苦しみを愛す

歌舞伎、宝塚、大衆演劇。
そこに強烈な魅力を感じ、吸い込まれるのは何故か。
大きな苦しみがあるから。
どれも一般の世界とは異なる特殊なルールに閉じ込められた世界。
生まれた時から、もしくは10代の自分の将来を決断するには早すぎる時期からある世界に幽閉され、そこから出られるのは10年後、20年後、はたまた死か。
「独自の世界のルールに縛られ、伝統を受け継ぐからこそ独自の芸術、魅力は生まれる」とされるが、私が惹かれていたのはそこでは無かった。
生まれながらの不条理、苦しみである。
これに気がついたのは歌舞伎の舞台に心を動かされた時だった。
昨今の宝塚の問題で報道されるように演劇の世界は過重労働であり上下関係も必要以上に厳しい。しかし、これは誰もが何となくのイメージはあったし知っていたことなはずだ。知っていたが、それが当たり前すぎて誰も何も言わなかった。常識になっているからそれを受け入れる覚悟の無い人はその世界から淘汰されていった。だから問題にならなかった。
今回はそれに耐えられないにも関わらず逃げることさえ不可能な状況に追い込まれてしまったため悲惨な事件が起こってしまった。
正直、ここまで公に問題視されて従来のやり方で突き通すのは無理だと思うが、指導方法はともかく一般企業のような労働時間で既存のクオリティの舞台を維持するのは不可能だと思う。
歌舞伎の舞台裏特殊でも朝5時まで稽古をしているのがテレビで流れていたし、大衆演劇でも朝7時まで稽古している様子もよく見る。分かっていても問題視しない。指摘したら続けられなくなるのが目に見えているからだ。
これだけでなく他の舞台も同じだと思う。
だから宝塚でこれだけ言われても他の舞台については全く触れられないのだろう。
これだけの時間と労力と金をかけた舞台だからこそ美しいというのは言わずもがな、私は役者の苦しみに惹かれてしまう。
自分とは全く別の道を歩んできた役者。生まれた時から自由は無く、進む道が決まっている。そこに自分の意思は無い。その地獄の中でどう生きるのか。それが見たい。
歌舞伎役者でも外様には出せないものがあろう。運命を縛られた苦しみを魅せてくれ。その輝きは私が愛そう。

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