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子育て、子育ちのしやすい社会にむけて ①

子どもを産み、育てることが、こんなにも困難な時代になったことは
未だかつてなかったのではないかと思う。

都会も田舎も整備が進み、一見とてもきれいに見える日本。
物はあるけれど、魂が奪われているような大人たちの社会。
行き過ぎた拝金主義が子どもたちの心を蝕んでいることも事実だ。



1,「子育ての躓きは、親の問題」からの視点の転換を、という提言


「子育ての躓きは、親の問題」ではなく、
「養育能力を持ち得なかった親と子どもを孤立に追い込み、
 正しい育児を押し付けたり、苦境を克服しなさいと押し出す社会の問題」
 という視点に立たなければなりません。

 そして、彼・彼らがレジリエンスを取り戻し、
 受援力(支援 / 援助をもとめることは縁を結ぶ )を獲得することを
 起点として切れ目のない支援へと繋ぐことが必要。

   出典
   『世界の児童と母性』2021年10月
      公益財団法人 資生堂社会福祉事業団

雑誌の編集後記からの引用であり、すばらしい提言だと思う。
では具体的にどうすればいいのか、まずは地域の公立小学校の機能を
回復させるための手立てを考えたいと思う。

あくまでも私見であり、各方面からさまざまな意見が出るところだと思うが、たたき台のように使い、考えるための1つの手がかりにしていただければと思い投稿を決めた。


2, ”お金を払えばいいんでしょ!”という衝撃


地域に住む小学生(低学年)が、個人経営のお店で
100円〜200円の商品を支払い前に完全にダメにしてしまったか、
いわゆる万引きしようとしたのか、詳しいいきさつは定かではないが、
一定以上の年齢であれば必ず警察を呼ばなくてはならない事態になった。


若い20代の学級担任が呼ばれ、経緯や事情について
店主とともに聞き取りをしていく。
悪いことをしてしまったという反省や後悔の言葉は一切なく、
「お金を払えばいいんでしょ」という一言だけを、2人のおとなを前に言い放ったという。



"お金を払えばいいんでしょ!"という受け答えのなかに、子どもたちが身につけてしまったおとなの世界に向き合うときの態度を感じた。
ご両親とそのご家庭だけに責任を押し付けるのも違うし、
学級担任の責任でもない。

背丈のごく小さな未就学児が、お金の話をするのが不釣り合いなくらいの幼い、可愛らしい声で、ギョッとするようなリアルなお金の話を家族と交わす場面を数多く見かけるようになった。
話の文脈や各家庭の方針がわからない中、切り取って責めるつもりは全くない。ただ周りにいる他の子どもたちも、公共の場でよその子たちが親とどんなやり取りをしているのか敏感に感じ取りながら、おとなの世界に対応するときの言葉を獲得し続けている点は間違いないと思う。


事件の起きた時期にもよるが、もし仮に4月第2週などこれからクラスを立ち上げて行こうという段階で、低学年児童が帰宅後に起こした地域での問題行動だとしたら、学級担任に大きな責任があると思う人はどれだけいるのだろうか。迷惑をかけた個人商店に頭を下げるのはいいと思うが、仮にそこで
「あなたの学級では一体どんな指導をしているのですか」などと言う叱責が始まったとしたら、いくらなんでも教員の責任を拡大し過ぎだと思う。

歳を重ねると、「教員として」というより、
社会人として必要な、いい意味での図々しさも身につくため、
不当な責任追及に遭っても、心のなかで「なにを言っているんだ」くらいの気持ちではねのける強さが出てくると思う。

だが1年目、2年目の23歳、24歳であれば、
言われるがままに謝ってしまい、ますます問題の全責任が学校にあるという印象を与えてしまうケースが多いと各書籍にも書かれている。
(今回どうだったか、は別の話として)


「社会全体で子育て、子育ちを支えていく」というスローガンには裏があり、各種市民団体、民間企業など、複数の主体が支えるものの、
面倒な案件については最終的にすべて学校に寄せられている実態は否定できない。

ビジネスとして子どもを支える団体には競争原理が働き、1つの分野に特化した質の高いサービスが期待できる。
ただ、収益につながらない分野については進出が望めないだろうし、
"費用を捻出できる家庭のみ、選べるオプションが増える"ことにより、
さらなる教育格差を生み出すことにならないか、という懸念は残る。
(質の高い教育サービスの提供や選択肢が増えることを否定するわけではない。)


今回は店主の方のご理解を得て、警察への通報は見送られたが、
このような事例が重なれば通報せざるを得ないとの店側からの申し出があったとのことだ。当然である。

自分のものと、お店のものは区別させなくてはならないのだが、
それ以上に、悪いことをしたときの解決方法として「お金を払うことで
なかったことにしよう」という発想が子ども側から出てきている点に
問題の根深さを垣間見た。
担任の学級経営の力でどうこうできる簡単な話ではない。


3, 地域社会と警察と


地域社会で子どもたちが起こした問題行動を小学校側が把握しておき
関連機関と連携することは必要だと思う。
ただ、警察沙汰になるような(法に抵触する)案件に際し、
現場にリアルタイムで教員を呼びつけてはならないなどの線引きは
文部科学省が主導で決めていくのが望ましいと思う。

今回のケースであれば「個人経営の店主」はどこに話を持っていけばよいのかという問題にぶつかると思う。低学年ということで、即通報することを避ける一定の配慮をしていただいたのだろう。

自治会に担当部署を設けるのか、行政相談窓口を作るのか、など
学校がいわば無償で対応していた業務が外に委ねられるのだから一筋縄ではいかない。

それでも小学校には本筋の役割があり、
膨れ上がる業務の全てを抱え込むのは良くない。
学校施設内でおきた、いじめ等さまざまな問題にきちんと取り組む時間と
精神的余裕を確保するためにも、一定の線引きをすることは欠かせない。


教員は保護者ではないにも関わらず、学区内で働いており、連絡がつきやすいという点も大きいと思う。公園でネコをいじめている児童がいるから
指導に来るようになどもその典型と言えるだろう。
私はネコを愛しているしネコをいじめる子どもにはきちんとした指導が必要だと強く思うが、その度に現場へ教員を呼ぶのではなく、気づいた大人がその場で厳しく叱ればいいだけの話である。低年齢であればあるほど、その場で、その瞬間注意してもらうことが大切だと思う。時間が経ってあれこれ言われてもピンとこない子も多い。

連携の必要性を感じれば、「〇〇という状況でしたので叱っておきました。学校でも厳しく指導してください。」と報告をするだけで十分かと思う。

いい歳の大人が、自分では言いづらいから教員に代わりに言ってもらおうなどと不用意に仕事を増やせば、学校の機能不全にさらに拍車をかけるのが落ちである。自分から言い出す勇気がないのであれば諦める、本気でネコを守りたいと思う大人なら躊躇なく、その場でつい口が出るだろうし、まず先にネコを守る行動に出る、学校に連絡するのは後、それが本来の姿なのではないかと思う。


呼びつけられて、駆けつけたとき、ほんとうはもっと優先すべき仕事
学校内のいじめの問題や、保護者との教育相談に向けての打ち合わせなどを
かかえていたはずだ、と考えるのは、教育現場にいた側だからこその発想かもしれない。

学区内に不審者の目撃情報が警察から届けば、その週は毎日、
各学年の下校時刻に合わせて全ての教員が公園や通学路に配置され、
1〜2時間以上見回りを続けることも珍しくはない。
見回りを終え職員室に戻れば、その日終えなくてはいけない業務が
それぞれの机にそっくりそのまま残されているということだ。

中で働いている立場からすると、イレギュラーで断ることのできない業務が次々と押し寄せるイメージだ。今週こそ手際よく仕事を終えて、今日は帰りに歯科に寄ろうという朝の心づもりが午後になってから突然だめになり、
当日キャンセルの平謝りの電話連絡を何度入れたことだろう。

我儘で変更をお願いするわけではないものの
「教員の突発的キャンセルはやむを得ない」との法はないため、
あの患者さんは毎回なんなんだろうね、と受付スタッフさんの不信感は
順調な高まりをみせていく…私にはどうすることもできない。


教員の工夫により定時に退勤できる、もしくはその動きを推し進めている現場や自治体もあるようだが、そうでないエリアもまだある、と考えている。


おわりに 支え手は複数あれど

(不登校という言葉はあまり好きではないが)
学校に通わないという選択をする児童生徒が増え、さまざまな教育サポートの形態が開拓されていくことに期待を寄せている。

また現在の「学校」は数多くの問題を複合的に抱えており、
一方的に学校組織や教員側の肩をもつつもりは全くない。

ただそれでも
世間では深く理解が浸透していないものの、学校が支えてくれていて、
どうにか社会が回っている側面も否定できないと思う。

学校の機能を回復させることを諦めてしまえば、
すべての子どもたちに保証してあげられる最低ラインが崩れていくことに
他ならない。最低ラインがだだ下がりすれば、ダイレクトに地域社会の
治安レベルも下がると考えているのだが、早計だろうか。


保育所、受験のための学習塾、小学校と
それぞれに短く限られた期間であったものの、教育現場の光と影を見てきた一人として、何か手渡せるヒントの欠片がないかと考えている。


『政治学者、PTA会長になる』岡田憲治 毎日新聞出版

現在読書中の書籍。
教員も大変だが、周りも必死になって学校を支えてくださっていることが
非常によくわかる一冊だ。
電話回線が2つしかない学校も存在し、不要な連絡が重なれば
すぐにパンクする設備の実態についても明記されている。








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