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北海道が好きになったわけ32

田舎の小さな短期大学でも文化祭はある。けどまぁ、正直言って東京の大学とは規模が全く違うので期待は全くしていなかった。

なのでいつも通り無料のスキーバスに乗ってカムイスキーリンクスで滑りまくり、帰って来た頃はすっかり日が落ちていた。

バスの降車場からアパートまで、スキーの板を担ぎ、面倒くさいのでそのまま履いてきたスキー靴でガコンガコン歩いていると、体育館の方が騒がしかった。

疲れていたし、ショボい文化祭に興味は無かったけど、とりあえず覗きに行ってみた。

体育館にはステージが組まれLiveが始まりそうな気配だった。その辺にいたやつに「誰来んの?」と聞いたら「上田正樹だってさ」という答え。

うーむ、なんというか。上田正樹って「悲しい色やね」の人でしょ?演歌歌手?まぁ、田舎の短期大学にしては頑張った方じゃない?けど、まぁ、観なくていいかな。

帰りかけると1曲目が始まった。やっぱり「悲しい色やね」だ。学生のほとんどは壁に貼りついたまま、ポケットに手を突っ込んで立っているのがほとんど。ステージの前には誰もいない大きなスペースが空いていた。

「悲しい色やね」が終わりパラパラとまばらな拍手が聞こえ、『もういいかな。帰ろう』と壁から離れて歩き出した瞬間、上田正樹のボソッと呟いた一言に痺れた。

「俺な、ジョンレノンになりたかったんや」

え?と思わず振り返るとロックやブルースのナンバーが降り注いできた。

えーーーー!演歌じゃないじゃん!スゲーカッコいい!!

壁に貼りついていた学生達もどんどんステージの前に集まってきて、メチャメチャ興奮してきた。
さっきまでの盛り上がりの無さが嘘のように、体育館全体が興奮の渦に包まれていた。

僕は音楽が大好きで、いろんなLiveに行ったけど、未だにあの時の上田正樹Liveを超えるモノは無い。大抵のLiveはアーティストが登場した途端に全員が立ち上がって声を上げる事が多い。

けど、この時の上田正樹さんは、最初は壁に貼りついていたファンでも何でも無い学生を壁から引き離して、ステージの真ん前まで集めて、心から声を上げて楽しませてくれた。プロフェッショナルってスゲー!って思わせてくれた。

後で分かった事だけど、上田正樹さんは元々「上田正樹とサウス・トウ・サウス」というファンクやブルースのバンドを組んでいて、カッコイイ音楽をバンバンやっていたのだ。

最高のLiveをありがとうございました。
けど、せめてスキー靴は脱いでLiveを楽しめば良かった。


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