素朴な失くしもの

父がポストを開ける音が聞こえる。テレビを消して勉強をしていたように装う。顔を見て、「ただいま!」という。
警察署からの茶封筒を、父から渡された。彼は諦めの声と表情をしていたから僕は焦ったが、あ、それねみたいな感じを出したあとそれを奪うように取って自分の部屋で開けた。中身はというと、、、マイナンバーカードを落としてるので取りに来てみたいな紙だった。なーんだ。なーんだ。俺は法にふれるようなことをしてないもんな。もちろん立ち入り禁止ゾーンに週一くらいで入っていたこともないからな。

その紙が来て、二ヶ月くらい経って、マイナンバーカードを取りに行った。すぐに取りにいけばよかったのだけど、めんどくさくて取りに行かなかった。だが、母親に怒られたので取りに行った。僕の母親は怖い。

取りに行った時、自転車の鍵を無くした。父親の店で働くバイトの人に鍵ごと取ってもらった。ペンチで曲げられたそれは少し痛がっているように見えたが、鍵がなくなった自転車は、解放されて爽やかな感じになった。曲げられた鍵には申し訳ないが、そのアルバイターにはとても感謝だ。

自転車に鍵をつけてもらった。結構高かった。親が払ってくれた。親は謎の存在だ。いつもそう思う。なんでこんなやつにそんなに金をかけてくれるのかわからない。自分をこんなやつと言ったら払ってくれている親が可哀想なくらい。いつもありがとう。

自転車を盗まれた。鍵をかけていなかったからだ。前述の通り鍵をつけてもらったのだけど、鍵をかけていなかった。混乱した人はきっとまともな感覚の持ち主なんだと思う。鍵をかけていなかった理由は色々あるのだけど、その中のひとつである「めんどくさい」という理由はそれ以外の理由をゴミクズにした。親は怒らなかった。いつもありがとう。いつもごめん。

僕は受験生なので、月額で自習室を契約している。(これはなぜか自分の金で契約している。きっと親に頼めばお金を出してくれるだろうが。)その自習室のカードを無くした。再発行してもらった。その5日後にまた無くした。再々発行してもらった。2回目は申し訳なさと恥ずかしさで、再々発行を頼むのを決心するのに結構な時間を要した。
なんで無くしたのか、どこで無くしたのか、見当もつかない。きっと僕が寝ている間に小人が自分の家に持っていったんだ、いつもこの結論しか出てこない。

僕は色々なものをなくす。
その度に探して、見つからなくて、時間を失う。
その度に自分ではどうにもできなくて、結局助けてもらう。

しかしながら、失くしものはnot only時間を失うbut also経験を得るだ。(受験生なので)

マイナンバーカードを取りに警察署に行くだけで僕は意図せず、色々な経験をしてしまう。遠くの知らない街で迷子になり、インターネット接続を失い、スマホの画面を粉砕した。画面は白黒テレビのスノーノイズのようになった。帰れるはずがないと思った。ヒーローが現れるみたいに、そのあと、退学した高校の友達と会った。

この後も色々書きたかったのですが、勉強しなきゃなので(疲れたので)これで終了。続編は多分ない。
読んでくれた人には、不誠実だと知っている。
ただこれで完成といわせてほしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?