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"知られざる化学物質の影響"

割引あり

PFOSとPFOAは、広範な有機フッ素化合物群「PFAS」に属する化合物です。20世紀の中頃から、これらの物質は様々な製品製造に用いられ、
私たちの日常生活に広く浸透してきました。

しかし、
近年になってこれらの化合物の環境や健康への悪影響が
次第に明らかになり、今では世界的に深刻な問題として注目されています。

PFOSとPFOAについて理解を深めるためには、まずその上位概念である「PFAS」や「有機フッ素化合物」についての基本的な知識が必要です。

この記事では、PFASとその代表的な種であるPFOSとPFOAの特性と、
それらが私たちの生活や環境に与える可能性のある影響について
詳しく説明していきます。


有機フッ素化合物は、自然界ではほぼ見つからない合成化学物質です。
これらは人の手によって生み出され、
有機物の中にフッ素原子が組み込まれた幅広い化合物群を指します。

理論上、その種類は無限に作成可能ですが、最近注目されているのは「PFAS」と呼ばれる一群の有機フッ素化合物です。

PFASは、水や油をはじく、熱や薬品に強い、
光を吸収しないという特異な特性を持ち、
20世紀半ばから多くの製品に使用されてきました。

これには、
・焦げ付かないフライパン
・食品包装
・撥水加工の衣類
・タッチスクリーンのコーティング
・泡消火剤
・スキー用コート剤
・歯間フロス
・化粧品
・シミ防止マットレス
などが含まれます。

PFASの「化学的安定性」はこれらの用途において大きな利点とされ、
私たちは長年にわたってその恩恵を受けてきました。

しかし、この化学的安定性が、
今では環境や健康に関する重大な懸念を引き起こしています。

PFASの人体への有害性には、
・甲状腺疾患
・血中コレステロール値の上昇
・肝疾患
・腎臓がん
・精巣がん
・低出生体重
・免疫力低下
・乳腺発達の遅れなど、
確実性の高いものから、炎症性大腸炎、乳がん、不妊、妊娠中の高血圧、
流産リスクの増加、精子数と運動能力の減少、性的成熟の早期化、
肥満など、確実性の中程度のものまで幅広く存在します。

「化学的安定性」とは、外部の作用に対して強い耐性を持つことを意味し、自然環境で分解されるのに非常に長い時間がかかることを示します。

この理由は、
PFASの炭素(C)とフッ素(F)原子の結合が非常に強固であるためです。一部のPFASは完全に分解されるまでに数千年を要し、
「フォーエバー・ケミカル(永遠の化学物質)」とも呼ばれています。
これらの化合物は人体に蓄積される性質があるため、
一度暴露されると長期間にわたって体内に留まります。

特に子どもたちや胎児はPFASに暴露しやすく、胎児の場合は臍帯血経由、
乳児の場合は母乳経由でPFASが伝わることがあります。
汚染された水や食品を摂取することにより、
人々はPFASに暴露するリスクにさらされています。

PFASの有害性は、人間だけでなく動物にも及びます。
土壌汚染や水系の汚染により、海産物や農作物、
さらには北極のホッキョクグマに至るまで、
幅広い生物に影響を及ぼしています。

PFASは目に見えないため、しばしば軽視されがちですが、
少量の暴露であっても深刻な健康被害を引き起こす可能性があるため、
注意が必要です。

ニュースでは「PFAS」という総称で取り上げられることもあれば、「PFOS」や「PFOA」といった特定の名称で報じられることもあります。

PFASの一種であるPFOSの場合、
体内から95%が排出されるまでに約40年かかるとされていますが、
暴露が繰り返されるとその期間はさらに延びます。

また、PFASは血液や肝臓、腎臓などのタンパク質と結びつきやすく、
男性が女性よりも高い数値を示す傾向があります。


PFOS・PFOAとは?

PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)と
PFOA(ペルフルオロオクタン酸)は、4,730以上の種類がある
PFAS(パーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物)の中でも、特に以前から広範囲に使用されていた物質です。
これらの物質は、PFASの中でも「パーフルオロアルキル化合物」に
分類され、炭素原子が8つ連なった長鎖構造を持つことから
「C8」とも呼ばれます。

PFOSとPFOAに関しては、人体への有害性が報告されています。
例えば、PFOSは胎児に影響を与えることが動物実験で確認されており、
消化管、肝臓への中程度の急性毒性、皮膚や眼の刺激性が指摘されています。

一方のPFOAは、皮膚に接触すると発赤や痛みを引き起こし、
眼に入るとかすみ眼の原因になります。
さらに、吸い込むと咳や咽頭痛、飲み込むと腹痛、吐き気、
嘔吐の症状が現れるとされています。胎児への影響も、
動物実験により報告されています。

また、発がん性に関しては、PFOAが国際がん研究機関(IARC)によって「グループ2B」に分類され、
「人への発がん性がある可能性がある」と評価されています。

日本国内では、
2020年4月に厚生労働省によって
PFOSとPFOAの飲用水に対する「暫定目標値(※1)」が設定されました。

これはPFOSとPFOAの合計で1リットル当たり50ナノグラム(50ng/L)と
定められており、その後の2020年5月には環境省が環境水(河川や地下水)における同様の「指針値」を設定しました。
これらの値は、体重50kgの人が70年間毎日2リットルの水を摂取し続けても健康に影響がないとされるレベルを基準にしています。
※1暫定目標値は、1ナノグラムが1グラムの10億分の1の量であることを示しています。


アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)

アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)は、
PFOSとPFOAに関する水質管理基準を設定しています。
2016年に導入された生涯健康勧告値(※1)は、
日本での暫定目標値(PFOSとPFOAの合計が50ng/L)の基礎となりました。

しかし、アメリカの勧告値は、2022年に大幅に低下し、
「PFOS:0.02ng/L」、「PFOA:0.004ng/L」と
非常に低い数値に修正されました。

これは、これらの物質の人体への潜在的な危険性についての
認識が高まっていることを反映しています。

2023年3月、アメリカはPFOSとPFOAに関する法的拘束力を持つ
規制値案(※2)を発表しました。
この案では、PFOSとPFOAのそれぞれを4ng/L以下に抑えることが
提案されており、2023年内の正式決定が見込まれています。

この規制値案に採用された「4ng/L」という数値は、
現実的に測定可能な検出限界値に基づいており、
アメリカのPFASに対する厳しい姿勢を示しています。

一方で、日本の関連省庁は、WHOが提案するより緩い暫定基準値(100ng/L)を議論しており、PFASに対する日本の対応は、
アメリカなど他国に比べて遅れていると感じられます。

日本では、暫定目標値の大幅な強化が期待されていますが、
その過程で、WHOの提案や他国の規制基準を考慮する必要があります。

※1. 生涯健康勧告値は、70年間毎日2リットルの水を飲み続けても健康に影響がないとされる基準値。
※2. 規制値案には法的拘束力があり、この案が正式に決定されれば、PFOSとPFOAに対する取り締まりが強化されます。これは、生涯健康勧告値が目標値であり法的拘束力がないのに対し、規制値案は法的拘束力を持っている点で重要です。

日本におけるPFASの認識について

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