ところでヨセフは、顔も容姿も美しかった。(2022.4.9追記)

それな~~!!!わかる~~~~!!!!!


 こんにちは。家で強く生きているオタクです。


 この度、薮宏太さんの主演ミュージカル『ジョセフ・アンド・アメージング・テクニカラー・ドリームコート』の予習として旧約聖書の創世記を読みました。とても良かった。とても良かったです。今まで聖書に関連するものを一度も読んだことがなく、恐る恐る手を出してみたのですがとても良かった。いつか読んでみたいなとずっと思っていたので、ちゃんと読み終えられたことが嬉しかった。聖書に触れるきっかけをくれた薮宏太さんに感謝です。

 創世記を読み終えるにあたり、雑誌などのインタビューでもしばしば触れられている薮宏太さんとジョセフの共通点や、薮宏太さんがここをどう演じるのか気になるな、という場面など、いろいろなことが頭に浮かんでとても楽しい気持ちです。というわけで、自分の頭を整理する意味も込めて気になったところをまとめてみることにしました。
 創世記を読むかどうか迷っている方、もう読んだ方、本は読めないけどなんとなくのあらすじをふわっと知りたい方(ちゃんとしたあらすじが知りたい場合はもっと別のちゃんとしたサイトを強くおすすめします)、お暇のある方はよろしければお付き合いください。


※以下、創世記のネタバレ(ネタバレとは)を含みます。
※名前の表記は創世記に準じて「ヨセフ」に統一します。「ヨセフ」はヘブライ語読み、「ジョセフ」は英語読みらしいです。


[追記]2022.4.9
『ジョセフ・アンド・アメージング・テクニカラー・ドリームコート』4/8夜公演を観劇してきました。これにあたり、自分の読解が不十分だったところや解釈が変わったと感じたところがいくつか出てきたため、ちょこちょこ加筆、修正しています。


ヨセフ、生まれる。

 ヨセフが聖書に初登場したのは、ヨセフが生まれたときです。当たり前といえば当たり前。ヨセフのお母さんはラケルという人で、ヨセフのお父さんヤコブの正妻です。ラケルはヨセフを生んだとき、「神は我が恥を除いてくださった」と言いました。

 ……えっ怖くない? 喜んでるのはわかるんだけど、喜び方がゼロからプラスじゃなくてマイナスからゼロになったみたいな喜び方じゃん。ラケルがこんなじめっとした喜び方をしている理由、気になりますね。

 実は先ほどラケルをヤコブの「正妻」と紹介したように、ヤコブにはほかにも何人か奥さんがいます。その一人がラケルの実の姉、レアです。もうやばいね。
 そもそもヤコブはラケルに一目惚れをして、ラケルと結婚するためにラケルのお父さんのもとで7年働くくらい好きだったんです。そして7年働いていざ結婚しようと思ったらお父さんが「うちの村じゃ姉より先に妹を嫁がせるとかないから」と、先にラケルの姉レアと結婚させます。まあそのあとラケルとも結婚できるんですが、ヤコブはそのためにまた7年働きます。めっちゃラケルのこと好きやん。ちなみに「レアの眼はやさしかったが、ラケルは姿も顔貌も美しかった。」との記述があります。やっぱり世の中外見か(ラケルは性格もいい子です)


 一夫多妻はなんら珍しいことじゃないので、こうしてヤコブはレアとラケルと結婚して三人仲良く暮らしました、めでたしめでたし。

 とはなりません。今の日本でこんなこと言ったらいろんなところから怒られそうですが、ヨセフたちの生きた時代では、女の人は子供を産むことが仕事でした。いや見てきたわけじゃないけど、少なくとも創世記の端々からそういう考え方はひしひしと感じる。そんな時代にラケルはどうやら子供を産めないからだでした。

 だからヤコブの一人目の子供を身ごもったのは、ヤコブにラケルほど愛されてはいないレアでした。それほど愛されていないのを神様(ヤハウェ)が気の毒に思って授けてくれたらしいです。レアはレアで、夫が妹のラケルばかりを可愛がるから寂しかったんですよね。レアは一人目の子供ルベンを生んだとき「ヤハウェが私の悩みを顧みてくださった。今や夫がわたしを愛するだろう」と言います。

 しかし、詳しい記述はありませんがヤコブのレアに対する態度はおそらく変わりませんでした。レアはその後6人の子をヤコブとの間にもうけるものの、そのたびに「今度こそ夫はわたしに心を寄せるだろう」「今度こそ夫はわたしを嫌わないだろう」と言っています。キツいな…しんどい……


 一方ラケルはヤコブに愛されているから満ち足りていたかというと、全然そんなことはありません。姉にばかり子供ができるのを妬み、ヤコブに「子供ちょうだいよ!」ってキレたりもします。ヤコブは「神様が決めるんだから俺には無理だよ」って突っぱねるんですけど。でもどうしてもヤコブとの子供が欲しかったラケルは、自分じゃ無理ならと自分の侍女にヤコブとの子を身ごもらせます。もうめちゃくちゃですね。これに対抗してレアも侍女に同じことをします。もはや意地ですよね。ラケルは侍女のビルハが二人目の子供を生んだとき「わたしは姉と神の闘いを戦い、そして勝ったのだ」と言います。これ闘いだったんだね。おんなのひとこわい。


 昼ドラも真っ青な実の姉妹によるドロドロの闘いの末、(マジでなんでなのかわからないけど)ラケルがようやくヤコブとの子を授かります。神様がラケルを顧みてくださったらしい。ふと思ったんですけど、聖書の神様ってだいぶいい加減というか、感情的じゃないか。神様なのにその場のノリで「かわいそうだからお願い聞いちゃお!」みたいに願い叶えてないか。

 ともかく、ラケルは念願の男の子を生みます。ヤコブにとって11人目の子供、それがヨセフでした。ラケルは自分が子供を生めないことをずっと負い目に感じていて、ヨセフが生まれたことでその恥がやっと消えたと、そういうことだったんですね。ここまでくるのに2000字使ってしまった。でもこうしてみるとヨセフは生まれた瞬間から誰かを救っていたとも考えられますね。存在するということですでに誰かを救っている、この点に薮宏太さんと同じものを感じます。(オタクのこじつけ)

ヨセフ、売られる。

 12人兄弟の11番目として生まれたヨセフは、お父さんのヤコブから特別に可愛がられます。まあラケルが初めて生んだ子ですからそれもそうかとは思いますが。つまりヨセフにとっての上の兄弟たちはみんな腹違いです(ヨセフの唯一の弟ベニヤミンについては後述します)。逆もまたしかりで、10人の兄弟たちは半分血のつながっていないヨセフが父親に特別可愛がられているのを見て、ヨセフを憎みいじわるをします。とはいえ兄弟たちが元々極悪非道な人たちというわけでもなく、多少の事情はあるんです。


 まずヤコブが、ミュージカルのタイトルにもなっているドリームコート(なんかたぶんすごい力があるコート。聖書では「飾りのついた上衣」と書いてあります)をヨセフにだけあげちゃったこと。だめだよね。大人数の兄弟で一人にだけものをあげたら揉めるよね。だけどそれだけヨセフを特別可愛がりたかったんだと思う。わかるよ、ほぼ末っ子だもの。ヤコブも年を取ってからできた子供だから余計に可愛がりたいんだと思う。わかるよ。今私の脳内にはya-ya-yahでセンター張ってたショタやぶちゃんが浮かんでいる。うん、そりゃ特別扱いもしたくなっちゃうよ。どうしても一番に可愛がってあげたくなる魅力をもっているところも、ヨセフと薮宏太さんの共通点じゃないでしょうか。


 そしてヨセフには夢を読み解く能力がありました。簡単に言うと、人の夢から神様のお告げを読みとってその意味をみんなに伝える預言者みたいなものですかね。

 ちょっと脱線しますが、聖書でメインに語られているヨセフの一族、というかイスラエル民族の祖先たち?(ごめんなさいちゃんとはわかっていません)は代々神様に愛されてきました。ただ前述の通り神様がやたら人間くさい気まぐれな性格なので、だいたいその世代に一人お気に入りを作ってその人にいろいろ力を与えていたみたいです。ヤコブの代はヤコブがお気に入りでした。ガバガバ解釈ですすみません。ヨセフの代は言うまでもなくヨセフがお気に入りで、そのおかげでヨセフは夢を読み解いたりたまに神様と喋ったりできました。


 で、ヨセフが兄弟に疎まれる原因の一つが、読み解いた夢の内容をヨセフが正直に言いすぎたということです。例のごとくちゃんとわかってないのでざっくり言うと「なんかみんながぼくにひれ伏してるみたいな夢を見たんだよ!」とヨセフは正直に言いました。本当に自慢とかではなくただそういう夢を見たから見たよって言ったんでしょう。ヨセフはたぶん見栄とか自己顕示欲とかないですから。

 でもそんなことを聞いた兄弟たちはムカつきますよね。ムカついたんで穴掘って殺しちゃおうって話になりました。こわ。しかしギリギリのところでやっぱやめよっかとなり、殺しはせずたまたま通りかかった商人にヨセフを売ることにします。殺人も人身売買もダメだけど、まあヨセフはとりあえず生き延びたんで、セーフです。個人的には兄弟にいじめられる純真無垢なヨセフを30歳の薮宏太さんが演じることに興奮を抑えきれません。大きな声では言えないけど。

ヨセフ、エジプトに来る。

 さてヨセフはエジプトに連れてこられました。ここからがヨセフメインの物語です。前段が長いよ。人身売買で連れてこられたんだからひどい扱いを受けるのかと思いきや、そこは誰あろう私たちのヨセフなので、神様に愛されたヨセフなので、彼のすることは万事うまくいきます。(主人公補正かな…?)何でもかんでもうまくやるもんだから、ヨセフの仕えていた家の主人にすごいじゃん!と見初められ、全財産を委ねられました。いや主人、結果的に間違ってないけどチョロすぎだろ。
[追記]私はこの主人とエジプトの王を同一人物と勘違いしていました。正しくは別人で、主人はエジプトのただの富豪(ミュージカルでは芋洗坂係長さん演じるポティファー)。そして後に自分の夢を読み解かせるためにヨセフを牢獄から出すのがエジプトの王(小西遼生さん演じるファラオ・創世記ではパオ表記)でした。ふわふわ読解力ですみません。


 ところでヨセフは顔も容姿も美しかった。


 急にこいつどうしたと思われましたか? 心配はいりません、創世記の原文もこのくらいの唐突さでこの文言を差し込んできています。よっぽど言いたかったんだね。あまりに唐突で初見時は驚きましたがコンマ3秒後に「確かにな…」とベストステージ4月号の6ページを思い起こすなどしました。美しいよね、わかる。わかりすぎたのでタイトルに引用させていただきました。


 顔も容姿も美しいヨセフ、当然ながらモテます。絶対にモテちゃいけない人にもモテてしまいます。主人の妻です。

 人妻~~!!ヒュ~~!!!でも違うんですよ、ヨセフはちゃんと断るんです。奥さんに「わたしと寝ておくれ(原文ママ)」と言い寄られてもヨセフはこう言って拒みます。

「御覧下さい。御主人様は家中の何でもわたしにまかせていらっしゃいます。全財産をわたしの手にまかせて居られるのです。御主人はこの家でわたしより大きな力を持とうとはされず、あなたを除いては何でもわたしに与えることを惜しまれないのです。あなたは御主人の奥様ですから当然です。それなのにどうしてわたしはこんな大きな悪事をして神に罪を犯すことが出来ましょう」

 いや……ヨセフ超いい子じゃん…ご主人もすごいいい人じゃん……。ご主人がけっこう軽率に結んじゃった主従関係だったけどヨセフもご主人もいい人だったおかげでとてもいい関係になったね。女だけだよ悪いのは。

 奥さんはこのヨセフの超絶誠実な言葉を聞いてもなお言い寄ってきます。なんだこのアマ。ヨセフの着物を無理やり脱がそうとして、ヨセフが着物を置いて逃げたら「ヘブライ人(ヨセフを指しています)がわたしにいたずらしようとした!叫ぼうとしたら着物をおいて逃げた!」と喚きます。なんだこのアマ。ご主人にも似たようなことを告げ口して、そのおかげでヨセフは牢屋に入れられてしまいます。なんでだよご主人。そんな女よりヨセフを信じてやってくれよ。

 そうしてヨセフは牢屋に入りましたが、おなじみの神様愛されパワーによりすぐさま牢屋の長的なポジションを手に入れます。人身売買のときも思ったけど、神様は助けるタイミングが若干遅いよね。

 それはそうと痴女に絡まれて着物を剥かれる薮宏太さんが見……? この数段落、言葉と心が汚くてごめんなさい。

ヨセフ、夢を解く。

 やってきました。ヨセフの本領発揮タイムです。
 牢屋に入れられたヨセフは、同じ牢屋に入っていた二人の男が悩んでいるのを見つけました。この男たちもご主人に怒られて牢屋にいる人です。二人は、それぞれ元いた仕事に関係するようなものが出てくる夢を見ました。ただ彼らは神様から力を受けていないのでその夢の意味が分かりません。もうおわかりですね、ヨセフの出番です。ヨセフは要約すると「もうちょいしたら二人とも牢屋から出られるよ」と言いました。
[追記]二人の男は確かにどちらも牢屋から出られることは出られます。ただ、執事だった片方の男は元のポジションに戻ることができた一方、パン屋だったもう片方の男は残念ながら処刑されます。全くの余談ではありますが。

 …あれ? あんまりお告げっぽくない。お告げって「~~すると~~になりますよ」的な文のような気がしていたけど、今回は特に何もしなくても牢屋から出られるらしい。夢読み解いた意味…?(小声)

 と、私は最初、この場面におけるヨセフの存在意義を過小評価していました。ですが読んでから数日経って、もしかして神様の言葉を伝える能力の本当の意味って別のところにあるのかもしれないと思うようになりました。

 あれをこうしなさいとか、これが近いうちにこうなるとか、それを信頼のおける誰かからはっきり言ってもらうことで人は安心できて、その言葉を聞いただけで救われるところがあるのかなと。だからヨセフに与えられた能力は夢を読み解く力だけど、彼の役目は夢の真意を告げることというより周りの人に「信じられる何か」を持たせてあげることなのかなと思いました。

 それって薮宏太さんにも与えられている能力なんじゃないかなと、盲目な私は思うんです。薮宏太さんが笑っていれば根拠がなくても「ああ大丈夫だな」って気持ちになるし、薮宏太さんが「なんとかなる」って言ってくれたら絶対になんとかなるって信じられる。そんな薮宏太さんが大好きです。


 そして今度こそ、ガチでヨセフの能力が本領を発揮します。なんとエジプトの王がわけのわからん夢に悩まされているというんです。先ほど助けた二人の男のうち一人がヨセフのことを思い出して王に伝え、ヨセフは王のもとに呼ばれました。

 当然のようにヨセフはその夢も読み解きます。ざっくり言うと「これから7年豊作が続いて、そのあと7年ひどい飢饉が続くよ」というお告げでした。夢の内容から読み取れるのはここまでなんですが、ヨセフは「豊作のとき食べ物を全部食べちゃわないで、後から来る飢饉のために残しておいた方がいい。そういうのをちゃんと指揮できる人を王にしてね」と付け加えます。頭良すぎでは…?かっこいい。王もたぶん同じことを考えたんでしょうね。すぐさまヨセフにエジプト全国を治める権利、つまり実質的な王様の権利をヨセフに譲りました。エジプトの出世アバウトすぎ。


 満を持して言わせてください。

「ヨセフはエジプトの王パロの前に立った時三十歳であった。」

 この一文を読んだとき思わず鳥肌が立ちました。なんでなのか厳密には言葉にできないんですが、なんだろう、推しの年齢ってやっぱり特別じゃないですか……昨年主演を務めたミュージカル『ハル』で実力を認められ、今回の舞台でも主演に抜擢された薮宏太さん、その齢三十歳。

 ご自身では30という数字にほとんどこだわりはないらしく、それもまたかっこいいんですが世間的に節目とされるこの歳に大きな仕事を任された薮宏太さんを、否応なしにヨセフに重ねてしまいました。

ヨセフ、ベニヤミン、好き。

 こうしてエジプトの実質的な王になったヨセフ。お告げ通り豊作と飢饉はやってきましたが、彼の指揮のおかげでエジプトだけは食べ物がなくなりませんでした。


 みなさん覚えておいででしょうか。ヨセフの生まれ故郷はエジプトではありません。飢饉は世界的に起こっており、エジプト以外では食料不足が深刻でした。ヨセフの生まれ故郷のカナンという国も例外ではありませんでした。カナンにいるヨセフのお父さんや兄弟たちも、世界中の人と同じく食べ物を求めてさまよっていました。

 少し話は前後しますが、ヨセフのお父さんヤコブは、ヨセフがもう生きていないと思っています。兄弟がヨセフは死んだと伝えたからです。なんて兄弟だ。そういうわけでもちろんヨセフがエジプトにいることも知りません。ですがヤコブはどうやらエジプトに食料があるらしいという情報を手に入れます。そこで息子たち、つまりヨセフの兄弟たちをエジプトに行かせます。ただ、何となく嫌な予感がしたので一番下の子ベニヤミンだけは行かせませんでした。

 ベニヤミンはヨセフの唯一の弟です。そしてヨセフとベニヤミンは他の兄弟と違って腹違いではないんですね。ヨセフがエジプトに売られていく前に二人で何かする描写はありませんが、きっとヨセフにとってベニヤミンは特別な兄弟だったんじゃないかと思います。もうだいぶ長くなってしまったので詳しいことは省きますが、ベニヤミンと再会を果たしたヨセフは他の兄弟よりもちょっぴり特別扱いをします。何が言いたいかというと、年下をえこひいきするヨセフ、見たい。

ヨセフ、再会する。

 さてクライマックスです。
 食べ物を求めてエジプトにやってきた兄弟たちは、まさかヨセフがエジプトのほぼ王様になっているなんて思ってもいません。そりゃそうだ。時代劇なんかでもよくありますが、マジで偉い人って平民は顔を見ることすら許されないんですよね。なので王様(ヨセフ)に食べ物をください!と頼みに来た兄弟たちは、目の前にいるのにそれがヨセフだと気づきません。

 でもヨセフはわかります。すぐに兄弟だと気づくんですが、彼らに対して素知らぬ風を装い、激しい言葉で「お前たちスパイだろ」と言い放ちます。見たい。薮宏太さんの声帯から激しい言葉、聞きたい。

 でもたぶん、ヨセフは本気でスパイだと思ってるわけではないんです。スパイではないと証明するためにもう一人隠している兄弟を連れてこいって言うんです。いやめちゃくちゃベニヤミンに会いたがってるじゃん。ぱっと見でベニヤミンいないなって気づいて会いたくなってるじゃん。好きかよ。

 はじめこそ厳しい態度だったヨセフですが、兄弟たちがベニヤミンを連れて再びエジプトに戻ってくると彼らを厚くもてなしました。穀物を買うために持ってきていた銀をそのまま返して「お前たちの神が穀物袋の中に宝物を入れてくださったのだ。お前たちの銀はわたしのところに届いている」と言ったり(かっこいい)、「父親は元気か」と尋ねたり(やさしい)、ベニヤミンに「神がお前を祝福し給え、わが子よ」と言ったり(好きかよ)。正直ツン1割デレ9割くらいです。なんであの兄弟たちにそこまで…自分を売り飛ばした張本人たちなのにね。慈悲深い。

 ひとしきり兄弟たちをもてなし、ベニヤミンをかわいいかわいいしたところでヨセフは急いでその場を去ります。「その兄弟に向かって心が燃えるように感じ、ひとりで泣きたくなったからである。」だそうです。そんなん………見たすぎるだろ………ひとりで泣きたくなるヨセフを薮宏太さんがどう演じるのか、見たくてたまらない。

[追記]ここがミュージカルを観て一番解釈というか印象の変わったシーンです。
 創世記には穀物袋に銀を入れるくだりとは別に、ヨセフがベニヤミンの袋に銀のコップ(占いに使うコップで、たぶんけっこうなお宝)を入れるという記述があります。当初私はこれを、ベニヤミンだけ特別扱いしてるじゃん好きかよくらいにしか考えていませんでした。しかしミュージカルではこのエピソード1曲歌われているくらい重要な場面でした。
 どうやら銀も銀のコップも、ヨセフが兄弟にこっそり財宝を分けてあげるためなんかではなく、盗みの疑いをかけて兄弟を試すために入れたようです。特にミュージカルの場合では、ベニヤミンの袋からコップが出てきたことが大事件であるように描かれていました。
 ここで特筆したい点が2つあります。1つは、ヨセフにも人を疑う心は人並みに備わっているということ。そりゃまあ自分を売り飛ばした兄弟の口だけの返事で、スパイじゃないよねわかったーとはならないでしょうけど、それが普通の感覚なんですけど。ヨセフはこの少し後に「わたしは神にかわろうとはしませんから。」と言っています。そうなんだよね。特別な力は与えられているけど、聖人君子なわけではないし裏切られたら疑い深くなったりもするよね。ヨセフにも普通の感覚が備わってるっていうことを感じて余計に、ヨセフという人物の厚みが増したように感じます。
 そしてもう1つが、ベニヤミンの袋にわざわざ指定してコップを入れたということ。前述しましたが、ベニヤミンとヨセフ以外は異母兄弟です。つまりある意味、ヨセフがいなくなったあとのベニヤミンはヨセフと似たような状況に立たされていた可能性もあります。そこでベニヤミンに盗みの疑いがかかったとき、他の兄弟たちはどんな反応を見せるのか。ここからは私の妄想ですが、その反応によってベニヤミンが兄弟たちからどんな扱いを受けているのかを見ようとしたのかもしれません。幸い他の兄弟は必至でベニヤミンをかばいます。こいつだけは違うと。ええ兄弟やないの。一見ベニヤミンに疑いをかけて試しているようでいて、本当に試したいのは他の兄弟なのかもな、と思いました。だからやっぱりベニヤミンのこと特別気にかけてるってことだね。好きかよ。


 創世記の最後を締めくくる章に、私の一番好きなヨセフの言葉があります。ヨセフが自分たちを恨んでいるのではないかと気に病んでいる兄弟たちに向けて言う、「あなた方はわたしに悪いことをたくらんだけれども、神はそれを善いことに変らせ、今日のようにして下さり、多くの民の生命を救って下さったのです。」という言葉です。

 エジプトに売られたおかげでヨセフは今の自分になって、その自分を通して神様が多くの人々を救ったという意味なんだと思います。この考え方に、懐が深いとかもうそういうレベルじゃなく、すごいな、私もこういう考え方をできる人になりたいなと感じました。

 逆境を嘆くのではなくその場でできることをして、しかもそれが自分のあるべき姿だったんだと認められる姿勢。これまで自分の身に起きたいいことも悪いことも、それが起こったおかげで今の自分に至ったんだと心から納得できているヨセフがうらやましいです。


 ここからは私の妄想もしくは願望も大いに混じってきますが、薮宏太さんという人にもこの考え方を見ることができると思うんです。薮宏太さんは自分の歩いてきた道を振り返ったとき「こんなはずじゃなかった」と言うタイプでは決してないだろうなと、私は思います。たとえ過去に思い通りにならないことがあったとしても、それが今の自分にとって必要なことだったんだと当時からわかっていたような、そういう飄々とした強さを感じます。私が勝手に感じてるだけですけどね。



 見たいな。薮宏太さんの演じるジョセフが見たい。舞台の真ん中に立つ薮宏太さんが見たい。
 これは日程通りに公演を強行してほしいって意味では全くないです。薮宏太さんとカンパニーの皆さん、お客さんまで含めてこの舞台に関わる全ての人が幸せな気持ちで幕が上がるのを見られることが何よりだと思うので。
 ただ、私はチケットを買って舞台を見に行くって決めた日から今日まですごくこの舞台を楽しみに待っていた。その気持ちまでなかったことにしてしまうのはかわいそうだよなと思ったので、あえて見たいものは見たい、聞きたいものは聞きたいと欲望に正直に書きました。

 これから何がどうなるかはわかりませんが、薮宏太さんが一片の憂いもなく舞台に立てる日が来ることを信じて、毎日ねじねじwashします。家で楽しめることはとことん楽しみます。薮宏太さんが大好きです。

 最後まで読んでくださりありがとうございました!


既にヨセフのファンになりつつあるオタクより、2020年4月7日大安に寄せて

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