードやグリーンウッドなどファンじゃない外の目線で見ても優秀だと思う若手選手が順調に成長した今となってはスールシャールの役割は終わったのかもしれません

しかしながら問題は彼を解任した先に上位数パーセントの監督を雇えるかが問題です。世界トップクラスの攻撃の形を作れる監督はグアルディオラとトゥヘルやフリックしか私は知りませんし、貧弱なタレントでも堅い守備を構築できるコンテもスパーズの監督に決まりました。少ない予算で勝ってきたクロップやシメオネは引き抜けそうにありません。スーパースターをまとめ上げるカリスマ監督としてはジダンが居ますが、彼も今のユナイテッドの戦力で勝たせることはできないでしょう

無策無策といわれるスールシャールですが、クロップだって攻撃は基本的に選手の閃き任せで無策です。昨季までは守備を重視していたのでドン引きチーム相手にも下手なワイナルドゥムを起用し続けていたので守備的なチームを相手にした時は全く攻撃の形が作れていませんでした。勝点90以上を積み上げた2シーズンは驚異的な勝負強さと最終ラインと前線の個の力で苦労しながら勝ち取ったものでした

クロップの良さは編成能力の高さにあるので彼がユナイテッドの監督になったとしても今年の戦力では4位以上になれないでしょうし、リスクの高い前線からのプレスを仕掛ける監督なので5位以下に沈む可能性も十分にあります。事実リヴァプールはクロップ初年度はヨーロッパリーグで決勝に進みましたが選手の層と質の問題もありPLでは8位に沈んでいます

長期的な視点に立って監督を変える必要はあるでしょう。しかし適切な人材がいるのかという問題を見ずに感情的に声を上げても同じ結果を繰り返すことになるはずです。次の監督には歪な戦力を修正できる監督が求められます。ブルーノ・フェルナンデスとポグバというチャンス供給力では世界トップクラスのタレントを抱え、ラッシュフォードやグリーンウッドが居るのにも関わらずリンガードを呼び戻しロナウドとサンチョを獲得しました。一方でプレミア中堅レベルのクオリティしかない最終ラインや守備的MFにはヴァラン1人しか補強しませんでした

2列目にはブルーノ、ポグバやリンガードに1.5列目として優秀なラッシュフォードやグリーンウッドにサンチョも居る陣容で明らかに戦力がダブついています。3つのポジションに6人優秀な選手を抱えていても試合に出せるメンバーは限られているのです

また4人を同時起用する場合にはイエロとマケレレのような守備力の高いMFが2人必要になりますが、フレッジのボール奪取能力は低いですし衰えが顕著なマティッチしか居ません。マクトミネイもファンデビークも4-3-3のBox to Box型の選手であり、守備力が求められる3列目としては優れていません。こんな戦力で世界のトップクラスと戦えるわけがないのです。トップクラブを追いかけるためにはまず旬が過ぎたロナウドの獲得を見送り、守備的MFとCBを補強するべきでした。そしてラッシュフォードやグリーンウッドといった未来がある若手を活かせるカバーニのようなハードワークとポストプレーができるFWを中央に据えるべきでしょう。しかしながら、ロナウドを獲得してしまった現在の状態から大改革をして外野を黙らせることができる監督を私はファーガソンしか知りません

グアルディオラとモウリーニョやクロップやトゥヘルなどの監督がサッカーのレベルを劇的に引き上げる前の話ではありますが、ユナイテッドファンからすればファーガソンという歴史上最高の監督が残した実績と比べたらほぼ全員が無能に見えるのでしょう

何しろファーガソンはアグエロ、シルヴァ、コンパニ、ヤヤ・トゥレといったシティ黄金期の黎明期の選手たちを相手にエヴラ、ヴィディッチ、リオ、ラファエルといった2年後には全員解散するレベルの最終ラインにキャリックとクレヴァリーのMFでプレミアリーグを優勝させた人間です。まずユナイテッドファンは今後の監督とファーガソンを比較するのを今すぐやめるべきでしょう。そもそもユナイテッドはバイエルンやレアル・マドリーと違ってファーガソン時代とジョージ・ベスト、ボビー・チャールトン、デニス・ロウの時代くらいしか飛びぬけて強かった時代がないチームに過ぎません

ファーガソン体制が終わった今、ただお金だけがあるチームとして彼らは目標をまずPL4位以内とCLベスト4の同時達成に引き下げるべきでしょう。昨季の2位はCBとMFの故障者が絶望的だったリヴァプールとアザールマネーを投じた大型補強を機能させる戦術的な柔軟性がない若手監督で失敗したチェルシーの崩壊に助けられたものでしかありません。PLでは2位でもCLでは怪我人が続出してチームが崩壊していたリヴァプールに敗れるレベルのライプツィヒを相手にGSで敗退するなど彼らの戦力は万全の状態の3強を追いかけるには程遠い所にあることを認めなければなりません

私はマンチェスター・ユナイテッドのスールシャール解任自体は悪い選択だとは思っていません。リヴァプールに勝てる戦力ではありませんが、ワトフォードに負けるような戦力では絶対にないからです。チームの雰囲気がそこまで悪くなってしまったなら、監督の首を切るしかないのは仕方がない事です。しかしながら世界のトップレベルのチームと戦うには単純に戦力が圧倒的に足りないという問題を直視せず、トップを挿げ替えてファンや所属選手の不満をガス抜きしようとするのはこれで何度目でしょうか。私の記憶が正しければモイーズ、ファンハール、モウリーニョ、スールシャールと同じ失敗を4回繰り返しており、このままいけば5回目の失敗が待っているのでしょう。会社や政治やその他の問題を見ても世の中の大半の人間はそうやって問題の根源を辿ることなく同じ間違いを繰り返すものですが、あまりにも進歩がありません

スカッドのレベルから不可能な理不尽なタスクを背負わされたスールシャールは解任されてしまいました。それでも今モイーズが見せてくれているようにスールシャールには彼の良さを活かしてイケイケの若手を抜擢した放任サッカーをどこかのクラブで披露し、ユナイテッドの順位を上回ることを目指してほしいと思います。何度解任されてもサッカー監督という難しい立場に挑戦し続ける人間を私は応援しています

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