『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』 – 「迷子の前進」を成立させる主人公・高松燈

※『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』についてネタバレありの記事です。ご注意ください。

 「迷子でも進め」という言葉は『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』のキャッチフレーズのひとつである。
 青春期には、自分の選択や努力がどのような結果に行き着くかわからないことがある。進んでいるつもりなのに目標に近づけない、あるいは後退してしまうということもあるだろう。先の見えない苦しさに立ちすくむこともあるかもしれない。そのような暗中模索もまた、青春らしさの一つではないだろうか。
 本作の主人公・高松燈は、このような場面を「迷子の前進」であると捉え直そうとする人物である。他のバンドメンバーが思い悩んだり挫折したりする姿を、燈は「迷子でも進んでいる」と解釈する。そして10話では自身が「迷子の前進」へと踏み出す。本記事では、燈がメンバーたちに「迷子の前進」をさせて、そして自身も進み出すまでの過程を追っていく。

 まずギターの千早愛音は、燈たちが通う羽丘女子学園に転入する前に、イギリスへ留学したものの挫折して帰国するという経験をしている。また、愛音は燈たちとバンドを始めたものの、5話では立希から練習不足を指摘されて逃げ出してしまう。
 このように愛音は、困難に直面したときに逃げ出してしまう経験を重ねている。愛音は選んだはずの進路から逃げて、自ら後退していると言えるかもしれない。
 しかし燈は逃げる愛音を引き留めて、「愛音ちゃんは進んでる。行き止まりになっても、ちゃんと道を探して進もうとして…」と伝える。愛音は迷路を進むかのように、迷いながらも進んでいるというのだ。

 燈のこの観点を厳密に言えば、「迷子だから進んでいる」と言い直せるかもしれない。愛音が逃げ出して一見後退しているように見えても、愛音が迷路の中で迷っていると見なすことにより、行き先がわからない中で前進していると捉えることができるというわけだ。このときの燈の、一度愛音に背を向けて走り去って、紙に「迷子」と書いてから戻って愛音に見せる、という動線にも彼女の観点が端的に表れている。
 思えば、海外の学校に入学したり、バンドでギターを弾き始めたりするということ自体に尻込みする人もいるだろう。たとえ愛音が先のことを想像せずに軽い気持ちで踏み出したのだとしても、それが前進であることに変わりはない。愛音は前進したからこそ、逃げ出したくなるような場面に直面した。そのように考えることができるから、燈の言うことには説得力がある。
こうして燈に励まされた愛音は、立希とそよの元に引き返し、「私たちライブする」と宣言する。そして改めてライブに向けてギターの練習に励んでいく。

 次にベースの長崎そよは、解散してしまったCRYCHICの再結集を目論んで燈たちとバンドを再開する。
 そよはCRYCHICのメンバーを集めるとっかかりとして愛音を利用するが、結果として愛音はライブ開催まで食らいついてバンドメンバーとして定着してしまう。また愛音と同じくギターの要楽奈も加入してしまう。そよとしては部外者を招きたくはなかったのだろうが、世話焼きな性格ゆえ楽奈とコミュニケーションをとって場を取り持ってしまっている。

 ついには7話のライブでCRYCHICの曲であった「春日影」を演奏することになり、それを聴いた豊川祥子は泣きながら走り去ってしまう。そうしてそよは、CRYCHIC再結集の望みを断つ行いに、不本意ながら加担してしまうのだ。
 CRYCHIC再結集という望みはついに叶えられなかったそよだが、10話のライブの「詩超絆」の演奏によって、彼女と同様の願いを燈からお返しされる。それを受け止めたそよは、MyGO!!!!!という新たなバンドのメンバーになることを受け入れる。こうしてそよの離れたくないという強い願いは、形を変えて実を結ぶ。また上記のとおり、CRYCHIC再結集を目論む過程で、図らずも愛音や楽奈の加入を助ける働きもしている。
 そんなそよに対して、燈は12話のライブのMCで「バンドのことずっと大事に思ってくれていて」と伝える。当初はそよにとって大事なのはCRYCHICだけだった。しかしそよがMyGO!!!!!の結成においても欠かせない役割を果たしたことを見て、燈はそよがバンドを大事にしてくれていたと捉え直したのだ。

 ドラムの椎名立希は、燈たちと再びバンド活動をするにあたり、以前のバンド・CRYCHICで豊川祥子が担っていたリーダーシップや練習運営、作曲などを引き受けようとする。

 しかし何事も完璧にこなす祥子のようにはいかず、立希が取り仕切る練習はうまく進まず、人当たりの強さもあってバンドメンバーともぎくしゃくしてしまう。ついには無力感に苛まれて練習を休んでしまう。
 立希は燈と愛音に説得されて復帰し、波乱はありつつもライブをやり遂げる。しかし「春日影」の演奏をきっかけにそよと愛音が離脱してしまい、バンドは一度瓦解する。

 さて、立希の「迷子の前進」の成立については、燈が解釈ではなく主体的な行動によってそれを示すことになる。
 バンドの瓦解に傷ついた燈だったが、初華に励まされて気持ちを取り直し、燈は一人で詩の朗読のライブを始める。

 燈は自分でバンド活動を行うために、ライブハウス「RiNG」で手続きをしたり、愛音を勧誘したりする。立希がやっていたように、今は燈がバンドの運営を行っているのだ。立希は一度バンド運営に失敗してしまったが、その取り組みを燈が受け継ぐことによって、バンドメンバーが再び集まりMyGO!!!!!の結成につながることになる。立希のバンド運営の苦悩と挫折は、燈による継承によって「迷子の前進」になったのだ。

 過去の迷いや挫折も、今の行動次第で「迷子の前進」へと変わる。高松燈はそのような観点を提示し、ついには主体的な行動で証明する主人公なのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?