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待望の国産Rally2マシン

Rally2とは

全日本ラリー選手権にシュコダ ファビアR5という現用のRally2規定相当の車種が"黒船"として上陸し早2年、そのポテンシャルの高さを知る人は多いだろう。
Rally2とはFIAの定めるラリーピラミッドで、トップカテゴリーのRally1直下に属するカテゴリーのことだ。

図表出典:FIA公式資料より

日本では長らくインプレッサやランエボの系譜が、国内選手権で優勝争いを繰り広げるメイン車種であったが
全日本ラリーにおいてもRally2(旧R5)の導入が解禁されたため、昨年のH.コバライネンによる圧倒的なシーズン成績は記憶に新しい。

ラリーの本場欧州ではERCはもちろん、WRC2などでもRally2(旧R5)が全日本ラリーよりも遥かに早く展開・浸透・運用され、WRC直下の下位カテゴリーメイン車種としてラリーを盛り上げている。

実際、車種も日本で走るシュコダだけでなく、フォードやシトロエンはもちろんのこと、16年を最後にWRCを去ったVWもRally2に関してはカスタマーへマシンを供給し続けている。

シュコダ ファビアRS Rally2【写真出典:シュコダモータースポーツ公式】


シトロエンC3 Rally2【写真出典:シトロエンレーシング】

ざっくり概要

Rally2の概要はざっくり下記の通りだ。
・エンジンの最大排気量1620ccまで
・ターボ付きのエンジン
・気筒数は最大4気筒で、3気筒又は4気筒が選べる
・吸気リストリクターは要装着で、直径は32㎜の物を用いる
・最高出力は約285馬力に制限
・パワーウエイトレシオは4.2kg/hpに制限
・トランスミッションは5速シーケンシャルギヤボックス
・センターデフなし4WD
・前後に機械式デファレンシャルを装着
・規定最低重量は1230kg
・ベース車両は過去12カ月間に2500台が製造されたクルマ
以上がRally2の大まかな中身だ。
こうした規定の元、各社がマシンを送り込んでおり若手の育成枠はもちろん、Rally1でのシートを喪失した選手や、往年のベテラン達もRally2を駆って各イベントを走る姿も見られる。
現役のワークスドライバー達も、WRC以外のイベントでちょいちょい走ったりすることもあり、その選手層はかなり厚いのも特徴だ。

トヨタのRally2噂話

実は2017年にトヨタがWRCに復帰した当初から
当時のR5規定適合のヤリスは作製しないのかと、トヨタへ質問が投げかけられることがあった。特にトヨタが復帰してから2年~3年経ったあたりでこの話題は定期的に囁かれるテーマの一つだった。
それも当たり前で、当時から各社ワークスチームは、R5規定車種も持っているところが多く、そうした期待の意味でトヨタに質問が飛ぶのは当然と言えた。
実のところ、19年を最後にトヨタ陣営を王者獲得でありながら離れたタナックの移籍劇の背後に、そうした下位カテゴリー用車種のビジネスに関するところで揉めたらしいという話がある。
マキネン率いるTMR側とタナックのマネージャーを務めてたマルコ・マルティン側で、R5車種の権利について軋轢が生まれ、そもそものタナックとマキネンの不仲説も相まって、それが移籍劇の発端となった。という見方を筆者はしている。
筆者のリサーチ力では、断定はできないので、諸説ある内の一つ程度に思ってもらって欲しいのだが、この辺の話はいずれタナックが引退して数年したころに著名ラリーメディアが取り上げてくれるのを待とう。

O.タナックとM.マルティンが経営するレッドグレイ社のコンテナ

そんなトヨタに関するWRC2もといERCに出られるRally2の話題が公になったのは2022年のハナシ。
久々のWRC開催となったラリージャパンで、GRヤリスRally2コンセプトがお披露目された。
Rally2マシンをついにトヨタが用意してきたということもあって、岡崎のスーパーSSでは大いに注目を集めた。
また、これはトヨタが今後も長くラリーに関して活動を続ける意思があると受け取った人もいるだろう。筆者もその一人だ。

待望のデビュー戦

トヨタのモータースポーツ活動計画23年版発表の中で、GRヤリスRally2コンセプトの実戦投入が、新城ラリーで行う旨の発表があった。
そして、この3月4日~3月6日の新城ラリー2023年で、お馴染みのGRリバリーを纏ったGRヤリスRally2が公にされた。
参戦クラスはJN1オープンクラスとなり、賞典外ではあるものの、シュコダ勢とのスピードの差がどれほどか注目の的であった。

実際に走っている映像を見てもらうのが良いだろう。上記ツイートはトヨタ公式のもので、実際に新城ラリーを走るGRヤリスRally2の様子が収められている。
他のシュコダ勢と遜色のない迫力ある走りを見せてくれている。
残念ながら、最終日にアクシデントでリタイアという結果ではあったが、それまでは首位独走のコバライネンに次ぐ実質総合2位を走っていたことなど含めて、まだコンセプトモデルではあるものの、今年で熟成が進めば
来シーズンのWRC2やERCではかなりいい戦いができるのではないかと期待が持てる。

見た目がとっても良い

上記の公式ツイートから、いくつかマシンの写真を見て貰えばわかる通り、Rally1仕様とは異なり、Rally2仕様は割とベースとなるGRヤリスそのものに近い恰好をしている。むしろ21年を最後に役目を終えたWRカー規定の16年規定までの姿が続いていたらこうだったのかもしれない。という感じさえする。
幻の17年規定のGRヤリスWRCはフィンランドはユスカに設立されたTGR-WRTの玄関ロビーに展示してあるのは有名な話だが
GRヤリスRally2もそういう意味では、どことなくWRカーの残り香を感じさせてくれる。
特に拡幅された前後フェンダー、後ろについてはホイールトラベルに関して、その可動域を侵さないように拡幅され、特に勇ましい。
Rally1比でだいぶ小ぶりなリアウィングも、その全体像に対してとても良くマッチしており、如何にもラリーカーといった雰囲気を呈する。
また、フロントバンパーもGRヤリスのファンクショナルマトリクスグリルを模っていながら、開口部は別形状になっておりベース車両の雰囲気を損なわないとても良い処理がなされている。

総じてカッコイイのだ。

むっちゃ好き(本音直球)
ターマック仕様で車高下がってるから殊更好き(どストライク)

画像出典:TGR公式Twitterより

意外な型式

GRヤリスRally2は、その風貌からてっきりPA16、すなわち4輪駆動の1.6LターボのGRヤリスRZがベースかと思われるかもしれないが
実はその下位グレードであるPA12、すなわち前輪駆動の1.5L自然吸気CVTのGRヤリスRSがベースになっている。
これは一体どういうことか、Rally2規定におけるGRヤリスのエンジン搭載位置をより引き下げて低重心として取り扱うために、G16EよりもM15Aを搭載するRSの方がアドバンテージがあったという事になる。
駆動系の改造は全く問題ないため、低重心化しパフォーマンスに寄与せんとするべく、PA12が選ばれたと言ってよいだろう。

近年のトヨタはこうした競技用ベースの用意に熱心だ。
全日本ラリーやジムカーナ向けに最低重量引き下げのため、GRヤリスにライトパッケージという80kgもダイエットした競技者向けのグレードも販売している。GRヤリスRZにそうした競技向けの軽量化グレードを用意してくるのだから、GRヤリスRSは実のところトヨタがRally2用ベースとしてマシンをより強力に仕上げるべく用意していたと考えても不思議ではない。

当初はその同じ見た目ながら、素ヤリスすなわちPA10のヤリスとエンジンが同じでFFのCVTであるため、量販グレードと見る向きや17年規定のGRヤリスWRCのホモロゲに関連して生産台数突破を後押しするための廉価グレードと見られていた。
しかし、こうして箱が開かれてみると、実際のところはRally2を照準に据えた設定だったのだろうという見方も筋が通る。
そもそもエンジンは、同グループ内のものであればスワップOKなので、RSにG16Eを積む必要は無く、M15Aでの車両中央に寄せられた搭載位置という事実が残れば良いのだ。その後方へ寄せられたクランク軸でホモロゲを獲得できたならば、後はそこにそっくりG16Eをぶち込むだけ。
市販モデルでは様々な制約上そうはいかなくても、Rally2ならそんなのは朝飯前だ。
そのG16Eも1618㏄という中途半端な排気量は、1620㏄までというRally2の最大排気量に準じたもの、いわばGr.AレースでシエラRS500を真正面からぶん殴るために日産がRB26DETTで排気量を2568㏄と定めた事とほぼほぼ事情は一緒だ。
販売上や税制上の都合を考えたら、1998㏄とか1498㏄とかそういう数字にするだろう所を1618㏄なのはラリーで勝つためなのだ。

かねてからGRヤリスは号口(市販モデルのこと)ではなく、競技車両から勝てるクルマを作る。とトヨタは標榜していたが、今回のRally2登場でますますそれはトヨタのホンキだったというのがよくわかる。
買いもせず、文句だけを並べつらう自称クルマ好き層からは、3気筒であることを特に手抜きだと揶揄する意見が出てくるが、見当違いもいいところだ。
Rally2の規定を読めば、トヨタはトップカテゴリーだけでなく、下位カテゴリーでも結果を叩きだそうとすべく用意周到に準備しているのが解る。
批判的な連中が神の如くあがめるランエボやインプレッサSTIと同等かそれ以上の熱量でGRヤリスを企画したことが克明に表れているのだから
今更、3気筒がどうの、デザインがどうのなどと難癖つけてる連中には

バカめと言ってさし上げたいところだ。

批判は自由だが、的を得てないということは明らかだ。

人気車種になるか

昨今のRally2事情を一言で言えば、シュコダが圧倒的な勢力を持つ。平たく言うと人気車種で定番車種だ。
その販売台数もさることながら、各ラリーにはシュコダから予備パーツを大量に積み込んだ移動販売トラックも来る。
そのような、顧客への手厚い販売形態などもあって近年のWRCでシュコダは非常に多くの選手やチームを支えていると言って良い。

しかもシュコダだけではなく、他のメーカーも多くいることから
Rally2市場はまさしく群雄割拠で、それこそ"速い"だけでは支持を得られない。
Rally1であれば、自チームのためにのみ先鋭化した仕様でチャンピオンシップを勝ち抜くことが目標になるため、俯瞰的に見れば開発の大筋は明白だと仮定しやすい。
しかし、Rally2はチームのレギュラードライバーのみが運転するのではなく、非常に多くの千差万別なラリースト達に託されることになる。
ここがRally1とは異なる別ベクトルの難しさであると考えられよう。求められるニーズは多く、コストと折り合いをつけて妥協点を探る等の開発はRally1よりもハードワークになるだろうと思われる。

だが筆者は販売面に関して、売れないという心配はほぼ抱いていない。
トヨタの持ちうるGRヤリスRally2は、そのマシンスペックだけにあらず
本拠地はフィンランドだ。フィンランドで開発されたRally2車両ということであれば、ラリー大国のフィンランドで一定数の数が捌けることはまず間違いないだろう。
フィンランドのみならず、スウェーデンやドイツでもある程度の数は捌けるだろうし、旧態化しつつあるR5車両の代替え層などもGRヤリスRally2を検討するだろうことは想像しやすい。
直列3気筒というスペックも、頭の軽さやトルク特性という点で、他の4気筒Rally2車両とどう得手不得手が異なってくるか見比べるのが楽しみな要素だ。

24年に本格的なデリバリーが開始され、GRヤリスRally2がどの様にプライベーター達の手でラリーに出てくるかが楽しみだ。
全日本ラリーでも、JN1にマシンを持ち込むエントラントも出てきてくれると、シュコダVSトヨタの構図で盛り上がる光景を期待せずにはいられない。

トヨタが勝つために20年以上の時を経て100%自社開発したGRヤリスは、ついにトップカテゴリーのみならず、ラリー界全体へとその存在感を増しつつある。
トヨタのラリー史に、既にその名を欠く事ができない存在になりつつあり、これからの活躍がますます楽しみでならない。

画像出典:TGR公式ページより


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