柔らかな朝

駒鳥の鳴き声で目が覚めた。
駒鳥は馬の嘶きのような声で鳴く、愛らしいオレンジと水色の羽毛を持つ小鳥だ。
一度だけ、森で見かけたことがある。

春の始めのやわらかな光が窓から差し込んできた。小さな塵が光を受けてちらちらと待っている。
私はその様子をしばらくぼんやりと眺めて満足し、やっとベッドから起き上がり、のろのろとリビングへ向かう。寝室を抜け出し、階段を降りると、焼きたてのパンの香ばしい匂いが漂っている。

キッチンに立っていた彼は、私が階段を降りてくるのに気づくと、気さくな笑顔を向けた。
「おはよう」
朝の光のような、きらきらと輝く笑顔だ。
神経質な彼が、こんな表情をするとは思わなかった。
「おはよう…ごめんなさい。朝は弱くて」
私は決まりが悪そうに言い訳をする。
「大丈夫、俺が早すぎるだけさ。まだ眠いだろう。椅子に座っていて」
「ええ…」
言われたとおり、私は食事のための椅子に座って麻のブランケットに包まる。
窓の外からは相変わらず駒鳥の鳴き声が聴こえてくる。

私がまだ眠りから覚めないうちに、彼は手早く朝食を作り、テーブルに並べていく。
ライ麦パン、発酵バター、木苺のジャム、ミモザサラダ、彼の母国で作られたソーセージ、山羊のミルク。
それらが全て光に当たり、きらきらと輝いているように見える。
「いつもながら、ホテルのような朝食をありがとう。私…朝は苦手だけれど、あなたの作る朝食を食べるのは好き」
「そう言ってくれて嬉しいよ。朝食を作るのだけは得意なんだ。軍にいた時に、隊のみんなの朝食をいつも俺が作っていたから」
彼は目線を下に向けながら、少し嬉しそうに語る。
「そうだったの…全員分、作るのは大変だったでしょう」
「全員分といっても、俺が所属する1つの隊の分だけだから、5人分かな。目玉焼きの焼き加減について、よく文句を言われた」
「だからあなたはあんなに半熟の目玉焼きを作るのが上手いのね。…半透明の薄い膜に覆われた、今にも脆く潰れそうな赤ちゃんのような黄身…その絶妙な状態の目玉焼きを壊すことなく皿にそっと乗せる。まるで手品みたいに」
「……目玉焼きについてこんなに褒めてくれるのは、君くらいしかいないよ」
彼ははにかんだ様子で首を触る。喜びの感情を抑えている時によくする癖だ。

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