話数単位で選ぶ、2023年TVアニメ10選

「aninado」様主催の「話数単位で選ぶ、TVアニメ10選」に参加します。
なお作品について、選出した話数以外も含めてネタバレありで書いていますのでご注意願います。

■「話数単位で選ぶ、2023年TVアニメ10選」ルール
・2023年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
・1作品につき上限1話。
・順位は付けない。
・集計対象は2023年中に公開されたものと致しますので、集計を希望される方は年内での公開をお願いします。


『REVENGER』 第6話「Adversary Advent」


[選考理由]

  • 雷蔵の絵の腕が「御仏が与えた手」と評される、幸福な皮肉。

  • 細い路地で刺客と戦うシーン。

  • 清国人・劉の誠実さを匂わせる描写。

 冒頭、雷蔵の絵に感銘を受けた商人が、雷蔵の絵の腕を「御仏が与えた手」と評する。雷蔵は今までの人生でひたすら人を斬ってきて、しまいには自身の許嫁の父親を殺め、許嫁も自害に追いやってしまった。そんな雷蔵の人斬りのために振るわれていたはずの手が、絵のために御仏によって与えられたものと見なされる。雷蔵にとって晴天の霹靂であったことだろう。
 なお絵描きとしての新たな人生が見えたかに思われた雷蔵であったが、最終話で捨に刺殺されてしまう。しかし雷蔵が死ぬ前に人斬りとは異なる自らのあり方を見出したのは無駄ではない。自らの手を絵描きの手として見出した雷蔵は、最終話で捨に刺されたときに、刀を手放して恨みの貸し借りを帳消しにするという奇跡を起こせたのだ。この結末へのスタートがこのシーンである。
 また6話前半、路地で雷蔵と惣二が刺客に襲われるシーンも秀逸だった。細い路地の奥行きを活かしたレイアウトで、迫りくる刺客たちの不気味さがよく描かれている。手練れの刺客と、金で雇われただけの素人との動きの違いも細やかに描かれている。

 劉たち清国人が敵なのか味方なのかを訝しく見せる描写にも引き込まれた。唐人街の清国商人たちは殺伐としているし、清国の要人である劉は雷蔵を襲撃して拷問を加える。しかし劉は「(雷蔵の目は)何かに殉じる者の目だ」というように、誠実さを匂わせる発言をする。そうして劉が善なのか悪なのかわからなくしたところで、最後に黒幕である宍戸を登場させるという流れが見事だった。

『陰の実力者になりたくて!』 第20話「魔人降臨」


[選考理由]

  • 画面上のアイリスの醜くみすぼらしい姿と、その姿こそが彼女が王女という立場から解放されて輝いていることを示しているという矛盾を的確に描いていること。

  • 中西和也監督の一人原画(第一原画を一人で担当)による業物のアクションシーン。

 1期最終話である20話で王都に広がった青空は、その下に映されたアイリス王女(とサブ的にベアトリクス)のものである。

 本作では客観的な価値観などお構いなしに、わが道を行って突き抜けた者が勝ちである。そんな中でアイリスだけは、今までの話数で極めて端正に、品行方正な王女として描かれる。しかし19話でシャドウ扮するジミナ・セーネンに叩きのめされたのをきっかけに、アイリスは端正さをかなぐり捨てる。
 闘志むき出しでシャドウに追いすがり、強力な武器であるアーティファクトを使って炎をぶっ放す。自分一人では敵わないと踏んでベアトリクスと共闘し、それでも勝てなければ国の名を騙ってシャドウを脅す。王女として国のしがらみに囚われていたアイリスが、いまや国を利用しているのが痛快だ。
 シャドウが去って青空が広がったとき、アイリスは悔しさに床を叩きつける。完膚なきまでに打ちのめされて内心も苦渋に満ちているであろうアイリスだが、今この瞬間こそ、立場にとらわれずがむしゃらに勝ちを求める闘士になりたいというアイリスの宿願が叶ったときである。
 このように表面上の醜さや惨めさと、その裏腹の解放感や美しさが見事に描かれた最終話だった。中西和也監督の一人原画による業物のアクションや、アイリスの鬼気迫る表情も際立っていた。

『D4DJ All Mix』 第6話「Jun.「ハクチュウム」」


[選考理由]

  • 夢か現か曖昧という心象的なシーンを、3DCGで描いたこと。

 ライブの数日前に風邪で倒れてしまう真秀。そんな真秀のかわりにセトリの準備に奮闘するりんく、むに、麗たちHappy Around!の面々の様子が、現実なのか真秀の夢の中なのか曖昧な形で描かれる。
 おそらく中盤の描写はすべて真秀の夢の中の出来事であり、真秀の言葉が英語になってしまっているのがシュールだ。しかし真秀が復帰したとき、りんく、むに、麗たちが真秀の夢と遠からずの準備をしていた。
 真秀と他のHappy Around!の面々が、「真秀ならこうするだろう」というような相互の信頼を形成していたから、夢と現が一致したのだろう。『D4DJ All Mix』では、裏方で真面目にライブの準備をするキャラクターが多く描かれている。6話の真秀もそのような人物の一人として魅力的に描かれていた。
 夢か現か曖昧なエピソードを、硬めな表現になりやすいCGで描いたことが印象的だった。真秀の起床の動きを、夢の中では吊り上げられるように不自然に、現実では肘をついて腹筋を屈曲させる自然な動きにするという、CGでこそ映えやすい描き分けで表現していた。冒頭のホラー演出も見事だった。

『山田くんとLv999の恋をする』 第5話「詳しく聞かせてもらおうか」


[選考理由]

  • パラソルの内外や、ポールによる隔たり、テーブルの上と下といった境界線を巧妙に用いて、木之下茜という外向的な人物の内面の奥深さと寛容さを巧妙に描いていること。

 瑠奈はずっと同じメンバーでやってきたギルドに、茜が入ってくることで大事な居場所が変化してしまうことを恐れた。そのため瑠奈は茜にいたずらをして、ギルドから去らせようとした。
 5話後半でそのことを知らされた茜の心情と、瑠奈を許す様子が、パラソルやテーブルによる画面の境界線を用いて巧妙に描かれている。
 まずテーブルの下に隠れた茜の脚の怪我を、瑠奈は見つけて茜を気遣った。茜は瑠奈が相手の隠れた痛みを気遣える子なのだと知ったことで、瑠奈を許すことにしたのだろう。テーブルを画面の境界線にして、会話が繰り広げられるテーブルの上に対して、その下にある脚の怪我に思い至れるかという対比で描かれている。また山田が先に茜の怪我に気づく描写があり、これが瑠奈のシーンの補助線になっている。

 また瑠奈にいたずらのことを聞かされた茜は、自分が瑠奈と仲良くなりたくて来たと素直に語り、それが受け入れられなかったことへの寂しさを笑顔の中に滲ませる。そして瑠奈の望みどおり席に留まり、ポールによって隔たりを作ってあげる。それを聞いた瑠奈のほうから、パラソルの中に入ってきて、ポールの境界線を超えてくる。瑠奈が安心して茜との隔たりを超えられるように、茜はあえて隔たりを認めてあげたのだ。

 本作ではオンラインゲームという題材によって、他者との隔たりを超えられるか、表面上には見えない他者の心情にいかに寄り添えるかを描いている。5話のこのシーンは、そのあり方をリアルの場面にも落とし込んだ描写として印象深かった。

『ヴィンランド・サガ SEASON2』 第20話「痛み」


[選考理由]

  • アルネイズが生きるのを拒み、戦や奴隷が存在する世界への問いを遺す。アルネイズの死までの過程と、それに懸命に向き合うトルフィンやエイナルの姿をじっくりと描いたこと。

『スキップとローファー』 第12話「キラキラ」


[選考理由]

  • 志摩くんが美津未たち級友の姿から何を得たか、ということにフォーカスした最終回。

  • 志摩くんの心情にフォーカスするために、演劇の舞台を印象的に描写している。漫画では心情に寄るシーンでは背景を飛ばすが、アニメではむしろ背景も含めたレイアウトによって心情を表現している。上記のように、漫画の魅力を映像表現に翻訳するための工夫があること。

『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』 第3話「CRYCHIC」


[選考理由]

  • 主人公・燈の一人称視点で全編を描くという挑戦的な演出。

  • その挑戦的な演出が、前後の話数のシナリオと視覚的印象の流れの中で適切に配置されていること。

 3話では内向的な主人公・高松燈の生い立ちと、CRYCHICの結成から解散までの顛末を、全編にわたり燈の一人称視点で描くという挑戦的な演出が行われた。
 一人称視点によって燈の心情に没入して視聴できるとともに、ときおり燈の姿が鏡に映って見えてドキッとさせられる場面もある。CRYCHICの発起人・豊川祥子への憧れも主観的に伝わってくる。
 本作3話の良さは、この話数の挑戦的な演出だけで作られているものではない。前後の話数のシナリオと視覚的な印象の中で適切に位置づけられていることが、3話の描写を効果的かつ必然的なものにしている。
 前の1話と2話では外向的な人物である千早愛音の目線で、燈を内向的でちょっと不思議な小動物のような人物として見せている。1話と2話で燈を表面的に見てきたことで、3話での燈の主観の描写が引き立っている。また2話後半ではプラネタリウムのシーンがあることで、これから内面的な描写に入っていくのだという視覚印象の流れが作られている。
 また3話の後の4話では、燈が落としたノートを、愛音が燈の後ろに回って拾って渡すというシーンがある。愛音の動線と動作、また顔にかかる陰によって、3話で描かれた燈の心情を愛音がたしかに受け取ったことが示唆されている。

 このように前後の話数の流れの中での位置づけによって、3話の一人称視点の演出が、燈という主人公を描くうえで最適なものに仕上がっているのだ。

『七つの魔剣が支配する』 第15話「聖歌(ラストソング)」


[選考理由]

  • ナナオが「箒に跨り魔法を駆使する侍」として完成した姿を見事に描いていること。

  • 1クール15話という特殊な編成によって、オフィーリアの結末までを描いた。「魔に呑まれる」の一言で片付けられてしまうその結末に、見過ごしてはならない一つの人生があることを描き切った。

『SHY』 第10話「寂しい氷と小さな火」


[選考理由]

  • 悪役であるツィベタの生前を明かすエピソードを、脚本、映像、声優の演技によって劇的に描いている。燃えて減っていく蝋燭が象徴的。

『オーバーテイク!』 第12話「オーバーテイク ―Do your best ! ―」


[選考理由]

  • 圧倒的に神経の通った映像。レース前は静かでコミカルなシーンもあるのに、常に一本糸が通ったような緊張感がある。レースは多彩なカメラワークで圧倒しながら、コース内外のドラマにもカメラワークによってフォーカスしていく。

雑感、候補にしていた作品など

 選考理由をちゃんと文章にできた作品と、箇条書きだけになった作品に分かれてしまったのが悔やまれます。箇条書きだけの作品も、すごく心を打たれた話数ばかりです。
 選外ですが候補にしていた作品としては、『星屑テレパス』1話も入れようか相当迷いました。『ビックリメン』12話もよかった。
 TRIGUN STAMPEDE、ひろがるスカイ!プリキュア、アンデッドガール・マーダーファルスなどもいい話数ばかりでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?