秘密のおさかなパーティー vol.3
波が流れてる音が、ずっと聴こえる。
目の前には絵巻物のような大きな水の世界。
ブルーハワイで満たされた水槽。
光が揺れている。
底から湧き立つあぶくがそう遠くない空へと昇っていく。
波打ち際でもなく、光の届かぬ深海でもない。
水深数メートルにまさしく身を委ねているような。
ゆらゆら。
水槽の前には楽器が置かれてる。
ふと、竜宮城とはこんな感じだったのではないかと錯覚する。
窓の外の海景と、舞い踊るさかなと、それに合わせた音楽が共演する、パーティーと銘打たれたひととき。
静かに客席の周りの照明が消えていく。
下手が消えて、後ろが消えて、上手が消えて。
でも舞台の光度に大きな変化はない。変わらない。下から強く照らされもしないのに。
視線を前へと戻してやっと気がつく。
ずっと灯っているからだと気付く。
私がこの宴に足を踏み入れたときから灯っている。
ただただ力強い青だけが広々と灯っている。
……と雰囲気だけで中身のない文章と口調は疲れるので、ここからはいつも通り。
ってか推敲もせず終演1時間後から描き始めてるけど、早速突っ込ませてもらうと竜宮城って言ってる数行前に深海じゃないって書いてるわよねオイ!?
SE. Bye Bye Summer
あ、ちなみに冒頭の文ですが、本当に会場内にはさざ波の音が流れていたんです。そしてこのSE。溺死。対バンやフェスでは聴くけど。やはりおいしくるメロンパンのイベントでこの曲が聴けるっていうことが堪らなく愛おしいのよね。今日という空間が相まって、何となくだけど、少女が海へと手を引いて段々と波が足から腰の高さまで上がってきて、やがて足のつかない深みに辿り着いて。慌てて彼女を見ると波打ち際にいたときと同じ静かな笑みを口元に称えた表情でこっちをじっと見つめている、っていう情景が3秒もないくらいの短さで脳裏に映った。っていう感じのストーリーがほぼ全曲でフラッシュバックしてた。
1.夕立と魚
*
彼女が静かに海へと私を誘う。水が首の高さまで到達したと同時に、少し小さな波が私の顔を打った。塩水であることも相まって目に染みる。目を閉じる。その瞬間、先週のことを思い出す。夏休みが始まる前の7月初旬。梅雨の名残で雨に降られたあの日のことを。
とにかく原さんの一発一発が心地よい。やっぱりストロークや譜割りの違いはあれど、何より彼が奏でる響きが「ビート」というより「メロディー」のように心地よく心を叩くのが彼らのアコースティックスタイルの真髄だと思う。ベーシストは歩きこそしないもののいつものように見てくる。覗き込むな、ありがとう。相反する二つの感情がすでに苦しい。ソロ回しのsm様の半音ずつ下がっていく的なコード感が否応なしにこっちの心を優しく撫でる。最後のジャラ〜ンのところ原曲にない1弦の高いところも鳴ってたような……。あとこのあと何回かオンドラムスがやるウインドチャイムが優しい。やっぱりピックとかスティック越しじゃなくて素手で楽器演奏するのって良いんですよね、ね、ね?
毎回書いてるけどMCは基本そこまで興味ないのであんまちゃんと書かないかもしれない。「ゆるくやろう」「みんなかたいけど」「俺ら好きにやってる」「おいしくるメロンパンですよろしく」
2. look at the sea
*
眼を開ける。きっとひと刹那目を閉じていただけなのだろうが、幾時か意識を失っていたのかもしれない。そんな懸念が私を支配する。彼女を見る。真っ直ぐ水平線の向こうを見たまま何かつぶやく。「死ぬまでーー」巧く聞き取れない。波のせいだ。そんな空気を感じ取ったのか、こちらを振り返って明らかに先刻と違う言葉を口にした。
「 」
1A折り返しの峯コーラスが1オクターヴ下で全人類が大感謝して咽び泣く。1サビ終わりの間奏で原曲チョーキングしてるところがスライドだった気がしなくもない。この日のCメロの「世界に」の「に」の歌い方今世紀のルカザ史上最ツヨだった。この曲でフロア(フロアっていうのかなあそこ?)の緊張が解けたのを感じたが、私的にはさかな達の緊張も解けたのでは?って気がした。この曲からすごくみんなが思い思いにヒラヒラ舞っていた、ような。まぁもしや1曲目はタイトルに「魚」なんて入ってたものだから奴らも真剣に聴きいっていただけなのかもしれないけど。アウトロの最後の最後、ライブでよく見せてくださるあのリフin acousticで wow‼︎ fantastic‼︎‼︎ってなっちょった。
3.走馬灯
今からいくらでも後付けできるけど正直この曲のとき感情大渋滞だったので、何もストーリーとかは浮かんでなかったです。でもちょうどいいと思った。多分記憶も忘れるように静かに2人は(そして私の心は)黒い海に、沼に、沈んでいったのだと思う。
この譜割……3年半前(もう3年半前!!!???)のアコースティックレジェンドでの衝撃とその後ツイキャスで一回弾き語ってくださったあれ……。「愛されてみたい」からベースがブリッジしてスルッと「洗剤の」に入るあれ……。サビの「拭えない」の「い」、「こんな日くらい」の「く」のときのボーカルの表情が切なすぎて、やつはとんでもないものを盗んでいきました状態になる。
エレキに持ち替える。
「昨日も大盛況お魚診断!」
ミノカサゴ:棘あるが優しい→タコ:手先が器用→クラゲ:丈夫「昨日と違う!キュウリじゃないじゃん!!!」→サメ:実は優しい→ウミヘビ:ちょいイジワル
4.水仙
*
静かに体が揺蕩っている。水の中では何も見えないし、感じない。目の前に誰かがいるのか、いないのか。この手は誰かと繋がっているのか、いないのか。もしいないなら、私だけがいなくなるなら、彼はこのあとどんな時間を行くのだろう。私のいない彼の冬と、私を忘れようとする彼の春。
1A折り返すまでは完全に原曲だったので、逆にその後リズム隊が来た時に、特に原さんの流れるようなプレイでギャップに死する。原曲はアルペジオがずっと鳴ってるのもあって急いているような、私的には朝のアラームみたいな、そんな空気を感じ取っているのだけど、全然違う色の水仙。でも所々の気持ちいいところは原曲の切れ味とアコの柔っこさがそっと重なってて好いとうよ。1サビ後間奏のべべべベースの弾き方とか。あ、でもこの日全曲通して言えることですけど原曲のスラップ箇所はほぼほぼ違うプレイだった気がする。どっかで1箇所そう思って見てたら「そう思ったっしょ?違うんよ〜」みたいな顔で見られて失明してた(※感想や妄想は個人のもので必ずしも効果や妥当性を保証するものではありません)。ギタソロはしっかりギタソロだったのだけど、エレキの音を支えるのがアコーなリズム隊っていうのが新鮮すぎて、若い子には刺激が強すぎると思った。お耳の18禁。落ちサビのベーシスト浸りすぎて後ろの水槽見てなかった?
5.色水
*
思考が鈍っていく。あるいは混濁していく。それは靄がかかったようになる、というよくある意味合いではなくて、字義通り誰かの心と絡まっていくような。誰か?ここでそんな人は彼しかいないはずだ。仄暗い海の底でやがて身体が朽ちていくなら、感情だってきっと、溶け始めるのでは。
ストローク感ゆったりしていた、いや、違うな、しっとりしていたって言ったほうがいいかな。3コード目まで2回鳴らして4コード目で裏食い気味になる。ッチャッチャー。そんなアレンジ、そんなリズム。好好の好。1Bがアルペジオなんだけどこの時色々な魚がわらわら画角?に大集合していってサビ始まる瞬間が一つの西洋絵画みたいだった。cf. 『最後の審判』
風車でいつものように下手さんを見る太鼓叩き。しかしこの日はあまり目が合わない。というか、この辺で気づいたのですが、いつにも増して(?)すっっっごい原さん左右の2人のプレイを見ていた。タイミングやリズムキープのためなのかわかんないけど、本当に一小節ごとに左右を見やるレベル。なんというか、うん、尊いトリオだなって。
capo3装着で察し。「えのすい皆さん行きました?」エフェクト間違えたかなんだかで2小節くらい弾いて「あれ、ちょ、ちょっと待って。」→「えのすい皆さん行きました?」(再度問う)のフォローと流れが完璧すぎて心の中でいいねを押しまくってた。「新江ノ島水族館をどうぞよろしく」「水族館といったら新江ノ島水族館」「聴いてますか?上の偉い人たち?」
6.水びたしの国
*
深い海の底で彼の感情と私のそれとがほつれていくことを悟る。小さな水たまりになってぷかぷかと浮かんでいるような感覚があった。二つの気持ちが混ざったそのシャボン玉のような歪な球体の中には、理想と理想を掛け合わせた2人だけの王国が広がる。
よくよく考えたら私リリイベアコースティックは観たことないからアコなこの曲は初めて聴いたわね。やはり『cubism』のコーラスは全て美しいのよね……お二方どちらも素敵ですけど中でもハラコーラスが好きだすだす。マイフェイバリットハラーポイントは何と言っても「教会はすでに浸水」。こっちの心が深刻な浸水被害で避難警告鳴っとんねん、と。この曲の1サビとラスサビの発音が高い音の時特に美しくて蕩けそうだった、いや、蕩けてた。殊サ行フェチな私は「恋をした」の「し」あたりで精神が限界だった。1サビ後の間奏リフのプリングの左手エッッッすぎて……流麗。ラスサビのコーラス最高じゃんね〜。
エレキ終わり。ギターに持ち替える。
「随分お客さん増えたねー」「これみんな僕らのファンクラブ入ってくれてるんでしょ?(いつもの)(好き)」「初めはお客さん1500人くらいいたのに。」「うそうそ。10人くらいだよね。」
そして、MCあまり興味ない(おい)(よくない)私だが、ここでの言葉が特に良かった
「今後はね、また東京以外のところでもやって行きたいよね。」
これ本当に切望してるの。やはり地方にも来て欲しいなーって。勿論関東圏以外だとまずもつて現実的にキャパを切る場所を借りる難しさなど多々あると思うのだけど、やっぱり私は関東に住んでいるだけに、遠くにいる私と同じくらい、いや、私よりもっとおいしくるがお好きな人もいるでしょうよ(好きの絶対値の大小に差はあると信じている。どう好きになるか、とか自分の中でどんな風にそのバンドがナンバーワンなのか、ないし上位にいて心を掴み続けるのか、は十人十色どころか千人千色だと思うけど)。そんな人たちも気軽に遊びに来れる場所だとやっぱりいーなーってちょっぴり考えてしまうことがたまにあるので。是非是非何卒。
「他のとこでもやりたい」「山でやりたい」「君らは斜面」「キャンプ場でやりたい」「カレー作りのルーを煮込んでる時間で演奏」「そして食べながらディナーショー」「煮込みの時のいる???」「ツアーも来てね」
7.水葬
*
「生まれ変われるなら」
昔誰かがそんなことを言った気がする。そしていつも決まってその声の主は女性のものだ。一体誰なのだろう。いつ、どこで、誰が、どんな状況で言ったかも覚えていないが。不思議とその声が鳴ることがある。あてどなく思考を巡らせど、お構いなしにその言葉が轟音のような洪水とともに残響することが。この耳鳴りはいつ止むのだろうか。ほら、また今夜も、
ワンコーラス1人でやってた。この時1サビで魔法のかかる季節だよのところで鰯が広がっていったのは天才なのか?この曲終わりのMCでずっと見惚れてた、と翔雪さんが明かしてたたんだけど、確かにめっちゃ見てた。すげぇ愛おしかった。あと2Bから間奏で曲調変わるところでエイが3尾、全く同じ向きで下出から上手に滑り落ちるように流れていったのすごかった。原曲だとここで一気に曲調が荒ぶるように上がるけど、今日のアレンジだと、すこ〜〜し一定に保ちながらもダウナーな、崩れていくような、そんな感覚に似ているなぁと思ったので、お前ら解釈一致すぎたよ。アウトロのラストの「ジャッ!」の前のギターの音色がクラシックギターの弦の柔らかく、でもカチッとはまっていくような音色でこの瞬間だけ厳かな「コンサート」を観ているような感覚でした。
「ずっと見てた」「見惚れてた」「ありがとう」「みんなどっち見てる?魚?俺ら?」「あぁ、どっちもか」「今日はアンコールが導線(?)の問題でないから手拍子(?)はなしで」「フリじゃないからね!」
8.シュガーサーフ
追加イントロに感謝の舞を。1A後のリフ、アコバージョンだと微妙に違うのだけど、ここをモチーフにしたラインを翔雪さんが何度かなぞっていたのとても素敵だった。ってかこの曲に関してはTwitterで少なくとも彼がアコ編曲したと明かされているっけ?初めの追加イントロが原曲アウトロ終わった後にもう一回来るの、波が押し寄せるようで完璧すぎるアレンジ。私の脳内勝手ストーリー的にもマッチしよった。
次曲があれなのでプチチューニングタイム
9.亡き王女のための水域
本日大優勝ありがとうございました全世界。言葉がでないです。絞り出します。
1A出だしの初めの「波打ち際」で鰯にサメがアタックかまして広がっていったよ。寄せては返す波打ち際みたいで本当に美しかった。お前たちの演技力に乾杯。
正直この曲で終わるかなぁと思ったしそれで良いとさえ思っていた。
10.波打ち際のマーチ
前曲とこの曲は水責めされすぎて涙でびしょ濡れだったのであんま書くことないです。落ちサビで魚がみんなはけていったの何???天才演出??その後のラスサビ始まるタイミングでエイが絶妙に1尾だけカットインしてたのなに?糸でも引いてんの?そして気づきました?私がアコースティックスタイルの真髄といった彼のドラムでこのライブが締められるということに…………。
終演〜波打ち際のマーチ(Inst.)
本当にいい世界だった。他のアーティストさんで水族館でライブしてるのオンラインで観たことあるけど、生だとここまでとは……。
私自身にとって水族館という場所はとても特別で、年パスとかも持っていて、そんなこんなでもう感情が大洪水の溺死まみれな時間でした。
ちなみに1番好きなのはクラゲです。今日は下着も傘も全部クラゲでした、実は。
ヘッダーの写真は今日撮ったクラゲの影。
クラゲの影って魚とはまた違ってさ。床から遠ざかる時に本当に静かに色を失っていくの。ほんで近づくとグラデーションみたいにゆっくりと黒を落とすの。こういう美しい速度をいつまでも愛でていきたいよね。
あ、もっとちなみに。終盤の曲も我的ストーリー的なのあるんだけど割愛しました。こういうのは私の中で完結してればそれでいい自己満足だし、万が一(こんな拙文ではもっと低率かもしれない。「億が一」)にも誰かの思考や思想に影響を与えてしまうのは本当に好きくないので。
こんなの考察とかにも満たない書き殴りよ(そもそも考察という言葉もそんなにしっくり来てないけど、その話はまた今度)。興味あるもの好きがいたら会ったときにでも訊いておくんなまし。
どうでもいいけどエレキギターを使った3曲の頭文字繋げたら「すいみ」→「スイミー」になるなぁ!と思ったらその次の2曲の頭文字繋げたら「寿司」になってここもおさかななのか……と思った(そんなわけがない)。
あと忘れてることが二つあって。
1. 何かの曲で(多分2Aあたりなんだけど)原曲にないカッティングをギタボが弾いていた。どこだっけ。
2. 何かの曲のアウトロでギタボがジャーンと鳴らしたコードを止めずにそのまま終わった曲。とても良かったんけどどこだっけ。
以上!楽しかった!!
解散!!!寝れ!!!!!Bonne nuit〰︎🐟
エピローグ
夢を見ていたのかもしれない。
始まった時の波の音がどこかで鳴っている気がする。
今も、いつまでも醒めないでいて欲しいけど。
多分いつかは忘れる。醒める。
始まった時?
何が始まったのだろう、何かが終わったのだろうか。
分からないまま微睡んでいく。
次に眠りから覚めたらきっと
何もかも覚えていない。
それをどこかで感じ取りながらゆっくりと夢に落ちていく。
記憶なんてそんなものだ。
そしてまたある時に思い出してしまう。
人工的に作られた海の前に立ち尽くし
人工的に作られた波の音に耳を澄ます
どこまでも自然の青とは程遠い世界に伝った響きが
もしまた聴こえたら
私はそれを海鳴りと呼んでみる。
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