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∞カラットの笑顔の戦士/ドラゴン・ダイヤについて

龍の継承者としてデビュー


デビュー発表時のダイヤと師匠のキッド 

ドラゴン・ダイヤのデビューが発表されたのは、2018年10月2日DRAGON GATE(以下ドラゲー)後楽園ホール大会。ドラゴン・キッドに呼び寄せられてリングに上がったピンクのマスクを纏ったダイヤは、マスク越しでも分かるぐらい緊張の面持ちだった。
  キッドは彼が自分の弟子であり、入門してから1年半、目をかけて育ててきた旨を説明した。
  ドラゴン・キッドといえば、ドラゲーの前身の闘龍門時代から団体を支える国内有数のハイフライヤー。海外からも尊敬を集める軽量級の象徴選手であり、団体創設者のウルティモ・ドラゴンの正統な後継者でもある。
現在、ドラゲーでキッドの弟子だと公表されているのは、今はNOAHを主戦場にしてるEitaとダイヤのみ。しかし、ダイヤはEitaと違い、ウルティモやキッドと同じマスクマンであり、更には龍の名前を継ぐ選手である事からも団体の並々ならぬ期待がうかがえた。
  デビュー戦は翌月の11月6日の同場所、キッドとのタッグで相手はヒールユニットR・E・DのEitaと神田裕之に決まった。Eitaはヒールターンで師匠と袂を分かったとはいえ、ダイヤにとっては兄弟子に当たる。更に、ヒールとなれば新人に声援が集まりやすくなり、話題性も含めてデビュー戦としてはこれ以上ない相手だった。
  そして、行われたデビュー戦。ダイヤは辿々しいながらもハイフライムーブを幾つか披露し、師匠とのケブラーダ、619共演等見せ場も作ったが、兄弟子と先輩に痛めつけられて敗北した。上々とは言えないまでも、鳴り物入りのマスクマンとしてデビューしたダイヤの幸先は順風満帆……とは、言い難かった。

デビュー戦を終えてEitaと対峙するダイヤ


低迷期〜三世代抗争と吉岡勇紀との因縁


  デビューして暫くは師匠や他選手と組んで試合をしていたダイヤだったが、“ドラゴン・キッドの弟子”“龍の継承者”という重圧は想像以上に重く、なかなか期待に応えられない状態が続き、試合を組まれる回数が徐々に減っていった。
(この時の、辛さはGAORAで放送されたドラゲーのドキュメンタリー『This is DRAGONGATE』でも本人が語っている。現在DragonGate Networkで配信中)

  その悪い流れが少し変わったのは2019年11月4日大阪ビッグマッチ
ダイヤは第1試合の10人参加のバトルロイヤルに出場し自力初勝利を納める。
それ以降調子が上がったダイヤは、シングル初勝利等勝ち星を着実に増やしていき、その勢いは当時若手が多く所属していたユニット・望月道場の師範である望月成晃に勧誘されるぐらいだった(これに関しては即座に断っている)。
  そして、団体はYAMATOが提唱した“三世代抗争”により、2020年からユニットの大幅な改編が行われる。
  この抗争はヒール以外のユニットを全て解体し、当時のヒールユニットだったR・E・D、闘龍門時代から団体に所属するベテラン選手達による“闘龍門世代”、DRAGON GATEに改称してから所属になった中堅〜若手選手達による“DRAGON GATE世代”に分かれて行われた世代間抗争で、結果的に若手が大きく成長するきっかけとなった抗争だ。
ダイヤは当然DRAGON GATE世代所属となった。

  好調を維持するダイヤは、年始からマスクを師匠のキッドに近いデザインに変えた事もあり、よりリング上での振る舞いに自信が感じられるようになった。
  しかし、この好調を快く思わない選手がいた。
それは、ダイヤを語るのに欠かせない現在の唯一無二のパートナー・吉岡勇紀だった。
当時の彼は同期組(シュン・スカイウォーカー、Ben-K、ワタナベヒョウ(現・豹))の中でも一際地味な選手で、鳴り物入りのマスクマンとしてデビューしたダイヤとは真逆の存在だった。
同じDRAGON GATE世代でありながら、後輩のダイヤの好調に嫉妬した吉岡はシングルマッチを要求。
ここで、抗争の火種が燻るかと思いきや、コロナ禍に突入した事もありシングルは流れ、この因縁は中途半端なまま終了。吉岡は遺恨を残したまま海外武者修行に出発する事になった。

  その間、ダイヤは団体がコロナ禍で苦しむ中、同世代の若手達と切磋琢磨しながらトライアングルゲートの初戴冠を経験したり、無観客試合ではあったがシングルトーナメントのKING OF GATEに出場したりと、DRAGON GATE世代の中心選手としてめきめきと実力を伸ばしていた。

師匠に近いマスクに変わったダイヤ


ダイヤ・インフェルノとの抗争勃発


  三世代抗争も大詰めに差し掛かった2020年10月4日福岡大会。ダイヤとタッグマッチで激突したR・E・Dのリーダー・Eitaが彼に対し「チンタラ試合してるとアイツが怒るぞ」と、新メンバーの投入を予告する。

  来る10月7日後楽園ホール大会、R・E・Dの吉田隆司とシングルで対戦したダイヤだったが、突然試合中に黒龍のマスクマンが乱入。ダイヤのマスクを剥ぐという暴挙に出る。
一言も発さない得体の知れないそのマスクマンは、Eitaの口から「ダイヤ・インフェルノ」だと紹介された。

ダイヤ・インフェルノ

  ベビーフェイスのマスクマンと、それと対になるギミックを持ったヒールのマスクマンといえば、思い出されるのはダイヤの師匠であるドラゴン・キッドとダークネス・ドラゴン(K-ness.)だ。
この2人の抗争は、ドラゲーのライバルストーリーの代名詞で、これに夢中になりドラゲーを目指したという選手も多く、ファンなら真っ先に連想しただろう。
ストーリー性や世界観を重視するドラゲーでは戴冠歴、強さだけでなく、激しい抗争や魅力的なストーリーの登場人物となって観客の心を掴む事がリングの中央に立つ者の大きな条件として求められる。
キッドが件の抗争で団体内での地位を盤石にしたように、弟子のダイヤにもドラゲーのトップに立つ大きなチャンスが巡ってきたのだ。
  しかし、少し不幸だったのは前述の通りに遺恨作りが不十分だった事だ。
インフェルノの正体が吉岡勇紀である事は大概のファンが気づいてはいたが、遠征前の「ダイヤを倒す為に武者修行に行く」という大義名分がコロナ禍もあって上手く見せられなかった為に、何故インフェルノ=吉岡がダイヤをつけ狙うのかが観客側にあまり上手く伝わっていなかったのだ。

  目の肥えた観客を満足させたとは言い難いダイヤとインフェルノの抗争は、コロナ禍で手探りの興行の中、ダイヤの怪我での欠場も挟み1年以上緩く続く事になる。

若手ユニット・MASQUERADE結成


MASQUERADEの入場パフォーマンス

  インフェルノとの抗争が始まった翌月の11月3日大阪ビッグマッチ
2人はタッグマッチで激突し、同月15日のKOBEワールド記念ホール大会に向けて火花を散らせた。
  この年の大阪ビッグマッチは様々なサプライズが起こり異様な盛り上がりを見せていたが、最大のサプライズは、後にダイヤの選手生活に大きな影響をもたらすシュン・スカイウォーカーが海外武者修行から電撃帰国した事だ。
  シュンはEitaの持つドリームゲート王座に挑戦表明し、KOBEワールド大会で初戴冠。帰国早々に快進撃を見せる。
  一方のダイヤは、ワールドでインフェルノと初のシングルマッチを行った。
かつての師匠のライバルであるK-ness.から授かったバンパイヤ・シザースを披露したり健闘したが、マスクを破られ憤慨。因縁は深まる一方だった。

  12月2日後楽園ホール大会。ドリーム初戴冠という実績を携えたシュンが新ユニットの発足を明言。DRAGON GATE世代に所属していた、ジェイソン・リー箕浦康太、そしてダイヤが実質引き抜かれたような形でそのユニットに参加。同月15日の後楽園でデビューしたラ・エストレージャも仲間に加え、
若手ユニット“MASQUERADE”が本格始動した。
  このユニット結成が、後にダイヤの選手生活で最も大きな出来事をもたらす事になる。

運命のマスカラ・コントラ・マスカラ


  2020年末に三世代抗争は終わりを迎え、2021年に突入。
昨年末に負傷をしインフェルノとの試合が流れたダイヤは長期欠場を余儀なくされ、更には年始に最愛の父親を亡くすという悲しみに見舞われる。
  5月5日愛知ビッグマッチで復帰したダイヤは、ジェイソン、エストレージャと共にNatural Vibesの持つトライアングルゲートに挑戦し奪取。誰よりもベルトを大事そうに手にするダイヤの様子は、一際感慨深そうだった。

トライアングルのベルトを持ち、天を仰ぐダイヤ

  若手のみで結成されたMASQUERADEは、常に楽しそうでこの世の春を謳歌しているように見えた。
勿論ダイヤも同世代に囲まれて生き生きとしていたが、それと同時にこの青春は長くは続かないであろうという刹那も内包していた。
  そんな中、ダイヤとインフェルノの抗争はいよいよ激化し、遂にダイヤの選手生活の中で最も大きな転機が訪れる。
12月1日後楽園ホール大会ダイヤ、シュンVSインフェルノ、ディアマンテによる、マスカラ・コントラ・マスカラが行われる事になったのだ。
マスクを脱ぐのは、フォールを取られた1人のみ。
観客のほとんどがインフェルノの正体に気づいていた為、マスクを脱ぐのは彼だろうというのが大方の予想で、少なくともキッドの弟子で、龍の継承者であるダイヤはマスクを脱がないだろうと思われていた。
  しかし、誰もが予測しえなかった事態が起こる。
シュンを守ろうとディアマンテの前に立ちはだかったダイヤを、シュンが突き飛ばし生贄にしたのだ。
ディアマンテに敗北したダイヤを観て、会場は騒然。
ダイヤの師匠であるキッドは数多のマスカラ戦を勝ち抜き、現在までマスクを守り抜いてきただけに、この衝撃は大きい。
  そして、ダイヤは時間をかけ、泣きながらマスクを脱ぎ素顔になった。

泣きながら素顔になるダイヤ

悔し涙を流すダイヤをR・E・DのSB KENToが茶化して晒し上げるが、ここで動いたのがダイヤの因縁の相手、インフェルノだった。
彼はマイクを持ち、初めて言葉を紡いだ。

「お前を倒すために俺は現れたが、お前がマスクを取った今、ダイヤ・インフェルノの役目は今日で終わりだ!」

吉岡勇紀の凱旋だった。

マスクを脱ぎ捨てた吉岡勇紀
試合後の絶望的な雰囲気のMASQUERADE


ブレイブ初戴冠〜吉岡との共闘へ


  そこから暫く、ダイヤも吉岡も行方をくらませていた。
  その間、ダイヤを裏切ったシュンは奇行を繰り返し、彼に不信感を抱いたメンバーの心は離れ、青春のMASQUERADEは崩壊が迫っていた。
  2022年1月後楽園ホール大会、2days1日目。トライアングルゲート戦で仲間割れをしたMASQUERADEは遂に崩壊。シュンはH・Y・O(現・豹)の勧誘を受けてR・E・Dに加入する。
そして、ゴタゴタした中、斎藤了GMがこれで大会は締められないとブレイブゲート戦を提案。
  呼び込まれ、スケボーに乗って現れたのは、素顔になり心機一転したドラゴン・ダイヤだった。
  笑顔を弾けさせるダイヤは、マスクマンの時にその表情が見えなかった事が惜しくなる程の表情豊かな明るい青年だった。
  会場は盛り上がり、急遽行われたチャンピオンSBK VS ダイヤのブレイブ戦を歓迎した。
当然ヒールのR・E・D側はセコンド介入をするが、そこにインフェルノの衣装を身に着けた吉岡が現れ、粉かけでセコンドを退けるとダイヤをアシストした。
ダイヤはSBKに勝利し、ブレイブゲートを初戴冠。吉岡との共闘を宣言。

戴冠を喜ぶダイヤ

  翌日の2days2日目には彼と共にツインゲートに挑戦する事も表明した。
  試合後、エンディングの音楽が鳴る中、ヒールターンしたシュンと、生まれ変わったダイヤは暫く対峙していた。

対峙するシュンとダイヤ

  そして2日目、第1試合でSBKとH・Y・Oの持つツインゲートに挑戦したダイヤと吉岡。ダイヤはトレードマークのピンクのコスチューム、吉岡は青いコスチュームに身を包んでいた。明るいダイヤと物静かそうな吉岡との並びは、まるでバディものの映画や漫画のような相性の良さで、2人が唯一無二のパートナーである事を視覚的にも印象づけた。

ダイヤと吉岡

    2人は前日の勢いのままツインゲートを奪取。ダイヤは2冠王となり、吉岡とのコンビの滑り出しは上々で、観客にも大いに歓迎された。

  ダイヤとインフェルノの抗争は緩いものではあったが、最終的に2人が迎えた結末は近年のドラゲーのストーリーの中でも有数のビッグエモーションとなった。

D'Courage結成〜まとめ


  2人はユニット名を一般公募。ダイヤ(Dia)勇紀(勇気=Courage)から、D'Courage(ディーカレッジ)というユニット名になり、素晴らしいテーマ曲も完成した。
D'Courageは、後に菊田円田中良弥を加えた4人体制になるが、取り分け元祖であるダイヤと吉岡の絆は強い。

元祖D'Courage
現在のD'Courage


  コロナ禍以降、離脱が続いた事もあり団体が以前より集客に苦しむ中、一番辛い時期にドリームを戴冠したのが吉岡で、それを支えながらリングを盛り上げていたのはダイヤだった。
新世代の王者として資質が問われる事の辛さを吉岡が隠さず吐露した時、リングサイドで涙を見せる時もあった。

吉岡のマイクを聞いて涙ぐむダイヤ   

  ビッグマッチで同日に2度のタイトルマッチを強いられたり、団体にいじめられる事もあったが、どれもダイヤの明るく爽やかな圧倒的なベビーフェイス力を補強する要素となっている。
  それだけでなく、観客が歓声が出せない中で、アイディアを絞りマイクをしたり、地方巡業では率先して交流をしたり、リング内での活躍もさる事ながら、ダイヤの明るい笑顔と献身的な努力が現在に至るまで団体を支えているのは間違いない。
  後輩達は口々にダイヤへの尊敬を口にしており、下の世代のメンタリティを気遣っている様子も垣間見える。

  当初、偉大なキッドの名前や背負うものの大きさに気後れしていたように思えたダイヤは、マスクを脱ぎ捨てた事をきっかけに、自分の道を歩み始めた。
  一時期は、師匠とのリング上での交わりもなくなり、師弟関係が気がかりな瞬間もあったが、それは彼が偉大な師匠に対して引け目を感じていたからかもしれない。
  彼が選手として優れたハイフライヤーであっても、ドラゴン・キッドにも、ウルティモ・ドラゴンにもなる必要はない。
ドラゴン・ダイヤは1人の選手としても、人間としても偉大な先人にはない素晴らしさを持っており、今や団体には必要不可欠な選手だ。

  ダイヤがDRAGON GATEでも、どの団体でも、明るい∞カラットの輝きでリングを照らす姿をファンの1人として見守りたいと思う。​

BOSJ頑張れ!


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