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【悲報】アイツ(ら)がやってきた。



今日の仕事は、朝が早い。
自宅からかなり遠いスタジオということもあり、現場近くのカプセルホテルに泊まることにしていた。そして現在時刻は5時。ひとり朝を迎えた僕は、重い身体を狭いカプセルから追い出した。

慣れない鏡の低さと、絶望的に風量のないドライヤーに悪戦苦闘の身支度をする。その時、ポケットから振動。こんな時間に誰かと携帯を覗く。

すると、その送信主はnote事務局だった。ほどなくそのメールを開封する。内容は、僕のnoteメンバーシップへの加入者が増えたことをお知らせする通知だった。


僕は知っている。



にんじんとは、


コイツのことである。

僕は焦る。なぜだ。なぜアイツがやってきた。考える。僕のメンバーシップに。あのギャンブル狂いが。あの年中金欠男が。なぜだ。僕のメンバーシップにやってきた。月額1500円もする僕の隠し部屋に。最悪だ。常人にとっての1500円はアイツにとっての15万円なはずだ。


、、、、、


その時あることを思い出し、すぐに僕は昨日の生配信中に発した、自分の言動を強く後悔した。

「そういえばコバのnoteっていくらすんの?」

「1500円。」

「高いな!」

「お前ら3人で共有したら500円やな。
そんなんしてええわけないけど。笑」

「......なるほどな。」


、、、なるほどな?一瞬僕の心はざわついたが、さすがに冗談だろうと簡単にやり過ごした。それがいけなかった。僕の一瞬の不安は、その配信からたった7時間後に現実となった。

最悪だ。きっと鵜呑みにしている。最悪だ。あんなものを鵜呑みにするやつがいるだろうか。




noteメンバーシップ。
ずっとやりたいと思ってきた。半年以上、構想を練っていた。なにを書こうか。どんな場所にしようか。ずっと考えてきた。ここは、そんな僕がやっとの思いで作った秘密基地。秘密基地の中だから話せる本音がある。秘密基地の中だから打ち明けられる思いがある。ここでしか言わないこれからのこと。思い。僕の心の恥部まで全部晒して、なにもかもを曝け出せる場所。

そんな思いで始めたnoteメンバーシップ。
だからこそ、冷やかしに来るには高い壁として、月額1500円という強気な値段設定にした。


しかし、しかしである。

そこにアイツがやってきた。

たとえあの生配信中の発言を鵜呑みにしたとて、500円。500円はアイツにとっての5万円ではないのか。なぜだ。なぜ犯しに来た。まともな神経ではない。何を考えている。来るな、去れ。

しかし僕は、この秘密基地への不法入国者を追い出す術を知らない。すぐに検索する。

[メンバーシップ 強制退会 方法]

どうやら退会させるには、どういった理由か問われるらしい。理由、、、だめだ。アイツは一般的に見れば、健全に料金を支払い、健全に朝6時前から僕の記事を読んでくれる、優良な読者。愛すべきフォロワー様であり、ありがたきメンバーシップ会員様なのだ。「不法入国者のため」などという退会方法は存在するはずもない。


ここで思い出してほしい。たったひとりの不法入国者と侮ることなかれ。アイツ(ら)はひとりではない。そう。ひとりではない。先述した通り。ヒントはそう、500円。500円なのである。


まだふたりいる。


この時点で、もはや僕の意識は朦朧としている。変な高さの鏡に映る僕の瞳は、半分、白い。泡も少し吹いていた気がする。しかしそんなことを言っている暇はない。仕事へ向かわねば。ふらふらになりながら身支度を済ませ、カプセルホテルを飛び出した。




駅前。東口。
コンビニの前で談笑するアイツ(ら)。
憎きアイツももちろんいる。

僕は、青と紫、残り二色の導火線になるべく刺激を与えないよう細心の注意を払いながら、話を切り出した。

「なんか、じんがnoteフォローしてきてさ。」

間髪入れず、汚い関西弁が聞こえてきた。


「ええやん!おれもまわしてみしてえや!」


なるほど。そうか。この気持ちか。
この気持ちを、殺意と呼ぶのか。

そしてまた間髪入れず、前歯が光った。


「おー!おれもおれも!」



いとも簡単に着火した導火線。
奪われた僕の秘密基地。
殺意を超えた感情に全身を支配された僕は、おもむろに歩き出し、アイツらと少し距離を取って、およそ早朝にはふさわしくない大きな声を出した。

少しでも気持ちを落ち着けようと深呼吸をする。
その時また、携帯が鳴る。



ここで僕の、意識が飛んだ。


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