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お笑いは世界を救わなくとも、人生に疲れた女は救う(空気階段のKOC優勝に寄せて)

2021年10月2日。
キングオブコント2021で空気階段が優勝し、悲願の14代目チャンピオンとなりました。あまりに嬉しすぎて「もう空気階段がKOC獲れたこと以上に、嬉しいことなんてないのでは?」と我が事のように祝杯をあげまくり、一週間後に迫っていた資格試験の勉強をここに来て疎かにしてしまうくらいには浮かれました。

これまで応援している役者さんやアイドルが賞を貰い受けることは度々あったけれど、ここまで明確に「戦って勝ち上がり、頂点に立つ」という推しの姿が見られることはそうそうありません。これまでラジオやテレビ、雑誌などを通して本人たちの頑張りや大会に懸ける強い思いを見てきたからこそ、満場一致の優勝を成し遂げたその姿に感動もひとしおでした。そして、普段お笑いを観ないような友人たちがあの日だけはKOCを、空気階段を見てくれていて「おめでとう」と声をかけてくれたり、TLで感想を呟いてくれたのもそれはそれは嬉しかったです。あれから一ヶ月が経ちましたが、いまだにあの日のことを思い出すとしっかりと胸が熱くなります。

先日、友人に「どうして突然、空気階段を好きになったのか」と聞かれたのをきっかけに、改めて自分の沼落ちの理由を書き記しておこうと思いました。かたまり女装新規の沼に落ちて戸惑っているあの頃の自分に教えてあげるためにも。

◇◇

世界中の人々がきっとそうであったように、2020年から21年にかけて私の人生が、価値観が、大きく揺らぎました。
たくさんの人間が命の危険に曝され、人と人との距離はみるみるうちに離されました。未知の病と隣り合わせの中で、滑り落ちるように不安定になっていく暮らし。生活を立て直すために身を寄せた数年ぶりの実家暮らしでしたが、コロナ禍での転職活動は思うように進まず焦る毎日。ずっと暗闇の中にいるようで「ただ穏やかに生きていくことがこうも難しいのか」と頭を抱える日々が続きます。そうして、自分の生きる現実世界が日に日に酷くなっていくのと比例して、それまで毎週のように見ていた映画やドラマを見るのがだんだんとつらくなっていきました。

そんな時、私を救ってくれたのが『お笑い』でした。
はっきりと「救われたい」なんて自覚をしているわけではありませんでしたが、今思えばあの頃はとにかく一時でいいから何もかも忘れて笑いたかったんだと思います。この現実世界にだってまだまだ楽しいことがあるのだと、ソーシャルディスタンスを保ちながらもあの手この手で笑顔にさせてくれる芸人さんのカッコ良さに打ちのめされたのを覚えています。そうして色んな芸人さんを知っていき、Youtubeや配信も楽しむようになりました。(コロナによって色々と中止にせざるを得なかったエンタメ業界ですが、お笑い界隈は無観客配信やYoutubeの生配信など、オンラインへの移行がとても早かった印象があります。このフットワークの軽さもお笑いにハマるきっかけの一つだったと記憶しています)

空気階段を知ったそもそものきっかけは2020年のキングオブコント、ファイナルステージで披露した「定時制高校」のコントでした。

女装の衝撃はもちろん、ネタが圧倒的に好みでしたし、KOCのシステムを詳しく知らずに見ていた自分には、これでなぜ彼らが優勝できなかったのかしばらく納得がいかなかったほどです。そこからじわじわと気になる存在となり、単独ライブ「anna」を見、踊り場を初回から最新回まで全て聴き…そうして日々「好き」を更新していきましたが、好きになり始めた頃はまさかここまで沼が深いと思っていませんでした。

(KOC優勝から数日経って、彼らを好きになって間もない頃に興奮のまま書き上げたnoteを久しぶりに読み返していました。単独を見ただけの、2人のバックボーンをほとんど知らない人間のわりには的を得たことを書いていて感心しました)

クズ・マザコン・借金・ギャンブル・離婚……
彼らがテレビで紹介される際の頻出エピソードは決して褒められるようなものではありません。その他にも、その場に適したリアクションが出来なくて二時間一度もワイプに抜かれなかったり、大寝坊かまして劇場の出番をとばしたり、ラジオの最中にマジ喧嘩して収録がストップしたりする二人です。
それでも私がそんな“どうしようもなさ”をこんなにも愛してやまないのは、彼らのピュアさに惚れ込んじゃってるからなのだと思うのです。

空気階段のKOC優勝を受けて「ピュアが勝つ時代になった」と銀杏BOYZの峯田さんは高らかに喜びの声をあげました。
わたしは二人を見ていると「ピュア」とは『清く正しいこと』ではなくて、たとえ歪でも『あるがままに存在することが許されること』なのだと思うのです。

器用に上手く生きられなくてもいい。
失敗したっていいし、それを笑い飛ばしたっていい。
褒められるような生き方が出来なくっても構わない。
この世の中でスマートに立ち振る舞えないことを負い目に感じなくてもいい。

彼らのコントやラジオ「空気階段の踊り場」を聴いていると、世間一般の当たり前から外れがちな今の自分をそんなふうに心から肯定できるのです。

好きになったばかりの頃、かたまりさんの女装があまりにも可愛くて、そのせいで内面を知るのが少し怖いような気さえしていたのに今はもうダメなところも全部ひっくるめて愛せてしまいます。だけど、それは同時に「ダメな自分もまとめて愛してしまおう」という自分への赦しのきっかけにもなり得ると思うのです。少なくとも私はそうして、暗闇からなんとか這い出そうとしています。

優勝をきっかけにきっとどんどん環境も変わり、待遇も変わり、色んな場所で色んな経験を積んでいくのでしょう。それでも、もぐらさんはこれからも相方を筆頭に奥さんやお母様、ひいてはかかりつけのお医者さんにも公共の電波を通して怒られるんだろうし、かたまりさんはこれからも事あるごとに2歳児ばりの癇癪を起こしてしまうんだろうなという揺らがない確信があります。
そんな愛おしい確信をもたせてくれる、彼らの揺るぎないピュアさこそ私の沼落ちの一番の理由なのです。

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