tan' x = 1 + tan² x の眺め方

1. 正接微分での錯覚

正接関数の微分 $${ (\tan x)' = 1 + \tan^2 x }$$という形をしている。自己完結していて、面白い。

これを$${ (x^n)' = nx^{n-1} }$$と照らし合わせ、微分してるのに$${ \tan }$$の次数が1乗から2乗に上がるという錯覚に陥る。もちろん、微分で次数が下がるのは多項式の性質であり、正接関数は無関係。ただ、次数が上がる理由を多項式展開に基づいて眺めることはできそう。

2. 正接のテーラー展開

正接関数は原点周りでテーラー展開できる。
  $${ \tan x = x + \dfrac13 x^3 + \dfrac2{15}x^5 + \cdots }$$

これを微分すると
  $${ (\tan x )' = 1 + x^2 + \dfrac23x^4 + \cdots }$$

テーラー展開すれば多項式になるので、多項式の微分法則に従う。微分で各項の次数が下がり、$${ x^3 }$$が$${ x^2 }$$の項を作り、$${ x }$$が$${ 1 }$$を作り出している。

これらを 2 次精度で適当に打ち切ると、正接微分らしい式が出て来る。
  $${ \tan x \approx x }$$
  $${ (\tan x )' \approx 1 + x^2 }$$

重要なのは、$${ \tan }$$のテーラー展開は無限級数である。適当な精度で打ち切れば$${ 1 }$$次式にも、$${ 3 }$$次式にもなれる。しかし、無限級数であるために最高次が存在しない。敢えて記すなら$${ +\infty }$$となる。

3. 正弦と余弦での多項式近似の錯覚

正接は正弦と余弦で表せる。さらに正弦と余弦はテーラー展開で多項式近似できる。

  $${ \tan x = \dfrac{\sin x}{\cos x} }$$
  $${ \rule{0ex}{5ex} \sin x = x - \dfrac{x^3}{3!} + \dfrac{x^5}{5!} - \cdots }$$
  $${ \rule{0ex}{5ex} \cos x = 1 - \dfrac{x^2}{2!} + \dfrac{x^4}{4!} - \cdots }$$

これらを 2 次精度で打ち切れば、特に原点付近では$${ \sin }$$がほぼ$${ 1 }$$次式、$${ \cos }$$がほぼ$${ 2 }$$次式と見なせる。すると、$${ \tan }$$はほぼ$${ 1 }$$次式を$${ 2 }$$次式で割った$${ -1 }$$次式と見なせそう、という錯覚に陥る。

  $${ \rule{0ex}{5ex} \sin x \approx x }$$
  $${ \rule{0ex}{5ex} \cos x \approx 1 - \dfrac{x^2}{2} }$$
  $${ \rule{0ex}{5ex} \tan x = \dfrac{\sin x}{\cos x} \approx \dfrac{x}{1 - \dfrac{x^2}{2}} = \dfrac{1}{-\dfrac{x}{2}+\dfrac{1}{x}} \approx\!\!\!\!?\;\, \dfrac{1}{-\dfrac{x}{2}} }$$

残念ながら、最後の近似は成立しない。上手く割り切れたら$${ -1 }$$次の式にもなり得るが、$${ -\dfrac{x}{2} + \dfrac{1}{x} }$$は$${ 1 }$$次式とは呼べない。原点付近で支配的なのは最高次の項ではなく、最低次の項になる。負の冪乗項を含む場合はそちらが支配的になる。

実際に$${ \tan }$$のテーラー展開は反比例ではなく$${ 1 }$$次式の比例のように振舞う。$${ -\dfrac{x}{2} }$$を省いた$${ \dfrac{1}{\,\dfrac1x\,} }$$と同じ振る舞いである。$${ \dfrac{1}{x} }$$の方が影響力が大きい。

$${ -\dfrac{x}{2}+\dfrac1x }$$が原点近くで特に$${ -\dfrac{x}{2} }$$から離れていることからも$${ \dfrac1x }$$は無視できないのが分かる。$${ \rule{0ex}{5ex}\dfrac1x }$$は反比例関数である。原点近くで無限大に発散し、$${ \pm \infty }$$ で $${ 0 }$$に収束する。$${ \rule{0ex}{5ex}-\dfrac{x}{2}+\dfrac1x }$$では$${ \pm \infty }$$で多項式関数$${ -\dfrac{x}{2} }$$に収束する。

以上の結論として、$${ \tan x }$$をほぼ$${ -1 }$$次式と見なした上で、その微分を$${ -2 }$$次式と仮定して、$${ \tan^2 x }$$の項が現れると説明するのは無理がある。

4. 余接のテーラー展開

正接の微分と同様な性質を持つ関数として、対を成す余接がある。
  $${ \rule{0ex}{5ex} \tan x = \dfrac{\sin x}{\cos x} }$$, $${ (\tan x)' = 1 + \tan^2 x }$$
  $${ \rule{0ex}{5ex} \cot x = \dfrac{\cos x}{\sin x} }$$, $${ (\cot x)' = -1 - \cot^2 x }$$

$${ \cot }$$は原点で$${ \pm \infty }$$に発散するため、原点周りでのテーラー展開は不能である。代わりに負の冪乗項を導入したローラン展開で多項式近似と似て非なる解析を可能にしてくれる。

  $${ \cot x \approx \dfrac1x - \dfrac{x}{3} }$$

$${ \pm \infty }$$では$${ -\dfrac{x}{3} }$$に収束し、原点付近では$${ \cot x }$$に良く似ている。

これを微分すると、
  $${ (\cot x)' \approx -\dfrac1{x^2} - \dfrac{1}{3} }$$

正真正銘の$${ -1 }$$次項を持っているため、微分すると$${ -2 }$$次の項$${ \dfrac1{x^2} }$$が当然のように現れる。

他方で、近似式をそのまま2乗して公式を作ると、
  $${ -1 - \cot^2 x \approx -1 - \dfrac1{x^2} + \dfrac23 - \dfrac{x^2}{9} = - \dfrac1{x^2} - \dfrac13 - \dfrac{x^2}{9} }$$

正接に比べると余接の方が冪級数展開の微分として素直に見える。

5. 話の種





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