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見上げる、夜空。そして火花。


いつからだろう。
自分の夢を、口に出さなくなったのは。


何の刺激もない毎日。

平日は職場と自宅の往復。


繰り返し。繰り返し。


月曜日。帰り道。
いつもの満員電車に身体を押し込め
自宅へと向かう。

窓の向こうには、疲れ切った自分の顔。
何者でもない、自分の顔。
もう飽きるほどに見た、この顔。


この顔と現実から目を背けようと、
ふと辺りを見渡してみる。

誰かに決められたかのように、
皆同じ疲れ切った顔で画面を覗く。



スマホスマホスマホ。

滑稽な風景。

そう思ったのも束の間。
私もまた、その滑稽な風景の一員に成り下がる。

なにを見るでもなく、
飽きては人差し指を上に滑らせる。滑らせる。
時間が欲しいと嘆くくせに、時間を潰す。

ふと指が止まる。
若者がなにかを叫んでは、そこに音楽がかかる。
4人が同じことを繰り返すうちに、
気付けばその動画もまた、繰り返し。




金曜日。帰り道。
長い長い一週間が終わり、
ぎゅうと押し込まれた身体で、
何者でもない私は、
またいつものように滑稽な風景と化す。

若者が叫ぶ。音楽がかかる。

いつからか彼らを見ることも、
繰り返しのひとつになっている。

繰り返し。繰り返し。


ずいぶんと帰りが遅くなった。
私は疲れが蓄積された重い身体を
ようやっと自宅へと運ぶ。

日曜日の時点では缶ビールに
占領されていた冷蔵庫は、
扉を開けると、もうあの日よりずいぶん
明るくなっていた。

缶ビールをひとつ取り出し
おもむろに飲み始める。

一週間の疲れとため息を、
ビールとともに流し込む。

テレビの向こうでは、
規制緩和による観光地の賑わいを伝える、
どうやら私には縁のない情報が流れていた。




冷蔵庫はもう、完全に明るくなっていた。

ふと時計を見ると、
そろそろ金曜日が終わろうとしていた。


最後の一本。

これを飲み干したら、眠りにつこう。

そして特に刺激もない週末に駆け抜けられ、
何者でもない私は、また繰り返す。
夢を口に出さなくなった私は、また繰り返す。


あの月曜日を。

そしてまた、あの金曜日を。


繰り返し。繰り返し。



テレビの向こうでは、
どこかのお笑い芸人が、4人で叫んでいた。



、、?


その瞬間、胸がざわついた。




繰り返し。繰り返し。



なにかを叫んでいた彼らが、


何者でもなかった彼らが、


今、何者かになろうとしている。




繰り返し。繰り返し。




夢を叶えようと、叫んでいる彼ら。



夢を口に出さなくなった私。




繰り返し。繰り返し。



彼らの声がどんどん大きくなる。


私の鼓動はどんどん強く脈を打つ。




繰り返し。繰り返し。




テレビの向こうの、
何者かになろうとする彼らの叫びか。




何者でもない私の、心の叫びか。








「もうええわ」







東京の夜空に、希望の火花が、小さく光った。










(あとがき)

長めのテレビ出演告知を書きました。

普段はTikTokで叫んでいる4人組、
「同期の休日」が

5月12日、金曜日。
フジテレビ「ネタパレ」に出演します!

ぜひご覧ください。


そして放送後、


一応窓を開けて、夜空を見てください。


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