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[8話]私に家賃86万円が払えるの?違う、払うの!@着物ドレスデザイナー

◆いざ、豪邸オーナーにご対面…

豪邸を内見した翌日、不動産会社から「豪邸オーナーが、リリー様に大変興味を持っているようで…一度お会いしてみませんか?」と声をかけられたリリーさん。

それにしても不動産会社の方は、リリーさんをどう表現してオーナーに伝えたのだろうか

ドキドキしながらオーナーを訪れてみると、オーナーの自宅に招かれるのかと思いきや、そうではなく「話すめだけの邸宅」に通された。そんな邸宅があるなんて…。

そこでオーナーとご対面。知的な印象を受けたが、話してみると「見えていない世界」のことも大切にするような感覚を持っている人で、なんだか波長が合って話もはずんだ。

リリーさんはずっと気になっていたことを尋ねてみた。「あの豪邸は、自分が住むための家ではなく、賃貸用の物件なのに、どうしてあそこまでこだわれるんですか?」

すると、オーナーはこう答えた。

「これは遊びだから」


「……最高だわ」

人生は遊び。まさにそう思ってそれを体現しているリリーさんは、オーナーの答えを聞いて、痺れた。参った。

「これは…キタ…」

リリーさんの目からは、本当に涙が出てきたのだ。

このオーナーと話せただけでもう十分。だけど。こんなオーナーの持つ家ならなお、なんとかして住みたい。

家そのものだけでなく、そのオーナーも素晴らしいなんて

リリーさんは想いを伝えた。「あの家を見た時、個性の強さにふさわしい家主を待ち構えているように感じたんです。今、ポンと払える費用はないけれど、あの家の素晴らしさが誰よりも分かる私なら、魅力を最大限に引き出して活用できます。お金も身寄りもない。けど、伸び代だけはあります」。

「ほう」と息を漏らすオーナー。「なんだか面白そうな方だから会ってみたのですが、やはり。じゃあもう、ぶっちゃけトークしますか。誠意を見せてくれる人だと思ったから、あなたの未来に賭けてみます」

そうして、オーナーはなんと、出世払いかのごとく、普通ならあり得ない配慮をしてくれた。つまり、リリーさんのポテンシャルを「買ってくれた」のだ。

「あれ?これだけの配慮をしてもらったら、私、借りられちゃうかも…」

リリーさんにとって、このオーナーとの出会いは、この豪邸に出会えたことぐらい、大きなものだった。

これって、ひょっとしてひょっとすると…。

◆金額に圧倒され、寝込むリリー

オーナーの心意気によって、ついに「保証会社の審査にさえ通れば、あの豪邸を借りられる状態」にまでなったリリーさん。そう、ミラクルが起きてしまったのだ。

それでも、家賃は86万円。

ここにきてリリーさんは大きく葛藤した。

メソメソ…

「こんなご厚意をいただいておいて、審査が通るかも分からないし…」「通ったとしてもなおバカ高いし、私は毎月残高がゼロになる女だし…」「でも、ここまできて話に乗らなかったら、リリーがすたる…」

保証会社の審査待ちに大きく葛藤している間、同時並行してブランドの法人化(株式会社 Lily K*)に奔走していたのもあり、ついにリリーさんは発熱した。

しばらくすると不動産会社から電話があり…

「審査が通りました!」

「ええ、、、、?うそ、、通っちゃったの!?」

誰も、止めてくれなかったな…。

豪邸を借りられると判明した時、それがリリーさんの感じたことだった。

「ああ、自分で自分のブレーキを踏まなければ、物事ってどんどん進んじゃうんだな。なんで私は、私を止められないんだろう…!」

「自分で自分を制御しなければ、夢って叶っちゃうの。その夢が、本心なら」

あれこれ考えていると、あることに気がついた。「家賃が払えなくなったらどうせ追い出されるんだから、とりあえず『1ヶ月ずつ借りる』と考えてみればいいいかも?」

それなら、スイートルームを1ヶ月予約するような気持ちで契約に踏み込める気がしたのだ。

「でも、1ヶ月で終わったらカッコ悪いかあ…」と一瞬よぎったものの、「あれ?それって人の目を気にしてるよね?ダメダメ、短くてもいいじゃない!」と、己を奮い立たせた。

そうしてリリーさんは、名古屋近郊にある自宅とは別で、「最高の気分を味わうための、株式会社 Lily K* の拠点」として、家賃86万円の豪邸を借りることにした。

それは、この家をネットで見つけてから契約まで、わずか10日のことだった。


彼女はリリー 第8話 完
「私に家賃86万円が払えるの?違う、払うの!」

◆次回:家賃に息切れしながら、豪邸暮らしを満喫!


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