立浪ドラゴンズ1年目の通信簿-2024年の中日ドラゴンズに注目せよ①/④-

立浪政権1年目は60点

◎ 高橋宏人・岡林の抜擢と躍進
○土田と上田の成長
○ 阿部の再生
○中村紀洋コーチ2軍抜擢→福元が成長?
△根尾の配置転換で根尾のポテンシャルを発掘
△石川育たず
△高橋周平の再生は失敗
×京田と関係悪化

現役時代を知る人の多くが待ち望んだ立浪さんの監督1年目は苦しいシーズンだった。全試合を見ていないので采配の是非は割愛するが、若手の台頭が著しいシーズンとなった点は良かったと言えるだろう

高橋宏と岡林と石川昂弥の3人に起用を約束して抜擢すると高橋宏と岡林は主力選手に育った。特に高橋宏は将来の日本球界を代表する可能性がある。高卒2年目の土田と上田も将来は脇役の主力になれそうな結果を残すなど中堅選手の実力不足から若手を多く抜擢して力がある選手は数字を残したことは大きな成果だ

阿部の再生も成功した。器用さ0なのに昨季は2番に抜擢されて打撃を崩した阿部を3~6番に戻したのも良かった。持ち味であるランナーを返す仕事で貧打のチームの中では輝いていた

中村コーチの指導を拒絶して自分のスタイルに戻した石川の意志も尊重して中村コーチに教えるなと言うように選手の意思も尊重していた。石川を育てる事がないのならと2軍で鵜飼や福元などの若手を鍛える方針への転換も良かったと言える。石川の育成は来季から着任する和田コーチの手腕に期待するしかなく、石川が岡林ほど育たなかったのは監督の責任ではない

多くの物議をかもした根尾の度重なるコンバートだが、4年間着実に成長してきた今年すら野手のレベルが低い中日の野手陣で目に見える結果を残せなかった根尾の配置転換は仕方ないだろう。殆ど練習をしていない状態でも根尾が投手としては1軍の戦力になると発見したのはお手柄だ。論外レベルだった打撃を4年間努力し続けて1.5軍レベルまで成長した根尾が投手としてどこまで成長するかも楽しみである

一方で全てが上手くいったわけではない。問題だらけの野手をなんとかしようと焦りすぎた事は大失敗だった。基本が出来てない選手に基本を強制して土台を無理やり作ろうとするコーチングスタイルは臨時打撃コーチ時代から変わらなかった

高橋周平は故障により単打率が60%前後だった入団1~3年の面影は全くなく驚異のキャリア最低単打率84.85%だった。もはや再生不可能な領域である。長打がなくてもチャンスで打てたり出塁率が高ければ良いが、それらもない

最大の失敗は京田との関係だった。打撃はどれだけ打てなくても守備が出来れば使うと言って京田の打撃を1から作り上げようとしたが、京田は精神的に思い悩んで守備の方までダメになってしまった

この点に関しては監督のことを信じて1度打撃を崩してでも基本に立ち返るという上司からの信頼を守れなかった京田の責任でもある。だが選手の性格を上手く把握できていない1年目から自分のスタイルを押し付けて潰してしまった監督の責任の方が大きいだろう

京田は田尾さんが言うように2割6分くらいの打者が一番言う事を聞かないという象徴のような存在だった。立浪さんの言う通りに土台を作る事が出来たなら京田は更に上を目指せたはずだ。しかし通算OPS.630と基礎がなくても身体能力で誤魔化せていた京田にもプライドがあった。また打撃を変えず今まで通りの成績を残すだけでも現在のプロ野球では何処かしらでレギュラーを取れる。そのため京田は自分のスタイルを曲げずに監督と衝突してトレードに出すしかなくなった

ドラゴンズ内野陣の守備力の中心を担った京田との関係を壊してしまったのは勿体なかったが、失敗は誰にでもある。京田以外と関係が次々に壊れていった場合には問題だが、松葉も監督を慕って残留するなど今の所は問題なさそうだ

落合監督ほど優秀だとは思わないがチームとしてバントの成功率や盗塁の成功率なども高い。下手な選手にバントや盗塁のサインを出さない事は監督として非常に重要な要素なので新人監督としては十分に優秀な監督と言える

加えて立浪監督は有望な若手を見出して抜擢する力があるのでドラゴンズの野手陣再建に良い監督だと私は思う。今後も岡林のように基本が出来ていて大きく変える必要がないタイプの選手をドラフトなどで発掘し、出場機会を与えて使い続ける辛抱強さを発揮してくれることを願っている

今季の選手成績と評価

※以下のデータは下記2サイトより引用しています。

投手陣はパークファクターを無視したリーグの平均防御率3.36。これに対しドラゴンズの防御率は3.28でリーグ2位の成績を残したが、3位以下とは僅差だった。大野、小笠原、高橋宏斗、柳、松葉の先発5本柱と7回の清水8回のロドリゲス9回のマルティネスと勝ちパターンが完成されており、敗戦処理のエース藤島も含めた9人は好成績を残した。だが上田が台頭するまで先発6番手不足に苦しんだ

先発投手

先発では柳24大野23小笠原22高橋19松葉19と107試合分の先発は揃っていた訳だが、残りの36登板を支える投手が足りなかった。上田が好投し始めた7月までは先発6番手が定まらなかった。前半戦6番手として使った福谷、岡野、笠原、岡田、鈴木が先発した17試合で3勝11敗と大きく負け越したのが痛かった

先発6番手不在ながらエース3枚+2の5本柱が安定していた投手陣

防御率を更に良くするためには主力選手たちが今以上の成績を残すか、多くのイニングを投げながら防御率が悪い選手の分だけ補強する方向の2種類しかない。現状を分析すると下記の通り

169と2/3イニングで平均防御率が6.58で5勝16敗のゾーンが足を引っ張る形に

今季防御率が4.51より悪い投手が投げたイニングは170イニングにも満たなかった。これはイニング全体の13%程度で優勝したヤクルトと同水準だった。投手陣は先発6番手が確立されれば数字は良くなるだろうが、その他の投手には更なる成績アップを求めるのが難しい状況にある

一方で加齢による衰えの不安も来年は少ない。祖父江と谷元と田島の重要度は低下しており、重要な役割を担う30過ぎの選手は大野と松葉だけ。2人の代役となるべき将来の先発候補となる若い投手は3年以内に必要だが、来季補強の重要性は低い

ちなみに2018年のドラゴンズは防御率が4点未満の投手が557イニングしか投げておらず、そのうちの168と2/3イニングを退団するガルシア、181イニングをキャリア晩年の吉見と松坂が投げていた。ここから僅か3年で立て直した与田-阿波野コンビの偉業は讃えられるべきである

野手まとめ

リーグの野手平均OPSは0.701に対してドラゴンズの野手OPSは0.666でリーグ5位に終わった。OPSが最下位で打てない守れない走れるタイガース野手陣と打てない走れない守れるドラゴンズ野手陣のどちらが酷いかは永遠の謎だ

ただ阪神の方が盗塁数では110個で66個のドラゴンズに比べて1.67倍多く成功率もドラゴンズと同じ76%弱。更に主力野手が全員20代の阪神と異なり、ドラゴンズの主力選手は岡林を除いて30代と高齢化しているのでどちらが酷いかと問われたら私はドラゴンズと即答する。投手陣と同様に野手もOPSの構成比を見ていこう

中日は主砲の不在以上に選手層の問題が大きい

打てない阪神と中日は選手層の問題を抱えていると分かる。下位打線の貧弱さは両チームともにずば抜けており壬・癸つけがたい。守備で金を稼ぐOPS0.650以下の選手の打席数合計は他チーム30%前後に対して50%弱、阪神は60%弱も占めている

野手の戦力は8.5人換算(交流戦では9人の野手が出場したり投手の代打で後半からは野手が登場するので)だから中日には4人弱、阪神は5人も打撃で期待できない選手が居る計算になる。普通のチームが8人中2人の守備要員レギュラーとレギュラーを休ませたり離脱した際の代役で運用しているのに対して、これだけ打てる打者が居ないと苦しい

ドラゴンズには長距離砲への期待が大きいが、ヤクルトの村上が勝負を避けられているように長距離砲を1人だけ獲得しても効果は薄いだろう。3~5番に好打者を揃えているDeNAも6番が弱いので5番が勝負を避けられたのため得点は伸びなかった。ドラゴンズは打力がある選手を今のチームから2人増やせたら得点力は向上すると考えられる

ちなみにリーグ2位の得点数を誇るのは主砲が充実している巨人ではなく広島である。広島は盗塁成功率が5割を切るという酷い采配に足を引っ張られても1番から7番までそれなりの打者を並べられているため打線がつながる

打順ごとのOPSと得点圏打数と打点の一覧表

このように長打がなくても打てる打者を並べれば得点は次第に上がる。だが、ドラゴンズの打者で満足できる成績を残したのは次表のとおり5人しか居なかった

主力打者で若いのは岡林だけ。更には阿部とマルティネスが退団という狂気の来季編成

岡林/ビシエド/阿部/大島の主力選手4人の合計成績は打席数2170打数1958打率284本塁打24OPS.742。故障が多くレフトのポジションを守り切れなかったがアリエル・マルティネスも打席数286でOPS0.787とチーム2位の成績を残した

5人は主砲の脇を固める打者としては十分な数字である。外野手の2人と一塁手のビシエド、二塁と三塁と左翼を守った阿部の4ポジションは今年と同じ成績を残してくれたら来季も大事な主力打者になるだろう。一方でその他の選手は悲惨な状況で打撃は最下位も当然の数字だった

とにかく打てる野手を最低でも2人は最低でも増やしたいのがドラゴンズの現状である。打てる打者の大島、ビシエド、阿部と全員30代に突入している事もあって可能ならば3人から4人を近い将来に育てなければならない。その中でも最優先で必要なのは二遊間だ

捕手

捕手は木下拓が捕手としては普通の打撃成績を残した。特に5月までは打席数163打数147打率.279本塁打3OPS.738は合格点だろう。木下は2021年シーズンもシーズン中盤から成績が急降下しており、オリンピックの中断期間を経て成績を回復するなど明らかに体力が問題だ。シーズンを通して成績を残せるようになれば1段上のレベルの選手となって給与が増えるはずだ

そのため捕手は2番手捕手が必要となっている。石橋は守備の面では木下よりも高い評価を受けるが致命的に打てない。木下も30代に突入しているのでドラフトでは打てる高校生捕手も補強ポイントになる

内野手

一塁手のビシエドは年俸に見合う成績かはさておき、及第点の成績だった。また二塁手や三塁手や左翼手までやった阿部も今季のドラゴンズには欠かせない選手となった。残念ながら中日ドラゴンズでは3~5番という過剰な重責を背負わされ、阿部は悪意のあるファンからはゲッツー製造機と言われる事もあったようだ。しかし勝負強さと意外なパンチ力を秘めていて6番あたりに置くと優秀な打者である

一方で三塁と遊撃は問題だった。三塁手として出場が多かった石川/高橋周/福田/ワカマツは打席数464打数425打席打率.238本塁打8OPS.629に終わった

石川は長打が絶望的にないドラゴンズにおいてシーズン完走なら20本塁打ペースだった数少ない希望であるが、打率も得点圏打率も一打逆転の場面での打率も低く力不足を露呈した。しかし石川の代わりに入った高橋周平が悲惨過ぎた事、木下が6月からアリエルが7月から成績を落とした事もあり石川がチームのキーマンのように考える人もいるようだ。この評価は実力に対して期待が先行しすぎている

石川は当たれば飛ばせる選手であることは間違いないが、毎年のようにケガしていること、小久保以外に成績を落とさなかった選手が記憶にない前十字靭帯の損傷を考えると過度な期待は禁物である。高橋周平のように故障で実力を発揮できないまま未完の大器と言われないよう、まずは100%の状態に戻して復帰する事を期待したい

二遊間を守る三ツ俣/土田/京田/石垣/髙松/溝脇/星野/堂上は打席数635打数577打率.218本塁打6OPS.550という低空飛行だった。今季は京田が崩れた事でOPS.630打ってリーグトップレベルの守備スタッツを残す例年の京田がいかにありがたい存在かを認識させられるシーズンとなった

彼はバントが下手だったキャリア中盤までの荒木から盗塁を引いたレベルの選手であり、過剰に叩かれ過ぎている。他の選手が打って彼が8番にいれば彼がここまで非難を浴びる事はなかっただろう

京田は守備が良くて体力に優れていたのでプロ1年目から出場機会を得られたが、こういったタイプは1年目の成績から大きく飛躍する事は稀である。しかし1年目からドラゴンズのレギュラーに割って入った事で期待値が高すぎて成長しないと一部のファンから非難され続けた。打てない走れない守れない遊撃手が多すぎた事で本来は脇役であるべき京田がチームの主軸を担った事が生んだ不幸だった

京田の代わりに土田の成長が後半戦では光ったがシーズンを通した実績は0。土田の来季は今季の岡林と同じ立場でのスタートとなる。京田と監督との関係がこじれた事もあって遊撃手の補強は必須となった。もちろん選手層が壊滅的であることから二塁手の補強も必須である

外野手

岡林が急成長を遂げ、大島には衰える兆候が未だ見えていない。だが外野手も岡林と大島に続く1人が確保できず、レベルが低い内野との争いにも負けて阿部が左翼を守る場面もあった

最後の1枠を争ったレビーラ/後藤/鵜飼/平田/福留/福元/三好/渡辺/ブライト/伊藤/滝野/加藤翔/ガルシアの合計で打席数583打数533打率.197本塁打8 OPS.549。打撃が求められる外野手の成績としては目を疑う数字だ

大島が負傷して不調の際に誰も彼からポジションを奪えなかったのも納得の成績といえる。福留が引退、平田と渡辺と滝野が戦力外となったのは当然だろう。更には286打席数でOPS.787を記録したA・マルティネスも退団した

一方で鵜飼と福元という希望も生まれ始めている。(打席数が少ないので参考記録だが)鵜飼は2軍で通年OPS.892と来季に飛躍する可能性を見せた。福元は捉えた打球がファウルになってるので立ち位置を直そうと中村紀洋コーチから指摘を受けた9月すぎから2軍でOPS.850近く打つようになった。フェニックスリーグでも三振が少なく四球を選べるようになり来季以降の飛躍に期待がかかる

今季見えた来季への育成&補強ポイント

1 OPS.850打てる外野手
2 OPS.850打てる三塁手か二塁手
3 OPS.650打てる二遊間
4 先発6番手
5 木下を休ませられる第2捕手
6 左の強打者を抑える中継ぎ
7 打てる高校生捕手

これらの点を補強し、他チームがドラゴンズ以上の改善を出来なければ来季は優勝争う事も可能だろう。次回はドラゴンズの野手が何故ここまでダメなのか、改善するにはどうするべきかに対する評価考察を書く

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