よし、ボートだ!第1話

まずはマキオさんの事から。

マキオさんは、簡単に言えば大学の2学年先輩だ。同じ寮に約1年間住んだ。僕が19歳、マキオさんは一浪だったので22歳の年だった。
僕は経済学部、彼は工学部だったが、入寮間もなく仲良くなった。馬が合うという仲だったと記憶している。

マキオさんはとにかく麻雀が強かった。残念だなぁ、学業については全く記憶がないよ。学生相手なら4人打ちでもサンマでもまず負けることは無かった。街へ独りで打ちに行っても、大抵勝って帰ってきていた。
理数系の頭脳で勝ちを引き寄せていると思っていたが「バカ、んなわけ無いだろ」と一蹴された「センスだよ、センス」。
よく奢ってもらったが、その金は麻雀で稼いだものだと思う。アルバイトなどしている姿は見ていない。

そんなマキオさんは、翌年寮から居なくなった。卒業・・じゃなかったと思う、女かな。とにかく消えてしまった。


僕は4回生になっていた。取り立てて就職したい先もなく、バイトしていた喫茶店兼パブに雇ってもらおうか、などといい加減な暮らしぶりだった。

一年の総決算のような競馬が開催される日、僕は店の常連と連れ立って場外に来ていた。確か、前年度勝利馬が地方出身の3番人気に負けたはずだ。
僕は下手の横好きが1番人気を信用したお蔭で、なんとか拾うことができた。たいした勝ちではなかったが気分は良かった。
払戻しに向かっていた時「くま」と呼ばれた。マキオさんだった。

それからマキオさんは週に2回程度、僕の勤めるパブに顔を出すようになった。いつも一人だった。
消えていた間のことは聞かなかった。なんとなく風体というか雰囲気というか・・カタギの匂いがしなかったからだ。
だけど、ホンモノでもない。
いつも比較的早い時間に来て、なんでもない昔話や莫迦ばなしをひとしきりしては、21時前には帰ってしまう「明日も早いからな」。(嘘だ、打ちに行くんだろ)

「くま、次の休みはいつだ?」
木曜日、です。
「予定あるのか?」
いえ、特には。
「じゃ、付き合え。」
マズいかなぁとは思ったが、興味が勝った。

2月の初め厳しい寒さの朝、待ち合わせの駅にマキオさんは現れた。
「風が強いな、荒れるぞ」
電車で二駅、降り立ったのは大きな湖のある街。タクシーに乗り、着いた先は競艇場だった。

入場料を払い、入場。マキオさんが番組表を取って、渡された、ちんぷんかんぷんだ。
「くま、いくら持ってきた?」
2万ちょい、ですかね。
「わかった、ちょっと見とけ。」
12Rあるのは競馬と変わりない。ただ、すべてのレースが6枠6艇だった。
単勝・複勝はともに6通り、連複は1Rから買えたが連単は3Rからしか買えなかったと思う、3連単などはずいぶん後の時代の賭式だが、競馬より前に採用されているはずだ。
なんか「思う」とか「はず」とか・・

簡単に勝てる、と思った。だって6艇だし、連単でも30通りしかない。

番組表には「3日目」とある。6日間の開催の前半戦最終日という、だいたいの目鼻は立ってくる頃だそうだ。なんの目鼻か分からない。
よくみると随分な比率で前半6レースと後半6レースに重複した名前がある。1日に2レース出走するようだ、何故だ?
そもそも何を見ておけばいいのかが全く解らない、お手上げだ・・

「朝、食ってないだろ。ほら」
トイレに行く、と言っていなくなったマキオさんが帰ってきた。おでん盛りと缶ビールが手渡される、ま、他の飲み物はナイな。
「初めて、だよな」
頷く。
「朝の3レースはどうでもいい。どうでもいいが練習にはもってこいだ、いいか、まずあそこからスタートまでの間ぶれずに届くやつを見つけろ。そしてコーナーを膨らまずに周っていくやつな。」

3レースの間、舟券は買わずに必死で18人の漕艇を見た。
どれがどうなのか全く解らない。だが解らないなりに2Rの2号艇と3Rの5号艇が安定しているように見えた。
「2より6のほうが良かったな、まぁ5はいいな、昨日も3コースから1着だ」
「6は7Rか、2号艇だな、買いだ。5は9R・・4コースか、うーん」
「まぁ見えなくて当たり前だ。でも見ようとしなければ、いつまでもカモだ。見るしかないんだよ。」

4R5R6Rと目を皿にして見る、やはり解らない。買目がわからない。
「いいか、くま。バクチというものは統計だ。ありとあらゆるデータを集めて分析し推論する。結果出てくる答えを買えば、自ずと勝てる。」

「だが、外れることもある」
マキオさんはニヤリと笑った。




(続く)




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