ある一夜、三人芝居「怪物の息子たち」を目撃した話 〜ネタバレだらけだから気を付けてね!〜
どうもどうも、早朝の妖怪です!
本日も元気に労働なのですが、あんな最高な芝居を浴びてしまったら、ろくろを回さずにいられないのが妖怪の性というもの。
今回はタイトル通り三人芝居「怪物の息子たち」のろくろです。
まだまだ公演中ではありますが、ネタバレを多量に含んでおりますので、ご注意くださいまし。
どうぞよしなに。
これは東映舞台公式様の告知ツイート。
見てください、このビジュ大爆発なPVを。
少し話が逸れますが、この恐る恐る様子を伺っているようなキービジュ、可愛いですよね…ディグダみたい…(?)
【以下ろくろ】
端的にまとめると「物凄く良かった…」の一言に尽きます。
あらすじは、
「怪物」である父・宝田陽介が亡くなり、葬儀を執り行うため集まった蒼空(演:崎山つばささん)、陸久(演:安西慎太郎さん)、宇海(演:田村心さん)、怪物の血を引く三人の息子たち。
彼らが過ごした北海道の港町、古びた葬儀場で告げられるのは、「全財産は宇海へ譲る」という遺言。
三人は、唯一の遺品として遺された3冊ノートに綴られる怪物の人生に触れる。
怪物とは、自分たちの父親とは、一体なんだったのか。
自分たちが見ていた怪物とは、そしてこれから歩む先はどのようなものなのか…
という感じ。
凄くわかりやすい導入ではあるものの、これは三人の役者による会話劇。
ゆえに、そこまで親切に物語が設計されているわけではない。
台詞回しや登場人物の距離感、そこから図れるものはあれど、明言はされない。
ただ怪物のノートに並べられた事実を想起し、整理していく三人を眺めながら、
生まれた確執や空気感を手掛かりにして、余白を埋めていく作業をする必要がある。
こちらが想像して浸れるほどの余地を残してくれているので、
そこは楽しく予想を立てつつ、たまにその予想を裏切られる楽しさを味わうことができるのですが、
何よりも
三人の鬼気迫る芝居が本当に本当に、本ッッッ当に良くて、語り尽くすに尽くせない興奮があった…
各々が持つ強みが前面に出ている役もあれば、寧ろ新しいことにチャレンジしている役もある。
兼ね役が多い分、これまで演じてきたものや経験したもの全てを糧とし出力していて、
思わず「こんなに贅沢なものを浴びていいんか……?」と口から溢れそうな勢いだった。
芝居関連の話だと、普段触れることを躊躇う人間のざらついた部分を少しずつ均していくような丁寧さがありつつ、
蓄積されたものを吐き出すための激しさもあって、少しでも己と重なる部分を見出してしまうと、一気に情緒を持っていかれる危うさがあったように思える。
全体の所感はこんな感じ。
ここからは各々の役や、それぞれの関係性やグッときたものなどについて綴っていこうかなと思います。
【長男・蒼空】
崎山さんは度々、この蒼空という男のことを「治安が悪い」と称していましたが、個人的にはそうは感じられなかった。
あの滲み出る治安の悪さというのは、育った環境由来のものであるだけで、
本人は「常に理性的であれ」と己を律しようとしているというか、長男であることの責任や立場というものを保とうという必死さがあるように見えた。
誰よりも怪物と共に過ごした時間が長く、記憶も比較的鮮明に残っていて、誰よりも怪物への想いや感情というのが複雑で、
誰よりも怪物へのコンプレックスを拗らせていて、誰よりも怪物と向き合うことを避けている。
その奥ゆかしさというのが、終盤すさまじい輝きを見せるので、これは是非…こう…各々の己の目と感情と何とで感じて欲しい…
あとは勉強が好きで上昇志向気味なところも大変良かった……
目標を決めた途端、死んだ魚の目が爛々としたもの変わっていくのが、少年のようでグッときましたね……
私はこういった崎山さんを見るのが夢だったので、とても命が助かる反面、キャラ萌え的に消費してしまうことに罪悪感を覚えてしまうので、胸中悶えまくっています。
蒼空兄……好きだ……
【次男・陸久】
ガ、ガラが悪い!!!!!
思い描いたこと何一つ実現できず、中途半端に頓挫してしまった者ならではの根腐れ具合に、心臓が痛くなるなどした……しんどい……
(これは私が勝手に重ねているだけですが、あの陸久の様々には心当たりがありすぎる…しんどい…)
言動的に、恐らく この中の誰よりも、その心や血肉に染み込んだ「怪物」を憎み厭っているんだろうな〜と思ったのですが、寧ろ逆だったようにも感じられる。
愛憎は表裏一体とは、このことを言うんでしょうね。
感情の起伏が表に出にくい蒼空と比べ、頭に血が昇りやすく感情表現がストレートなタイプ。
怪物の血が由来なのか、環境がそうさせたのかはわからないが、他2人と相対的でわかりやすいように見えた。
今回初めて安西さんのお芝居を拝見したのですが、なんというか、その場に生きているような、空間や世界に馴染む芝居をされるのですね……
どの役でも違和感がなく、たまに挟まるブレイクタイム的なコメディ要素もきっちり押さえていくし、
オペラ釣りもする多才さ(驚き過ぎてグラスを取り落としかけた)に、凄く惹き込まれました……
陸久兄……好きだ……
【三男・宇海】
末っ子だ!!!!!!
もはやキャラの説明をされずとも伝わる末っ子感。
頭の回転が速くて、冷静で物事を俯瞰的に見ていて、皮肉っぽいことを口に衝きまくる。
一度も怪物に暴力を振るわれたことがなく、出来が良いと褒められ続けたことによって、2人の兄より比較的まっすぐに育ったように見えるが、
宇海もまた怪物への疑心暗鬼を抱え、その手から逃げ続けていた。
兄たちに小突かれる様子や、回想で見える年相応な素振りに大変癒されたけど、
怪物とはいえ父親である存在に彼女を寝取られるというのは、結構こう…クるものがありましたね…
可哀想と思いつつも、その裏にあったかもしれない(恐らくないが)様々を思うと、それで良かったとも思えるというか……
「この中で一番年下である」という要素だけで、ここまで印象が変わるとは……
田村心さんのお芝居も、今回が初見だったのですが、良い意味で予想を裏切られる深い芝居をされる方なんですね……
何より兼ね役での豹変っぷりと多岐にわたる表現が凄まじくて、鳥肌が立った。
宇海……好きだ……
三人それぞれに良さがあり、年不相応のいじらしさがあり、怪物の存在への憎しみ・畏怖・愛がある。
その密度は正に一人の人間そのもので、(この三人芝居がどの時期から動いていたのかはわからないので、あくまで憶測ではありますが) この短い期間でここまで突き詰めるというのは、一種の狂気のように感じられる。
そもそも、演じることそのものが一種の狂気ではあるけれど、この兄弟の人間性には、嫌なリアリティがあるんですよね…
想像や知識で補えない人間らしい多面性は、観る者を圧倒して、物語に巻き込んでいく。
この三人が作り上げた「怪物の息子/宝田三兄弟」の空気感は本当に独特で、これは言葉にすることが容易ではない。
ギスギスしてるかと言われればギスギスしてるんですが、それはわかりやすいものではなくて、
お互い緩く突き放し続けて、不必要な争いや衝突を避けているような感じ。
物語が進むにつれて、その距離感や空気というものは変わっていくんですが、序盤のこの気まずさは観てる側も離席したくなるくらいのもので、息がしづらくなる。
しかしながら周知の通り。
わたくし妖怪は、芝居で生まれる気まずくて苦しくなるような空気感・展開が大好物でございまして。
開幕早々、顔面を両手で覆わないと耐えられないような高揚感と歓喜が脳内を元気に駆け回っておりました。
少し語り過ぎてしまいましたが、以下は物語そのものや、カテゴリーとしてまとめきれなかった
溢れ感想などなどのろくろを回して行こうと思います。
こぼれろくろ①
まずは、こちらのツイートでも少し綴ったのですが、
この芝居は私的に人生の清算という面が強く出てるな〜と感じられた。
(勿論環境の問題でそうなることはあると思いますが、)
ネガティブな強い感情や執着というのは、自分の人生の選択肢を狭める一因になるものだと私は考えているのですが、
この兄弟の根底に通ずるものは正にそれなんですよね。
父である怪物への感情は思考を単一化して、本来であれば選び取れるものを、最初から無かったことにしてしまう。
少し自分語りが入りますが、私も親が厳しめだったので、この感覚がわからないわけではない。
諦める癖がついてしまうんです。
この三兄弟は、怪物が物理的に自分たちの人生へ干渉することができなくなってから
怪物の人生に触れ、言葉にできなかった感情を吐露し、己と向き合うことで初めて「自分たちは自由だ」ということに気付き、
怪物という呪縛から解放される。
少し劇的に綴り過ぎてしまったが、
これはそこまではっきりと「決別しよう!!」と決意するわけではなく、
「徐々にこの呪いを解いていく、ダメだったら別の道を考えれば良い」という、宝田三兄弟ならではの緩さがあるからこそ成立して、歩み始められるものだと思う。
これまでを見つめて、これからを見据える。
それは正に人生の清算のようだな〜と漠然と思うわけです。
こぼれろくろ②
すっかり忘れていましたが、田村さんの兼ね役すごいな!?!?!
田村さんが「死神を演じる」と仰っていたので、どうなるんだろうと思っていたら、
まさか落語の死神をダイジェストでお送りするくだりが現れるとは思わないじゃないですか………
全力で頭抱えそうになった……
これで芝居人間での推し(と呼んで良いのだろうか)の半分が、落語「死神」と何かしらの接点があるようになってしまったというのは、今は傍へ置いておきます。
あの田村さんの芝居、思わず息を呑んでしまった……
先ほどまでのツンケンした宇海はどこへ……パワフルで可愛らしいナターシャは……??
あれが役者・田村心(敬称略)……凄まじかったな……
こぼれろくろ③
以下は私の癖の話になりますが、あの……あの……陽介(演:崎山さん)が事故でナターシャを刺してしまって、その様子を目撃してしまったソーニャ(ナターシャの娘)の頭をそっと撫でて殺めてしまう場面……
全体を通して、ほとんど劇伴がない芝居ではあるんですが、あの場面の静寂さと崎山さん演ずる陽介の表情、恐ろしい反面めちゃくちゃ良くて、
フィクションであり板の上の出来事であるにもかかわらず、倫理観と癖の狭間で揺れまくって脳みそがエンストしかけてしまった……
この場面に限らず、私の仄暗い癖にダイレクトアタックを決めてくる場面は数多あるのですが、
あまり語り過ぎても反芻して再度エンストしてしまいそうなので、この辺りでやめておきます。
ここまで様々書き散らしてきましたが、冒頭に綴ったように、
この三人芝居「怪物の息子たち」の感想を総括すると「物凄く良かった……」の一言に尽きます。
数多の人生を濃縮し、芝居というものを突き詰める面白さと可能性を存分に浴びることができる一時間半は、とても幸せでございました……
本当に良かったしか言えない……
これまでとこれからを見つめ、再び歩み出すための物語。
己の人生と重ねることは烏滸がましいかもしれないが、血肉に染み込んだ呪いと決別しようと歩み出す三人に、
ほんの少し自由になる為の勇気をもらえたような気がする。
そんな稀有なことは起きないかもしれませんが、
このろくろ回しを介して、三人芝居「怪物の息子たち」という作品に出会う方が増えてくださったら、
私的には大満足でございます。
6/9(日)までやってるのでね!!
どうか共に三人と怪物の物語を目撃し、存分に楽しみ存分に苦しんでくださると!!
妖怪は喜びます!!
以上!!解散!!
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