アーノルドは守備的MFではない

6番の理想形はチアゴやシャビやクロースやキミッヒ等が該当するわけだがマドリーの6番で大苦戦したベッカムから運動量を25%マイナスし精神力を取り上げて技術と足の速さを高めたアーノルドに6番適性などある訳がない

私は常々アーノルドのMF化=2列目に置くことを主張しており、3列目に置くプランを嗤い続けてきた。何故ならベッカムが6番で苦しむさまを20年前に見ているからである。約20年前に議論されつくしたネタなので20年前の評論を紹介しよう

 ベッカムは遅い。足も速くはないが、ここでいう“遅さ”とはメンタル面の速度、「状況判断から決断までのスピード」を指す。フォワードやディフェンダーに比べプレッシャーが格段に厳しく、時間がない中盤の底では、彼の遅さは致命的だ。
 ベッカムがパスを受けた場合、考慮しなければならない材料は大きく分けて次の3つ。1.味方と敵の選手の配置 2.各々の状況(肉体の疲労度やパスを受ける態勢かどうかなど) 3.試合の展開(速攻でいくか、時間を稼ぐかなど)。これらを総合的に判断し、最適のプレーを選択できる選手をいわゆる“サッカーセンスのある選手”“頭の良い選手”と呼ぶ。判断と決断を瞬時に行うワンタッチプレーは、頭の切れ味の鋭さの象徴であり、ベッカムは残念ながらこの点、もの足りない。
 といっても、「頭の良い選手=テクニシャン」では必ずしもない。選択されるプレーは、イージーなバックパスや最も近い味方に出すショートパスで構わない。インターセプトされると致命的なカウンターを食う中盤の底では、あくまで安全第一のプレーを心がけるべきである。天才的なスルーパスも、変幻自在のドリブルよりもいらない。ボランチに求められるのは、プレーの確実さであり、その実行の速さなのだ。
 その最も端的な例が、フロレンティーノ会長の痛恨のミスで放出してしまったマケレレ(チェルシー)だ。彼はパスが苦手で、「10メートル以上のパスは出せない」などと、レアル・マドリー・ファンの間でさえしばしば嘲りの対象となっていた。だが、10メートルが出せないのなら5メートルだって構わないのだ。抜群の状況判断力と、力を惜しまない犠牲的精神でレアル・マドリーの守りを支えていたのは、タレントでも華やかさでもベッカムに遠く及ばないマケレレだったのだ。

https://number.bunshun.jp/articles/-/14346?page=1

この記述は全てベッカムをアーノルドに置き換えても成立する。これに加えライスとの連携不足からアーノルドは酷評されている。この点でも全く同じ問題が20年前のレアル・マドリーで起きていたので引用する

【3】ダブルボランチの連係の不在=戦略的な欠陥
これはベッカム自身の欠点ではなく、レアル・マドリーの戦略上の欠陥である。ダブルボランチの場合、2人のボランチは連係しあって、攻守のバランスをとるものだ。レアル・マドリーをシステム図で書くと「4-2-3-1」だが、グラウンド上では同じ高さに左右に並ぶシーンはほとんどない。1人が前、1人が後ろでもいいし、左右が入れ替わっても構わない。要は、試合の状況や戦い方(前がかりか、後がかりか。サイドバックの攻撃参加による穴の埋め合わせなど)を調整する、バランサーとして機能していればいいのだ。ところが、レアル・マドリーの2人のボランチには、連係プレーがほとんど見られない。 例えば、マジョルカ戦の前半、ベッカムとエルゲラがパス交換をしあったのはわずか1回! 左右のポジション交換に至ってはゼロだった。
戦略のセオリーでは、片方のボランチがボールを受け取った場合、もう一方のボランチは近づいて、パスの受け手とならなければならない(必ずパス交換せよ、というのではない。パスの選択肢を増やすだけでもいい)。なぜなら、ボランチ間の短い安全なパス交換は、相手のプレッシャーをかわし、攻守の切り替えをスムーズにするからだ。バレンシアのバラハとアルベルダ、デポルティーボのマウロ・シルバとセルヒオなら、当たり前に見られるプレーだ。

https://number.bunshun.jp/articles/-/13299

守備的MFは味方の守備に指示を出し連携して相手からボールを奪う守備役と相手の守備ライン間を破るパスを出す攻守の両面で活躍が求められる選手が必要となる。マケレレは曲芸プレーを出来ない選手だが、ミスをせず周りの守備を見ながら行く、行かないの判断に優れる理想的な守備役の守備的MF。この仕事に求められるのは曲芸ではなく守備と自己犠牲を厭わない利他意識と確実性と判断スピード。敵ライン間を割るパスを出せないものの守備役の守備的MFとしてライスは一流と言えるが、アーノルドはどちらの機能もない

守備的MFには守備役でも攻守の両面が求められるバランス役でも頭の良さが求められる。イングランド人MFはミルナーやベッカムのように献身的に走る選手は大量に居るが、「頭の良い選手」が非常に少ない。プレミアリーグを席巻するグアルディオラ率いるマンチェスターシティでもイングランド人はストーンズ、ウォーカー、フォーデン、グリーリッシュ、スターリングなど身体能力を活かしてサイドを上下動したり、最後のフィニッシュに絡む選手ばかり。ストーンズが唯一の例外だが、攻守両面で輝くロドリがパートナーで引き上げられる部分もありストーンズ単体はそこまで優れた選手でもない

EUROを見ていてもイタリアやスペインに比べイングランドの戦術は稚拙で選手の位置、役割分担など見るに堪えない。これは監督の力量不足は勿論のこと、選手側のフットボールIQの低さも関係しているように思える

具体的なデータで示せないが、イタリアやスペインとの差は圧倒的に戦術。英国人は選手の技術進歩によって生まれた繋いで崩す戦い方よりも伝統的なやり方を好んでいるように見える。ラグビー的なドカーン・ドーンを求める印象があり、選手もファンも21世紀の進歩についていけてない印象である

もちろんアダム・ウォートンなどロドリやブスケッツをロールモデルに選ぶ賢い新世代の選手も生まれている。だがイングランドには一流の守備的MFが足りない。中央からのラグビー・キックに固執するサウスゲートはスーツが似合い雰囲気がある以外の長所を見いだせないまま20年近く経過してるが、選手側も少し足りていない。ギャラガーはミルナー型の頑張るMFとして優秀だが守備的MFとして優秀かと問われたらそうでもない。僅か7試合のEUROではイングランド代表が勝つ可能性はあるが、戦力も一歩足りてない

なおベッカムはマドリーの穴になった後にマドリーを一時的に救い、最後はマドリーと共に力尽きた。来季アーノルドを守備的MFに配置すれば、銀河系マドリーと同じ失敗を見られるのでベッカムの評が読みたい人は上記を読むと良い。アーノルドはRBでゴメスに劣り始めたためトップ下でジェラードを目指すか、ゴールも取れるアシストマシーンの右サイドハーフでベッカムを超えるのを目指すべきだろう

アーノルドは近くにボールを収められる選手が居ればMFとしての評価が一変すると私は確信しているが、残念ながらフィルミーノは今チームに居ない。現在のチームで最高のポストプレーヤーはマクアリスターとジョタであり、ジョタはフィルミーノに比べて僅かに劣る事を考えるとデブライネのように右サイドハーフで慣らしながら格下相手からトップ下で試すのが良いだろう

なおソボスライやエリオットはアーノルド・コウチーニョ・ベッカムよりは速いプレーも出来るが、最大の武器は時間をかけて蹴る時のキックである。偏ったスカッドは1年で整理できない。しかし戦力整備の達人エドワーズが復帰し、戦力の編成を歪にしたと予想される人物が去った新リヴァプール。私はこの10年が楽しみで仕方ないが、アーノルドを3列目の守備的MFで起用するならば銀河系マドリーのように機能不全に陥るはずだ

ただエドワーズならアーノルドを3列目で起用する事がないよう補強すると予想しており、移籍市場の動向を見れば来季のリヴァプールに対する期待は推し量れる。アーノルドを活かす設計ならば私は下のフォーメーションだと思うが、その為には補強でスカッドの微調整が必要だ

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