2024年度研究書評-自発的な賃上げを促進する方法




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参考文献:青山悠「スト軸に労組主導の24春闘を」労働戦線NOW

〈選択理由〉
今回取り上げた文献は、青山悠の「スト軸に労組主導の24春闘を」だ。選択理由は、今回の春闘で労働組合はどのような働きを行ったのか、またどういう立場を取っているのかを理解するためである。

〈要約〉
連合の芳野友子会長は、岸田政権に対して「国際水準の政労使対話として、感謝し評価」と賛意を示した。一方、全労連は12月岸田政権の「金権腐敗」「戦争国家づくり」など「悪政の数々のすえ国民の信頼を失った自公政権に退陣を求める」「24国民春闘で労働者・国民の要求実現の闘いと国会闘争に全力を挙げる」とする談話を発表し、連合との違いを明白にした。経団連の経営労働政策特別委員会報告は、賃金引上げは社会的責務を謳っていたが。実質賃金の-改善にはふれず、ベアを自社型に分散させ、「円滑な労働移動」として配転・転籍や違法解雇の合法化を提起した。
春闘の争点である「ベア」については有力な選択肢として昨年よりも前向きに進めている。しかし、具体的な賃金決定は従来通りの「総額人件費」「支払い能力」などで「賃金決定の大原則」の方針に変わりはなく、「自社の実情に適した賃上げ」「多様な方法」を提起している。その結果、ベアは初任給、子育て、世代への歴代への重点配分や査定配分などに分散し、賃上げも多様な手当や一時金などに分散している。
人事制度では、「円滑な労働移動」やリストラを提起し、そのためのリスキリング政策を提言している。さらに「解雇無効時の金銭解決制度」など違法解雇の合法化も要求。労働時間法制で裁量労働制の適用拡大も求めている。また法定賃金の破壊まで踏み込んでいる。

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参考文献:公益財団法人 連合総合生活開発研究所「持続的な賃上げにつながる社会経済の構築」2023 ~ 2024 年度 経済情勢報告 〈*23-3090 2023-2024 経済情勢報告.indb (rengo-soken.or.jp)〉

伝統的な経済学では、人手不足で労働市場の需給が逼迫すると、価格調整機能にしたがって実質賃金が上昇し、新たな均衡が実現するとされている。しかし、日本は深刻な人手不足にもかかわらず、市場メカニズムが想定するような、賃金の上昇が見られない状況が続く。つまり、物価上昇を上回る賃上げは実現していなく、実質賃金は低下している。勤労者の実感は、「賃金の増加幅よりも物価上昇幅の方が大きいと回答し
た割合が前回調査を上回り6割超え」(2023年4月調査 連合総研「第45回勤労者短観」)となっている。2021年に入り、相対的に賃金の低いパートタイム労働者の増加により、パートタイム労働者比率が若干の押し下げに寄与しているものの、一般労働者の賃金の増額が、現金給与総額の増加要因となっている。
賃金の動向を産業別にみると、人手不足感の強い「運輸・郵便業」「宿泊飲食業」「生活関連サービス・娯楽業」等で、比較的大きな賃金上昇率となっている。
経常利益が増加するなかで、配当金を大きく増やしていることがわかる。さらに、社内留保も2010年代以降大きく増加している。その一方で、従業員一人当たりの給与、役員一人当たりの給与はほとんど伸びていない。
さらに賃上げの流れの維持・拡大を図り、非正規雇用労働者や中小企業にも波及させていくためには、最低賃金による底上げが重要である。
生産性を向上させるための施策としてリスキリング(OJTやOFF-JT)が挙げられる。企業自ら新たな時代に対応した経営戦略を立てた上で、社内における適正な人員配置に向け、昨今の急速な技術革新等に伴う業務内容や知識・スキルの変化に対応した人材像を具体的に労働者側に提示するとともに、必要とされる能力やスキルを労働者が習得できるよう、企業の責務として必要な研修機会を提供するとともに、適正な人事評価制度及びそれに連動する賃金制度の導入などの環境整備を労使合意の上で進めていく。一般社団法人 人材サービス産業協議会が2023年3月に公表した「ジョブチェンジ転職/採用実態調査」結果によれば、①転職前後で業種/職種が変わることによって収入がアップする転職者の割合は42.1%で、変化がない転職者の割合よりも若干高く、特に3割以上アップした割合より約5ポイント高い、②業種/職種が変わることによって収入が3割以上ダウンする転職者の割合は14.4%で、変化なしの割合より約9ポイント高い。筆者は、連合は「まずは魅力的な労働条件の提示や雇用の安定が展望できることが重要であり、政府は、労働者が自ら移動したいと思える魅力ある産業の育成・支援に注力すべき」と主張してる。
※この調査の母数は、消極的な理由で転職した労働者を含む転職入職者であることに留意する必要がある
また、企業主体のリスキリングを受講することが難しい中小企業労働者、非正規労働者への対応も重要である。




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参考文献:山田久「変わるわが国賃金環境と 2024 年春闘の課題~実質賃金プラス転化の条件~」日本総研、2024 年 1 月 19 日No.2023-022

〈内容総括〉
今回の文献は、山田久の「変わるわが国賃金環境と 2024 年春闘の課題~実質賃金プラス転化の条件~」である。選択理由として、過去30年間賃金が上がらなかった要因の仮説出しが足りていないと思い、再度捉え直したいと考えたからである。

〈内容〉
まず、山田(2024)は、2023年の賃上げ率が30年ぶりの高さとなった背景を3つ示唆している。1つ目は、国際的に見て日本は高賃金国と言えなくなり、その危機感が経営者や労働者の間に広がった。2つ目は、人手不足の深刻化である。3つ目は、インフレ率の高まりだだ。インフレ率が 40 年ぶりの高水準になるなか、生活水準の低下で従業員のモチベーションが大幅悪化することを懸念した企業が相次いで賃上げに踏み切ったと推測している。
賃上げ状況をミクロ的に分析すると、企業ごとのばらつきが大幅に拡大していることが分かった。加えて、厚生労働省「賃金引き上げ等の実態に関する調査」からは、中小企業の賃上げ率は高まったものの、大手には劣る状況が確認できる。また、日本商工会議所の調べ(「商工会議所LOBO」)によれば、今回中小企業が賃上げに踏み切った背景には人材確保のほか物価上昇、さらには最低賃金の引き上げがあるが、業績の改善が見られないが賃上げを実施する「消極的賃上げ」が多くを占めているのが実態であることが分かった。
特に筆者は物価環境の変化に着目し、これは世界経済のフレームワークの変化に根差していることを指摘している。コロナ・パンデミック直後は一時的にデフレ懸念が高まったが、その後世界が物価上昇に直面することになった。この底流には1989 年のベルリンの壁崩壊以降のグローバル化・ボーダレス化の潮流が逆流し始めたことがある。このきっかけには中国の世界経済への参入であり、習成形誕生以降は領土問題をめぐって諸外国との摩擦を恐れない姿勢になった。これによって経済効率よりも安全保障を優先する時が到来し、貿易小駅の高まりや物流経路の迂回化などにより、各種の経済取引コストが高まる局面に移行した。日本では、90 年代に入って以降日本の産業界では人件費抑制スタンスが強められ、低金利政策が長期化するなか、コスト削減優先の経営姿勢が定着した。これによって「低賃金・低物価・低金利」のいわば「三低経済」が常態化した。また、世界的なデジタル革命の流れに遅れ、わが国産業の国際競争力は相対的に低下し、世界市場における日本企業の輸出シェアは落ち込んだ。加えてグリーン革命にも乗り遅れて原発のシェアを大幅に低下した結果、再生可能エネルギーへの対応の遅れは化石燃料への依存度を大きく高めることになった。以上のような世界的な低コスト時代の終焉=コスト高の時代への転換は、「双子の赤字(貿易赤字と財政赤字)」を生み出すことになった。構造的変化の遅れによって輸出シェア(外需)が低下し輸入コストも上昇した結果、貿易赤字に陥った。さらに超低金利政策の持続は財政支出に対する規律を失わせ、一方で賃金抑制が政府歳入を下押しする要因になり、巨額の財政赤字が毎年継続され、国家債務は累増の一途をたどった。
次に筆者は日本の賃金問題として、賃金の支払い原資に直結する名目労働生産性が低迷していることを挙げている。実は時間当たり実質労働生産性はそれなりに上昇している。この名目生産性が伸びない背景には、物価の低迷である。つまり、賃金低迷の真因は物価の低迷であると指摘している。デフレの長期化は金融政策のみでは説明できず、結局は「物価は上がらないものだ」とする企業や家計の社会通念、すなわち「ノルム」2が日本社会で形成されたことが、決定的な影響を及ぼしてきたとの見方が説得的だと主張している。また労働生産性伸び率が鈍化する結果として単位労働コストが上昇してきていることを指摘している。

〈総括〉
春闘の結果では中小企業の賃上げの波及が足りていないことが分かっていたため、「中小企業の賃上げ率は高まったものの、大手には劣る状況が確認できる。」と矛盾していると思った。しかし、中小企業の賃上げ率は大手に劣るものの賃上げ額や賃上げに踏み切る企業数を比べると大手企業の方が勝っているため留意する必要がある。筆者は、実質賃金の持続的上昇には「名目賃金の引き上げ」「労働生産性の引き上げ」「価格転嫁の適正化」が重要であると指摘している。改めて、賃上げ率が低迷している要因を捉えなおしたことで整理することができたので良かった。「ノルム」に関しては、深く調べたことがなかったため調べてみようと思う。


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参考文献:全労連雇用・労働法制局長 伊藤圭一「岸田内閣の雇用・労働政策の特徴と問題点」

〈内容総括〉
今回取り上げた文献は、伊藤圭一「岸田内閣の雇用・労働政策の特徴と問題点」である。選択理由は、岸田政権が推進している「経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現~」(「骨太方針」)の内容を正しく理解し、どのような懸念点があるのかを専門家の意見をインプットするためである。

〈内容〉
骨太方針の冒頭には、過去30年間のことを以下のように振り返っている。「日本企業は、新興国企業との競争のもと、コスト削減を優先して海外生産比率を高め、国内投資も賃金も抑制してきた」。そのことが「日本のデフレ経済、イノベーションの停滞、不安定な非正規雇用の増加や格差の固定化、中間層の減少などの課題をもたらした」と書かれている。これは第二次岸田政権にも維持されており、23年春闘の30年ぶりの賃上げで既にスタートが切れていると自賛している。政労使がそろって賃上げに取組んでいる姿勢を演出していることは、労働者の中には評価するものもいるかもしれない。しかし、伊藤は「構造的な賃上げ」のために推し進めている政策、法制度の見直し、就業規則・賃金改定の変更の内容をみると労働者の要求とは真逆なことを進めていると指摘している。以下では、どんなことが行われようとしているのかを伊藤が解説している。
まず、23年5月に発表された「三位一体の労働市場改革の指針」は「➀リスキリングによる能力向上支援、②個々の企業の実態に応じた職務給の導入、③成長分野への労働移動の円滑化」が具体的な内容である。ここで伊藤は賃上げの三本柱がリスキリング・職務給・労働移動であることに疑問を抱いている。賃上げ実現のための主な施策としては、最低賃金の引き上げやそのための経営環境整備、賃上げにおけるベア実施の推奨政策、公務・医療・介護・福祉・子育て支援といった分野の労働者のための公定価格の引き上げ、大企業の内部留保にみられる過剰蓄積の解消政策と中小企業の単価改善などが挙げられる。「三位一体の労働市場改革の指針」によれば、「企業は人に十分な投資を行わず、個人は十分な自己啓発を行わない状況が継続してきた。」と指摘している。これは、日本企業の活力が低迷する一因ではあるが。「人への投資」の増加を企業に促しはするものの具体策は提起していない。また、企業が適切に賃上げ要求にこたえてこなかったことや男女分業社会を背景に女性の非正規雇用者が増え実質賃金の下押しの原因になったことは触れられていない。一方で、労働者個人がスキルアップを怠ってきた背景の分析と労働者の行動に変容をもたらすために企業がすべき対応は具体的に書かれている。ここでは「年功序列賃金制度」のあり方について書かれている。伊藤は、「正社員は年功序列賃金制度に安住し、職務に必要なスキルを磨かず、業務遂行に熱意をもたず、自己啓発をさぼり、転職も怠ってきたから賃金が低迷している」と概要をまとめている。しかし、「ジョブ型人事制度に適合した職務給」を導入済み、予定のある企業の事例を見ると、中高年層の賃金水準の低下をもたらしていると指摘している。また他にもジョブ型雇用に移行するための前作業であるジョブディスクリプション(担当する業務についての職務内容を詳しく記載したもの)の策定は人材コンサルかた提供されたモデルを元に作成されるが、各賃金水準は「外部労働市場の価格を意識」して設定していることが多い。そのため、多くの労働者は内部労働市場で規定されていた頃の賃金よりも少なくなるだろうと推測している。
リスキリングにかんしては、副業や兼業を推奨されており個人主義的行動に走らざるを得なくなり、労働組合の弱体化が進み団体交渉による集団的賃金決定の仕組みはさらに弱まると推測している。リスキリング政策に関しては世界各国で推進されており、背景として技術革新による産業の変化の波に対応するためである。しかし、EUでは公的職業教育の拡充政策を進められているが、その目標としては解雇・転職を回避し今の事業所での雇用を守ることに重点が置かれている。日本はこの逆である。この理由として、「三位一体の労使市場改革分科会」の10人のメンバーに関して、労働組合関係者1人、ジョブ型雇用を推進している企業の役員や人事担当、学者の2人のうち1人は大企業の社外取締役を歴任し経営コンサルタントしている、あとの4人は人材ビジネス関係者である。つまり、人材ビジネスに市場拡大+政府による補助金によって、利権や労働者の個別管理化や違法性が問われにくいリストラの仕組みを手に入れたい経済界によって生み出されたものである。
岸田政権によるリスキリング政策は以下である。➀能力開発に関する政府予算における個人への直接支援拡充(企業経由75%→個人経由50%超えへ)、②Off-JT教育の支援、③スキルの履歴の可視化、④ハローワーク、職業訓練校によるリスキリングのコンサルティング機能強化(将来的には民間が介入)、➅教育訓練給手続きのオンライン化、➆雇用調整助成金における教育訓練の優遇、⑧リスキリング中の労働者の自己都合離職の失業給付、⑨退職金課税の軽減措置の見直し、⑩自己都合退職の退職金不利益等撤去のための厚労省モデル就業規則変更、⑪求人・求職・キャリアアップに関する官民情報の共有かと官民におけるキャリアコンサルの体制整備、⑫公共職業訓練制度のオンライン申請、⑬副業・兼業の受け入れ、送り出し企業への支援、⑭厚労省関係の情報インフラ整備などである。
また、労働基準法・労働時間法制の改悪も進行中であると指摘している。具体的には、「法定労働時間は存続するが、労使協定でも労使委員会の協議でもなく、「労使コミュニケーション+個別同意」によって規制を打ち破るできるようにしているということだ。これは、「従来と同じ働き方を希望する労働者」に対しても外からの圧力がかかるかもしてないと危惧する。それを阻止する役割として労働基準監督官がいるが、日本はILO基準の3分の1と非常に少ない。

〈総括〉
岸田政権が推し進める構造的賃金を実現するための施策を理解できた。しかし、政策決定には利権が関わっていたり、労働基準監督官という存在を新発見することができた。特に、労働基準監督官の具体的な役割やメリット・デメリット、日本が国際的に少ない理由を考察してみたいと思う。

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参考文献:加藤俊彦「日本企業における付加価値の創出ー事業組織状況からの検討ー」 【経営学論集第87集】統一論題 サブテーマ① 社会的課題と企業戦略

〈内容総括〉
今回選んだ文献は、加藤俊彦の「日本企業における付加価値の創出ー事業組織状況からの検討ー」である。本稿では、日本企業が直面する課題である生産性の低下(付加価値の低下)に対して、事業組織の状況を中心に考察を進める。具体的には、まず日本企業の収益性と付加価値の状 況を概観した上で付加価値率が低迷している点を確認している。その上で、大手企業を対象に調査 し、日本企業の事業組織において解決すべき問題について事業戦略 と組織特性の側面から具体的に検討している。選択理由は、日本の生産性が低下している様々な要因を分析するためである。

〈内容〉
まず、資本金10億円以上の大手企業を対象に1989年から2014年までROA(総資本経常利益率)、ROS(売上高経常利益率)、付加価値率の3つの指標の推移を調査した。結果は、ROAとROSはバブル後期から落ち込んだものの徐々に回復傾向であった。それに対して、付加価値率は低落傾向にある。90年代には20%台であったが、近年(2014年頃)では15%を下回っている。この調査結果から、筆者は利益率が上昇しているにも関わらず付加価値率が低下しているのは他の要素への配分を減らして利益を増やし付加価値が内部で分配されている可能性を示唆している。この対応策として付加価値の大半を占める人件費を減らすことが挙げられる。つまり、労働分配率が低い。しかし、OECDの調査によると日本の労働分配率は平均であるためあまり論点にはならないといえる。また、労働分配率を景山させたとしてもパイ自体が拡大しなかったら株主への還元や企業による設備投資の部分にしわよせが行く可能性がある。
一般的に、付加価値を増大させるにはイノベーションが重要であると考えられる。「コアコンピタンス」の重要性を提唱したHamel and Prahalad(1994)や事業活動を通じて維持・強化される「見えざる資産」(invisible assets)の意義を重視した Itami(1987)は,技術をはじめとする経営資源を企業内部に蓄積して、それを基盤として成長してきた点に日本企業の強みであると指摘している。しかし、これらを1980年代までの日本企業を対象に分析したものであり今日の日本企業に維持されてるのか、またこの強みは今の時代の流れに適応したものなのかは検証する必要がある。
筆者は、優れた経営資源を保有していれば、製品市場において高い成果を直ちに生み出されるわけではないということに注意している。(優れた技術を開発した企業が、製品市場において優れた成果を常に生み出すとは限らない。)この経営資源を保有することと経営成果とのギャップは戦後から指摘されている。この先駆けとなる研究で、Burns and Stalker(1961)による「機械的組織」と「有機的組織」という2つの組織特性と、外部環境との適合関係を議論した先行研究である。この60年以上前の英国企業を対象とした調査では、「革新的な技術を開発したとしても、市場の動向やニーズを迅速に把握し製品市場で活用できなかったら成果につながらない」という知見を得られた。
次に、筆者は「日本企業の付加価値が低迷している根本的な要因は革新的な技術のような経営資源の欠如によるものなのか?」というRQに対して大手製造業を対象に調査を行った。2000年代後半に戦略目標の重視度と、対競合他社の収益性の相関関係を分析している。結果、6つの戦略目標のうち、製品差別化が他の戦略目標と比べて圧倒的に重視されている一方で、製品差別化の結果として期待される収益性との相関は有意ではない、つまり相関関係ではないことが分かった。研究結果から、2点のことが分かった。1点目は、日本企業は技術などの製品差別化を強く志向するということ。一方で、この志向性が業績の向上に結びついているとは限らないということだ。2つ目は、売上向上や市場シェア拡大の考え方は、特に成熟した市場ではネガティブな影響を及ぼすということが。具体的には、成熟した市場では製品の差別化は難しいため価格競争力が高くなる。以上のことから、日本企業の事業組織では、製品差別化という比較的単純な戦略が志向されており、ときに価格競争力で売上拡大などを目指す方策がとられたりするため労働投入(努力)に見合った業績があまり得られていないのではないかと推察している。つまり、筆者は「戦略リテラシー」の欠如を指摘している。
次に筆者は、日本企業が製品差別化ではなく「戦略リテラシー」を充足させ高い成果を出せる組織とはどういうものかを提唱するために、主要な組織特性を独立変数、組織の〈重さ〉(*組織自体を統合することの難しさを示す指標〉を従属変数とする回帰分析を行った。この結果から、(a)組織の目標が成員個人の目標として具体化しているほど、(b)階層間でのコミュニケーションが円滑であるほど、(c)事業部長が具体策発信や対外影響力を中心としてリーダーシップを発揮しているほど、(d)意見が対立した際に,先送りではなく、議論を通じて解消しようとするほど、事業組織として望ましい状況であることが分かった。
以上2つの研究結果から、「厳しい 制約を緩めて、自由な発想で自律的に行動した り、新しいアイディアを生んだりすることで。 成果を高める」というような発想とは対極的 な事業組織が少なくとも現在の日本企業では 高い組織成果を達成していることを指摘している。

〈総括〉
今回の研究書評では、日本市場では製品の差別化(経営資源の豊富さ)と収益性は相関関係にないということとある意味規律が厳しい事業組織の方が収益性が高いという意外な結果を得ることができた。しかし、相関関係がないとしても製品の差別化と収益性には因果関係があると思うし、実際に今日の企業が豊富な経営資源を持っていることに関しては懐疑的である。この点に関しては、しっかりと調査する必要がある。


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高平 伸暁「企業間下請関係における収奪問題の研究」

〈内容総括〉
この文献では、実際に収奪的な関係が引き起こされる現場の当事者の心理についての分析を行っている。大企業の購買・調達担当者に対する心理学的な調査を行い、各担当者の収奪促進的購買態度を計測するとともに、どのような心理的態度がそれと深く関わっているかを分析している。この分析を通じて、購買担当者の収奪的な心理の背景要因や構造を明らかし、収奪問題の緩和策の検討に資する知見を提供している。選択理由は、下請け構造は現場の社員の心理的要因に起因する部分があるのではないかと仮説立て、それを検証するためである。

〈内容〉
これまでの収奪問題の緩和・解消措置として,1950年代から1970年代にかけては、「過当競争(競争によってえられる国民経済的利益よりも競争に伴って失われる国民経済的損失の方が大きい状態)」の緩和を目的とした,中小企業カルテルの容認と大企業の中小企業分野への参入規制等の措置が取られた。また 1980 年代以降は、「優越的地位の濫用」の規制により、違反した事業者に対し罰則を科す等の措置が取られた。 前者は収奪が生まれる構造そのものを変えることで収奪を緩和する措置であり,また後者は収奪を行う事業者の個人的利益を低減させることで収奪の発生を抑制する事を目的とした措置であり,収奪に対するアプローチの方法は異なるものの,いずれも「構造的な施策」であると言及している。しかしながら、効果やその手法に対する強い批判が存在し、90年代から現在に至るまで収奪問題が悪化している状況を踏まえると、これまでに行われた収奪緩和措置が十分な効果を発揮できていないと指摘する。そこで筆者は.自由競争を是とする資本主義社会において,企業の行動を全面的にルール化することは不可能であり、現場当事者の「裁量」がかなりの程度取引に影響を及ぼしている点から大企業の調達・購買担当者や中小企業の営業担当者を始めとする関係者の態度や行動原理を理解する必要があると考え分析している。
研究結果によると、「購買マニュアル遵守」行動は、購買担当者の自社組織の職務遂行への誠実さの一種であると考えられ、近年の購買マニュアルにおいては一般にコスト節約の追求のみならずサプライヤーとの適切な関係の維持が定められていることから,「サプライヤーへの配慮」「購買コスト改善意識」の双方に対して正の効果を及ぼすと考えられる。購買マニュアル遵守意識、購買コスト改善意識は、いずれも職務遂行への主体的な誠実さを意味しており、権威主義組織、反社会性とは負の関係にあると想定できる。一方、サプライヤーへ配慮も取引先に対する誠実さを意味することから、権威主義組織や反社会性とは負の関係にあると想定できる。購買担当者が反社会的であることや、組織が権威主義的であることは、「サプライヤーへの配慮を考えない」という回路での収奪促進効果を持つ可能性が考えられる一方で,「自社の職務遂行の誠実さ」に起因する収奪現象に対しては抑制的な効果を持つ(自社の職務遂行の誠実さはなくなり、それによるコスト削減には至らない)可能性があることが分かった。
この研究の重要な示唆としては、「道徳性」の改善のみを試みた場合、必ずしも収奪行為が抑制されるとは限らない。なぜなら、自社の職務遂行への誠実性が高まることで、コスト削減の努力が加速される可能性があるからである。つまり、「権威主義的組織」や購買担当者の「反社会性」を低減させるだけでは不十分であるといえる。権威主義的組織や購買担当者の反社会的パーソナリティーが弱い場合、サプライヤーに対する配慮は高まる一方で、自社の購買マニュアル遵守意識と購買コスト改善意識が高まるという構造が存在する可能性があると指摘している。(自社の購買マニュアル遵守意識が向上すると購買コスト削減の努力が加速していしまう。)

*反社会的パーソナリティ・・・
*権威主義組織・・・人間関係を水平では無く,垂直的(上か下か)に捉える特性である事

〈総括〉
今回、権威主義的組織や購買担当者の反社会的パーソナリティーが弱い場合、サプライヤーに対する配慮は高まる一方で、自社の購買マニュアル遵守意識と購買コスト改善意識が高まるという構造が存在する可能性があることが分かった。しかし、自社の購買マニュアル遵守意識が向上すると購買コスト削減の努力が加速してしまうという懸念点も挙げられる。つまり、企業組織の道徳性向上のみのアプローチでは下請け構造問題の緩和解消には至らないということだ。下請け構造問題を心理学的角度から分析した文献が他にないか調べてみようと思う。

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高平 伸暁「企業間下請関係における収奪問題の研究」

収奪問題の要因は、生産の東アジア化だと指摘されている。グローバル化に伴う東アジア企業との競争に立たされ、大企業はこれを利用して下請け価格を強引に引き下げた。大企業は国内下請け企業に賃金が日本より大幅に低い中国などの価格を提示して、受け入れられない場合は中国へ発注した。そのため、下請け企業はアジア価格を受け入れざるを得ない状況になり下請け単価は急激に低下した。

現状
大阪シティ信用金の2020年における大阪府下の企業1400社を対象にしたアンケート調査によると、「親会社などの取引先から自社の製品の、サービス等の値下げ圧力を感じている」と回答した企業は全体の76.6%、「仕入れ価格の上昇分を十分に転嫁していない」と回答した回答は81.0%と、下請け中小事業者は依然として十分な価格転嫁が取り行われていないことがわかる。
中小企業分野は「過当競争性」を特徴とするため、寡占大企業からの価格引き下げ要請に抵抗できず受け入れてしまう。過当競争性とは、「競争によって得られる国民経済的利益よりも競争に伴って失われる国民経済的損失の方が大きい」状態のことである。具体的には、競争が激化している環境下で個々の事業主が短期的な受注を優先した近眼的な判断により、劣悪な取引条件を受け入れ、長期的な事業継続を難しくするという構造である。つまり、これが慢性化すると大企業による収奪は容易になる。

収奪問題には直接的に「価格」とは関係ないものもある。例えば、親事業の支払い遅延、技術を対価なしで流用することなどが挙げられる。また労働の収奪(賃金切り下げ)という形で収奪が労働者へ転化されることがある。

戦後日本の収奪問題の遷移
1950年代半ば 中小企業の方が大企業の収益率よりも高く、収奪される存在ではなかった
             ↓
1960年代以降 中小企業の発展性、国民経済への積極性から捉えた「積極的中小企業論」が多く展開された
             ↓
バブル崩壊の1990年代 収奪問題の激化


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〈内容総括〉
今回呼んだ文献は、玄田有史「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」を呼んだ。理由は、企業業績は回復し人手不足なのに賃金が思ったほど上がらないのはなぜか?という問題に対して22名の労働経済学者・得お好みストがミクロ経済学、マクロ経済学、行動経済学などの様々な角度から議論している文献のため、広い視野で賃上げという問題を捉えることができると確信したからだ。

〈内容〉
経済学のメカニズムでは、人手不足で価格調整機能にしたがって実質賃金が上昇する。しかし、日本では深刻な人手不足にも関わらず賃上げがみられない状況はずっと続いてきた。この要因としては、非正規雇用が増加したという「構成効果」も考えられるが、賃金が柔軟に上昇しない「価格効果」の影響があると指摘している。

「価格効果」が働かない要因
労働分配率
労働生産性

第1章 近藤絢子「人手不足なのに賃金が上がらない三つの理由」

前提
「人手不足なのに賃金が上がらない」業種とは?
・医療・福祉
・卸売業・小売業
・サービス業
・宿泊業・飲食サービス業

〈医療・福祉〉
・背景
就業数が増加している。→高齢化に伴い医療や介護サービスへの需要の高まりで求人数が増えたから
・要因
診療報酬制度や介護報酬制度によって医療・介護サービスの価格が抑制されている。
→国が介護サービスごとの単価として介護報酬を定め、これによってサービスの価格が決められている。介護事業者の大半は介護保険利用者であるためこれに従う必要がある。つまり、サービス利用者が増えても勝手に値上げすることができない。
・対策
介護報酬は3年に1度改定される。しかし、介護保険の利用者が増加すると支出が増えて税制が圧迫されてしまうので国は介護報酬を低くしようとする。→構造的問題
介護職員処遇改善加算の創設

→医療・福祉は公的保険からの給付に依存する産業であるためこれらの問題は避けられない。

〈卸売業・小売業 サービス業 宿泊業・飲食サービス業〉
価格競争や原材料費の高騰によって、コスト削減圧力がかかる。つまり、需要超過ではなく雇用条件が悪化した結果、人手不足に陥っている。(給料を明示的に引き下げる企業はないにしても、1人当たりの仕事量を増やし賃金が変わらなかったら賃金が下がったのと同等である)

人手不足の要因
➀離職率の増加
②労働需要は増加しているが供給が足りていない。

独立行政法人労働政策研究・研修機構が2016年1から2月に実施した調査では、約6割の企業が「中途採用の強化」「採用対象の拡大」を回答しているが、残りの44%は「業務の効率化を測る」と回答している。筆者は、短い時間で多くの仕事をこなすように従業員に圧力をかけることになっていないか懐疑的である。

〈利益が上がっても賃上げに踏み切れない企業の要因〉
労働者の心理的要因
→賃上げよりも賃下げの方が労働者のモチベに影響が大きいため、一度賃上げを実施すると下げれないというジレンマに陥る

『地道な複合的な要因解明が必要である。』と指摘する。

第2章 小倉一哉「賃上げについての経営側の考えとその背景」
1997年の金融危機によって、20世紀末の賃上げ率は一気に低下した。その後もITバブル崩壊のショックによりさらに低下した。2000年代前半は、「いざなみ景気」と言われる景気回復期を迎えるが、実感がなかった。
今回は、経営者の意向に焦点を当てている。大手企業中心の経団連は、「マクロレベルでの生産性基準原理」、「ミクロレベルでの企業の支払能力」を賃金引き上げの原則としている。なお今回は、全体的な賃上げの底上げに相当するベースアップに注目して、賃金の動向や意向を調査している。歴史的に分析すると、経団連はベアを否定する声が13年まで続いていたが、14年になってようやく「選択肢の1つ」としてベアを容認することになった。ベアが実施されていなかった間、成果主義的な賃金制度が導入された。その制度の元、成果や貢献度の低い従業員の賃金は導入前より低いと推測し、これは賃上げ率の低位停滞の一因であると分析している。成果主義的な賃金制度が広がる背景には、ガバナンスの変化が挙げられる。従来のメインバンクという安定株主の割合が減り、ファンドや外国人株主などの割合が増え株主重視の経営が求められて、雇用調整や賃金の支払い方にも影響していると指摘している。また、野田・阿部(2011)によると、外国人株主の影響が強い企業ほど賃金が低いことが実証分析されている。またリーマンショックや東日本大震災、アベノミクス、グローバル競争の激化など日本経済は急激に変化していた状況下、経営側は経済の先行きの不透明感に不安を覚え、労働者側は雇用安定化の要求が強まった。これによって賃上げに至らなかったと指摘する。



5/23

〈内容総括〉
今回取り上げた文献は、中小企業庁の「価格転嫁・取引適正化対策の最近の動きと今後の方針」である。選択理由は、中間発表で大企業による買いたたきがある以上生産性が向上されず企業主体の賃上げにつながらないのではないかという指摘を受けて、現在日本で価格転嫁適正化の対策として何が実施されているのか(下請けGメン、中小企業法)を理解するためである。

〈内容〉
まず、昨年内閣府・公正取引委員会は労務費に関する「発注者、受注者それぞれが採るべき行動」の指針を策定・公表した。具体的には、受注企業が価格交渉しやすいように、労務費、原材料費、エネルギーコストを分けて交渉するための価格交渉の様式例を添付した。発注者が採るべき行動として、3つ提示している。1つ目は、転嫁を受け入れる方針を経営そうが決定し、その方針を社内外に示す。2つ目は、受注者の要求がなくても定期的な協議の場を設けること。3つ目は、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの客観的データを合理的なものとして尊重すること。次に受注者が採るべき行動として2つ提示している。1つ目は、価格転嫁サポート窓口や下請かけこみ寺、商工会・商工会議所等の窓口に相談するなど、積極的に情報収集して交渉すること。その際に、添付した価格交渉の様式例を活用する。2つ目は、最低賃金上昇率などの公表資料を根拠として活用することだ。この労務費の指針の説明会は8つの地方で説明会を開催済みである。さらに、下請け中小企業振興法に基づく「振興基準」を改定し、適切な取り引き対価の決定には「労務費の指針」に沿った行動を適切に取ったり、原材料費やエネルギーコストの高騰があった場合には、適切なコスト増加分の全額転嫁を目指すものとするということを追記することを決定した。さらに、現金化までの期間が60日を超える約束手形を公取委・中企庁による指導の対象とすることを前提に、下請法の運用の見直しを検討している。つまり、下請事業者に資金繰りの負担を寄せないよう、現金化までの期間を短縮する、又は代金は現金払い化するといった支払い条件に改善する。現状、代金支払いの中に、一部でも、手形等が含まれる企業の割合は約31%である、業種にばらつきがある。すでに、2023年2月にはが60日を超える手形等により下請代金を支払っていた親事業者約6,000者に対し、中企庁と公取委が連名で、可能な限り速やかに60日以内に短縮するよう要請した。「2024年までに60日以内に変更予定」と回答した割合は、流通・小売や素形材で約5割だが、半導体製造装置、ロボット、紙・紙加工業で1割以下であった。ちなみに約束手形については支払側の8割、受取側の9割が「やめたい」意向を示しており、発注側企業において約束手形を「2026年までに利用を廃止する予定」と回答した割合は、自動車で100%である一方、半導体製造装置、印刷で1割以下である。これらを受けて閣議では、2026年に向けて約束手形の利用廃止を決定している。
〈総括〉
今回、下請け法や下請けGメン以外の対策として何が実施されるのかを理解することができた。しかし、要請のいった形を採っており強制ではないため親企業による買いたたきは存続するだろうと予測する。実際に、労務費の指針であったり、約束手形廃止によってどれくらいの企業が取引価格適正化に影響するのかが不明のためもっと下請け構造の実状を詳細に調査する必要があると感じた。


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〈内容総括•選択理由〉
今回取り上げたのは、日本経済新聞の「歴史的賃上げの謎を解く〜人生100年こわくない・マネー賢者を目指そう(熊野英生)〜」である。春闘(春季労使交渉)の集中回答日を受けた連合の賃上げ率の集計(第2回、3月21日)では、平均5.25%と前年の3.58%を大幅に上回った。この事実から、なぜ今まで実現できなかった大幅な賃上げが可能になったのか?という謎を解いている。選択理由としては、賃上げができる仕組みづくりを考察する上で今回なぜ大幅な賃上げが実現できたのか?を考えることで仮説を得られると考えたからだ。

〈内容〉
熊野は、今回の賃上げ実現の要因は3つあると指摘する。1つ目は、政労使会議や経団連からの強い賃上げ圧力である。また、同業他社も賃上げを積極的に行うということで経営者にとって世間へのアピールという圧力がかかる。そして、少子高齢化による人材不足により採用競争力獲得も目的にあると考える。ある業界では、大手が初任給を上げると、中堅の1割ほどが追随したことが分かっている。2つ目は、企業の粗利(売上ー売上原価)の伸び率が上昇したからである。急速な円安によって、輸出価格が上昇し大企業の粗利は増加した。また、大企業は価格転嫁がしやすいため値上げが可能になったことで前年比7.3%(資本金10億円以上の大企業)粗利が増えた。人件費は前年比2.5%の伸びだったから、2024年度は2023年度の粗利が上昇することが予測されるので、粗利の中からもっと人件費を伸ばすことが可能だとわかる。中小企業も、粗利は5.1%の増加と割に高い伸びだった。3つ目は、企業の人員構成の山を形成してきたバブル入社組が60歳を超え、給与水準の削減を受ける時期になったからだ。この世代は団塊世代の次にきた人員構成の山だとされてきた。日本は年功序列賃金制度があるため、年齢が上がるにつれ人件費上昇圧力が生じる。しかし、2024年度には1987年入社の人々が60歳を迎え、大幅な賃金カットの憂き目に遭う。その代わり40代以前の人々はベースアップがしやすくなる恩恵を受けられる。今後8年間くらいは、ここで生じた人件費の余力を他の年代に回すかたちの構造的賃上げが可能になると示唆している。

〈内容総括〉
今回、大幅な賃上げが実現できた要因が分析できてよかった。ま物価上昇率の上昇によって政労使、特に政府から強い要請があったことが1番の要因だと考える。また、賃上げの余力を持つためにも日本企業のイノベーション(生産性や労働分配率)が必要不可欠であると考える。企業の粗利が上昇することで、企業別組合の価格競争力により負のプレッシャーが生じなかったり、内部留保の増加の抑制や中小企業の価格転嫁しづらい状況は解消されると考える。





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〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、「ー経営と連動した「人への投資」実現に向けてー2024年賃上げ方法と論点の整理」である。本内容は、前提としてそもそもどの部分の報酬を引き揚げれば「賃上げ」になるのかという賃上げの定義を整理し、企業によって異なる「賃上げ」手段の特徴と目的を押さえ、最後にみずほリサーチ&テクノロジーズのコンサルタント目線から2024年賃上げの行方を考察している。選択理由は、研究テーマとして「賃上げ」を挙げているが、定義付けが必要なのか?と考え直し、仮に定義づけしたとして提案の方向性は変わるのかを検討したかったからである。また、今回賃上げ率3.8%高水準であるが、それは持続されるのかを考察したいと思ったからだ。

〈内容〉
まず、「賃上げ」は一般的に基本給引き上げのことを指す。具体的は、賃金テーブルそのものを改定し、基本給の水準を引き上げる「ベースアップ(以下、ベア)」と、年齢や勤続年数、評価結果などに応じて定期的に引き上げる「定期昇給(以下、定昇)」の2つのことである。一方、手当や賞与を含む場合もある。賃上げの公表資料によると賃上げに対する関係者の目線を押さえることが必要であることを指摘している。
次に、基本給、手当、賞与といった報酬を引き上げた場合の特徴や影響を整理する。ベアは賃金テーブルそのものをを引き上げるため、短期だけでなく、中長期的にも人件費の増額インパクトが大きい。また、全従業員を対象とせず、若手層や非管理職をターゲットに賃金テーブル改定を行う企業も多く存在する。しかし、対象を絞った引き上げは、対象外の従業員とのバランスも考える必要があるため、経営者にとってハードルが高い。定昇は、ベアに比べると検討すべき点が少ないものの、実施時点で在籍している全従業員向けの手段であり、採用競争力の維持・向上に寄与しないと指摘している。
目的別に手段の検討を整理している。まず、「➀業績の一部を従業員へ還元したい」という目的の場合は、一時金の引き上げになるケーズが多い。理由としては、業績の好調は短期的であることがほとんどだからだ。次に、「②労働力を確保したい(採用競争力をつけたい)」という目的の場合は、ベアが有効な手段であると指摘する。新卒や中途の確保は企業によって異なるが、ほとんど対象を絞って行われる。3つ目は、「➂雇用を維持したい」という目的の場合は、定昇とベアの両方の検討がありうる。例えば、定昇では、ハイパフォーマーのみ現行の賃金テーブルを超えない範囲で特別昇給を実施するといったことも可能だ。最後は、「➃物価上昇に対する補填をしたい」という目的の場合は、手当や一時金が有効であると言及している。理由としては、物価上昇はいつまで続くか分からないという予測不能であるからだ。実際、賃上げを検討されるには、➀+②、②+➂の目的で実施されることが多いと指摘する。
現在、賃上げは世間的な動向として官・民・労より強い要請がなされている。企業業績をマクロな視点で捉えると、2023年度は原材料高騰によってモノ・サービスのさらなる値上げや円安を追い風に高収益となる企業(大企業)が多く見込まれ、賃上げを加速させる企業も多く存在するであろう。


〈総評〉
 賃上げの手段の種類が複数あることを理解した。また、企業によって目的に応じて賃上げの手段を選択し検討していることが分かった。近年、円安や物価上昇によって、消費者の負担は大きくなる一方、大企業の業績は好調で賃上げが可能になっているのだろうと示唆できる。しかし、中小企業は賃上げに取り残されているのではないかと考える。大企業が業績が好調の中、政府の円安政策は続くだろうと予測し長期的に中小企業が苦しむ状況が続くのではないかと考える。官・民・労による強い要請によって今回の賃上げが実現されたが、官が要請しないと実現できないのか?またこの賃上げ体系はどこまで持続するのか?こういったことも視野に入れながら研究を進める必要がある。


5/2


〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、濱口桂一郎の「ジョブ型雇用社会とは何か」という文献である。本内容は、ジョブ型雇用、メンバーシップ型雇用の名づけの親である濱口が世論で謳われているジョブ型雇用の認識の違いを徹底的に指摘している。就職や採用の入口と退職金制度の出口の実態を解説し、日本型雇用制度について解説している。選択理由は、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の定義を認識していなかったことや労働政策の全体像を把握するために日本型雇用制度について十分な理解が必要だと考えたからである。

〈内容〉
集団的労使関係の極限的な収縮の一方で、個別労使紛争は多数に上っている。労働争議の大部分を個別労使紛争が占めている。駆け込み訴えとは、解雇や雇止めに遭ってから外部のコミュニティ•ユニオンに駆け込み、そこで初めて組合員になり、労働組合として元の会社に対して交渉を要求するというもので、形式的には集団的労使紛争であるが、その実態は限りなくその労働者個人に係る紛争だであると指摘している。コミュニティ•ユニオンとは、日本独特の存在で企業別労働組合とは正反対で、企業内部に恒常的に組合員や組合支部を持たない純粋企業外組合である。欧米の職業別組合や産業組合は、企業単位の組織でないだねであり、企業の中で働く労働者が企業を超えて団結し結成した組織のことで、通常企業の中に組合支部や分会を持っている。つまり、コミュニティ•ユニオンは労使紛争のために組合という名の傘を差し掛けるサービスを提供する一種の労働NGO的な存在である。ビジネスモデルは、組合のない企業で解雇された労働者が、街角のコミュニティ•ユニオンに駆け込んで組合員になり、組合の名において団体交渉を要求すると、労働組合法によって経営者は拒否することが出来ないため一定の解決に結びつく。したがって、非常に多くの場合、その労働者は自分の事件が解決するとユニオンを脱退する。
ヨーロッパは産業別労働組合とは別に公的な従業員代表組織が義務付けられている。従業員代表組織とは、企業や職場レベルに設けられるもので、日本の就業規則に当たる事業所協定を使用者と共同決定するのに加えて、解雇について協議を受ける役割である。労働組合に参加しない労働者も定期的に従業員代表の選挙に参加し、それを通じて企業レベルの労使協議に関わることができる。一方、日本は企業別労働組合にこの両者が一体化している。しかし、組織率が低下している日本では、多くの労働者は労働組合を通じて賃金や労働条件を交渉することもなく、従業員代表組織を通じて企業内の意思決定に関与する仕組みがない。日本の労働者は、団結も参加もある大企業の少数派と団結も参加もないそれ以外の多数派からなっている。また、日本は非正規雇用者は企業別組合員になる資格を認めていないところがほとんどであり、公平な解決には至らないため問題視されている。そこで、企業別労働組合が正社員組合のままで頼りないのであれば、それに変わって西欧諸国のような従業員代表制を確立し、非正規雇用者の声も汲み上げ均等•均衡処遇の実現につなげていこうという声も上がっている。しかし、今の日本の現状、景気が低迷し、ベアゼロが続いた過去数十年間、団体交渉機能は限りなく希薄化し、従業員代表制度の機能を果たす企業別労働組合が大部分を機能しているため、組合費を取られて得られるサービスと会社負担で得られるサービスで中身が変わらないため組合費を払わなくなるかもしれないと指摘している。
〈総評〉
集団的労使関係の極限的な収縮の一方で、個別労使紛争は多数に上っていることが分かった。また、従業員代表制度を導入するには、組合機能部と従業員代表機能に分けて、人的、経理的に区別する。前者は、組合費で賄い、組合員のために団体交渉をする。後者は、企業が負担して全従業員のために労使争議をするという仕組みである。前者は、企業内の事情だけに囚われずに外部の産業別連絡機関とのつながりを強め、企業を越えた連帯を高めていく必要があると考える。しかし、実現可能性は疑念に思う。

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〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、濱口桂一郎の「ジョブ型雇用社会とは何か」という文献である。本内容は、ジョブ型雇用、メンバーシップ型雇用の名づけの親である濱口が世論で謳われているジョブ型雇用の認識の違いを徹底的に指摘している。就職や採用の入口と退職金制度の出口の実態を解説し、日本型雇用制度について解説している。選択理由は、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の定義を認識していなかったことや労働政策の全体像を把握するために日本型雇用制度について十分な理解が必要だと考えたからである。

〈内容〉
まず、年功序列賃金制度(中高年の高賃金)は、西欧諸国であれば公的な社会保障で賄われているはずの教育費や住宅費といった必然的生活コストを、個別企業の賃金で賄うという意味である。そのため、1970年代以降先進諸国と同様に高等教育進学率が急速に上昇して、必然的生活コストの大部分を私的負担で賄うことができた。矢島眞和は、年功序列賃金制度を「親負担主義の雇用システム的基礎」と呼んでいる。
ジョブ型雇用制度にシフトさせることは非常に困難なことである。その理由は、雇用システムと教育システムは密接に組み合っているからである。つまり、ジョブ型にシフトすると雇用の入り口「新卒一括採用制度」がなくなったり、評価制度や会社の求める人材やスキルが異なるため、教育の変革も必要不可欠になる。
定年制度は日本独特の雇用制度である。年齢のみに基づく強制的雇用終了は、年齢差別であると指摘する。実際、アメリカでは定年制は禁止されており、ヨーロッパでも年金支給開始年齢と下回る定年は違法である。アメリカでは、年齢や性別、国籍による解雇は法で禁止されているが、他の理由での解雇は容認されている。日本で容易な解雇(リストラ)が困難なのは、メンバーシップ型雇用と深く関係している。なぜなら、メンバーシップ型雇用はジョブローテーションを基本としており、会社の中で他に仕事があれば、配置転換される可能性があるため、その可能性があるのに解雇するのは悪だという考え方は仏全的な論理的帰結である。
また、1970年代以降、勤続とともに能力が上昇するから年功序列賃金制度は合理的であるという考え方が基本となった。しかし、筆者は少なくとも20代、30代は該当するかもしれないが、40代50代になっても能力が上がり続けることは懐疑的であると言及している。つまり、能力とともに賃金が上がるから年功序列賃金制度は合理的であるという主張は正しくなく、日本はヨーロッパと違って生活費の私的負担の割合が大きいため生活給の論理から年齢とともに給料が上がらないと困るという理由から日本では年功序列賃金制度が存続していることが分かった。

〈総評〉
 今回の収穫は、「雇用制度と教育制度は密接に関わっていること」、「日本における容易な解雇の困難さは、メンバーシップ型雇用と関わっていること」「年功序列賃金制度が存続している理由としては、能力の上昇と賃金の上昇の合理性よりも日本の生活給の論理から説明される」ということだ。


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〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、濱口桂一郎の「ジョブ型雇用社会とは何か」という文献である。本内容は、ジョブ型雇用、メンバーシップ型雇用の名づけの親である濱口が世論で謳われているジョブ型雇用の認識の違いを徹底的に指摘している。就職や採用の入口と退職金制度の出口の実態を解説し、日本型雇用制度について解説している。選択理由は、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の定義を認識していなかったことや労働政策の全体像を把握するために日本型雇用制度について十分な理解が必要ふだと考えたからである。

〈内容〉
まず、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の賃金制度が異なる。ジョブ型雇用は、あらかじめ職務に賃金が定まっている。一方、メンバーシップ型雇用は、職務に基づかないので勤続年数という客観的な要素で決まる。ここから定期昇給制度が導かれる。定期昇給制とは、採用後一定期間期間ごとに職務に関係なく賃金が上昇するという意味である。また、日本の賃金制度の最大の特長として、賃金分布が個別評価によって変動するということである。具体的には、ジョブ型雇用はごく一部の上澄みのエリート層を除けば、一般労働者に人事査定がないのが一般的である。査定は仕事に就く前に実施されているのである。つまり、募集職務をちゃんと真っ当できるか(技能水準)を判定する。職務に就けた後は、査定がないというのが一般的である。これに対して、メンバーシップ雇用は、末端労働者にも人事査定が存在する。その査定の評価基準も、業績よりも「能力」評価と情意評価である。ここでいう「能力」は具体的なある職務を遂行する能力ではなく、潜在能力のことである。
次に労使関係の違いである。ジョブ型、とりわけヨーロッパ諸国では産業別労働組合が形成されているが、企業レベル、事業場レベルでの細々とした決め事は労働組合とは別にドイツの事業所委員会やフランスの企業員会などのいわゆる従業員代表組織がある。これに対し、日本では企業別労働組合が形成されて、団体交渉と企業の様々な問題を解決する労使協議も兼務している。ここでは、団体交渉に着目する。ジョブ型の団体交渉は企業を超えた職種あるいは技能水準ごとの労働力価格の設定(値付け)を行っている。一方、日本では企業の賃金総額を従業員数で割った平均賃金の増加分(ベア)を決定する。しかしこれが企業の支払い能力に左右される、かつ企業同士の競争力もあるので特定の企業のみ賃上げはできない。そこで、産業レベルで一斉に賃上げしようというのが春闘である。
 日本のメンバーシップ型雇用は全労働者に適用されるわけではない。日本の労働者の約4割が非正規雇用者であるが、これらはジョブ型雇用に近い。なぜなら、職に対するに人材の数が多ければ、有期雇用という形で解雇されるし、原則として人事異動はなく契約更新しても同じ職務に就き続けるからである。また、正社員において企業規模が小さくなればなるほどメンバーシップの要素は薄くなる。なぜなら、企業の中に用意される職務の数は少なくなり、職場も1か所だけというのが一般的、また雇用を維持する力も弱いので失業するのは稀ではない。しかし、労働時間が親会社に左右されたり、職務範囲も不明瞭なことが多いためジョブ型雇用とは全く違う。(濃厚な人間関係によって組織が動くことが多いから)

〈総評〉
 今回、文献の選択理由としてジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違いを少しは理解できたことは大きな収穫を挙げたと考える。人に左右されるのがメンバーシップ型雇用で、これに対してジョブ型雇用は人は全く影響せずに市場によって定まる、理論的な制度であると理解した。一方で、採用から退職におけるジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違いを比較することでよりよい示唆が出てくるのではないかと考える。

濱口桂一郎(2021)「ジョブ型雇用社会とは何かー正社員体制の矛盾と転機」岩波新書


4/11

今回取り上げた文献は、野口悠紀雄の「どうすれば日本人の賃金は上がるのか」である。
第一章は、アメリカと日本の賃金を比較している。第二章は、日本よりも既に賃金水準が高くなった韓国を取り上げている。第3章は、付加価値が高い企諸外国の企業を取り上げ、なぜ日本にはこのような会社が現れないのか?という問いのもと論じている。第4章・第5章では、賃金格差はなぜ生じるのか?という問いのもと論じる。第6章・第7章では、日本ではなぜ賃金が上がらないのか?という問いに対して、停滞状態からの脱却方法について考察している。

〈内容〉 
まず、政治的な力で賃上げ実現しない基本的な理由は、「賃金が決まるメカニズムが正しく理解されていない」ことだと指摘する。賃金の基本水準は、企業の「稼ぐ力」によって決まる。これは経済学で「付加価値」と呼ばれるものである。(売上高ー売上原価)就業者1人あたりの付加価値は、「生産性」と呼ばれるため、「賃金は生産性によって決まる」と指摘する。統計を見ると、付加価値中の賃金の比率はあまり大きく変化していない。だから、日本の賃金が20年間上がらない基本的原因は労働組合の力が弱まったことではなく、企業の稼ぐ力が停滞していることだと指摘する。
次に、企業規模別賃金格差について言及している。業種別賃金格差は、参入規制が起因している。金融、保険、インフラは高い傾向。また、基本的な要因は、大企業の比率、つまり企業規模の違いである。次に、大企業と中小企業で賃金の格差が生まれている理由として、しばしば指摘されるのは労働分配率(付加価値のうち賃金が占める比率)である。しかし、筆者は反対している。「法人企業統計調査」によると、労働分配率について大企業が高いという傾向は見られない。つまり、中小零細企業の給与が低くなるのは、給与の原資である1人当たりの付加価値が低いからだ。もし、労働分配率が賃金格差の原因であるなら、政府による賃上げ要請や税制によって賃上げを促すことは効果的である。一方、付加価値が原因であれば政府の施策は意味がないといえる。結論、筆者は規模別賃金格差の要因は2つ考えている、1つ目は、付加価値。2つ目は、「資本装備率の差(従業員1人あたりの有形固定資産」である。つまり、1人当たりの設備投資の保有状況を示す指標のことだ。具体的なイメージは、ロボットを導入して自動化すれば、人間の労働者1人あたりの生産額は増える。 従業員1人当たりの売上高は大企業の方が大きい。なぜなら、「規模の利益」が働いているからだ。具体的には、大企業は資金力や信用力があるため十分に設備投資することができ、資本装備を高めることができる。これは、政策によって解決できる。融資によって企業が直面する資本力や信用力を補完することができる。しかし、「売上高・付加価値の比率」は企業規模の比率が小さい程高くなっている。つまり、「一定の売上高をより少額の原価で実現できる」「小企業の方が大企業よりも効果的に付加価値を生産できる」ということだ。この理由は2つある、1つ目は、規模に関する収益低減の法則だ。「労働者や機械設備を同時に2倍にしても、生産量は2倍以下にしかならない」という状況のことだ。2つ目は、業種特有の取り引き慣行との関連だ。例えば、売上高・付加価値の比率で大企業と零細企業の差が一番大きいのは、卸売り業だ。(<零細企業)これは、下請け制度の結果だ。元請け企業(大企業)は取り引きのとりまとめが中心だが、実際の仕事が下請け企業がするからだ。つまり、元請けは付加価値生産を行っていない。
賃上げ税制の導入・・・賃上げした企業に対して、賃上げ学の一定率に相当する額を、法人税で税額控除する制度である。しかし、現在の控除率では、企業にとっての負担が増加することに変わりない。
解決策の仮説は2つある。1つ目は、最低賃金の引き上げが考えられる。しかし、筆者は見かけ上の効果でしかないと指摘する。なぜなら、最低賃金以上の就業者の賃金が引き下げられることもあるからだ。引き揚げられた最低賃金未満の賃金でそれまで働いていた就業者が職を失う可能性もある。2つ目は、同一労働同一賃金の制度である。しかしこれも筆者は反対する。なぜなら、この措置が導入されても非正規雇用の賃金が引き上げられる保障はないからだ。以上のことから、筆者が考える効果的な解決策を3つ紹介する。1つ目は、年功序列体型や退職金制度の廃止だ。転職が活発な方が賃上げ率が上昇しやすかったり、管理職に年齢が高い社員が就くことで新しい社会状況に上手く適応できず、ビジネスモデルの変革を促せなかったりするからだ。2つ目は、高等教育の改革だ。日本の奨学金制度を見直し、能力のある人が経済的な負担を最低限にとどめ大学教育を受けられるような制度を作る必要がある。さらに就職してからもリスキリングやリカレント教育を充実させることが必要だ。3つ目は、ジョブ型雇用の促進だ。技能が認められれば若手でも高い給料を貰える。逆に、年齢が上がっても自動的に給与が上がるわけではなく、長期的な雇用も保障されない、
日本経済全体の賃上げには、1つの大きな課題が存在する。それは、日本の就業構造として、非正規雇用者(パートタイム就業者)が多いことだ。パートタイムは時間給も低いが、労働時間が短いため賃金が低い。パートタイム就業者の多さには、所得税の配偶者控除制度が影響していると指摘する。税制は、18年に改正され、多くのパートタイマーの労働時間が増加した。さらに、定年後の再雇用は非正規の形をとるため、
国際的にみると、女性のフルタイム就業率が低く、パートタイムの割合が高い。そのため、日本人女性の社会進出は遅れていると指摘している。
※円安 輸出価格は上昇、輸入価格 企業利益が増加、円高は企業利益を増幅させない。今回の円安は、コロナが原因で原材料の輸入価格の上昇や消費需要の低下から値上げが完全にできていないから良くない。(物価上昇率>賃上げ率)
※日本政治の根本的問題は、消費者と労働者の利益を守る政党が存在しないこと。
〈結論〉
ジョブ型雇用について再度考察する必要があると感じた。



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