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だって僕は黒人なんだから

「だって僕は黒人なんだから」
今年の2月中旬、『レ・ミゼラブル』のプロモーションで来日していたラジ・リ監督は何度もそう言った。

「カンヌ映画祭で審査員特別賞を貰った。
これは本当にすごいことなんだよ。だって僕は黒人なんだから」

警官に職務質問をされたのは10歳。
「怖くて仕方なかった。それから何千回もされたよ。数えきれない」
17歳でビデオカメラを手にしたラジ・リは街で起きていることを撮り始めた。
「警官たちは僕を黒い獣と呼んでいたんだ」

取材の間、語られた言葉は彼が作った『レ・ミゼラブル』そのものだった。
なぜなら、彼が見てきたものを映画にしたから。自分が育ったモンフェルメイユで起きてきたこと、多くのフランス人が目を向けようともしなかったこと、世界の人々が見向きもしなかったことを。こんなことを繰り返していたら、どうなるのか。それを映画で示してみせた。
それを止めたいから。

いまアメリカで起きていることを知るにつけ、その映画で示したことが、現実に、しかも最悪の状況になって繰り広げられているように見える(もちろん平和的なデモも行われているが)。今日、目にしたTVのニュースで、イッサより小さい少年が「Black Lives Matter!!!」と叫んでいた。こんな小さな子供に当たり前のことを必死で叫ばせる、この世界ってなんなんだろう。

「だって僕は黒人なんだから」
黒人に生まれたから、自分の可能性を諦めなければならない世の中。
でもラジ・リは諦めなかった。武器をデジタルカメラにかえて、世の中に闘いを挑んだんだと思う。そして、デビュー作で、カンヌ国際映画祭で審査員特別賞をとり、アカデミー賞にもいった。

「デビュー作でラッキーだったねとよく言われるんだ。
でもカメラを手にしたのは17歳。あれから23年も経ったんだ。やっとここまで来たよ」

そしてこれからも変わらずに挑んでいくと思う。(きっと彼は子供たちの目指す星になろうとしているんだ)と取材を聞きながら思っていた。子供たちに希望を、自分に秘めた可能性があることを示そうとしてている。

『レ・ミゼラブル』で描かれるのは、人種差別、貧困、格差、分断…など言葉を並べるだけで辛くなるものばかり。でもそれをエンターテインメントにしつつ、それだけでは終わらせない。対岸の火事と見物している私たちに、ラストで問いかけてくる。このままで本当によいのか?と。そして突き放す。あとは自分で考えろ。


余談:
ラジ・リ監督が日本にやってきたのは、2月中旬。新型コロナ・ウィルスの猛威がアジアで吹き荒れ始めていた頃。欧米からの来日取材は軒並み中止。来なかったらどうしよう?宣伝マンの悩みは尽きなかった。
最初の取材が終わった後、取材を終えた記者さんが言った。
「こんな状況なのに日本に来てくれて、ありがとうございます」
休憩で庭に出ようとしながら、監督は照れくさそうに笑顔で答えた。
「実はちょっと考えたんだ。でも、人間はいずれ死ぬし、それが日本でも悪くないかなと思って(笑)」


※イッサは『レ・ミゼラブル』のキーパーソンの少年。彼がサーカス団のライオンの子供を盗んだことから物語が始まる。ラジ・リ監督の『レ・ミゼラブル』は全国で公開中。画像はフランス大使館で取材を受けるラジ・リ監督。この日は全身黒のファッションできめてました。


#レ・ミゼラブル #ラ・ジリ #blacklivesmatter


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