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儀礼と私

「人の気持ちなんてわかるわけがない」

この言葉には、心理学者の河合隼雄氏の「こころの処方箋」という本で語られていた。

「人の気持ちはわからないのだけど、仲間外れを避けるにはどうすればいいか?」入学や転校、部活への入部、就職など、新しい組織に属するとき、無意識にこのことを考えてきたように思う。

そこで身に着けた生存戦略、それが「儀礼」であった。新しい組織に属するとき、その組織の「儀礼」を探した。

それは、「昼休みのサッカー」「町の夏祭り」「金曜日の飲み会」「説教」であったりした。儀礼の意味はほとんどわからなかったが、確かにそこに存在しており、それを見つけては実践した。

儀礼は便利なもので、意味はわからなくても、それを実践すれば、その組織に属する人を喜ばせることができる。

例えばN氏のことを「N先輩」と呼ぶだけで、N氏は喜び、安心するのである。会社の上司にビールを注ぐだけで、上司は安心するのである。

組織に属してから1年間、見つけた儀礼を実践し続ければ、間違いなく組織の仲間と認識されるだろう。

一度「仲間」と認識されたら、儀礼を取捨選択するといい。取捨選択する利点は2つある。

①儀礼によって「重み」が異なる。

②儀礼の中には自分が得意なものと苦手なものがある。

重くて、得意な儀礼は積極的に実践する。例えば「居酒屋」や「話すこと」が好きであれば、「上司との飲み会」に行けばいい。

一方で、軽くて、苦手な儀礼は、もうやめよう。好きでなければ「社内スポーツ大会」に出る必要はない。

あとは「軽くて得意な儀礼」と「重くて苦手な儀礼」をやるのか、やらないのか適当に決めていったらいい。

同じ組織に属するほかの人を観察してみよう。儀礼をすべて実践している人はほとんどいないことに気づく。みな取捨選択しているのだ。実践しない儀礼があっても「あのひとは、ああいうひとだから、あれはやらないよね」それで済んでいる。

選んだ儀礼を適度に実践して、組織に属する他者を適度に安心させ、残った時間で、安心して好きなことをやる。

「人の気持ちはわからない」から、儀礼をやって安心させ、人の気持ちを気にせずに好き勝手にやる。

私にとって、儀礼とは、組織に属する他者に与える「精神安定剤」のようなものかもしれない。




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