「水ヨナ」は記憶の中で

ラジオとは、「記憶に溶けてゆくメディア」だと思う。
番組での軽妙なトークや愉快なお便りは、パーソナリティの口から発された瞬間、リスナーの耳に届いた瞬間、それぞれの記憶に溶けて消えてゆく。一瞬の輝き。

そんな「ラジオ」というメディアに真っ向から挑戦する企画が「水曜ヨルナイトカルトクイズ(水ヨナカルトQ)」である。
「アニラジ界の生ける伝説」として著名なメイン・パーソナリティの鷲崎健さんと、そんな鷲崎さんを愛してやまないアシスタントの青木佑磨さんによる、二人喋りが番組のほぼ100%を占める水曜ヨルナイト。
そんな「水ヨナ」で1年間に生み出された名セリフや名シーンを、クイズ10問の形で振り返るという、番組放送初年度から毎年実施されている、月~木の帯番組であるヨルナイト×ヨルナイトの中でも、水曜ヨルナイトだけの企画である。

青木さんの表現によれば、水曜ヨルナイトとは「トークのスタート地点からできるだけ遠い、誰も触っていない所にタッチして戻ってくる競技」だという。そのため、トークの内容は、理路整然と空前絶後の展開を辿ることになる。二人の話題が遙か遠くに行き着いて、スタート地点に二度と戻って来られないことも珍しくない。

その結果、例えば、こんな問題になる。
「2016年6月15日の放送で、ぶどうを踏む乙女の話が展開されるのですが、この乙女たち、話の流れで最終的には別の職に就くことになります。果たしてどんな職業に就くことになるでしょうか?」

番組を聴いていない人にとっては「……そもそも、この人たちは、一体何を言ってるの?」と思うだろうが、わかる人にはわかるのである。
ちなみに正解は、なんと「デバッガー」。「ワインよりクラムチャウダーのほうが食事に合う」との鷲崎さんの意見により、ぶどうを踏む乙女はあえなくワイン造りの職を失ってしまう。紆余曲折あった末、幸いにもぶどうを踏む乙女にはパソコンの腕があったため、無事、ゲーム業界に再就職できたのである。
時は16世紀、乙女の失職から再就職まで、およそ2分半にわたる一大スペクタクルであった。

問題を解く者は、トークを記憶から思い起こす。
問題によっては、上記のように、番組を聞いていれば割とあっさり思い出せるような、それ自体が強烈な印象を残していた話題もある。
一方で、深く深く、記憶に溶け込んでいるものもある。記憶の奥底まで辿ったものの、思い出せない問題もある。
だからこそ、そんな記憶を掘り起こす問題で解答となる単語を導き出した瞬間には、その単語に留まることなく、その前後のトークすらも脳内を駆け巡る。問題によっては、トークを聴いたその日の空気の匂いや、その色合いの記憶すらも、併せて思い出されることもある。

記憶の底に溶けていた輝きを探り当て、ラジオの向こう側とこちら側が一つに溶け合った瞬間を記憶から呼び起こす。
その輝きが、記憶の中で色鮮やかに再現される快感は、何にも替え難い。

番組の主題歌「ヨナヨナ~Yoke of Nights~(作詞作曲:鷲崎健)」では、「明日 目が覚めたなら消えてしまいそうな 夜な夜なの秘め事」と歌われている。
もちろん、これが「ラジオのことだ」「ヨルナイトのことだ」とはっきり歌われているわけではない。
とはいえ、少なくとも水曜ヨルナイトに関しては、その「秘め事」は、私自身と溶け合って、私自身として、消えてしまうことなく輝き続けている。

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※上記は、2021年6月21日発売予定の『別冊声優ラジオの時間 ラジオ偏愛声優読本』
( https://www.amazon.co.jp/dp/4799506781/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_AJR6EN9WPK1WCYFKDMZF
のコラム募集に投稿した(ものの、力及ばず落選した)ものにつき、編集部のご示唆を踏まえて、一部改稿して掲載したものです。
募集等の経緯については、こちらの記事
http://blog.livedoor.jp/radio_no_jikan/archives/84514633.html
を併せてご覧ください。

※番組が気になったという方は、番組HP( https://joqr.co.jp/qr/program/yonayona/ )へどうぞ!


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