しあげをごろうじろ

 12/20。住んでいる街から遠く離れた愛知県一宮で行われた、GUIRO 冬のライブを観てきた。この日の朝は雲一つない冬晴れで、綺麗な朝陽が登るのを眺めながら身支度を整え、旅路に出た。

 GUIROのライブを観るのは1/30の喫茶クロカワ以来2回目。その日と同じようにお昼前に名古屋へ着き、ホテルにチェックインした後、栄のジャズ喫茶「YURI」へ。バターの香り豊かなチキンライスと、大きなサイズのカップで提供されるコーヒーに舌鼓を打ちつつ、店内で掛かっている音楽を聴いたり、同行者と話をしたりして過ごした。この日掛かっていたのは、「HAMPTON HAWES /FOUR!」、「CAL TJADER /SOUL SAUCE」、「SAL SALVADOR /SOUL FINGERS」のそれぞれ片面。そういえば、1月も1枚目はHAMPTON HAWESだった。

 その後は、栄と大須のレコード屋をいくつかまわり、安レコを数枚購入。この辺りの地理に疎いため、慌ただしく電車を乗り継ぎ、会場時間を少し過ぎたところで最後は走りながら今日のライブ会場、尾西繊維協会ビルに着いた。

 前回のライブでもお会いした方や、僕らと同じように遠方から駆け付けた方と話したり、クロカワのコーヒー(その日の豆はエチオピアだった)と甘さ控えめの蒸しあんぱんを食べつつ、開演時間を待つ。この尾西繊維協会ビルは1933年に建てられたチューダー・ゴシックという様式のモダンな建造物で、ライブ会場の3階の部屋には歴代会頭の肖像画が飾られていた。ドラムやギター、ベース、シロフォン(いわゆる木琴の一種)などが置かれたステージを眺めると、足元にセットリストが貼ってあったので、「見たらいけない...!」と思いつつ、画面を見ないように写真を写す。主催の方が今日のライブの注意点を話す。いよいよ開演の時間だ。

 メンバーが会場横の扉から入ってくる。今日のメンバーは、高倉一修(Vo.Gt)、厚海義朗(Ba)、松石ゲル(Ds)、牧野容也(Gt)、西本さゆり(Cho.Xylo)、河合愼五(Cho.Perc)、長瀬敬(Cl.Cho)、竹内絵美(Cho)。唯一のアルバムの録音メンバーがほぼ揃っている。鍵盤の亀田さんの不在はとても残念だったけれど、それを補うように西本さんがシロフォンを担当する。

 「一同、礼」高倉さんの一言に合わせて、メンバーが頭を下げたのち、演奏が始まる。

 1曲目は「ABBAU(仮)2」。聴いたことのない曲。最小限のリズムパートとクラシックギターにクラリネットで構成された曲で、コーラスの美しさとクラシックギターとクラリネットの同じフレーズの掛け合いが心地よかった。

 「ABBAU(仮)2」が終わるとそれぞれの持ち場へ。「GUIROです。」と高倉さんが話し、ゲルさんが「帰って参りました」と笑顔で言うと、会場に歓声と拍手が広がった。みんなこの時を待っていたのだ。

 2曲目は「新世界より」。その後、立て続けに「あれかしの歌」。ALBUMの1曲目で、ギターのアルペジオと、少しの気怠さを纏った歌声から始まるスローテンポの曲だが、中盤からガラッとBPMが変わる。Y.M.OのPure Jamのリズムパターンを拝借した(厚海さんへのインタヴュー記事を読んだ限りではこの解釈でいいと思う)曲で、亀田さんのアドリブっぽいピアノが聴きどころだと僕は思っているのだが、この日は牧野さんのエレキギターがその役割を果たした。「まだ固いね」と高倉さんは言ったが、会場はだんだんと盛り上がってきた。反応はいい。ちなみに、ライブ後にセットリストを見て気づいたのだが、リストに載っている曲順は2曲目に「あれかしの歌」で、もともとの予定とは変わっていたようだった。 https://www.youtube.com/watch?v=pvZzORZfqVo (Y.M.O /Pure Jam)

 4曲目、5曲目は穏やかな曲。「風邪をひいたら」、「いそしぎ」。GUIROの音楽の歌詞は詩として読んでも雰囲気があり、面白いところと感じているのだけど、特に「風邪をひいたら」の歌詞はとても好きだ。実は、GUIROのCDを紛失中で歌詞カードが手元にないので、正確に記すことはできないのだけど。。「こんな季節外れに はやりの風邪をひいたのは 誰かが胸に矢を放ったからさ」と歌うこの曲は「はっぴいえんど /空色のくれよん」へのオマージュかな?雰囲気も似ているような気がするし。

 6曲目は「新曲と言えと言われたけれど、新曲ではないです」と始まった。「マリア礼賛」と後に紹介されたこの曲は、シロフォンとベース、エレキギターにそれぞれソロがある曲だった。歌詞があまり聞き取れなかったのが残念。

 7曲目は、竹内さんが参加しての「ファソラティ」。この曲が始まる前、竹内さんが「受付を事務的にこなしてすみません!」と謝っていたのだけど、ライブ後にはお知り合いやお客さんとお話しできたのだろうか。この曲の頃から、会場がグッとあったまってきたのを感じた。

 中盤。8曲目「山猫」。ピアノ各楽器が細かくリードを交代して一つのフレーズを織りなすイントロのアンサンブルがGUIROの音楽を象徴しているような曲。高倉さんの歌もはっきりと聴き取れるようになってきた。この曲は特に演奏が難しいと思うが、このアレンジにはまったく妥協を感じないし、優れたものをつくるというような気概を感じる。蛇足だが、最近この「気概を感じるか否か」というのが個人的なキーワードになっており、それが作品を一つ上のステージに押し上げる大きな要素だと考えている。複雑にすればいいという話ではなく、普遍的な作品であってもこの気概を感じることはできる。

 大歓声の後の9曲目「エチカ」。高倉さんも熱くなってきたのか、メロディを変えて歌いだす。ワウを用いたエレキギターとドラムの中盤の掛け合いが会場の熱を上げ、続けざまに10曲目「日曜日のチポラ」。この曲の後は長いMC。厚海さんに子どもが産まれたとか、ゲルさんにも3人目が産まれたとか。ここでだったかは失念したが、高倉さんは各メンバーひとりひとりに話を振っていた。この日のライブが終わるのが名残惜しかったのかな。。

 11曲目は聴いたことのない曲。「ABBAU(仮)1」。ABBAUとは、ドイツ語で「採掘」とか「解体」という意味らしい。昔つくった曲を再度アレンジしなおしていたりするのだろうか。ベースとクラリネットが鳴らすフレーズがなんとなくエルメート・パスコアルのような印象を受けた。 https://www.youtube.com/watch?v=KGfvsVW5Mw4 (Ermeto Pascoal - Cérebro Magnético (Full Album))

 ラスト12曲目。「エー!」とか言う間のないまま「ハッシャバイ」へ。正確には言う間はあったのだけど、そんな反応はできなかったと思う。みんな音楽に集中していた。「ハッシャバイ」はどことなく中国や台湾、日本の古音楽的なテイストを感じる曲で、名古屋のバンド音源を集めたオムニバス「7586(ナゴヤロック)」に収録されている。高倉さんはY.M.Oをとても好んでいるそうだけど、「ハッシャバイ」のリズムはこの曲に似ている。 https://www.youtube.com/watch?v=MjcwyLQbH-o (細野晴臣 /薔薇と野獣)

 アンコール。手が痛くなるほど拍手をした。「しあげをごろうじろ」。ボーカルのメロディを軸に、ピアノが並走と回り道を繰り返して曲全体が徐々に駆け上がっていくかわいらしい曲。今日はシロフォンとエレキギターがピアノの代わりだった。それにしても、GUIROの音楽というのはリズムも普通でないものが多いし、各楽器小ネタが多いし、曲の構成も一筋縄でいかない。演奏をバシッと止めた時、それが決まると本当にかっこいいし、随所にそれが散りばめられている。この曲では厚海さんのベースソロがグイグイとかっこよかったな。

 そして、大盛り上がりの「しあげをごろうじろ」を終え、最後の曲。

 この曲はカバーで「旅をするために」という題名と日本語の歌詞がつけられたものだった。「いつでも曲がり角を間違える」から始まるワルツ調の、原曲はおそらく古い曲。「いつまで間違え続けられるか?すべからく旅をするために」。同行した知人がこの後の食事で「年々、『良いお年を』が重みを増してくる」と話していた。間違えばかりの旅だけど、色んな思いを持った人たちがこうして同じ時間に一つの場所に集まってGUIROの音楽を聴ける(または演奏する)ことは、とても素敵なことだと思う。

 1月に7年越しにGUIROのライブを観れたという思いもあってか、割と冷静に観ていたつもりなのだけど、「旅をするために」が終わってメンバーが部屋から出て行った後、理由もわからず涙がこぼれでてきた。少しして涙が収まってきた時に「いい曲だったねぇ」と言ったけれど、理由は今もわからない。ミスもそれなりに多かったし、最初のほうはあまり声も出ていなかったりと、残念なところもあり、GUIROはまだまだこんなもんじゃないと思う。それでも、これが再度の船出ではなく、とっくに航海に出ていることを感じさせるとても素晴らしく力強いライブだった。しあげはまだまだずっと先。2016年も良い年になりますように。GUIROのライブがまた観れますように。多くの人の耳に届きますように。良いお年を。

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