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中の話

大切な人といつでも待ち合わせできる、便利な部屋があればいいのに、と思った

私のそれは本棚とか、ベッドのサイドテーブルとか、卓上ライトの下とか階段の右隅とかにある、キャンプ用ランタンのような形のもので

ただ、よく目を凝らしたら、あずまやにドアと窓がついたような家のように見えてくる

部分的に蔦がはっていることに気づいて、さらにそれは実はぶどうの若い枝だと気づく

そして、いつのまにかランタンサイズのそれがあずまやとしてふさわしいサイズにまで膨らんでいる
ここまで来るとあんしんである



あたりは草原で、石畳がぶどうで飾られたドアまで続いている。

遠くには林か森のようなものが見え、ちいさく川の音も聞こえる。海が近ければもっといいのかもしれない…。

ドアをくぐると、部屋はもちろん円形になっている
奥には半円状の大きなソファがあって、たぶん10人くらいまでなら座れる。2,3人でちょうどな時もあるかも知れないけど…

そこまで見てようやく自分の変化に気付く
声も顔もかたちも、自分の心をそのまま写したようになっている

私もいつもとは違った姿形と声だけど、それでも私だ。おかえり、とか久しぶり、とかあなたに声をかける。
それからきっと、入って右手にあるアイランドキッチンで何か美味しいものを作ろうとしているんだろう。
やけにたくさんあるスパイスの小瓶、装飾が多いカトラリーと色とりどりのカップ、ソーサー、あたたかみのあるマグカップ。たぶんゴブレットとかグラスもある。モナンシロップがずらっと並べられて、コーヒーマシンと大きな冷蔵庫がある。
にんにくとドライフラワーが吊るされている。
カゴに入った、採りたての果物や野菜はつやつや輝いていて、なるほどこれは料理をしたくなるな、という感じを出している。

あなたが好きなカップを取って、私はそこにおいしい飲み物をいれる。

そして私はあなたと喋ったり、喋らなかったりする。
半円状のソファは家の丸みとずれていて、壁とソファとに隙間が出来ているが、私はそこで本を読んだりただ座っていたりする。
ソファの真ん中あたりに出窓が付いているから、そこからやわらかい日差しがはいってくる。座面は広く、あなたも昼寝するのにちょうどいいと思うはず。

ドアから向かって右には小さめの部屋がある。
そこは壁がすべて本棚でできていて、私の好きな本とかスケッチブックがあるし、あなたの好きなゲームや本もきっとある。
まるい窓が付いているので、考え事をしながらぼんやり籠るにはちょうどいいところなのだ。
泣いてもいいし笑ってもいいし、歌っても踊ってもいい。


そして最後は2階。
風通しのいい屋根裏部屋で、清潔なシーツがしかれた広いベッドだったり、クッションがたくさん乗ったハンモック、ふかふかの毛布なんかがたくさん置いてある。
天井に大きな窓があるから、夜はプラネタリウムのように楽しめる。



といった風に、私たちはそこでとっても楽しくすごす。

大丈夫、外では時間が進んでいないから、思う存分ゆっくり休憩していったらいいんだ。

なんていう空想をする。

まだこの部屋は私専用のままらしい。

みんな早く来たらいいのに。


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