「ウクライーナの地名の正しいスペルと使用法に関する公式ガイド」について
2022 年,マスメディアで用いられるウクライナの首都名が一斉に「キエフ」から「キーウ」に変わった。
一言で言えば,ロシア語に基づく表記からウクライナ語に基づく表記への切り替えである。
この背景にはロシアによるウクライナへの軍事侵攻があると思われるが,「侵略者の言語で表記するのはけしからん」という話ではなく,「公用語に基づく表記が妥当」という話だろうと私は理解している。
侵略されている側にも多数のロシア語母語話者がいるわけだし。
ところで,ウクライナ語 Київ の発音は日本語母語話者にはなかなか難しい。
母音 и にしても,子音+母音の ї にしても,語末の子音 в にしても。
おそらく我々がカタカナ的に「キーウ」と発音しても,ウクライナ語母語話者には「ぜんぜん違う」音に聞こえるのだろう。
それでも,原音をある程度うまく表して,かつ無理のない単純な表記という意味で,「キーウ」はなかなか良い落とし所なのだろうと思っている。
何語であれ,日本語ではない言語の固有名詞を片仮名でどう表記するかはなかなか難しい。
そんなことを考えているとき,在日ウクライナ大使館さんの以下の記事(2019 年)を見つけた。
「ウクライーナの地名の正しいスペルと使用法に関する公式ガイド」
これは,ウクライナ外務省が発表した公開書簡 “Official guidance on the correct spelling and usage of Ukrainian place names” を紹介したもの。
公開書簡はもともと 2018 年に出されたもののようだが,当時の URL は既に無く,現在は以下で読めるようだ(英語苦手であまりよく分かってない)。
簡単に言うと,ウクライナの地名をラテン文字で表記する際に,ソ連時代の綴り(ロシア語に基づいている)がいまだに使われているが,ウクライナ語に基づいた綴りを使ってほしい,ということのようだ。
そして,具体例として,
Kiev → Kyiv
Lvov → Lviv
Odessa → Odesa
Kharkov → Kharkiv
などが挙がっている。
そして,“Tenth United Nations Conference on the Standardization of Geographical Names” という 2012 年の国連の文書の,ウクライナ語の地名に関する箇所が資料として掲げられている。
国連で地名の標準化に関する会議とかやってたのね(よく分からんけど)。
件の大使館の記事では置き換え表に片仮名表記が併記されており,上記の四つについては「クィイヴ」「リヴィヴ」「オデサ」「ハルキヴ」と書かれている。
アクセントのある音節でも長音符「ー」を使っていないこと,語末の в 音に「ウ」でなく「ヴ」を当てていること,и 音にウ段+「ィ」を当てていること,母音を伴わない軟子音にイ段の仮名を当てていることなどが特徴的だ。
最後の点は,要するに л を「ル」とし,ль を「リ」とするものだが,ラテン文字表記ではどちらも「l」で区別がつかないのと対照的だ。
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