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過去との邂逅 アスパムにて

7月5日午前11時、私は青森駅に降り立った。
前日に弘前でこの上ない幸せ体験をしたので、戻りたくはなかったが、現実へ戻るため仙台行きのバスが出ている青森駅へ行かなければならなかった。

(因みに、幸せ体験の内容については一つ前の弘前3時間店長編で詳しく書いているため、お時間があれば目を通していただけるとありがたい。)

青森駅は近くに海があり、駅付近には海沿いを歩けるおしゃれな遊歩道が続いている。
そして、海に沿って歩いていくと特徴的な正三角形の建物「アスパム」が見えてくる。
アスパムの中は、物産館やお土産屋さんになっており、青森の名産品や絶品のアップルパイが食べられるので是非ともご旅行の際は立ち寄ってみてほしい。

私はアスパムは過去に二度ほど来たことがあり、いずれも良い思い出である。久しぶりに見に行きたいと思い立ち駅からアスパムに向かって遊歩道を歩き出した。

海沿いの遊歩道


私が一度目にアスパムに行ったのは高校時代。
陸上部のマネージャーをしていて、東北大会のサポート役として付き添った時のことだ。
出場選手と先生1人マネージャー1人の総勢6名で会場の青森へ向かった。
その時に先生の運転するマイクロバスでお土産を買いに行ったのがアスパムである。
店内で売られているアップルパイを選手のみんなと食べ、談笑したことは今でも鮮明に覚えている。
その後、全員でアニメイトに行ったりホテルでマイクラをしたりと、陸上大会の思い出とは思えない内容だが、私にとっては輝かしい青春の思い出だ。
そんなことをアスパムを見る度に思い出すのである。

2度目は大学時代。
当時付き合っていた人と青森へ旅行に行った時のことだ。
高校時代の楽しい思い出を振り返りたくなり、アスパムに行きたいと頼んだ。
数年ぶりに見たアスパムは全く変わっておらず、とてもほっとしたのを覚えている。
それから夜、2人で海沿いの遊歩道をアスパム側から青森駅側へ向かってゆっくりと歩いた。
アスパムが北朝鮮のホテルに似ているとか、夜の海を覗くと吸い込まれそうで怖いとか、そんな他愛もない話をしながら歩いたその時間は今の私にとって、とても優しい思い出になっている。


そして現在。
私は1人遊歩道を歩いていた。
そして例のごとくクリープハイプを聴いていた。
あの時聴いていたのは、「exダーリン」だっただろうか。
私を照らす太陽はもう夏の太陽だった。
日焼けに怯えながらもアスパムに向かって黙々と歩いている時、ふとこんなことを想った。

以前の私はこの遊歩道を、夜2人で青森駅に向かって歩いていた。
そして今の私は昼1人でアスパムに向かって歩いている。
何となくその過去と現在の対比が切なくもあったが、歩いていればどこかで過去の自分とすれ違うのではないかという不思議な気分になり、なんだかワクワクした。

そうして歩いていると、待ちに待ったアスパムが見えてくる。
期待通りの変わらなさ。相変わらず奇怪な佇まいをしていた。

アスパム

美しい三角形を見られたことに満足し、結局お土産は何も買わずに外に出てしまった。帰ってきてから振り返ると、アップルパイくらい食べたら良かったなと思う。

最後にまた遊歩道に戻りぼんやり海を眺めていた。
ふと下を見ると海の底が見え、海藻がふよふよと動いていた。
こうして日が当たっていれば全く怖くないなと思い、夜の海を怖がっていたあの頃の自分が愛おしくなった。

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