今年の8月8日はハンブルクにいたかった

ブギウギピアノと僕

小学6年生の頃,僕はブギウギピアノに出会った。すべての始まりは,斎藤守也斎藤圭土が組んでいるピアノデュオ Les Frères が隣町にやってきたことだった。音楽室の前にコンサートポスターが貼ってあったことは知っていたが,わざわざ両親にチケットをねだろうとまでは思っていなかった。ところが,思いがけないことに,ピアノの先生がそのコンサートに行っていた。翌週,先生に会うと,彼らの音楽をきっと僕は気に入るだろうといって,会場で買ってきたという『BEST OF LIVE』を僕に貸してくれた。これが僕とブギウギピアノの出会うまでのあらましである。詳しいことは省くが,僕はそこからすっかりブギウギピアノの虜となった。あれからもう10年以上経つが,いまだにブギウギへの情熱はたぎったままであり,その勢いはとどまるところを知らない。そのことについては,またどこかで話そうと思う。

ところで,ドイツには Axel Zwingenberger という伝説的なブギウギピアニストがいる。僕は「一番好きなピアニストは誰ですか」と問われるときは必ず Axel Zwingenberger と斎藤圭土を同率1位で挙げるようにしている(もっとも,おまえ何様だよという話ではあるのだが)。ちなみに,斎藤圭土は Axel Zwingenberger のお弟子さんにあたる。同様に,もし「一番好きなピアノアルバムはなんですか」と問われれば,Axel Zwingenberger と斎藤圭土が共演したときのライブ音源『THE JOY OF BOOGIE WOOGIE / LIVE』と答えるだろう。とにかく,僕のブギウギライフを語る上で,Axel Zwingenberger と斎藤圭土は根幹をなす軸そのものであって,外すことのできない存在である。

彼らの演奏は,ストリーミングサービスや動画投稿サイトでいくらでも見つけることができる(ただ残念なことに,サブスクで扱いがあるのは彼らの楽曲のほんの一部である)。比較的最近の映像で,2人の演奏をひとつの動画で観れるものとしては,たとえば次のようなものが挙げられる。これを観てもらえれば,ブギウギピアノがどんな音楽なのかはきっと大体わかってもらえると思う。他にも紹介したい音源や映像は山ほどあるが,それについては別の機会で。

そんな2人が,今夏,再び共演する。8月8日,北ドイツ Hamburg のライブハウス Fabrik で開催される The Hamburg Boogie Woogie Connection に参加するというのである。この知らせを聞いたときは,文字通り飛び起きてしまった。「いつか Fabrik で Axel Zwingenberger と斎藤圭土の演奏をこの目で観るぞ」と夢見るようになってから数年が経った今,今年の8月8日はその夢を叶える好機に他ならなかったからである。

ところが,現実はそうやさしくなかった。時期も時期だし,為替レートも為替レートだしで,どう頑張っても渡航費を工面できなさそうだということが直ちにわかった。許容範囲をあまりに明らかに超過していたことは,吹っ切れるいいきっかけとなったから,不幸中の幸いだったかもしれない。もっぱら金銭的な理由で撤退を余儀なくされたものだから,「大学院進学なんてせず新卒で就職していれば…」という気も起きなかったわけではないが,これもこれで夢を追う感じがあってよいではないかと思うようにしよう。

いっそ,ここで改めて夢を言葉にしようと思う。僕は Axel Zwingenberger の演奏を生で観るぞ。なんなら Axel Zwingenberger と斎藤圭土の共演もこの目で観るぞ。

補足

「ブギウギ」は「ロック」などと同様に,今やかなり広い意味を持つようになった。だから,インターネットで単に「ブギウギ」と調べても(本稿における限定的な意味での)ブギウギピアノにたどり着くのはなかなか難しいのではないかと思う。どのようなピアニストたちがどのようにブギウギピアノをここまで繋いできたかを知り,その立役者となったピアニストたちの演奏を聴くよう勧めることが,ここで私がなすべきことだと思う。ブギウギピアノの沿革について知るには,斎藤圭土の YouTube チャンネルで公開されている『斎藤圭土の「ブギウギってなに?」』という企画(全4回+ゲスト編2回)が日本語話者には手軽だろう。下記のオフィシャルプレイリストには最後の2回が入っていないが,動画自体はすでに公開されているのであわせてチェックしてほしい。

あまりセンスはよくないかもしれないが,北米・欧州・日本のブギウギピアニストたちの演奏を集めて作った世界旅行的なプレイリストを Spotify で個人的に公開している。諸事情によりここにリンクを貼ることが叶わないのだが,興味を持ってくれる Spotify ユーザーがいれば,ぜひ個別に連絡してもらえると嬉しい。多分,プレイリストを共有できると思う。


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