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第96回アカデミー賞期待の作品紹介No. 4「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」


AWARDS PROFILE Vol. 4

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン

RT: 93%
MC: 89
IMDb: 8.0

 1920年代に石油事業で世界でも有数の富豪となった先住民のオセージ族。そんな彼らのビジネスに巧妙に潜り込み乗っ取ろうとする強欲な白人たち。そんな殺伐とした状況は、のちにFBIとなる捜査局が動くほどの先住民連続殺人事件を引き起こしてしまう...

 デヴィッド・グランによる「花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生」を原作に、アメリカ映画の名匠マーティン・スコセッシがメガホンをとる。レジェンドの下には名優が集まるということで、レオナルド・ディカプリオ、リリー・グラッドストーン、ロバート・デ・ニーロ、ジェシー・プレモンスなど素晴らしい顔ぶれが揃っている。監督はオセージ族の首長と会談をし、事件の起きた土地で、その時代とその時を生きた人々を正確に描くために心血を注いだそうだ。カンヌ国際映画祭でお披露目されて、あらゆる面から重厚な評価を受けている。人種差別、連続殺人、犯罪に対する人々の執着心等々、現代にも重なる前世紀の諸悪が鮮やかに描かれる。アメリカと先住民の闇に葬られた歴史的関係性やアメリカの権力についてのヴェールに包まれた真実、FBIの誕生が濃密に絡み合う。3時間半という長尺を一切の無駄のない演出と、緩むことのない緊張感で突っ走る。キャストはアンサンブル劇として最高で、ディカプリオはヒーローでもなければ、カリスマ的無法者でもない、欲の亡者のただの言いなりとして嫌悪感を伴う複雑なパフォーマンス。デ・ニーロはその極悪な金の亡者でギトギトした存在感を放つ。なかでも映画のハートとなるのはオセージ族のモリーを演じたグラッドストーンだ。ディカプリオ演じるアーネストの妻となるも、彼の裏切りにより、家族である先住民たちが謎の死を遂げて、また彼女自身も体を弱くしていく。またスコセッシの盟友、故ロビー・ロバートソンのスコア、ロドリゴ・プリエトによる撮影も文句のつけようがない。巨匠によるオセージ族に対する敬意とアメリカに対する正直で鋭い視線に目が釘付けになる。石油と血が飛び散る犯罪ドラマでありながら、歪んだ結婚のドラマでもある今作は、紛うことなき悲劇の傑作と賛辞がやまない。

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