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VRChatでの素敵な出会い

扉の写真はびちきょ(@pichikyo)さんがお茶会で撮られたもの

ピアノをVRChatで弾く人

 最初にピアノの音楽をVRChatで聞いたのは、K.ᴗ.(くう)(@AmbientflowKU)さんの演奏だったかもしれません。でも意識したのは、カイズ(@kaiz_na)さんが #questマッチョ部 の夏祭りで、「エリアスのテーマ」を弾かれたとき。

 殺伐(?)としたVRChatにあって、異世界感溢れる演奏。素敵でした。プロの方がすごい技術で弾くのではなくて、みんなを楽しませるために弾いている。とてもよかった……。
 それで後でこの曲名を聞いて、楽譜を調べました。演奏も動画で出てきます。カイズさんは、長らく弾いていなかったけど、この夜弾いた前半だけでなくて後半も復活させるとかさせないとかいう話でした。

 一ヶ月ほど経ったある朝、いつものように #questラジオ体操部 でカイズさんと話しているときにポロッと言ってしまいました。
「楽譜みつけたんですけど、後半って三連符あるし、ややこしいですよね」
このとき、カイズさんの目がきらりんと輝いて、あ、まずいって思ったらすかさず言われてしまいました。
「litalitaさん、もしかして弾くんじゃないですか?」

 図星です。はい、ピアノを弾かないことはないです。でも個人的な楽しみです。人にお聴かせするなんてことはないです。VRChatで弾こうとは思いません。そんな感じでここでは、適当に誤魔化して逃げました。

とんでもないことが!

 ところが、それからさらに1ヶ月ほど経って天文仮想研究所(VSP)所長の、ろれる(@roreru963)さんからtwitterでダイレクトメールがありました。私はVRChatで宇宙好きが集まる天文仮想研究所のメンバーの一人です。

「リタリタさん、二点ほどお聞きしたいことがあるので、近日中にお会いできますか?」2020年8月26日 午前11:06
「今晩であれば、21時以降であればOKです。所長に呼び出しうけると、緊張するなぁ。」2020年8月26日 午後0:06
「緊張してもらうような話じゃないですよ(笑)
リタリタさんがピアノを弾ける件と、VRchat公式への問い合わせの文をお願いしたく。詳しくは今晩に。」2020年8月26日 午後0:22
「ぐあ! ピアノ! まずいなぁ。カイズさんかなぁ。
では、今晩よろしくお願いいたします。」2020年8月26日 午後0:24
「甘ーい!!!ろれるの地獄耳は伊達じゃなーい!」2020年8月26日 午後0:25
「うわわわわわ」2020年8月26日 午後0:25

 天文仮想研究所では2020年10月17日に設立1周年を記念して一日中イベントをすることとしていました。そこにカイズさんが中心となって楽器の演奏をするというイベントが組まれていました。そこに私も入るようにということでした。もちろん、ろれる所長には紳士的に依頼されたわけでして、決して所長権限での命令とか指示ということではなくてですね……。
 ピアノは弾きますが、人前で弾くのはやりません。しかし、私は新しい経験がとても好きです。やったことがないことに挑戦するのは人生を豊かにすることだというのを知っているので、これはやるべきだと考えました。ということで、
「もちろん、喜んでお受けいたします」
とお返事しました。ここからが大変でした。本当に大変でした。

緊張すると言うこと

 とても緊張するのですよ。人前でピアノを弾くのは。ある朝、また #questラジオ体操部 で私の推しのyusayusa(@j_souzan)さんを前にして、練習していた「エアリスのテーマ」の2ページ分だけ弾いたときには、本当に指が震えました。ものすごい久しぶりの感覚。この調子だととてもじゃないけど、演奏になりません。
 そこで慣れるために、毎朝 #questラジオ体操部 の隅っこでラジオ体操が始まる前にピアノを弾くことにしました。みんな優しいのでこういうのは許してくれます。こっちは大緊張して弾いているのですが。
 りーふで(@LiefdeVr)さんに緊張するんです何かいい方法無いですかと尋ねたら
「練習は本番のように、本番は練習のように」
とアドバイスされました。でも緊張するんです。

 しかし、考えてみると不思議です。本人は家にいる。別に緊張しなくてもいいのに。でもVRに入るととても緊張する。VRでは本当にみんなに見られている聴かれているという感覚そのもので緊張するのです。これはすばらしいことです。普通だったらこの緊張感を得るのには、特別な機会を得ないと、たとえばコンサートするとか、人のうちに行くとか、そういうことでもないと得られないです。でもVRだと、すぐに緊張感だらけの環境に自分を投げ込むことができる。「VRChatは社会」と看破された方がおられましたが、そうなんです。社会の縮図で人と人との関係によって成り立っているのです。

仲間を増やす

 カイズさんとも話していて、やはり仲間は多い方がいいということになりました。1時間くらいコンサートはあるでしょう。VRChatではなぜか知りませんが、とにかく才能に溢れている方々が多い。そしてそれを隠している。アバターやワールドを作るクリエーターや絵を描く方は、まあ気がつきます。その他に、異様に博識だったり、何かを語らせるとすごいとか枚挙に暇がない。で、音楽はというと、聞かないと分からないことが多い。「もしかして、楽器しません?」をちょっとでも私のピアノ演奏に興味を示したフレンドに聞き回りました。私が伴奏して、主旋律をお願いしたいという下心でいっぱいだったんですけど。
「まだ復活させる気は無い」
「近所に迷惑になるので、今はできない」
こういうお返事もありました。でも次第に見つけていきました。

https://twitter.com/TAGA_VR_etc

 TA-GA(@TAGA_VR_etc)さんはギター弾きです。エレクトリックアコースティックギター(エレアコ)使いです。日曜日の午後2時半からある、あの子。(@veoxxxxxx)さん主宰の「お茶会」(まだタグが無い)のスタッフでもあり、お茶会はTA-GAさんの演奏から始まります。それに耳コピもする万能プレーヤーです。最初にSYNCROOMで苦労した仲間です。本番はソロで演奏されます。

https://twitter.com/under_the_left

 under_the_left(@under_the_left)さんは、電子笛を吹かれるけど、鍵盤もできるようだし、音楽にはとても詳しいようです。でも超然としていて決して昔を語りません。「コンサート当日はソロはやらないのですか?」という質問に、「電子笛の音は電子で本物では無いからやらない」と説明されたときには、きちんとこだわるunder_the_leftさんの信条を垣間見ました。本番では、「花は咲く」を一緒に演奏します。

https://twitter.com/d_e_n_p_a

 DENPARADE(@d_e_n_p_a)さんが、ハーモニカを買ったというツイートをみて、すぐに声をかけました。そして本番では、グノーのアヴェ・マリアを一緒にアンサンブルするようになりました。いくつもハーモニカを買っており、楽しそうに吹く様子は素晴らしいです。演奏用に作られた6連スピーカーのアバターも素敵。

https://twitter.com/tatmos

 TATMOS(@tatmos)さんは、ある意味でプロです。音楽のプロです。作曲、演奏、その他音楽に関係することはなんでもされているのだと想像します。何を聞いても、明快に答えてくださる。演奏についても、VRChat, NeosVR, SYNCROOM関係での音響の質問にもするどい分析で、解決方法をいろいろと教えていただきました。ある朝、私がシューベルトのアヴェ・マリアを弾いていたら「As dur」って言われたので、本当にびっくりしました。絶対音感! だって私が弾いていたのはアレンジされていて、原曲は「B dur」なのですから。

 kawasemi(@kawasemi_vrc)さん。耳コピでピアノを弾く。私がどうやってヘッドマウントディスプレイも付けてピアノ弾くんですかと聞いたときに、歩いて安全領域から外れたら、VRChatの画像が見えなくなり、外の様子が見えるからそれで弾けるとアドバイスしてくれました。いやー、無理です。そんな、ぼやけた外の映像で私はピアノを弾くことはできないです。たぶんkawasemiさんは鍵盤を見なくても弾けるはずです。ある日は、耳コピして数ヶ月かかったけどと説明しながら、超絶技巧を要求する某難曲をチャララララーーンって弾いたことがありました。その場にいたみんなが仰天しました。

 とにかくVRChatには才能に溢れている方々が多い。そしてそれを隠している。それは分かりました。これからも隠れた才能を発見し続けることでしょう。

リアルの世界ではあり得ない出会い

 これは、まぁちゃん(@bissochan)さんとの初めてのアンサンブルした日の録画です。


 ある日曜日の午後、私はあの子。(@veoxxxxxx)さんのお茶会に行きました。あの子。さんはTA-GAさんだけでなくて、多くの演奏者を連れてこようとしていました。それで私が、ラジオ体操部で弾いていたら誘われたわけです。このときはTA-GAさんとSYNCROOMで繋いで、「花は咲く」のセッションをしたいと考えていました。なかなか合奏するのは遅延のあるネットワークの世界では難しいのです。

 そして、私は他に準備している曲としてグノーのアヴェ・マリアを弾いていました。鍵盤を見るためにヘッドマウントディスプレイを額に載せると、VRChatの映像は見えません。ただ音は聞こえます。楽譜と鍵盤を見ながら淡々と弾いていました。そしたら「わたし、弾きまーーす」って声とともに、バイオリンの音が!

 ちょっと信じられますか? まぁちゃんさんは演奏家です。私の密かな夢は、まぁちゃんさんとアンサンブルできたらっていうことでした。 #ラジオ体操部 とか #questマッチョ部 でまぁちゃんさんはちょっと遠くにいるフレンドで、あまり話したことはありませんでした。ただバイオリン、ビオラを弾くとは聞いていました。
 まず無理ですよ。普通は。リアルの世界で音楽のプロの方とド素人の私が一緒するなんてあり得ないです。リアルで知り合ったとして「音楽されているのですね。今度聴きに行きますから」はある。でも「音楽されているのですね。今度一緒させてください」なんて、そんな発想はない。
 でも、あの日曜日の午後、私がはにょえ(@hanyoe_vrc)さんの作ったワールドの、綺麗な岡の野原でピアノを弾いていたら、バイオリンが合せて入ってきてくれたんです。ああ、神さま。この奇跡はあなたが起したのでしょう? 私はあなたのことを信じます。絶対に。
 あの時、私は緊張感なんて全くなくて、ただただ嬉しい気持ちでいっぱいでした。あり得ない体験をしている。人生っていいよね、こんなことがあるんだって、そんなことを感じていたのを覚えています。その日のツイートにはこう書きました。「ちょっと信じられない心の動きを感じた。これまで体験したことのないもの。VRすごい。」

 そして、サン・サーンスの白鳥も伴奏しますって言ったら「ちょっと頭にダウンロードしますから、調は?」「ト長調、シャープが一つです!」「えっと、合せます!」これで、ほんの少し時間をとって、ここでビオラに変えて、アンサンブルしたのが、さきほどのツイートのビデオでした。プロはありえないことをする。

遅延研究会

 この遅延研究会という研究会の命名者は、まぁちゃん(@bissochan)さんです。VRChatでアンサンブル(セッション、合奏、合唱)をしようとすると200から300ミリ秒の遅延があり、さきほどのビデオのようにかなり無理があります。なんとかしてこの遅延を乗り越えないと!

 結論からいくとYAMAHAのSYNCROOMを使います。これで遅延は50から100ミリ秒になります。伴奏してそれに合せて主旋律が演奏します。その主旋律の演奏は、伴奏している私にはかなりずれて聞こえます。でも、私はそれは無視して伴奏を淡々と演奏します。観客は? 実は、観客にはそこまでずれて聞こえないのです。もし主旋律が「前のめりに演奏する」を実施できれば、ほぼぴったりになるはずです。これはTATMOSさんがくわしい記事を書かれています。

 さらにVRChatは閾値よりも小さい音になると、無音にしてしまうという問題がありました。ピアノは減衰する音なので、音が小さくなると突然、無音になりすごく不自然です。これは20 Hzの音を使って回避します。

https://booth.pm/ja/items/1177208

 

 そして、このくらいにまで調整することができました! under_the_leftさん、denparadeさん、カイズさん、TA-GAさん、あの子。さんいつも支援をありがとう!

さて、明日は本番

 昨晩はSYNCROOMの調整や、練習やらをしてVRChatで過ごしていました。そしたらまぁちゃんさんが来られました。
「疲れるからあまり練習しないように。もう完璧に弾けているから大丈夫!」
「本番は一度しかないから。楽しんで!」

 明日は10月17日。本番の日です。仲間とのVRChatでの素敵な出会い に心から感謝しています。
 こんなことリアルじゃ絶対にできない。どこに住んでいるかも、年齢も、お名前も、分からないけど、リアルではできない素敵なことがVRではできる。


謝辞

 考えたけど、やっぱり一番感謝するのはカイズさんです。VRChatでピアノを弾くのが素晴らしいというのに気づかせてくださいました。そして、ろれる所長に告げ口してくださったために、コンサートという機会を得ることができました。あり得ない出会いもありました。すべてカイズさんのせいです。ありがとうございます。感謝申し上げます。

litalita 2020年10月16日

追記 当日の様子は下記にまとめました。(2020年10月19日)


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