『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』5話 – 陰から光に出てしまう長崎そよ

※本文では『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』5話を中心に書いていますが、その後の話数についてもネタバレありで触れています。ご注意ください。

 この文章では『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』5話の、長崎そよと椎名立希が夜にビルの屋上で話すシーンについて、そよに差す光と陰の演出を中心に語っていく。
 本作には人物の動作や映し方などによって内に秘めた繊細な心情を描写するシーンが数多くある。このシーンもその一つであり、長崎そよの複雑な内面が、彼女が陰に入ったり光の当たるところに出てきたりという動きによって描かれている。その心のあり方について読み解いてみたい。
 なおこのシーンについてYouTube配信の「バンドリ!TV LIVE 2023」第185回にて、長崎そよ役の小日向美香さんが柿本広大監督から受けたディレクションについて話していた。その内容と私がここで書く解釈とでは食い違う部分があるが、本文ではあくまで私がアニメを観て思ったことをもとに書いていく。

 前回4話で高松燈、千早愛音、椎名立希、長崎そよの4人でバンドを結成することになった(そこに居合わせた要楽奈も勝手に練習に来てしまい、その流れでバンドに入ることになる)。しかし5話前半では、ライブに出演するかどうかについてメンバー間で意見が分かれてしまう。特にボーカルの燈が「ライブしたらバンド終わっちゃう」と言ってライブ出演への躊躇を見せたことが、以前組んでいたバンド・CRYCHICの解散の経験を共にしている立希とそよの心を揺さぶる。

 その夜、立希とそよはビルの屋上で二人で話す。
 欄干にもたれる立希に対して、そよは外階段に腰掛ける。立希の顔は電光掲示板の光に照らされているのに対して、そよの顔は深い陰に入る。そよの表情がよく見えないほどの、塗りつぶすような暗い陰になっているのが不気味である。深い陰は、そよが何か暗い気持ちを隠していることを窺わせる。
 そよは「ライブやめよっか。このままずっとライブしないで、スタジオだけでバンドして」と言う。これは燈が言った「ライブしたらバンド終わっちゃう」という言葉に賛同するような形だ。それに対して立希は「私はライブしたい」と自分の意見を告げる。そして燈の歌に救われたのだと、自身の心情を吐露する。
 そして立希は「私、またバンドやるってなって嬉しくて。燈も同じと思ってた。けど…」と続ける。そこでそよが「それ、燈ちゃんに言えばいいのに」と口をはさむ。
 このときそよは体を前に乗り出して、彼女の顔は陰から出て光に照らされる。そして「燈ちゃんに立希ちゃんの気持ち、ちゃんと伝えてみよう」と促す。立希はそよの言葉に背中を押されて、燈たちにライブをするべきだと告げることを決意する。それにそよはうんと頷き、再び陰の中に戻る。

 上記のようにこのシーンでは、そよの顔が深い陰に潜ったり、そこから光へと出てきたりという動きが映されている。そよの顔にかかる光と陰はどのような心情を表しているのだろうか。
 それを考えるには、そよがどんな話をするときに陰と光を行き来するかに着目するべきだろう。またこのシーンの後の展開や、今後の話数で描かれるそよの人物像も参照してみたい。

 まずそよが陰から光へと出てきたタイミングは、立希が「私、またバンドやるってなって嬉しくて。燈も同じと思ってた。」と言った後である。この言葉を聞いたそよは光に出てきて、立希の気持ちを燈に伝えるべきだと促す。
 後に8話や9話で明らかになることだが、そよは解散してしまったCRYCHICに深い思い入れを抱いており、いまだにCRYCHICが解散したということを受け入れられていない。そしてCRYCHICのメンバー全員がまた集まりたいと思っているはずだと思い込んでいる。またCRYCHICでの活動中も、祥子の「運命共同体」という言葉に感化されるなど、メンバーがみんな一緒であることに強いこだわりを持っている。
 そよのこのような人物像を考えると、立希が燈と気持ちを共有したがったことが、そよには嬉しかったのではないかと思われる。しかもバンドをまたできて嬉しいという気持ちは、そよも共有しているものだ。
 そよははじめライブをした後にCRYCHICが離れ離れになってしまった過去が再現することを恐れて、ライブをしたくないという停滞の気持ちを抱いていた。だから陰の中にいたのだが、立希の言葉を聞いて、そよは立希や燈と気持ちを共有できると期待を抱いたのだろう。そして立希を後押ししたいと思ったから光に出てきたのではないだろうか。

 そよに背中を押された立希は、後日バンドメンバーの前でライブに出るべきだと意見を述べ、そこで燈の歌をみんなに聴いてほしいという素直な気持ちを伝える。人当たりの強い立希は、今まで自分の素直な気持ちを言葉にすることができていなかった。今しっかり話せているのは、そよと対話して後押しを受けたからだろう。またこの場ではそよが最初に話の導入をしており、立希が自分の意見を言いやすい場を作っている。
 そよは、立希がライブをしたいと言えるようにアシストしているのだ。そよ自身はライブをすることに消極的だったにもかかわらず、立希と燈が気持ちを共有することを優先して、自身の意見は表に出さずに場を取り持っている。
 立希の主張をきっかけにバンドはライブ出演に向けて動き出し、MyGO!!!!!の結成へと向かっていく。

 (ちなみにこの話し合いで、立希の厳しい言葉を受けた愛音が一度逃げだしてしまう。これはCRYCHIC再結成を目論むそよにとっては望ましい状況だろう。先の屋上のシーンで最後にそよが陰に戻ったことも加味すると、これはそよが立希を自身の思惑のために誘導しているようなシーンにも見える。そしてどうやらそよ役の小日向美香さんは、柿本監督からそのようなディレクションを受けていたようだ。私が誤読しているのかもしれないが、そこは置いておいてほしい。
 なお逃げ出した愛音は燈に引き留められて、ライブに出る決意をして戻ってくる。そよの働きかけは結果として、愛音を含む新バンドが力強く歩みを進めるのを助けることになってしまった。またそよがやっている言動は思惑はどうあれ、客観的には筋が通ったものであることも重要である。)

 そよは自身の主張よりも、CRYCHICのメンバーが一緒でいることを優先してしまう人なのだろう。そしてこの後の話数で、そよの各メンバーへの働きかけもむなしくCRYCHICの再結集は果たさなかった。そのかわりにMyGO!!!!!という新しいバンドの結集という形で結実する。
 そよの思惑は叶わず、ときに自身の思惑とは反する行動さえとってしまう。しかし思惑とは違う形になったとしても、仲間たちの心をつなぎとめる重要な役割を果たしているのだ。
 表に出せない思惑を抱えていても、仲間の結集のためには後押しに乗り出してしまう。そんな複雑で憎みがたいそよの人となりが、光と陰によって描かれているのではないか。

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