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リトルナイトメア【或る二人の悪夢】

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#二次小説
#ネタバレ注意



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レディとシンマンは【同じ悪夢】を見ていたのでは? 

……という妄想で書いています。

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「最近、とても怖い夢を見るわ」
 暖炉の灯る部屋で本を読みながら、和装の女性は唐突につぶやいた。
「どんな夢だい?」
 モノトーンのスーツに身を包んだ手足の長い男性は、隣席から優しい眼差しを向けた。
「昔住んでいたあの街の夢よ」
「奇遇だね。僕も最近、あの街の夢をよく見るよ。あまり気分の良いモノではないけれど」
「私も。夢で見るのは、嫌な思い出の残る場所ばかりなの」
「例えば?」
「学校よ。あの女教師も、いじめっ子たちも大嫌いだった」
「そうだったね。君は……トイレで同級生たちに酷くいじめられていたね」
「それをあなたが見つけて、いじめっ子たちから助けてくれたのよね。それまでは、あなたのことを誤解していたの。あなたはいつも洒落た服やかぶり物をしていて、よく授業も抜け出していた。自由な人が怖かったの」
「いや、自由に振る舞ってはいたけど臆病だったよ。とくにあの女教師はトラウマだ。おいたが過ぎて、よくお仕置きされたものさ」
 男性は肩をすくめて苦笑した。
「あなたは確かによく怒られていたけれど……みんなに慕われていたわ。私をいじめていた子には、あなたがいつも親しくしていた子もいたから……私、あなたがいじめっ子の王様なのだと思っていたわ」
「そんな! それは誤解だよ」
 男性は少年のようにムキになって、口をへの字に曲げた。
「分かっているわ。トイレの事件をキッカケに、あなたとよく話すようになったわね。はじめての友達だったのよ。私は病気でよく学校を休んでいたから」
「そういえば君の入院する病院にお見舞いに行ったことがあったね。僕は昨日、君と夜の病院を探険する夢を見たよ」
「そうなの? 私も夢で、あの頃のあなたと病院にいたわ。――でもね、あなたはドアの向こうに消えて、しばらく帰ってこないの」
 女性は俯いて両腕を抱えた。
「夢の中の僕は、君を置いていったのかい?」
「違う。病院の奥からあなたの悲鳴が聞こえた。扉の前で私は泣いていたわ」
「……。僕はなにか怖いものに襲われたのかな?」
「分からない。病院には悪い人もいるもの。お医者様だって、良い人とは限らないわ」
「君が苦手だと言っていた、あの太っちょのお医者様かい?」
 女性は大きく肯いた。
「あの医者は嫌いよ。人を人とも思っていないわ。患者は彼の人形なのよ」
「あの頃の僕は君と同じことを思っていたよ。だからなのかな。僕が見た夢では、患者は全員人形だったよ。つぎはぎで、でたらめにいろんな部品をはめられてさ」
「残酷な比喩ね」
「本当にそう。僕の夢では、その人形たちが動き出すんだ。医者の意のままに操られた傀儡のようだった」
 男性はマリオネットを十字の板で操るような仕草をした。
「夢って不思議。過去をありのまま見せるのではないのね。遠回しな喩えや、実際よりも恐ろしい姿で現われる。自分が小さくなって、周りの人間が大きく見えたりするのよ」
「僕の悪夢も似たようなものだ。怖い夢でも救いがあったことが幸いだ」
「救いって?」
「夢の中で、ずっと君の手を握っていたんだ」
 和装の女性は頬を火照らせ、袖で口元を隠すと、視線を暖炉へ逸らした。
「君は幼い頃の姿で、あのお気に入りの黄色いレインコートを着ていたよ」
「……。夢の中のあなたは帽子を被っていたの?」
「うん。お気に入りの帽子をいろいろ被ったなぁ。そうそう、紙袋に二つ穴をあけたやつもね。ハロウィンに君を驚かそうと即席でこしらえたものさ」
「懐かしいわね。ところで……ねぇ? 夢の中で紙袋や帽子を一度でも脱いだ?」
「そういえば一度だけ脱いだなぁ、大きな塔の中で。塔は崩れかけで、君と必死になって出口を探す夢だったよ。君は、帽子を被っていない僕の顔を見て、すごく驚いたようでさ。僕の手を離してしまったものだから、深淵へ真っ逆さまに落ちてしまったけどね。あれは少し哀しかったなぁ。嫌な悪夢だよ」
「……離してしまったあとに」
 男性は首を傾げ、椅子から身を乗り出した。
「声が小さくてよく聞こえなかったよ。今なんて言ったの?」
「……。私も夢の中で、あなたと手をつないでいた、って言ったの」
「やっぱり僕たちは、同じ夢を見ていたのかもしれないね」
「そうね。あなたがそばにいない一人ぼっちの夢も見た。とても寂しかったわ」
「その夢でも、僕がそばにいられたなら良かったのにな」
「大丈夫。一人ぼっちで冒険したのは、この船の中だったもの」
「ああ、それなら安心だ。だってここは僕らの家だからね」
「私は小さな姿になって、この船の中を探検したわ。でもどこまでも悪夢なの。私は……なんだか人を食べてしまったみたいで……」
「それは怖い。確かに君は、人も呑み込みそうな痩せの大食いだけどさ」
「ひどい言い様ね。あれは夢よ。死臭で吐き出しそうな気味の悪い夢だわ」
「悪夢に酔ったのかい?」
「大丈夫。船酔いもしないのよ、私。もう何年この船にいると思っているの? 陸酔いはするかもしれないけれど」
「僕もあの街に戻ったら、酔ってしまうかもな。きっと建物が右へ左へ揺れて、歪んで見えるんだろう。あの頃のように、耳鳴りと頭痛に悩まされるかもしれない」
「だからあの頃のあなたは、いつも帽子をかぶっていたんでしょ?」
「うん。僕は、あの電波塔とは相性が悪いらしい」
「でもあなたは機械に強いじゃない。壊れたテレビの電波もすぐに合わせてくれるわ」
「リモコンがあれば簡単さ。小さい頃は窓越しに近所のおばさん家のテレビを消したり点けたり悪戯をしたなぁ。みんなテレビに夢中でつまらないんだ。僕はこの広い海の方が好きだよ。美味しい魚もたくさん獲れるし、新鮮なお肉だって陸の猟師から届けられる。この船の料亭モウを君と開いてから幸せな日々だ」
「そろそろお客様が見える頃よ」
「ああ、時計の鐘が鳴っているね。――もう六時なのか」
 二人は見開いていた本を閉じ、席を立った。
「出迎えの準備をしなければならないわ。今晩はあなたの素敵なピアノを聴けるかしら」
「レディ、君が望むなら喜んで。――さぁ、行こう」
 二人は手を重ね、秘密の部屋を後にした。


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